毛利藤四郎

もうりとうしろう

概要

「短刀 銘 吉光 名物 毛利藤四郎」「短刀(名物 毛利藤四郎)」

『享保名物帳』所載、鎌倉時代の刀工・粟田口吉光作の短刀。

『享保名物帳』によれば、もと毛利輝元所持であり、号の由来ともなっている。
版ごとに内容に差があり、刃長がかなり違う。また、毛利家の重代という記述のある本も存在する。

毛利輝元から徳川家康に献上された。

その後、徳川家康から池田輝政へ与えられる。

以後は池田家に明治まで伝来したが、明治24年11月、池田侯爵により宮内省へ献上される。

戦後は国有となり、現在も「東京国立博物館」蔵。

もと毛利輝元所持

『享保名物帳』によると、もと毛利輝元所持。

『享保名物帳』の版によって刃長の記述が違い、また「毛利輝元卿之御所持重代」となっている本もある。

『刀剣名物牒』(データ送信)
著者:中央刀剣会 編 発行年:1926年(大正15) 出版者:中央刀剣会
目次:(上) 名物牒 毛利藤四郎
ページ数:13 コマ数:9

松平大炊頭殿
毛利藤四郎 有銘長八寸七分半無代 一本長さ八寸六分とあり又一本長さ七寸四分半代六十枚とあり

毛利輝元卿之御所持重代にて今に御家に有之表護摩箸裏棒樋竝添樋有之東照宮へ上る池田宰相拝領

明治二十四年十一月池田侯爵より宮内省へ献上になる

『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:粟田口藤四郎の部 毛利藤四郎
ページ数:21 コマ数:25

松平大炊頭殿(岡山池田侯爵家)
毛利藤四郎 在銘長八寸七分半 無代

毛利輝元の所持表護摩箸裏棒樋竝極有之

この刀毛利重代と書たる名物帳あり、また一本には代金六十枚とあり、寸も一定せず一本には「八寸六分」と記しまた一本には「七寸四分半」と記す、備前岡山池田家の所有となりし由来分らず。

毛利輝元から徳川家康に献上

『享保名物帳』によると、毛利輝元から徳川家康に献上。

徳川家康から池田輝政へ

『享保名物帳』によると、徳川家康から池田輝政へ与えられている。

『日本刀大百科事典』によると、
家康は関ヶ原合戦のとき、池田輝政に与えた

となっている。

『日本刀大百科事典』の出典は『享保名物帳』のほかには『名物扣』となっている。
本阿弥家の『名物扣』は国立国会図書館デジタルコレクションでは現在のところ読む手段がない。

拝領したのは輝政ではなく光政だという説

『銘刀押形 : 御物東博』によれば「池田輝政」ではなく「池田光政」の拝領とされている。

『享保名物帳』に記述があるのは「池田宰相」なのでこれに当てはまればどちらでも可能性があるが、軽く検索かけたかぎり池田家で「宰相」と呼ばれることがあるのは「松平播磨宰相」と呼ばれた輝政のようである。

多くの刀剣書の解説通りここは池田輝政が拝領したと考えたほうが自然ではないだろうか。

『銘刀押形 : 御物東博』では拝領したのが輝政から光政に、宮内省へ献上したのが明治14年になっている。
しかしその部分の記述は簡素なものであり、詳細な検討の結果の修正とはあまり考えにくいかもしれない。
また、明治14年に関してはほぼ確実に明治24年の誤りだと考えられる。

『銘刀押形 : 御物東博』(データ送信)
著者:佐藤貫一, 沼田鎌次 編  発行年1958年(昭和33) 出版者:日本美術刀剣保存協会
ページ数:20、21 コマ数:30、31

1692年(元禄5)、本阿弥光常は池田綱政の邸で拝見

『日本刀大百科事典』によると、

本阿弥光常は元禄5年(1692)6月10日、輝政の曽孫・綱政の邸で拝見した。

この情報は『享保名物帳』にはないようなので、『名物扣』の方が出典ではないかと考えられる。

1891年(明治24)11月、池田侯爵より宮内省に献上

大阪刀剣会本の『享保名物帳』の注記部分や『日本刀大百科事典』によると、

以後、池田家に伝来していたが、明治24年11月、池田侯爵より宮内省に献上。

…..◎ 1881年(明治14)に献上したとの説がある

『銘刀押形 : 御物東博』では、明治24年ではなく明治14年の献上となっている。

しかし献上時期に関しては同じ佐藤寒山氏の『武将と名刀』では明治24年とされていることから、明治14年は24年の間違いだと考えられる。

『武将と名刀』(データ送信)
著者:佐藤寒山 発行年:1964年(昭和39) 出版者:人物往来社
目次:毛利輝元と宗瑞正宗及び毛利藤四郎
ページ数:129~138 コマ数:69~74

戦後、国有となる

戦後、国有となり、東京国立博物館保管。

『収蔵品目録 [第2] (工芸篇)』(データ送信)
発行年:1954年(昭和29) 出版者:東京国立博物館
目次:上古刀・古刀
ページ数:1 コマ数:133

『東京国立博物館年報 昭和39年度』(データ送信)
発行年:1965年(昭和40) 出版者:東京国立博物館
目次:新収品解説目録
ページ数:51 コマ数:29

現在も「東京国立博物館」蔵

「文化遺産オンライン」、「東京国立博物館」のサイトなどによれば現在も「東京国立博物館」蔵。

作風

刃長については、八寸三分(約25.2センチ)・八寸四分五厘(約25.6センチ)、八寸六分(約26.1センチ)などの諸説は誤りで、八寸七分五厘(約26.5センチ)が正しい。

平造り、真の棟。
差し表に護摩箸・裏に腰樋と添え樋をかく。
地鉄は板目肌に地沸えつく。
刃文は沸え出来の直刃に、足や二重刃まじり、金筋走る。
鋩子は小丸。
中心はうぶ、目釘孔二個。
「吉光」と二字銘。

ハバキは金無垢で、「吉光うめた寿斎」、と在銘。

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:もうりとうしろう【毛利藤四郎】
ページ数:5巻P185

刀工・逸見東洋と岡山藩の刀

大包平、毛利藤四郎、浮田志津などの岡山藩池田家の名刀をのちに「明治正宗」と呼ばれた刀工・逸見東洋が少年時代に見たという話が小説にもなっているようだ。

『一刀流物語』
著者:本山荻舟 発行年:1926年(大正15) 出版者:東洋出版社
目次:風流數奇傳
ページ数:268 コマ数:138

『名剣士名刀匠』
著者:本山荻舟 発行年:1942年(昭和17) 出版者:天佑書房
目次:六 劍業三位一體
ページ:281 コマ数:145

調査所感

・『享保名物帳』の記述がばらけている

たまにあることですが、『享保名物帳』は写本の版によって記述が結構違うことがあります。
毛利藤四郎の場合は刃長の記述が3パターンくらいあるほかに、「重代」と書かれているものといないものがあるようです。この重代の一言があるかないかで大分印象が変わります。

・『銘刀押形 : 御物東博』の記述は書き間違いか?

毛利藤四郎に関する池田家で拝領した人物が「輝政」か「光政」か問題と、明治の献上は「24年」か「14年」か問題について。

同じく寒山先生の『武将と名刀』だと、拝領した人物は光政のままだけど、明治の献上時期がこっちは「明治24年」になってる。

となると、単純に『銘刀押形 : 御物東博』の方の献上時期は書き間違いで、拝領した人物も他の刀剣書の通り池田輝政が正しいのではないかと思われる。

現在は国立国会図書館限定で中身はまだ読めていないんですが、デジコレで「毛利吉光」で検索をかけると

『明治天皇紀 第7 (明治二十一年一月-明治二十四年十二月)』

の文章が引っかかってくる。
つまり少なくとも毛利藤四郎の献上時期は、明治24年が正しいと思われる。
そしたら拝領したのもやっぱり他の刀剣書のいう「輝政」が正しいのではないかなと。

・小説に登場する岡山藩の刀たち

作者の本山荻舟は、近藤勇の贋作虎徹が源清麿の作だという話を清麿の伝記側から書いているのと同じ人ですね。

これも刀匠に関する話で、江戸時代に生まれて明治に活躍し、「明治正宗」と呼ばれた刀匠・逸見東洋が少年時代に岡山藩の刀を見たという話で、その刀匠周りの事情を書いています。

毛利藤四郎に関する古い小説はこれぐらいなので出典を調べようとしたんですが、この人の小説自体がデジコレにある博士論文で逸見東洋の伝記を知る唯一の資料的扱いになっていました。

ん? と思って改めて作者を調べたら本山荻舟は記者生活を送りながら連載小説の寄稿などをしていたということで、新選組研究で知られる子母澤寛と同じような経緯ですね。
と言うことはこの内容、ジャーナリストが当時取材した世情に基づく内容か。

『一刀流物語』
著者:本山荻舟 発行年:1926年(大正15) 出版者:東洋出版社
目次:風流數奇傳
ページ数:268 コマ数:138

『名剣士名刀匠』
著者:本山荻舟 発行年:1942年(昭和17) 出版者:天佑書房
目次:六 劍業三位一體
ページ:281 コマ数:145

また、デジコレだと柴田錬三郎の小説にも同じ話が登場します。

『名人』(データ送信)
著者:柴田錬三郎 発行年:1963年(昭和38) 出版者:
目次:名人
ページ数:13 コマ数:10

柴田錬三郎は多分本山荻舟の話を下敷きにしていると思われますが、この辺りの小説の事情を考えると、毛利藤四郎は大包平や浮田志津と並んで、岡山藩主池田家の名刀として明治当時かなり有名だったようです。

参考サイト

「東京国立博物館」
「文化遺産オンライン」

参考文献

『剣話録 上』
著者:剣話会 編(別役成義) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:一 京物(上) ページ数:5 コマ数:12
目次:三十七 刀剣は作者の流派により各得失あり(一) ページ数:297 コマ数:158

『日本刀』(データ送信)
著者:本阿弥光遜 発行年:1914年(大正3) 出版者:日本刀研究会
目次:第七章 刀匠の掟と其特徴
ページ数:219 コマ数:143

『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:粟田口藤四郎の部 毛利藤四郎
ページ数:21 コマ数:25

『日本趣味十種 国学院大學叢書第壹篇』(データ送信)
著者:芳賀矢一 編 発行年:1924年(大正13) 出版者:文教書院
目次:八 刀剣の話 杉原祥造
ページ数:338 コマ数:190

『刀剣名物牒』(データ送信)
著者:中央刀剣会 編 発行年:1926年(大正15) 出版者:中央刀剣会
目次:(上) 名物牒 毛利藤四郎
ページ数:13 コマ数:9

『大日本刀剣新考 訂』(データ送信)
著者:内田疎天 発行年:1934年(昭和9) 出版者:岡本偉業館
目次:第二章 古刀略志(第一) 五畿内
ページ数:388 コマ数:468

『刀剣刀装鑑定辞典』(データ送信)
著者:清水孝教 発行年:1936年(昭和11) 出版者:太陽堂
目次:マウリトウシラウ【毛利藤四郎】
ページ数:477 コマ数:249

『大日本刀剣史 下巻』
著者:原田道寛 発行年:1941年(昭和16) 出版者:春秋社
目次:名物牒記載の名物 ページ数:67 コマ数:44
目次:享保の名物牒 ページ数:543 コマ数:282
目次:明治天皇の御愛刀と神宮の神寶 ページ数:568 コマ数:295

『実戦刀譚』(データ送信)
著者:成瀬関次 発行年:1941年(昭和16) 出版者:実業之日本社
目次:大八と大吉
ページ数:97、98 コマ数:53、54

『収蔵品目録 [第2] (工芸篇)』(データ送信)
発行年:1954年(昭和29) 出版者:東京国立博物館
目次:上古刀・古刀
ページ数:1 コマ数:133

『銘刀押形 : 御物東博』(データ送信)
著者:佐藤貫一, 沼田鎌次 編  発行年1958年(昭和33) 出版者:日本美術刀剣保存協会
ページ数:20、21 コマ数:30、31

「刀剣史料 (49)」(雑誌・データ送信)
発行年:1963年1月(昭和38) 出版者:南人社
目次:武将武人の愛刀熱――(一) / 向井敏彦
ページ数:13 コマ数:8

「刀剣史料 (54)」(雑誌・データ送信)
発行年:1963年5月(昭和38) 出版者:南人社
目次:武将武人の愛刀熱――(五) / 向井敏彦
ページ数:20 コマ数:12

『武将と名刀』(データ送信)
著者:佐藤寒山 発行年:1964年(昭和39) 出版者:人物往来社
目次:毛利輝元と宗瑞正宗及び毛利藤四郎
ページ数:129~138 コマ数:69~74

『東京国立博物館年報 昭和39年度』(データ送信)
発行年:1965年(昭和40) 出版者:東京国立博物館
目次:新収品解説目録
ページ数:51 コマ数:29

「刀剣と歴史 (430)」(雑誌・データ送信)
発行年:1966年(昭和41)3月 出版者: 日本刀剣保存会
目次:名物帳に記された山城の名刀(二) / 辻本直男
ページ数:7 コマ数:10

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:もうりとうしろう【毛利藤四郎】
ページ数:5巻P185

概説書

『刀剣目録』(紙本)
著者:小和田康経 発行年:2015年(平成27) 出版者:新紀元社
目次:≪第二章 鎌倉時代≫ 山城国粟田口 吉光 毛利藤四郎
ページ数:96