日光一文字

にっこういちもんじ

概要

「太刀 無銘一文字(名物日光一文字) 附 葡萄蒔絵刀箱」

『享保名物帳』所載、備前福岡一文字作の刀。

無銘だが福岡一文字派の傑作で、『武将と名刀』によると一文字中の最高を行くものと称すべきとまで言われる。

『享保名物帳』によると、初め日光権現、現在の二荒山神社の宝刀だったのを、小田原城主・北条早雲が申し受けた。

『改正三河後風土記』などによると、1590年(天正18)、小田原合戦の際に黒田如水が講和を斡旋した礼に、北条氏から黒田如水に『東鑑』の一分と白貝と共に贈られる。
贈ったのが氏政か氏直かは文献によって異なり、はっきりしない。

以後、昭和まで黒田家伝来。

1933年(昭和8)1月23日、国宝(旧国宝)指定。
1952年(昭和27)3月29日、国宝(新国宝)指定。

そして1978年(昭和53)、黒田家から福岡市に寄贈される。
現在は「福岡市博物館」保管。

日光権現(現在の二荒山神社の宝刀)から、北条早雲へ

『享保名物帳』によると、
初め日光権現、つまり現在の二荒山神社の宝刀だったのを、小田原城主・北条早雲が申し受けた。

『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:廣光、志津兼氏、一文字の部 日光一文字
ページ数:153、154 コマ数:91、92

“日光一文字 無銘長貳尺貳寸四分 無代
日光権現に納りて有しを、小田原早雲老申落し所持す氏綱、氏康まで伝る、小田原陣黒田如水老噯ひ和談になり依て礼のため此刀と東鑑の正本陣貝を遣す、氏政より五代目は氏直なり之を小田原北條五代と申なり。”

1590年(天正18)、北条氏から黒田如水へ講和の斡旋の礼へ贈られる

天正18年(1590)、豊臣秀吉の小田原城攻めの際、黒田如水が講和の斡旋に乗り出した。
城内にきた如水に、北条氏から『東鑑』の一分と白貝とともに贈ったもの。

贈った人物は『享保名物帳(享保八年本)』『徳川実紀』『改正三河後風土記』などでは「北条氏政」
『名物扣』『黒田家御重宝故実』では北条氏直とされている。

簡単に確認できる資料は上の『改正三河後風土記』。
『名物扣』『黒田家御重宝故実』は2023年現在国立国会図書館デジタルコレクションでも読む手段がない。
ただし、『黒田家御重宝故実』は現在の保管施設「福岡市博物館」のアーカイブが引用形式で紹介してくれている。

『享保名物帳』は「享保八年本」でなければ駄目なようだ。こちらもおそらくない。
『徳川実紀』は今回は該当の記述を発見できなかったので今後の目標とする。

『改正三河後風土記 下』
著者:成島司直 撰 発行年:1886年(明治19) 出版者:金松堂
目次:第廿八 小田原城和議の事
ページ数:1157 コマ数:137

“如水又是を謝せんとて刀も帯せず肩衣袴を着るし城内へ入て氏政父子に対面し和議の事をかたらへば氏政父子も漸々心とけしにや其厚意を謝して日光一文字の刀幷東鑑一部を送る”

葡萄模様蒔絵、黒漆塗りの刀箱は現在まで伝来

北条氏から黒田如水に贈られた際に入れられていた葡萄模様蒔絵、黒漆塗りの刀箱は、現在まで伝来している。

『日本刀大百科事典』によると出典は『黒田家御重宝故実』。

ただし、『武将と名刀』によると、漆の専門家はこの箱の製作年代を伝承より新しいものと見ているらしく、『国宝 : 原色版 第9 (鎌倉 第3)』では江戸初期の作であるとされている。

この刀箱は北条氏に贈られた当時のものではなくその後に作られたものかもしれない。

『武将と名刀』(データ送信)
著者:佐藤寒山 発行年:1964年(昭和39) 出版者:人物往来社
目次:黒田如水の日光一文字など
ページ数:248~252 コマ数:129~131

『国宝 : 原色版 第9 (鎌倉 第3)』(データ送信)
著者:毎日新聞社「国宝」委員会事務局 編 発行年:1969(昭和44) 出版者:毎日新聞社
目次:工芸品 コマ数:65
目次:解説 ページ数:143 コマ数:147

本阿弥家の鑑定で千貫以上

本阿弥家の折紙は付いていないが、本阿弥光由は千貫以上の折紙がつくと言っていた。

『日本刀大百科事典』によると出典は『名物扣』なので直接は読めない。

以後も昭和まで黒田家伝来

明治~大正期の刀剣書全般で黒田家伝来となっている。
また、後述の旧国宝、新国宝指定は黒田家の名義で行われている。

さらに、1978年に黒田家のコレクションが福岡市に寄贈されたことこともはっきりしている。

1933年(昭和8)1月23日、国宝(旧国宝)指定

昭和8年国宝(旧国宝、現在で言う重要文化財)指定。
黒田長成氏名義。

号は書いていないが『指定文化財総合目録 [昭和43年版] (美術工芸品篇)』で確認できる日付と所有者的に3コマ目上段8行目の「太刀 無銘(傳一文字)」ではないかと思われる。

『官報 1933年01月23日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1933年(昭和8) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第十五号 昭和八年一月二十三日
ページ数:460 コマ数:3

1952年(昭和27)3月29日、国宝(新国宝)指定

昭和27年、国宝(新国宝)指定。
黒田長礼氏名義。

『指定文化財総合目録 [昭和43年版] (美術工芸品篇)』(雑誌・データ送信)
発行年:1968年(昭和43) 出版者:文化財保護委員会
目次:東京都
ページ数:11、205 コマ数:15、114

1978年(昭和53)9月黒田家から福岡博物館に寄贈

現在の所有者は福岡市、所在地は「福岡市博物館」。

「国指定文化財等データベース」

「福岡市博物館」のアーカイブにも日光一文字のページがある。
出典の記述を引くタイプのかなり詳しく真面目な解説文なので日光一文字に関してはそちらを見るのが一番いいかもしれない。

また、「福岡市博物館」のWEBページによると、旧福岡藩主、黒田家の貴重なコレクションは昭和53年(1978)9月、黒田家から福岡市に寄贈(一部は寄託・購入)されたという。

下記の雑誌には日光一文字は黒田家の世襲財産として従来までは絶対に譲らないとされていたものを黒田長礼氏によって有償譲渡が実現したことが書かれている。

「博物館研究 = Museum studies 19(7)(194)」(雑誌・データ送信)
著者:日本博物館協会 編 発行年:1984年7月(昭和59) 出版者:日本博物館協会
目次:黒田資料寄贈の場合の処理–受入・評価・登録・公開 / 安永 幸一
ページ数:8、9 コマ数:6

作風

刃長二尺二寸四分(約67.9センチ)。
生ぶのままであるため、踏張り強く、腰反りで、猪首切先となる。

地鉄は小杢目肌詰まる。
刃文は元に焼き出しがあり、上に行くに従い、丁子乱れが大振りになる。
鋩子は乱れ込んで、焼き詰め。
中心は生ぶであるが、雉子股中心になり、目釘孔三個。
無銘。

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:にっこういちもんじ【日光一文字】
ページ数:4巻P119

日光一文字の打刀拵を、へし切長谷部と少しも違わないようにと製作依頼した書状

日光一文字の打刀拵えを、黒田忠之が埋忠明寿に依頼したときの書状によると、黒田家の名物「圧し切り長谷部」と少しも違わないように、制作されたらしい。

『日本刀大百科事典』では現在もこの拵えがついているとなっているが、2023年現在の情報はわからない。

『大日本刀剣史』で原田道寛氏はこの時期を埋忠明寿の年齢から計算して寛永9年(1612)の壬申、即ち明寿が七十五歳の時の作であろう、としている。

「刀剣 (戊申第8集)」(雑誌・データ送信)
発行年:1908年8月(明治41) 出版者:花月庵
目次:刀劍鑑定歌傳附錄 / 中島久胤
ページ数:127 コマ数:7

日光一文字刀之拵注文本紙之通記
一 ははき上下印子むく上ははき桐のすかし。
一 せつは印子こきさみ
一 しととめ印子
一 ふち赤銅こめんふち
一 さやあいさめ
一 目貫かうかい小刀のつかつは此方より遣す
一 くりかたかへりつか頭角。
一 こしりしんちうくさらかし
以上
右はへし切之刀拵に少もちかい不申候様に可被仕候以上
壬八月八日 忠之判
埋忠明寿老

日光一文字は二振り在る?(日光一文字と日光助真)

『大日本刀剣史』によると日光一文字は二振りあると言う。
一振りはここで紹介している元二荒山神社の宝物で北条氏から黒田如水に贈られた「日光一文字」。

もう一振りは日光東照宮にある国宝、徳川家康佩刀の備前助真。
この刀は現代だと「日光助真」と呼ばれている。

助真は福岡一文字派の刀工なので、言われてみれば号が日光ならこれも日光一文字である。

『大日本刀剣史』や『国宝刀剣図譜』の記述からすると『野史』では日光一文字が日光東照宮にあるとしているので、黒田家伝来元二荒山神社から北条氏が取出した「日光一文字」と、現在「日光助真」の名で呼ばれている刀は、昔は混同されていたらしい。

『大日本刀剣史 中巻』(データ送信)
著者:原田道寛 発行年:1940年(昭和15) 出版者:春秋社
目次:北條早雲の佩刀日光一文字
ページ数:283~287 コマ数:151~153

『野史 71』
著者:飯田忠彦 修, 飯田文彦 点, 竹中邦香 校 発行年:1881~1882年(明治14~15) 出版者:国文社
ページ数:32 コマ数:33

調査所感

「福岡市博物館」のアーカイブだと小田原合戦の時に北条氏照を滅ぼすのに軍功があったため秀吉から黒田孝高へ与えられたという一説を紹介しつつ、その記録は後世に作られたものなので秀吉と日光一文字を結びつけるために作られたもの、として解説されています。

というか「福岡市博物館」のページが詳しいので正直このサイトのページなんかいらんのじゃないかと思いますがまあいいか。

デジコレの検索結果を見た感じ、長谷部とお揃いの打刀拵えを黒田家が依頼した史料はかなり有名っぽいです。

しかしその拵え、『日本刀大百科事典』で酔剣先生は現在もこの拵えがついているって書いてるんですけどネット検索程度じゃそれをどこかの博物館なりが所有しているという話が出てきませんでした。

拵の情報検索はまだまだ難しいですね。

参考サイト

「国指定文化財等データベース」
「福岡市博物館」

参考文献

『諸家名剣集』
(東京国立博物館デジタルライブラリー)
時代:享保4年(1719) 写本
コマ数:34

『野史 71』
著者:飯田忠彦 修, 飯田文彦 点, 竹中邦香 校 発行年:1881~1882年(明治14~15) 出版者:国文社
ページ数:32 コマ数:33

『改正三河後風土記 下』
著者:成島司直 撰 発行年:1886年(明治19) 出版者:金松堂
目次:第廿八 小田原城和議の事
ページ数:1157 コマ数:137

『刀剣談』
著者:高瀬真卿 発行年:1910年(明治43) 出版者:日報社
目次:第七門 古代の名匠 一文字の由来
ページ数:185、186 コマ数:117、118

『剣話録 下』
著者:剣話会 編(今村長賀) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:七 備前物 ページ数:46 コマ数:29
目次:九 福岡一文字其他 ページ数:64 コマ数:39

『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:廣光、志津兼氏、一文字の部 日光一文字
ページ数:153、154 コマ数:91、92

『日本趣味十種 国学院大學叢書第壹篇』(データ送信)
著者:芳賀矢一 編 発行年:1924年(大正13年) 出版者:文教書院
目次:八 刀剣の話 杉原祥造
ページ数:342 コマ数:192

『刀剣名物牒』(データ送信)
著者:中央刀剣会 編 発行年:1926年(大正15) 出版者:中央刀剣会
目次:(中) 同右
ページ数:47 コマ数:26

『刀剣談 再版』(データ送信)
著者:羽皐隠史 著, 高瀬魁介 訂 発行年:1927年(昭和2) 出版者:嵩山房
目次:第六、古刀の名作 一文字の由来
ページ数:203 コマ数:113

『秋霜雑纂 前編』
著者:秋霜松平頼平 編 発行年:1932年(昭和7) 出版者:中央刀剣会本部
目次:文苑百二十五條 三百二十二 日光一文字刀の拵 ページ数:185 コマ数:118
目次:図書十五條 三百四十 黒田忠之の格言 ページ数:204 コマ数:128

『官報 1933年01月23日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1933年(昭和8) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第十五号 昭和八年一月二十三日
ページ数:460 コマ数:3

『岩波講座日本歴史 第10 別編. 〔一〕』(データ送信)
著者:国史研究会 編 発行年:1933年~1935年(昭和8~10) 出版者:岩波書店
目次:口繪(太刀 腰刀)
コマ数:3

『名刀図譜』
著者:本間順治 発行年:1935年(昭和10) 出版者:大塚工芸社
目次:五〇 太刀 無銘 名物日光一文字 コマ数:64
目次:名刀図譜 解説 コマ数:138

『国宝刀剣図譜 古刀の部 備前1』(データ送信)
著者:本間順治 編 発行年:1938年(昭和13) 出版者:岩波書店
目次:〔古刀の部〕 備前
コマ数:87、89

『東京帝室博物館復興開館陳列目録 第6』
著者:東京帝室博物館 編
発行年:1938年(昭和13) 出版者:東京帝室博物館
ページ数:118 コマ数:63

『大日本刀剣史 中巻』(データ送信)
著者:原田道寛 発行年:1940年(昭和15) 出版者:春秋社
目次:北條早雲の佩刀日光一文字
ページ数:283~287 コマ数:151~153
(『大日本刀剣史』はデジコレに2冊あるのでご注意)

『日本刀の話』(データ送信)
著者:本間順治 発行年:1943年(昭和18) 出版者:春陽堂文庫
目次:正宗の存在の確證とその技倆 コマ数:79
目次:日本刀圖録解説 ページ数:133、134 コマ数:88、89

『名刀集美』(データ送信)
著者:本間順治 編 発行年:1948年(昭和23) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:圖譜目次 コマ数:94
目次:古刀の部 コマ数:194

『日本古刀史』(データ送信)
著者:本間順治 発行年:1958年(昭和33) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:三、 鎌倉時代
コマ数:27
ページ数:78 コマ数:75

『武将と名刀』(データ送信)
著者:佐藤寒山 発行年:1964年(昭和39) 出版者:人物往来社
目次:黒田如水の日光一文字など
ページ数:248~252 コマ数:129~131

「刀剣史料 (64)」(雑誌・データ送信)
発行年:1964年3月(昭和39) 出版者:南人社
目次:江戸時代刀剣風俗――(五) / 川口陟
ページ数:2 コマ数:3

『小田原市史料 上巻 歴史編』(データ送信)
発行年:1966年(昭和41) 出版者:小田原市
目次:第四節 小田原の発展と文化の興隆
ページ数:195 コマ数:120

『国宝 第5 (鎌倉時代 下) [本編]』(データ送信)
著者:毎日新聞社国宝委員会 編 発行年:1966年(昭和41) 出版者:毎日新聞社
目次:図版 コマ数:242、243

『指定文化財総合目録 [昭和43年版] (美術工芸品篇)』(雑誌・データ送信)
発行年:1968年(昭和43) 出版者:文化財保護委員会
目次:東京都
ページ数:11、205 コマ数:15、114

『国宝 : 原色版 第9 (鎌倉 第3)』(データ送信)
著者:毎日新聞社「国宝」委員会事務局 編 発行年:1969(昭和44) 出版者:毎日新聞社
目次:工芸品 コマ数:65
目次:解説 ページ数:143 コマ数:147

『原色日本の美術.21』(データ送信)
著者:尾崎元春、佐藤寒山 発行年:1970年(昭和45) 出版者:小学館
目次:一、日本刀概説
ページ数:230 コマ数:236

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:にっこういちもんじ【日光一文字】
ページ数:4巻P119

概説書

『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』(紙本)
発行年:2015年(平成27) 出版者:宝島社
目次:日光一文字
ページ数:10

『図解日本刀 英姿颯爽日本刀の来歴』(紙本)
著者:東由士 編 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:名刀の物語を読む 日光一文字
ページ数:47

『刀剣目録』(紙本)
著者:小和田康経 発行年:2015年(平成27) 出版者:新紀元社
目次:≪第二章 鎌倉時代≫ 備前国福岡 一文字 日光一文字
ページ数:68、69