しちせいけん
概要
七星剣の定義
刀身に北斗七星を金象嵌した上古の剣。七曜剣とも。
・中国の剣
春秋時代の伍子胥の佩刀。
楚から呉へ逃げていく途中、漁父が江を渡してくれた謝礼に、腰の七星剣を贈ろうとしたが、漁父は受け取らなかった。
(『呉越春秋』)
唐の太宗も古い七星剣を秘蔵していた。
それは七つの星が、北斗星に随って動いていたという。
(『潜確居類書』)
『呉越春秋』は簡単に読める手段がないようですが、七星剣の記述は『字源』に載っています。これはよくいろいろな本に引用されているようです。
『潜確居類書』は国立国会図書館デジタルコレクションにもあるんですが、全文検索のない古書で文字自体は綺麗な漢文なので文字は読めるかもしれませんがとても120巻を読み切る時間と根気はないため諦めました。
『字源』
著者:簡野道明 発行年:1925年(大正14) 出版者:北辰館
目次:七星剣
ページ数:19 コマ数:20
・道教の剣
道教の道士(僧)が悪霊を斬るために用いる辟邪の剣。単に宝剣・法剣・剣という。両刃の鉄剣で、長さは約二尺(約60.6センチ)、両面に北斗七星の青銅象嵌がある。
これは表裏分かれるようになっていて、普通は合わせたまま使うが、表裏を分け、左右の手に持って使うこともある。その場合は双剣という。
なお、代用として桃の木で作った木剣もある。桃剣と呼ばれるもので、刀身に符呪が書いてある。
『日本刀大百科事典』での出典は『道教3』とされているが国立国会図書館デジタルコレクションには今のところないようだ。
しかし、七星剣もとい飛鳥・奈良時代の天文と道教の関係が深いことは七星剣関係の書籍の大多数で触れられている。
日本では飛鳥時代から奈良時代にかけての剣に七星剣を象嵌したものが見られ、他の時代には見られないという。
「歴史と地理 26(1)」(雑誌・データ送信)
著者:星野書店 [編] 発行年:1930年(昭和5)7月 出版者:星野書店
目次:七星劒の兵器的考察 / 末永雅雄
ページ数:18~29 コマ数:14~19
聖徳太子佩用(四天王寺の七星剣)
四天王寺蔵の七星剣は聖徳太子の剣と伝えられている。
1952年(昭和27)3月29日国宝指定。
刃長二尺六分(約62.4センチ)、切り刃造りの直刀。
鎬地に二筋樋をかき、その中に金象嵌で以下の像が描かれている。
佩き表には上から順に、雲文・横一文字に三個の星・雲文・三角形に配した三個の星・雲文・北斗七星・雲文・雲文・青竜
佩き裏には、雲文・雲文・雲文・北斗七星・雲文・雲文・白虎
(『日本上代の武器』『国宝事典』)
『日本上代の武器』(データ送信)
著者:末永雅雄 発行年:1941年(昭和16) 出版者:弘文堂
目次:第一章 主要武器(一) 第一節 刀劍
ページ数:126~128 コマ数:94、95
『国宝事典』(データ送信)
著者:文化財保護委員会 編 発行年:1961年(昭和36) 出版者:便利堂
目次:刀剣 ページ数:204 コマ数:119
目次:国宝目録 ページ数:434 コマ数:234
七星を一名、七政ともいう。七個の星の運行は、国の政治の運用のように、一定の法則に従って狂いがないからである。
(『辞源』)
佩剣に七星を象嵌するのも、国政の狂いない運用を希念したもの、つまり国家安康の願いを籠めたものである。
したがって横一文字に並んだ三個の星も河鼓三星、つまり大将軍・左将軍・右将軍を、三角形に配された三個の星は三公、大尉・司空・司徒などの高官を表すという。
四神相応の説によれば、佩き表の青竜は東に流水、裏の白虎は西に大道のある地を意味するから、この七星剣はそういう地形のところで造られたものであろう。
(『日本刀大百科事典』)
江戸時代に新井白石も言及している。
『故実叢書 本朝軍器考(新井君美)』
著者:今泉定介 編 発行年:1899~1906年(明治32~39) 出版者:吉川弘文館
目次:巻八
ページ数:78 コマ数:52
戦後、小野光敬氏によって研磨された結果、小板目に柾目まじり、地沸えのついた地鉄に、細直刃を焼き、砂流しがかった作風であることが判明した。
『日本古刀史』(データ送信)
著者:本間順治 発行年:1958年(昭和33) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:一、 上代・奈良時代
ページ数:15~19 コマ数:43~45
正倉院の呉竹鞘御杖刀
杖に仕込んだもので、刃長二尺一寸一分(約63.9センチ)、切り刃造りの直刀。
鎬に金象嵌をもって上から順に、
佩き表には雲文・斜めに二星つなぎが三列・雲文・北斗七星・雲文・三角形に三個の星・雲文・縦に三つ星つなぎ・雲文
裏には表と上下逆に、同じ雲星を配列している。
(『日本上代の武器』『国宝事典』)
縦に三つ星つなぎは川鼓三星に同じ。
二星つなぎの三列は三台と呼ばれる星で、上から上台・中台・下台といい、太尉・司徒・司空の三官を表したもの。三公と同義。
(『和漢三才図会』『辞源』)
ここの記述は基本的に『日本刀大百科事典』をベースにさせてもらっています。
大和法隆寺金堂の持国天の剣
銅製の儀刀で刃長一尺五寸五分(約47.0センチ)、切り刃造り。
表裏に金象嵌で上より順に、雲文・北斗七星・雲文に日月・雲文・山岳文を配列している。
(『日本上代の武器』『国宝事典』)
一時期皇室に献上されて御物となっていたらしく過去の文献ではそのように表記されている。
今は返還されて法隆寺の大宝蔵院蔵。
ただし持国天の持つ剣は模造品に置き換えられている。
『大阪郷土史叢書 第1』(データ送信)
発行年:1935年(昭和10) 出版者:湯川弘文社
目次:第四節 金堂四天王像に就て(附國寶七星劍と丙子椒林劍に就て)
ページ数:52~64 コマ数:39~45
「美術史研究 = The Waseda journal of art history (21)」(雑誌・データ送信)
著者:早稲田大学美術史学会 編 発行年:1984年(昭和59) 出版者:早稲田大学美術史学会
目次:七星剣の図様とその思想–法隆寺・四天王寺・正倉院所蔵の三剣をめぐって / 杉原たく哉
ページ数:1~21 コマ数:2~12
その他にも七星剣と呼ばれる剣がある
米沢の上杉神社の七星剣。
謙信所要と伝えられる
「歴史と地理 26(1)」(雑誌・データ送信)
著者:星野書店 [編] 発行年:1930年(昭和5)7月 出版者:星野書店
目次:七星劒の兵器的考察 / 末永雅雄
ページ数:18~29 コマ数:14~19
間崎の一宮神社の七星剣。
「土佐史談 (179)」(雑誌・データ送信)
発行年:1988年(昭和63)12月 出版者:土佐史談会
目次:一宮神社七星剣のみち / 岡本健児
ページ数:3~9 コマ数:4~7
三寅剣。
「天界 = The heavens 80(7)(890)」(雑誌・データ送信)
発行年:1999年7月 出版者:東亜天文学会
目次:北斗を追って / 小和田 稔
ページ数:383~389 コマ数:2~5
など(他にもあるという)。
調査所感
酔剣先生の記述を出典を確認しながらなぞっていますが、ちょくちょく細かい情報が抜け落ちてます。
七曜剣の別名に関しては原田道寛先生も呼んでるから主に法隆寺の持国天の剣のことでしょうか。
『日本刀大百科事典』に銘文がどうのとあるのは光背というからには仏像の方の銘文ですよね。それはこの本に載ってました。
『大和史蹟臨地講座要項』
著者:奈良県 編纂 発行年:1942年(昭和17) 出版者:奈良県観光課
目次:六 主用伽藍と佛像其他
ページ数:34 コマ数:22
それはさておき、まとめに入りますと。
・七星剣に関してはまとまった研究文章を読むのがオススメ
ここでは普段、酔剣先生の『日本刀大百科事典』を頼りに出典を探し出してその記述がどんな典拠に保証されているか分解する作業ばっかりやっていますが、七星剣に関してはもともと同じ特徴を持つ別々の剣の総称であり、同じ特徴を持つからにはこれこれこういう意味だと複数の七星剣をまとめて語るのが研究の基本のようなので、まとまった文章を読むのをお勧めします。
具体的にはこの辺の本がお勧めです。
『法隆寺研究 金堂篇 第1』(データ送信)
著者:内藤藤一郎 発行年:1934年(昭和9) 出版者:
目次:第二章 金堂四天王像に就て
ページ数:140~155 コマ数:104~111
『大阪郷土史叢書 第1』(データ送信)
発行年:1935年(昭和10) 出版者:湯川弘文社
目次:第四節 金堂四天王像に就て(附國寶七星劍と丙子椒林劍に就て)
ページ数:52~64 コマ数:39~45
「美術史研究 = The Waseda journal of art history (21)」(雑誌・データ送信)
著者:早稲田大学美術史学会 編 発行年:1984年(昭和59) 出版者:早稲田大学美術史学会
目次:七星剣の図様とその思想–法隆寺・四天王寺・正倉院所蔵の三剣をめぐって / 杉原たく哉
ページ数:1~21 コマ数:2~12
「バウンダリー : 材料開発ジャーナル 16(11)(187)」(雑誌・データ送信)
著者:コンパス社 [編] 発行年:200年12月(平成12) 出版者:コンパス社
目次:<金属博物館> 七星剣七題噺 / 野崎準
ページ数:96、97 コマ数:51
『日本刀大百科事典』だけ読んでるとピンと来なかったんですが、どの研究書でもまずこういう内容から入って、ここに着目してここに触れて……みたいな文章を筆者の違いによっていくつか読むうちに七星剣はどのような剣なのかなんとなく頭に入ってきます。
特に
四天王寺の国宝七星剣(聖徳太子佩用)
正倉院の呉竹鞘御杖刀
法隆寺の持国天の剣
この三振りは大体セットでよく語られています。
星や雲の彫物の羅列も一冊だけ読んでもよくわかりませんが、上代の武器を詳しく研究している本で七星剣三振りの図を並べてこの七星剣はこういう彫物で、ここは違って……と解説されているのを読むことでどういう情報が詰まっているのかがふんわりですがわかってくるようになります。
・三振りセットで語られる一方、個としての七星剣も有名
四天王寺の国宝が刀剣書では特に取り上げられることが多いと思いますが、他二振りもそれぞれ有名です。
「七星剣」という同じ名で呼ばれながら個は個できちんと認識され研究を続けられている状態です。
・飛鳥・奈良文化の研究や天文方面からの言及も多い
法隆寺関係の書籍とか。
その頃の文化に絡んで中国の話に触れたものとか。
刀剣関係の書籍よりそちらの方が詳しい気がします。
・フィクションの七星剣
「七星剣」の文芸方面の創作で有名なものは日本よりもまず中国の『西遊記』だと思われます。
金角・銀角の持つ五つの法玉の一つだそうです。
『西遊記』は玄奘三蔵法師が天竺ことインドまで経典を取りに行った話がモデルですが、とうらぶを考察すると仏教色が強いこともあり、この話さりげなく重要な気がします……。
『西遊記』は創作でもモデルの玄奘は実在の人物で唯識系の経典を持ち帰り翻訳した超重要人物で、その玄奘訳の経典が日本でも読まれているので。
参考文献
『故実叢書 本朝軍器考(新井君美)』
著者:今泉定介 編 発行年:1899~1906年(明治32~39) 出版者:吉川弘文館
目次:巻八
ページ数:78 コマ数:52
『故実叢書 本朝軍器考 集古図説』
著者:今泉定介 編 発行年:1899~1906年(明治32~39) 出版者:吉川弘文館
目次:同蔵七星剣
ページ数:8 コマ数:10
『新井白石全集 第六 (国書刊行会刊行書) 』(データ送信)
発行年:1907年(明治40) 出版者:
目次:巻八剣刀類
ページ数:348 コマ数:187
『刀剣談』
著者:高瀬真卿(高瀬羽皐、羽皐隠史) 発行年:1910年(明治43) 出版者:日報社
目次:第一門 刀剣の変遷 丙毛槐林剣、七星剣
ページ数:3、4 コマ数:26、27
『字源』
著者:簡野道明 発行年:1925年(大正14) 出版者:北辰館
目次:七星剣
ページ数:19 コマ数:20
『刀剣談 再版』(データ送信)
著者:羽皐隠史 著[他] 発行年:1927年(昭和2) 出版者:嵩山房
目次:第一 刀劍の變遷 丙毛槐林剣、七星剣
ページ数:3、4 コマ数:13、14
『秋霜雑纂 前編』
著者:秋霜松平頼平 編 発行年:1932年(昭和7) 出版者:中央刀剣会本部
目次:文苑百二十五條 三百二十六 截物の名称
ページ数:188 コマ数:120
『法隆寺研究 金堂篇 第1』(データ送信)
著者:内藤藤一郎 発行年:1934年(昭和9) 出版者:
目次:第二章 金堂四天王像に就て
ページ数:140~155 コマ数:104~111
『大阪郷土史叢書 第1』(データ送信)
発行年:1935年(昭和10) 出版者:湯川弘文社
目次:第四節 金堂四天王像に就て(附國寶七星劍と丙子椒林劍に就て)
ページ数:52~64 コマ数:39~45
『大日本刀剣史.上巻』(データ送信)
著者:原田道寛 発行年:1938年(昭和13) 出版者:春秋社
目次:聖德太子の七星劍と丙子椒林劍
ページ数:291~299 コマ数:157~161
(『大日本刀剣史』はデジコレに2冊あるのでご注意)
『日本上代の武器』(データ送信)
著者:末永雅雄 発行年:1941年(昭和16) 出版者:弘文堂
目次:第一章 主要武器(一) 第一節 刀劍
ページ数:126~128 コマ数:94、95
『抱影随筆選集 第3 (星座遍歴)』(データ送信)
著者:野尻抱影 発行年:1958年(昭和33) 出版者:恒星社厚生閣
目次:七星剣
ページ数:19~22 コマ数:15~17
『刀剣と歴史 (417)』(雑誌・データ送信)
発行年:1964年(昭和39) 出版者:日本刀剣保存会
目次:名刀の砥当り / 小野光敬
ページ数:24 コマ数:16
『原色日本の美術 21』(データ送信)
著者:尾崎元春、佐藤寒山 発行年:1970年(昭和45) 出版者:小学館
目次:一、日本刀概説
ページ数:218~221 コマ数:224~227
『日本刀講座 第1巻 新版』(データ送信)
著者:監修 本間薫山、佐藤寒山 発行年:1966年(昭和41) 出版者:雄山閣
目次:大刀類
ページ数:45、53 コマ数:98、102
「美術史研究 = The Waseda journal of art history (21)」(雑誌・データ送信)
著者:早稲田大学美術史学会 編 発行年:1984年(昭和59) 出版者:早稲田大学美術史学会
目次:七星剣の図様とその思想–法隆寺・四天王寺・正倉院所蔵の三剣をめぐって / 杉原たく哉
ページ数:1~21 コマ数:2~12
「土佐史談 (179)」(雑誌・データ送信)
発行年:1988年12月(昭和63) 出版者:土佐史談会
目次:一宮神社七星剣のみち / 岡本健児
ページ数:3、4 コマ数:4、5
『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:しちせいけん【七星剣】
ページ数:3巻P20、21
「バウンダリー : 材料開発ジャーナル 16(11)(187)」(雑誌・データ送信)
著者:コンパス社 [編] 発行年:200年12月(平成12) 出版者:コンパス社
目次:<金属博物館> 七星剣七題噺 / 野崎準
ページ数:96、97 コマ数:51
概説書
『名刀 その由来と伝説』(紙本)
著者:牧秀彦 発行年:2005年(平成17) 出版者:光文社
目次:神話・天皇家の名刀 七星剣と丙子椒林剣
ページ数:29~34
『物語で読む日本の刀剣150』(紙本)
著者:かゆみ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第8章 神代の剣・槍・薙刀 七星剣
ページ数:197
『刀剣物語』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:天下・神代・伝説の刀 七星剣
ページ数:66、67
『刀剣説話』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2020年(令和2) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
(『刀剣物語』発行年:2015年を加筆修正して新たに発行しなおしたもの)
目次:神代の刀剣 七星剣
ページ数:56、57