ちがねまる
概要
黒漆脇差拵(号 治金丸)
琉球王国の王族・尚家伝来の三振りの宝剣の一つ。
拵と刀身は日本製。刀身は平造りで無銘。鞘は黒漆塗り、柄は黒漆塗りに鮫皮がほどこされている。
小柄には瑞雲文様が表されている。
これらの情報は「那覇市歴史博物館」のWEBサイトに写真や特徴が掲載されている。
所蔵館の那覇市歴史博物館では「じがねまる」と呼んでいる。
沖縄の民話関係の本などでは「じがねまる」と呼ばれているが、最近の刀剣の概説書などでは「ちがねまる」と表記されていることが多いと思われる。
応永頃の信国作という説がある
『おもろさうし 辞典総索引』(データ送信)
著者:仲原善忠, 外間守善 発行年:1967年(昭和42) 出版者:角川書店
目次:おもろさうし辞典 て-かね-まる(治金丸)
ページ数:204 コマ数:106
1522年(大永2)に宮古島の豪族である仲宗根豊見親が尚真王へ献上
1522年(大永2年)、宮古島の豪族である仲宗根豊見親(なかそね とぅゆみゃ)が、尚真王へ献上した。
※引用の中の「空広」は仲宗根豊見親の童名。
※尚真王の即位が嘉靖元年(1522)で、この時治金丸が献上されました。
嘉靖は中国の年号なので日本の年号に直すと大永2年だそうです。
『球陽』(データ送信)
著者:鄭秉哲 [等]編, 桑江克英 訳註 発行年:1971年(昭和46) 出版者:三一書房
目次:巻之二 六年、王、金丸ニ命シテ御物城御鎖側職ヲ授ク。 附
ページ数:37 コマ数:22
空広、貢賦を制定シ、亦中山ニ入ツテ、治金丸、藻玉一顆ヲ賀献ス。
目次:巻之三 尚真王、神号ハ於義也嘉茂彗 即位元年 明ノ成化十三年丁酉 皇紀二一三七年(西紀一四七八年)
ページ数:47 コマ数:27
時ニ宮古島ヨリ、宝剣一口、名ハ治金丸、宝珠一貫、名ハ真珠ヲ献ス。
すり替え事件と京阿波根実基
嘉靖(中国の元号、西暦だと1522~1566)年間、尚真王が京阿波根に治金丸を京都に研ぎに出させた。
研師は治金丸の贋物を造ってすり替えた。
ある日、王后があらかじめ描いておいた図と贋物の治金丸が違うことに気づき、王へと報告する。
王は京阿波根に治金丸を取り返すよう命じ、京阿波根は三年かけてこれを取り戻した。
王は大いに喜び京阿波根を領地と爵位を与えた。
この話はよく民話の本にも載っている。
『平易に書いた沖縄の歴史 : 附・遺老説伝 上巻』
著者:池宮城積宝 発行年:1931年(昭和6) 出版者:新星堂
目次:尚泰久王・護佐丸 ページ数:63 コマ数:37
目次:尚眞王 ページ数:82 コマ数:47
目次:尚眞王 ページ数:107、108 コマ数:59、60
『球陽』(データ送信)
著者:鄭秉哲 [等]編, 桑江克英 訳註 発行年:1971年(昭和46) 出版者:三一書房
目次:巻之三 武富邑西塘、八重山ノ公倉ヲ創建ス。
ページ数:59 コマ数:33
『琉球千草之巻』(データ送信)
著者:慶留間知徳 発行年:1962年(昭和37) 出版者:慶留間勇
目次:京阿波根と治金丸
ページ数:34、35 コマ数:25
『琉球昔噺集』
著者:喜納緑村 発行年:1933年(昭和8) 出版者:三元社
目次:四五 寶刀冶金丸と京阿波根
ページ数:310~325 コマ数:119~122
鬼虎討伐の逸話
16世紀初めの与那国島の首領・鬼虎(うにとら)を、宮古島の仲宗根豊見親らが討伐した。
この時使用された刀が「治金丸」だというアヤゴ(沖縄県宮古列島における歌謡の総称)が伝承されている。
『沖縄風土記』(データ送信)
著者:伊波南哲 発行年:1959(2刷)(昭和34) 出版者:未来社
目次:宮古島のアヤゴ
ページ数:110~120 コマ数:65~67
耳切り坊主(黒金座主)退治の逸話
魔法を使う怪僧・黒金座主(くるかにざーす)を北谷王子が「治金丸」で退治したという民話が存在する。
黒金座主は人々を眠らせて金を盗み、婦人の貞操を奪いと悪事を重ねていた。
大村御殿の北谷王子が、碁の勝負をもちかけて、黒金座主を宝剣・治金丸で惨殺した。
退治された黒金座主はしかし幽霊となって大村御殿に現れた。
また、大村御殿内に男の子が生まれると早死にするのでこれは怪僧の祟りだと人々は恐れた。
それで大村御殿内では、男の子が生まれても女の子が生まれたと触れ歩くようになった。
『逆立ち幽霊:沖縄怪談集』(データ送信)
著者:伊波南哲 発行年:1961年(昭和36) 出版者:普通社
目次:怪僧の怨霊
ページ数:170~183 コマ数:91~94
大筋は大体このような民話が伝わっている。
気になるのはこの耳切り坊主の逸話で使われた剣の名が「治金丸」だというのはある時期からそのように言われるようになっていることである。
黒金座主の話自体は古い民話本にも載っているが、北谷王子の宝剣が「治金丸」だというのは戦後の本からではないだろうか。
最近の民話本では上記の参考文献と同じく伊波南哲氏の本を典拠として「治金丸」と書いてあることが多く、電子書籍で買える『日本の民話』などにも「治金丸」の名が書かれた民話が収録されている。
ちなみに伊波南哲氏はこの逸話を喜納緑村氏が採集したものとして紹介しているが、喜納緑村氏が黒金座主の民話を収録した本には「治金丸」の名は出てこない。
ただ、黒金座主に関する論文などを読むとこの逸話は地域によって細かいパターンの違いがあるらしく、治金丸の名が伝わっている地域と伝わっていない地域があって、伊波南哲氏は喜納緑村氏の研究を参考にしながらもそうした詳細を補完したものを出しているのかもしれない。
妖刀は「治金丸」か「北谷菜切」か
現在では「北谷菜切」のものとして知られる「子どもの首を触れずに切った妖刀」の逸話は治金丸にも存在する。
農婦の女から農夫の男になっていたり、それ以外にも来歴に合わせて細部の情報が違う。
国立国会図書館のデジタルコレクションでインターネット公開されている本が多いのでぜひ自分で確認してみてほしい。
『琉球昔噺集』
著者:喜納緑村 発行年:1933年(昭和8) 出版者:三元社
目次:四五 寶刀冶金丸と京阿波根
ページ数:310~325 コマ数:119~122
南島風土記に鑑定文が載っている
『南島風土記:沖縄・奄美大島地名辞典』(データ送信)
著者:東恩納寛惇 発行年:1950年(昭和25) 出版者:沖縄文化協会ほか
目次:首里 石門
ページ数:110~112 コマ数:75、76
琉球三宝剣の国宝指定について
千代金丸たちの国宝指定は、刀剣単体ではなく歴史資料などの文書類も含む「琉球国王尚家関係資料」としての指定である。
尚家の文書・記録類は尚裕氏により平成六年(1996)から八(1998)年にかけて那覇市に寄贈されたことにより、調査が可能になりその重要性があらためて明らかになったことが、「文化遺産データベース」の「琉球国王尚家関係資料」のWEBページで確認できる。
「琉球国王尚家関係資料」自体の国宝指定年月日は2006年6月9日となっている。
調査所感
『球陽』が沖縄の歴史書ということでそこに載っている話を優先的に挙げましたが、全部考えるなら内容が前後するので多少整理したいと思います。
治金丸簡易年表
・童名「空広」こと仲宗根豊見親がムタ川で入手
(仲宗根豊見親が15世紀末から16世紀初めの人なので1400年代後半の出来事)
・与那国島の鬼虎退治(アヤゴが残っている)
(鬼虎の乱のことなので、1500年代初期の話)
・尚真王へ献上 1522年
・尚真王が京阿波根に研ぎに出させたらすり替え事件が起きたので取り戻させる
(尚真王の時代なので1522年以降、嘉靖年間のいつごろか)
・耳切り坊主の逸話
(黒金座主は伝説上の怪僧だが尚質王の四男・尚弘才、北谷王子朝愛の頃の話とも言われているので1600年代後半から1700年代初期までの話と考えられる)
大体こんな感じか。
妖刀の話はそもそも治金丸の逸話か北谷菜切の逸話か不明、というかどちらにしろ作り話であるうえにどちらもそれぞれの来歴に合わせて整えられた話になっているので年代不明。
逸話は置いといて、史実の方の細かい出来事の年代は今でも研究書や論文で検討中じゃないでしょうか。
あらかじめネット検索で治金丸の情報の大略をざっと掴もうとしたら結構論文が引っかかってきました。詳しく調べたい方はそちらを探すのもいいかも。
琉球三宝剣はそれぞれに有名ですが、特に治金丸は歴史書だけでなく民話・民謡方面でも名前が出てくる刀、という気がします。
参考サイト
「那覇市歴史博物館」
参考文献
『宮古五偉人伝』
著者:慶世村恒任 編著 発行年:1925年(大正14) 出版者:南島史蹟保存会
目次:第二章 仲宗根豊見親
ページ数:11 コマ数:11
『平易に書いた沖縄の歴史 : 附・遺老説伝 上巻』
著者:池宮城積宝 発行年:1931年(昭和6) 出版者:新星堂
目次:尚泰久王・護佐丸 ページ数:63 コマ数:37
目次:尚眞王 ページ数:82 コマ数:47
目次:尚眞王 ページ数:107、108 コマ数:59、60
『琉球昔噺集』
著者:喜納緑村 発行年:1933年(昭和8) 出版者:三元社
目次:四五 寶刀冶金丸と京阿波根
ページ数:310~325 コマ数:119~122
『南の昔話』
著者:喜納緑村 発行年:1936年(昭和11) 出版者:学而書院
目次:四五 寶刀冶金丸と京阿波根
ページ数:219~225 コマ数:116~119
『琉球百話』
著者:島袋源一郎 発行年:1941年(昭和16) 出版者:沖縄書籍
目次:三六、 寶刀物語
ページ数:101~103 コマ数:68、69
『琉球史料叢書 第3』(データ送信)
(『琉球国旧記』収録)
著者:伊波普猷, 東恩納寛惇, 横山重 編纂 発行年:1942年(昭和17) 出版者:名取書店
目次:卷之一 首里・泊・那覇・唐榮 二二 京阿波根塚
ページ数:15 コマ数:27
『球陽 : 訳註 巻之3 下』(データ送信)
著者:池宮城秀栄, 屋良朝陳 著 発行年:1943、1944(昭和18、19) 出版者:琉球王代文献頒布会
目次:虞建極二次京ニ赴キ以テ剣ヲ磨キ並ニ討メ返ル
ページ数:34~36 コマ数:20~21
『南島風土記:沖縄・奄美大島地名辞典』(データ送信)
著者:東恩納寛惇 発行年:1950年(昭和25) 出版者:沖縄文化協会ほか
目次:首里 京阿波根塚 ページ数:105 コマ数:72
目次:首里 石門 ページ数:110~112 コマ数:75、76
目次:那覇 宮古蔵 ページ数:206、207 コマ数:123
目次:平良町 ムタ川 ページ数:423 コマ数:231
『南島珍談あな・おかし:随筆』(データ送信)
著者:伊波南哲 発行年:1956年(昭和31) 出版者:美和書院
目次:怪僧
ページ数:142~148 コマ数:74~77
『沖縄風土記』(データ送信)
著者:伊波南哲 発行年:1959(2刷)(昭和34) 出版者:未来社
目次:宮古島のアヤゴ
ページ数:110~120 コマ数:65~67
『逆立ち幽霊:沖縄怪談集』(データ送信)
著者:伊波南哲 発行年:1961年(昭和36) 出版者:普通社
目次:怪僧の怨霊
ページ数:170~183 コマ数:91~94
『琉球千草之巻』(データ送信)
著者:慶留間知徳 発行年:1962年(昭和37) 出版者:慶留間勇
目次:京阿波根と治金丸
ページ数:34、35 コマ数:25
『おもろさうし 辞典総索引』(データ送信)
著者:仲原善忠, 外間守善 発行年:1967年(昭和42) 出版者:角川書店
目次:おもろさうし辞典 て-かね-まる(治金丸)
ページ数:204 コマ数:106
『球陽』(データ送信)
著者:鄭秉哲 [等]編, 桑江克英 訳註 発行年:1971年(昭和46) 出版者:三一書房
目次:巻之二 六年、王、金丸ニ命シテ御物城御鎖側職ヲ授ク。 附
ページ数:37 コマ数:22
目次:巻之三 尚真王、神号ハ於義也嘉茂彗 即位元年 明ノ成化十三年丁酉 皇紀二一三七年(西紀一四七八年)
ページ数:47 コマ数:27
目次:巻之三 武富邑西塘、八重山ノ公倉ヲ創建ス。
ページ数:59 コマ数:33
『琉球歴史・文化史総合年表』(データ送信)
著者:又吉真三 編著 発行年:1973年(昭和48) 出版者:琉球文化社
目次:年表
ページ数:38 コマ数:25
概説書
『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』(紙本)
発行年:2015年(平成27) 出版者:宝島社
目次:治金丸 ページ数:101
『図解日本刀 英姿颯爽日本刀の来歴』(紙本)
著者:東由士 編 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:琉球刀の世界 治金丸 ページ数:11
『刀剣物語』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:名刀の逸話 治金丸 ページ数:233
『刀剣説話』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2020年(令和2) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
(『刀剣物語』発行年:2015年を加筆修正して新たに発行しなおしたもの)
目次:名刀の物語 ページ数:235