巴形薙刀

ともえがたなぎなた

概要

巴形薙刀とは

切先の方が強く反り、かつ幅広になった形の薙刀。
(『剣工談』『剣工秘伝志』)

「刀剣と歴史 (414)」(雑誌・データ送信)
発行年:1963年7月(昭和38) 出版者:日本刀剣保存会
目次:剣工談(4) / 沼田直宗
ページ数:22 コマ数:34

『水心子正秀全集 (刀剣叢書 ; 第1編) 』
著者:川口陟 編 発行年:1926年(大正15) 出版者:南人社
目次:劍工秘傳志 三卷
ページ数:196 コマ数:107

ただし、これは江戸期になってからの命名。
巴御前所持の名に因んだものではないが、江戸期になってから、婦人用に作られた薙刀の形。
(『日本刀大百科事典』)

巴御前所持として伝来していた薙刀(『日本刀大百科事典』)

京都上京区の興聖寺に、巴所持として「吉次」と在銘の薙刀や、木曽義仲所用として、「波平家次」在銘の太刀が伝来していた。

『日本刀大百科事典』ではこの情報の出典は『寺社宝物展閲目録』となっている。
何度か目にした資料名だが現在国立国会図書館のデジタルコレクションでも見る方法はなさそうだ。

巴御前は本当に薙刀を使ったか

木曾義仲の愛妾・巴御前は女武者であったと伝えられる。

しかし静御前に実は薙刀を使ったという伝承がないように、巴御前も薙刀使いであったという伝承がない。
女武者である巴御前の戦闘の記述自体は『平家物語』『源平盛衰記』などにあれど、使ったのが薙刀であるという話はない。
現在ではそもそも義仲の愛妾ではあっても女武将であるという記述自体が文学的脚色の可能性を指摘されてるらしい。

酔剣先生は巴型という名自体が巴御前の武勇にあやかるための方便だとしている。

『日本刀物語』(データ送信)
著者:福永酔剣 発行年:1964年(昭和39) 出版者:雄山閣
ページ数:53~64 目次:静御前と巴御前の薙刀 コマ数:34~40

調査所感

巴形薙刀のイメージを掴むには刀剣の研究書だけでなく牧秀彦氏の概説書の記述がわかりやすいかもしれない。

牧秀彦氏の本は坂上宝剣などの記述などで大きな間違いもあったりするが、静御前と巴御前の薙刀に関しては、二人の女性がまずどういうイメージを世間から持たれているために、そのイメージが同型とされる薙刀に付会されているのか、概要を掴みやすい。

巴御前が弓を使うイメージは軍記物から、薙刀を使うイメージはどうやら牧秀彦氏の指摘通り能の「巴」の影響が大きいと考えられる。

『巴 (観世流謡本決定版一番綴 ; 外 2) 』(データ送信)
著者:丸岡明 訂正 発行年:1939年(昭和14) 出版者:観世流改訂本刊行会
ページ数:1 コマ数:3

この作品に限らず能の演目について調べていると、史実との相違や脚色がすでに指摘されていることが多い。

「巴」の場合もWikipediaの解説などを読むと、『平家物語』に基づきながら内容に相違があることが指摘されている。

静御前の薙刀は将軍家や前田家伝来のものとして有名なものがあるが、巴形薙刀はそれほど話題に挙がるものがないようである。
というか、水心子正秀の著作のように江戸期の刀剣書に反りの多いものが巴形、反りの少ないものが静形としてすでにセットで語られるように、二種類の型の薙刀はセットで考えた方がよいかもしれない。

(姿や表記揺れ「巴形」か「巴型」かと言った定義の問題も結構書籍によって違うし割と曖昧)

静御前の薙刀にしろ巴御前の薙刀にしろ、結果としては信憑性の高い資料どころか、もともとそういう記述のある資料自体が存在しないということになる。

二人の女性の現存どころかそもそも実在しないかもしれない薙刀の物語が江戸期にはそれぞれ「静形」「巴形」という薙刀の形を規定するまでに至り、武道の本では当たり前のようにその名が使用されている。

人がどれだけ史実や史料に拘らず「物語」のイメージを造り、共有し、そこから更に別のイメージや新たな定義を生み出していくか。

巴形薙刀と静形薙刀の研究史からは物語の持つそういう力の複雑さ、奥深さが垣間見える。

参考文献

『武術体操法』
著者:小沢卯之助 発行年:1897年(明治30) 出版者:大日本図書
目次:第五篇 薙刀体操
ページ数:198 コマ数:110

『水心子正秀全集 (刀剣叢書 ; 第1編) 』
著者:川口陟 編 発行年:1926年(大正15) 出版者:南人社
目次:劍工秘傳志 三卷
ページ数:196 コマ数:107

『槍・薙刀及び鐔の新研究』(データ送信)
著者:清水孝教 発行年:1931年(昭和6) 出版者:太陽堂書店
目次:二三 諸國鍛冶及武將との關係
ページ数:317 コマ数:181

『巴 (観世流謡本決定版一番綴 ; 外 2) 』(データ送信)
著者:丸岡明 訂正 発行年:1939年(昭和14) 出版者:観世流改訂本刊行会
ページ数:1 コマ数:3

「刀剣と歴史 (414)」(雑誌・データ送信)
発行年:1963年7月(昭和38) 出版者:日本刀剣保存会
目次:剣工談(4) / 沼田直宗
ページ数:22 コマ数:34

『日本刀物語』(データ送信)
著者:福永酔剣 発行年:1964年(昭和39) 出版者:雄山閣
目次:静御前と巴御前の薙刀
ページ数:53~64 コマ数:34~40

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:ともえがたなぎなた【巴形薙刀】
ページ数:4巻P37

概説書

『剣技・剣術三 名刀伝』(紙本)
著者:牧秀彦 発行年:2002年(平成14) 出版者:新紀元社
目次:第二章 中世武士 静御前・巴御前の薙刀 静御前・巴御前
ページ数:122、123

『名刀伝説』(紙本)
著者:牧秀彦 発行年:2004年(平成16) 出版者:新紀元社
目次:第二章 中世・戦国 巴型・静型薙刀――巴御前・静御前――
ページ数:69~72

『物語で読む日本の刀剣150』(紙本)
著者:かゆみ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第8章 神代の剣・槍・薙刀 巴御前奉納の薙刀
ページ数:200

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