天狗 天狗 10
天狗第十話 一支 無事に通り抜けられれば、それは大いなる試練を果たしたことなり、その本質を天狗に変えると言う―修験道。そのものはいつできたのだろうか。いつ、噂になるようになったのだろうか。 冬宮――それは一宮の別称である。誰もが侵すことのできない静寂の山。痛いほどの静けさと、何もかもが眠るような寂しさを兼ね備えた、山としては貧相な様。誰がそう呼ぶようになり、いつからその山がそうなる様に変わっていったか。知る者はおそらく一人きり。「宮さま、何をなさっておいでですか」 配下の若い天狗が問う。問われたのは、もう老齢な天狗であった。髪は白く、昔はそれこそ草原の力強く立つ草のように多かったであろう髪も少なく、力ない。髭を蓄え、威厳のあるりりしい眉。風にあおられる狩衣の色は深い紫―。 ――一宮(いちのみや)、宮上・一支(かずし)さま。 長寿であるアヤカシの類の中でも類を見ぬほどの長寿の天狗である。そう、一宮だけは宮として起ったそのときより宮の交代がなされていないと言われている。他の宮がもう何代も時を重ねたのに対し、一宮のみが一支のまま変わっていない。 というか他の宮が代替わりした一宮の他の宮を見た...
