
モグトワールの遺跡 015
第2章 土の大陸1.男装少女と女装少年(4)057 物心ついた時には、すでに左の耳に一つ、穴が開いていた。目立つものじゃない。細い糸が一本通るくらいの小さな穴だ。だけど、両親はその穴をあまり他人に見せてはいけないよ、と幼い自分に言い聞かせていた。「どぉして?」「これはね、セーンが特別なお家の生まれであることを証明しているのさ。父さんや母さんがお前くらいの歳には同じ場所に穴があったよ」しかし見せてくれた父の耳に穴は開いていない。「特別なお家?」「そうさ。だけど、それはいろんな人に見せて回るようなものじゃない。特別な家に生まれたといってもこの家には父さんと母さんとおじいさんにセーンしかいないだろう? セーンは村のみんなと同じ暮らしをしていて、何も変わららないだろう?」「うん」「だから、自分から皆とここが違うのだと言いふらす必要はないのさ。よく考えて御覧、セーン。この穴を誰かお友達に見られてしまって、それ以降セーンと口を利かなくなってしまったら、哀しくないか?」「やだ! トリ君も、フィーナちゃんも、ルイもみんな友達だよ!」「そうだろう? でも特別っていうのはな、何も良い事ばかりじゃないんだ。...