TINCTORA 019

066

 海戦における絶対的有利を持っていながら、大敗を喫し、リダー諸島を敵に奪われたエルス帝国海軍。その事実上のトップとしてネツァーと軍師であるホド、他の海軍を指揮する公爵たちはケテルのいる帝都の宮殿へと招聘されていた。
「さて……」
 サルザヴェクⅣ世、すなわちエルス帝国を治める帝王が口火を切る。
 ずらっと列席する公爵達にまるで被告人の様に中央に列席するネツァーとホド。会議という名目などではない。ゆえに列席には公爵だけではなく、公爵の秘書やら執事やら部下などもいる。
「まずはリュードベリとの我が国との現状について、戦況を説明せよ。まずは国境線の守備を行う陸軍から」
「はっ!」
 ソロモン卿が起立して応答する。
 エルス帝国の地理の関係上、隣国であり、今回の敵国であるリュードベリ帝国との国境を持つ公爵領地は二つ。ソロモン領とラルキー領だ。この二つの公爵による私軍から成り立つのが陸軍の第一軍、すなわち国境線を護る陸軍である。
 ちなみに国の北側の隣国ダンチェート帝国との国境線を持つクルセス領を中心としたクルセス、ラトロンガ、ルステリカの三公爵の私軍から成り立つのが第二軍。北の国境線の守備を担う。そして第三軍が西側の守護を担う第三軍だ。
 隣国はないが、西側の国境を護る軍として、スウェン領を中心に、ジンジャー、ラトロンガ領の三公爵から成る。中央軍と云う名前の部隊も存在する。それは帝都を囲む形で領地を持つ、ルステリカ、ケゼルチェック、バイザー、ラルキーの四つの公爵の私軍から編成される。
 次に海軍だが、海軍は第一軍がリダー領の私軍を中心に構成され、それにケゼルチェックも共同で参加している。第二軍はバイザー、第三軍がラルキー公爵の私軍からそれぞれ編成されている。
 しかし、海軍はあまり部隊にこだわらずに編制されることが多い。それは海軍とは名ばかりのラルキー領が海に面した領地をもたないと言っても過言ではない地理であることや、ケゼルチェック前公爵の死亡と共に海軍の将校等部隊を率いる将が死亡したというのもある。
 海軍はその将校らがまとめて死亡したせいで、編成や系統もずたずたになってしまったのである。それを徐々に編成し直しているところで今回の戦争である。敵国も当然その事実を知っていたからこそ、海軍をメインにしているわけだ。逆にばらばらの海軍をここまで動かすほどまで編成し直し、機能させているネツァーの手腕をここは褒めるべきだろう。
 ちなみにネツァーは通常は海軍を率いるわけではなく、中央の帝都守護における将軍職を賜っている。ホドはあくまでケゼルチェック私軍の軍師の立場だ。しかしお分かりの通り、ケゼルチェックは様々な舞台に所属している。
 その統率は、数年前のダンチェート帝国戦で戦果を上げたホド、ネツァーの手腕を評価されたために二人が任されている。そういうわけで今回の戦争も南方の海戦を担当する海軍を率いる役目にネツァーとホドは自然と決定されていたのである。
「我ら陸軍第一軍における東部戦線は現状を維持、あくまで一進一退を繰り返しております。しかし、これが古来の互いの手札を知りつくした結果によるもので、此度の戦争、やはり鍵となるは海戦と考えられます」
 ソロモン卿の後ろで彼の息子であり長子のディオネが将軍の肩書を誇らしげに誇示し、着席している。彼の後ろには海軍に参加しているわりにはソロモン卿の列席者としてティティスの姿もある。
「よし、隙を見て攻勢に転じよ」
「は」
 ソロモン卿が着席し、隣席のラルキー卿がほっと息をついてる。ネツァーがふん、と鼻を鳴らしてバカにしている様子がケテルには伝わって来た。
「では続いて海戦の報告を」
「は」
 立ち上がったのはケテルの隣に座っていたネツァーだった。白い軍服が眩しいほどに良く似合っている。しかし、列席者の中で唯一の女性、そしてうら若い乙女であることが場違いさを醸し出し、意地悪い公爵達の目線にさらしものになっている。しかし、ネツァーはそんなことを気にもとめず、はきはきと答え始めた。
「我が海軍総合部隊における戦争において、敵艦の撃沈数は六つ。敵戦力における二割を削ぐ事に成功しました。しかし、敵艦は最新鋭の船を駆っております。ゆえに風に寄る影響を受けず、リダー諸島までの侵入を許しました。自軍で対応をしたものの、戦力の差に敗退、リダー諸島を敵国の手に落としました」
 負けの報告をしているにも関わらず、ネツァーは自信をもって答えた。ケテルはホドの様子をちらりと見る。ホドも特に焦っていない。逆に同じ軍隊を動かすバイザー卿は少し難しい顔をし、リダー卿は自分の領地を奪われたのだから当然の如く意気消沈している。
「よくも平然と!」
 ラトロンガ卿が叫ぶ。それに頷くようにしてソロモン卿が厭らしい笑みを浮かべた。
「負けた、とな? ヴァトリア将軍」
「はい」
「はい、ではなかろう! どうするつもりだ!!」
 さすがに王が怒鳴る。
「もちろん、負けた分は倍返し、取り返します。ご安心を、陛下」
 しれっと言うので、さまざまな場所からざわめきが生じる。
「取り返すといっても、一旦負けたのだろう? リダー軍はもう使えまい。どうするつもりだ?」
「はい、そこは我が軍師、ホドクラーからご説明を」
 ネツァーの指名を受けて、今度はホドが立ちあがる。
「では、ご説明いたします。まず情報が独り歩きしている様子ですので、補足させていただきます。リダー諸島は確かに敵国の手に落ちました。が、それは本島の半分です。リダー領は諸島からですので他の島はまだ敵国に落ちてはおりません」
「何を言う!! 本島が落ちればおのずと落ちたと言えるではないか!」
 スウェン卿が笑いながら言う。
「いいえ、意味が全く違います。諸島が生きているということは軍艦島として機能しているということです」
「……軍艦島?」
 ディオネと皇太子が不思議そうな顔をしている。ケテルは内心、軍艦島くらい知っておけよと内心毒づいた。
「はい、軍艦島とは島に武装をさせて軍艦と同じような機能を持たせたり、補給の要として運用したりする無人島のことです。リダー諸島には大小様々な島があり、その半数を軍艦島にしております。もちろん、敵国はそれを知りません。ゆえに、うまく使い最終的にこのバイザー領のジューダイヤ海峡へと敵船をおびき寄せ、挟み打ちにして一気にせん滅します」
 ホドは地図がなくとも、分かり易く意見を述べた。エルス帝国で港として開拓された湾はケゼルチェックの領地のみ。同じ海に面した領地でもバイザー領は切り立った崖や岩礁帯など船を走行させるのは不向きの海だ。ゆえにエルスの海は風と海流が複雑で敵の侵攻を許さなかったという面もある。
「バイザー卿」
 ソロモン卿が問いかける。あれ、そっちいく? とケテルは相コンタクトを取り合っているソロモン卿とラトロンガ卿を視界の端に入れる。
「なにか」
「ホドクラー卿の作戦は本当に実行可能なのですかな?」
「確かに、我がバイザーの海は難しい。しかしこの海に慣れているエルスの猛者たちならば敵を一気にせん滅出来よう」
 バイザー卿の威厳はこういう時に便利だなとケテルは思った。この何事にも動じない姿と言い、貫禄のある姿だ。
「そんな不確かなものでいいものやら、陛下……今一度ご検討をされてはいかがでしょう?」
 ラトロンガ卿の言葉に王が唸る。
「ケゼルチェック卿はいかがお考えか。そもそも、此度の戦では海戦が主力となるとわかっていたのにも関わらず、自軍の戦力を驕り、この敗戦と相成った。ホドクラー卿、ヴァトリア将軍の力量不足についてどう申し開きをされるおつもりか?」
「お待ちください! 我が君は関係のないこと……!」
 ホドが慌てた声を出し、責めるソロモン卿に制止を掛ける。
「敗残兵の将は黙っておれ。ここは公爵の場ぞ」
 そもそもこの場は公爵会議じゃないんだけどな、とホドなら考えていそうだ。しかしこういう場でホドが声を荒げて自分を心配するのは珍しい。演技かな? ケテルは表情に出さず自分の部下の思考を読もうとする。
 もし自分の発言がホドの脚を少しでも引っ張るなら発言は控えたい所。いっそ自分はなにもわかりませんという表情で同情を誘った方がホドとしてはやりやすいかな? ホドの思考を欠片でも掴むためにアイコンタクトを取りたい所だが、先程自分が見ていたように相手も自分を見ている。
 そんな事を考えて全く考えがまとまっていないうちにケテルは発言の為に起立した。
「わたくしは己の部下の力量を少しも疑ってはおりません。彼らなら必ずやこの負け分を取り返すと信じています」
「ほぉ。ここまでの敗戦ながら、いっそ素晴らしいですな。これでもまだ将軍をヴァトリア将軍に、軍師をホドクラー卿に任せする意志は変わらぬ、と?」
 ラトロンガ卿が意地悪く尋ねる。
「もちろんです」
毅然と言い放つ姿にホドが感極まった様子を見せている。
「見事なものですな。確かにケゼルチェック卿の御言葉には一理あります。部下を信じず何を信ずればいいか。ケゼルチェック卿は主とはどういうものか、よくご理解されている様子」
 持ち上げて何を要求する気だ?
「恐れ入ります」
「過去我ら陸軍で臨んだダンチェート戦。敗戦を記した我らに、ケゼルチェック卿は戦力を送り、加勢頂きました。意固地な我らとは全く違う発想で戦況を開かれた」
 ソロモン卿が思いだすように呟く。思考についていけない北の一派がけげんな顔をしている。
「過去を見返すもの大事なことです。あの時我らは全く新しい考えを持たず、己だけが正しいと思い込んでいました。それこそが敗因です」
 一同を見渡して、ソロモン卿が自信たっぷりに言い放った。
「そこで、どうでしょう? 陛下、今度は戦況がそこまで逼迫していない我ら陸軍が力と知恵を御貸しする、というのは?」
 借りは返すと言っているようだ。今度はネツァーが立ちあがった。
「ご協力は大変ありがたいのですが、海戦に慣れていないど素人は足手まといです! 物資などのご援助などに限定していただけませんか?」
 ケテルは相変わらず言う事がストレートだな、とネツァーを見る。
「な、失礼な」
 ラトロンガ卿が思わずつぶやく。
「しかし、己の力を過信することは良くない。過去がそう言っている」
 鼻っ柱を折るように重ねてネツァー。
「それはあなた方の考え方が古いからです」
「……戦果をあげてから言って欲しいですね」
 ラトロンガ卿がネツァーを黙らせるべく反論した。ネツァーが口を開いて言い返そうとした瞬間、ホドがテーブルをコツ、と軽く叩いた。ネツァーはそれを聞いて黙り込む。
「仰る通りですわ、申し訳ありません」
「いかがでしょう、陛下」
 畳みかけるようにソロモン卿が提案する。満足げに頷く北の一派の公爵達。ルステリカ卿だけがホドに視線を送っている。
「その提案は良い。しかし東側の国境線に援助をしているだろう。余裕はあるのか? いくらダンチェートと友好関係を結んだとは言え、過去の敵国。今も警備は必要だろう」
「仰る通りです。ゆえに過去にホドクラー卿とヴァトリア将軍が行ったように必要最低限の兵を使わして戦況を変えたいと考えています」
「申してみよ」
「はい。まず同じ将軍として西方将軍であるこのディオネを派遣したいと考えております」
「お任せ下さい、陛下。必ずや吉報をお届けにあがります!」
 姿勢を正し、びしっと拝礼を行うディオネ。
「そんな」
 ネツァーが信じられないという風で呟く。
「お伺いしますが、将軍職の方が二人。これでは命令系統に混乱が生じます。海軍に参加頂くなら、我らの命令系統に組み込む形で構いませんな?」
 バイザー卿がさすがに口を挟む。
「それは有事の際でもヴァトリア将軍、ホドクラー卿の指示を仰ぐということですか?」
 ディオネが急に生き生きして言う。げんなりという表情を隠しもしないネツァー。
「左様」
 ディオネは父親であるソロモン卿に視線をやり、ソロモン卿が口を開いた。
「お待ちください。そこで司令塔を変えなければ何のための支援でしょうか?」
「そもそも支援とは支え、援助して頂く事ですから、当然指揮官に従うもので、指揮官にとって代わるものではあるまい」
 バイザー卿も名ばかりのソロモン卿の息子に支持を仰ぎたくないのだろう。リダー卿も真剣な顔をしている。逆にソロモンら北側は過去のダンチェート戦での南の借りを根に持っている。その時はホドとネツァーが勝手に動いてすぐさま終結させたからだ。
「バイザー卿……貴君ならお察しかと。西方将軍なら同じ将軍職ですから、問題はないでしょう。それにヴァトリア将軍、ホドクラー卿の失態をカバーするためのものですからね」
 つまり、一回敗戦した二人は用済みだと言いたいわけか。ケテルは殺気で殺さんばかりのネツァーと逆に面白そうな視線を瞳の奥に巧く隠したホドを見た。
「しかし、陸戦と海戦は勝手が違います。装備などもギブアルベーニ将軍はご存じないでしょう。それでは将など務まるはずもありません」
 リダー卿が今度は反論した。しかし、リダー諸島を失うという痛い敗戦を記した海軍は今一歩強気になれない。
「お待ちください。此度の敗戦はすべて計画立案したわたくしの責任です。ヴァトリア将軍は果敢に闘ってくれました。ニ将軍による新体制ということで如何でしょうか?」
 ホドが務めて冷静そうな声色で言う。ネツァーの舌打ちが聞こえるが、平然とした表情を保っているあたりネツァーもまだ我慢しているのだろう。
「そもそも何故海軍では女性を将軍職にしたのですか?」
 力量が足りないというのであれば納得するが、と失笑と共にスウェン卿が呟く。
「彼女が将軍に最適の才能と実力を兼ね備えた人物だからです」
 ケテルがすかさず言い放った。その瞬間に北の一派の失笑が漏れる。
「部下への信頼が厚いケゼルチェック卿ならばそうお答えされますね。これは失礼」
「そこまで仰るなら、やってご覧になったら?」
 ネツァーが逆に悠然と微笑んでディオネに言う。
「陛下、此度の敗戦。たしかに私たちの油断が招いた失態です。リダー卿、バイザー卿両閣下には大変ご迷惑をお掛けし、さぞご心痛を増されたことでしょう」
 ネツァーが言う。バイザー卿とリダー卿は視線で否定する。共に戦ったのだから、敗戦の原因が二人にない事くらいわかっている。
「幸いこの国には私より優秀なギブアルベーニ将軍がいらして、私の代わりに戦果をあげると御約束下さったわ。ケゼルチェック並びに海軍はなんという神にも勝るような力強い味方を手に入れたのかしら」
 リダー卿が愕然とする。ケテルは笑みが浮かびそうになるのを堪えるのに必死だ。
 ――ネツァー、キレたな。
「ではヴァトリア将軍はしばらく休暇を取っては? 陛下如何でしょう?」
「うむ。では海軍全体の将に西方将軍のギブアルベーニ将軍を推そう。やれるな?」
「は! 御意」
 敬礼を行うディオネ。
「ヴァトリア将軍はギブアルベーニ将軍の元……」
「陛下! お待ち下さい。ギブアルベーニ将軍には西方の戦線を護る役もございます。ヴァトリア将軍から権を取り上げてしまうのはいかがなものでしょう? いざというとき……」
「くどいぞ! ホドクラー卿」
 ディオネがもう権力を持った気で言う。
「休息が必要なのはホドクラー卿なのでは? 激務で相当お疲れでしょう?」
 優しげな声でソロモン卿が言う。ホドを追い落とす気らしい。
「そうかもしれぬ。我らがそなたを頼り過ぎたのだ」
 王が呟く。ホドが愕然とした顔をする。
「休息と言えば、陛下」
 ネツァーはケテルがフォローしようか迷っている間に口を挟む。
「激務を経験したのは何も我ら将校だけではありません。我が軍も此度の敗戦で兵士の相当数を失い、負傷者を出しました。ゆえにケゼルチェック軍は半数以上の機能が難しい状況です。支援と云う面でギブアルベーニ将軍をお招きするに辺り、将軍もご自分の配下や軍が側にいた方が百人力でしょう。少数とは言わず、兵士や物資の補填を可能な限りお願いしたいのですが」
「どうだ?」
 王が尋ねる。
「承知つかまつりました。では可能な限りソロモン軍を率いてすぐにでもご助力にあがります」
「助かりますわ。さすができる方は違いますわね」
 ネツァーがこの戦争にやる気をなくしたのが丸わかりに女言葉を使ってディオネに微笑んだ。ディオネはその微笑みを見てだらしなく顔がゆるんでいる。
「お任せ下さい!」
 それに対し、これからの戦線を思い、バイザー卿、リダー卿が暗い表情をしている。海軍の士気を高め、導いてきたヴァトリア将軍が戦線を離れるという事実。それに作戦指揮の要であるホドの事実上の不参加決定。
「では、ギブアルベーニ将軍。わたくしどもからもお願いが」
 一瞬でアイコンタクトを取ったバイザー卿とリダー卿のうちバイザー卿が言う。
「敗戦で負傷兵が続出したのは我らバイザー軍とリダー軍も同様です。戦力の補填のため、ソロモン軍だけではなく、ラトロンガ軍、並びに西方の戦線を守護するスウェン軍のご助力をお願いしたい。また、控えさせていた第二軍であるラルキー軍の投入をお許し願いたい」
 それは事実上海軍が戦線を放棄し、西側の戦況が開かれない西方を護る私軍たちに戦線を受け渡すことを意味していた。支援と云う事実上の乗っ取りを提案したソロモンに乗っかった形である。逆に南方の海軍を率いる両公爵は己の軍をこれ以上疲弊させない、または勝手にされない為に自軍の撤退を瞬時に決定した図である。
「うむ。許可する。三公爵は自軍を率いて海軍を編成し、速やかに敵国の撃破にあたれ」
「御意」
 予想外の出兵を命じられたスウェン卿は呆然としつつ拝命する。ケテルはそんな年かさの男を見て冷静に切り捨てた。
 器が知れるな、こいつ。――やはり敵はソロモン、ラトロンガあたりか。
「あの、差し出がましいようですが、海軍を編成されましたら一度話し合いの場を設けて頂き、今後の戦況なども確認させていただけないでしょうか」
 ホドが恐る恐ると言った様子で意見を述べる。はた目から見れば今後の海戦の行く末を案じての発言にも取れるし、みっともなく己の保身に走っている様子にも取れる。
「いえ、結構です。ヴァトリア将軍やバイザー卿、リダー卿がいらっしゃいますから」
 ディオネがそう切り返し、ホドが助けを求めるように王を見る。王は首を振った。消沈するホド。