018.生贄術師

 鋭い笛の音が夜の闇を切り裂いて響く。
 ファラーシャは弾かれたように顔を上げると、その音が聞こえた方角に向けて走り出した。セルセラも箒で宙を舞いながらタルテたちのもとへ駆けつける。
「見つけたか?! って……」
 上空から現場を見下ろしたセルセラは、レイルとタルテが戦っている状況に目を瞬いた。
「ん?」
「何をやってるんだ! レイル!」
 セルセラよりあらゆる意味で目の良いファラーシャは、二人の戦闘の様子からそれがレイル側から仕掛けたものであることに気づき非難の声を上げた。
 しかしレイルは彼女の言葉にぴくりとも反応する様子がない。
「どうしたんだ、一体」
「まさか……」
 異変を感じとったファラーシャは眉を下げ、セルセラは口の端を引きつらせる。
 見かけ以上の剛腕でレイルを一度振り払ったタルテが、二人に簡潔に現状を説明した。
「レイルは魔王に操られています! 止めるのを手伝ってください!」
 予想通りの言葉に、少女二人は容赦ない感想を口にする。
「はん。やっぱりそういうことかよ。この役立たずめ」
「えー、そんなあっさり敵に洗脳されちゃったのかレイル。かっこわるーい……」
 仮にも味方であるはずの人物にこの態度。タルテだけでなく、セルセラもファラーシャももう少し他人に対して優しくなるべきだろう。
 軽口を叩きはするが、状況はかなり悪い。
「私のことも忘れちゃいやよ」
 魔王ドロミットが放った硝子の剣を、セルセラの張った結界が弾き返す。
「魔王より気にかかる存在を用意したそっちが悪い」
 セルセラは苛立ちのこもった溜息を吐き出しながらドロミットを睨みつける。
 ドロミットは手と手の間にもう一振り硝子の剣を生み出しながら、嫣然と微笑んだ。
「そうね。いい拾い物だったわあの剣士さん」
「レイルを落とし物みたいに言うな!」
 ぷんすか怒りながら神器の弓弦を引き絞ろうとしたファラーシャだったが、そこにタルテの鋭い警告がとんだ。
「ファラーシャ! 後ろです!」
「うわっ……ととっ」
 いつの間にかタルテの槍を躱したレイルがファラーシャの背後に肉薄している。ファラーシャは咄嗟に突き出した左腕でレイルの剣を受け止めた。
「ぐっ……!」
 見上げるほど巨大な竜に噛みつかれても平然としていたファラーシャだが、今のレイルの一撃は、骨に響くような衝撃を味わった。
 もちろんその程度で済むのは彼女が特殊民族だからだ。人間ならどんな頑丈な鎧を着ていても今の一撃で腕どころか胴体ごと真っ二つになっただろう。
「まずいなぁ。どうする? セルセラ」
「レイルの相手はお前でもきついか」
「ちょっとな。私が見た限り今のレイルの剣は遺跡の時より鈍いのに、それでもこのザマだ」
 肉体の強靭さのおかげで斬り落とされこそしなかったものの、ファラーシャのむき出しの腕は、レイルの刃を受け止めて一筋の赤い痕が残っている。
 恐ろしいことに、これでもレイルは「全然いつも通りの強さじゃない」とファラーシャは言う。
 洗脳により本来の実力を発揮できていないのか、無意識のうちに味方であるはずの彼女たちに致命傷を与えることを拒否しているのか。
 わからないが、とにかく今のレイルが全力ではないことは確かだ。
「……穏便に取り押さえるのはどうやら不可能ですね」
 レイルが弱ければ問題はなかった。普通の人間なら抵抗があるところだろうが、この面子なら洗脳された味方を容赦なくどつくことに躊躇いなどない。
 しかし相手が本来の実力を発揮できていないにも関わらず、タルテとファラーシャは自分たちの実力でレイルを傷つけずに取り押さえることは不可能だと判断した。
 ――全力で行かなければ、こちらが危ない。
「仕方ねえ。多少どころか多大な怪我を負わせてもいいからなんとか抑え込め! どうせあいつは不老不死の吸血――うわっ!」
「セルセラ!」
 のんびり考える暇を与えないとばかりに、ドロミットが次々と空中に無数の硝子の破片を作り出す。透明な破片を避けるような身体能力がないセルセラは、ひたすら魔導の盾を張り続ける。
「レイル、早く正気に戻ってくれ! そうじゃないとセルセラが!」
「役目を替わりましょう、ファラーシャ。あなたは魔王を抑えてください!」
 タルテがレイルとファラーシャの間に槍の穂先を衝きこみ、そのまま次の攻撃に移る。
 ファラーシャに指示を飛ばしながら、強引にレイルを引き離した。
「わ、わかった!」
 まだ動揺しているファラーシャだが戦闘へ入るのは誰よりも素早い。軽く指を弾いただけのような動作で神器の矢を連射して、魔王の意識をセルセラから逸らす。
 ファラーシャの援護の矢が降っている間に、セルセラは箒で更に上空へと舞い上がり距離を取った。
 ドロミットは大して惜しい様子でもなくそれを見送りながら、硝子の剣でファラーシャの放った矢を斬り伏せる。
「まだまだぁ!」
 神器のおかげで無限連射が可能なファラーシャは、とにかく魔王が自由になる隙を与えまいと、ひたすら光の矢を射かけ続ける。
「鬱陶しいわね」
 ドロミットは言葉通りうんざりした顔でそれを避け、斬り払う。
「あの様子だと魔王もその気なら空中まで追って来る手段を持ってそうだな。ファラーシャが足止めしてくれてる間になんとかしないと……」
 セルセラは口に出して状況を整理するが、そう簡単に名案は閃かない。
「……ったく、これだから天才ってのは性質(タチ)が悪い」
 剣士としてのレイルの強さは、猛者揃いの星狩人協会でも並ぶ者はいないだろう。それは彼が限りなく世界一に近い強者であることを示している。
 本物の天才。圧倒的な才能。
 それに比べると、こちらは一瞬でこの事態の解決法が閃くような頭脳は持っていない。
 物語の軍師ではあるまいし、最高の戦術が即座に思い浮かぶ訳もない。
 本来セルセラは、事前準備や根回し、研究や分析の結果を基にした入念な作戦立案に定評がある星狩人だ。
 先天的な才能より、後天的な努力で成果を上げる秀才型。
 だからこそ、分野が違うとはいえ天才と正面からやり合う難しさはわかっている。
 その才能をいつも憎み羨み妬みながら、努力や反則、謀略や取引で結果を出し続けてきたのだから。
(とにかくまずはレイルを正気に戻さねえと。だが術者である魔王自身を撃破するのは難しい。操られたレイルが奴を援護する)
 今はまだそれぞれ一対一の展開を見せているが、魔王側がその気になれば洗脳による命令で二対二の構図も作り出せるだろう。
 連携の勝負になれば、レイルを自分のいいように動かせるドロミットより、出会ったばかりのタルテとファラーシャ組が不利だ。
 考えている間にも、地上では民家に人体がぶつかり、物凄い音と衝撃を放ちながら壁が瓦礫と化す光景が広がっていた。
「うえええ! タルテ! それだとレイルが! あと家の中の硝子の人たちも!」
「仕方ありません。魔王を倒して世界を救うためには必要な犠牲です」
 その必要な犠牲を減らす努力を一切していなさそうな平然とした口調で、タルテはあっさりレイルの無事と、硝子の彫像と化した住人たちの命を切り捨てる。
「あんた本当に聖職者? お仲間相手に随分と残酷ね」
 魔王にまでそう言われるが、タルテは逡巡することもなく言い返した。
「この状況を生み出した張本人である方には言われたくありませんね。それとも今から紳士的に公平かつ平等に戦いましょうか?」
「まさか」
「うわーん! 今レイルの骨がボキッ! って言ったぞボキッ! って――!!」
 冷笑するドロミットの言葉をかき消す勢いで、ファラーシャが弓を握ったまま騒ぐ。
 セルセラは眩暈を堪えるように額に手を当てた。
 レイルは確かに強いが、タルテもまだまだ得体のしれない実力を隠し持っていたらしい。
 一方的な虐殺にならないだけマシだが、被害は時を重ねるごとに膨れ上がっていく。
 この事態の収拾が自分の肩にかかっていると思うと、重責とは別の意味で気が重い。
「まったく……まあ、元はレイルの奴があっさり操られたから悪いんだよな」
 死者の幻影を見せる魔導。自分の前に現れた今は亡き友人の姿を思い返せば、レイルの前にも取り戻せない過去が立ちふさがっただろうことは想像がつく。
 しかし。しかし、だ。過去も経歴も特に聞いていないタルテはともかく、一族を滅亡に追い込まれたファラーシャがいたって普段通りなのを考えれば、レイルだけに同情などできるはずがない。
 身体能力が秀でている分、精神面が未熟だとでも言うのだろうか。あの外見詐欺吸血鬼は。
 それとも、どれほど堅固な意志をかき集めても太刀打ちできない闇が、レイルの中にあると言うのか。
 出会った時の懇願。救いを求める言葉。
 ファラダを助けたいと当然のように言った時の態度。
 そしてこの硝子の街に入る前のくだらない会話。
 ――誰か一人を捧げて平和を得るよりも、みんなで世界を滅ぼす脅威に立ち向かう。その方がずっといい。
 本当は、レイルはファラーシャもタルテもセルセラも、傷つけたいとは思っていないはずだ。
 彼の意志を無視して彼を支配する鎖は魔王ドロミットが握っている。レイルの心の中にある深い傷。そこに差し込まれた楔を、力ずくで引き抜くことは今のセルセラたちには難しい。
 術式が不明の魔導に手を出すというのは、視界の利かぬ暗闇の泥沼に落としたものを素手で探すようなものだ。
 見つからないだけならまだしも、その沼が毒に染まっていたり、刃物などが隠されていたり、危険な生物に手を噛まれる心配もある。
「手法の詳細を調べてる時間もなければ、通常の手順を踏ませる余裕もない。洗脳を解くためにはレイル本来の性質に賭けて何か強い精神的な衝撃を与える必要があるだろうが……僕らはレイルの過去を知らないんだぞ! 何を言えばいいかなんてわかるか!」

 それでも、泥沼に落としたものが決して諦められないものだった場合どうするのか?

「見たいものを見せることができないのならその逆だ。見たくないものを見せて無理矢理にでも目を覚ましてやる!」
 レイルにとって見たくないものを見せる。いまだ血を流す傷口を思い切り爪で引っ掻いてやる。
 心に響く言葉は、相手が欲している言葉だけではない。決して聞きたくない言葉は、悪い意味で精神に作用する。悪いものは良いもの以上に強い衝撃を与える。
 そして心を揺さぶられた衝撃で、ドロミットの洗脳が緩んだ隙に反撃の魔導を叩き込む。
 そのためには暗闇の泥沼に、思い切り自らの腕を突っ込む覚悟をセルセラは決める。

 ――俺は、誰かの命と引き換えに得るほど欲しい結果なんてない。

「お前が望まなくても、僕が望むんだよ。……そう、望みを叶える代償に、人は血の供物を神に捧ぐ。自分では叶えられない願いさえもかなえるために」
 叶わない努力なんて、結果の出ない過程なんて、結局無意味なものだと鼻で笑ってセルセラは行動を始める。
 箒を動かして地上に近づき、地面に降り立ちながら、いまだ魔王とレイルと交戦中のタルテとファラーシャに呼び掛けた。
「タルテ! ファラーシャ!」
 ――かつて、師は言った。
 魔導の根源は信じることだと。
 俗に霊感と呼ばれる第六感の更に先、第七感。その第七感を通じて、世界そのものの過去と未来の記憶である年代記と、全ての魂が生まれ還る先である集合的無意識から力を引き出し超常の現象を引き起こす御業。それが魔導。
 必要なのは、自らの望みを見失わない強き意志と――自分を包む世界を信じる力だ。

「レイルの野郎を正気に戻す方法がある! ――僕がこれから何をしても、お前ら動揺するなよ!」

「わかった! セルセラを信じる!」

 魔導を使えないファラーシャは、魔導の鍵となる言葉をあっさりと口にして頷く。
 セルセラのことを何も知らなくても、それは彼女が彼女を信じない理由にはならないと。

「信じますよ。私が知っているあなたの噂は多い。その何よりも、私自身がこの目で視たあなたを信じます」

 セルセラについてある程度情報を持っているタルテは冷静に。
 どれほど驚愕の展開が待ち受けていても、決して取り乱したりはしないと誓う。

「ああ、そうかよ。そんじゃ最後にこの僕も、あのバカのバカっぷりを信じてやるぜ」

 レイルがセルセラについて何も知らなかったように、セルセラもレイルのことを何も知らない。
 どんな過去があって、幻の中で何を見てそんなに傷つき、魔王に心を操られるのを許したのかまるでわからない。
 それでも、レイルが一番辛いことぐらいは、この短い付き合いでも理解できた。
 だからこそ。

「――偉大なる我らの神よ、我が祈り聞き届けたまえ。我は伏して奉り、御身の慈悲を希う――」

 彼女だけが使う呪文を小さく唱えながら、セルセラは剣を持つレイルの正面に立ち、その攻撃を避けるどころか、両手を軽く広げて待ち構えていたかのように受け入れる。

「!?」

 戦闘中であるレイルは当然、セルセラが攻撃を防ぐか避けるかするものと判断していた。
 しかし鈍い銀色の輝きを放つ切っ先は、その胸にまっすぐ吸い込まれていく。

「我が血の生贄に寄りて、どうか、」

 レイルの頬に飛び散る返り血。
 その赤をなぞるように持ち上げられたセルセラの手が、レイルの頬を両手でそっと包み祈りの言の葉を紡ぐ。

「この者の鎖に囚われし心を解き放て」

 セルセラがレイルを抱きしめるかのような構図。けれど二人の間を繋ぐのはレイルの握る剣の冷たい刃。
 レイルの頬に添えられていたセルセラの手から力が抜け落ちる。
 命の絶えた身体がずるりと崩れ落ちたのを、剣を手放したレイルが咄嗟に抱き留めた。

「セルセラ……?」

 呆然と目を瞠ったレイルの瞳は正気の光を取り戻した。
 けれど、自らが生み出した凄惨な光景を信じられず、呼吸も忘れて少女の死に顔を見つめ続ける。
 眠る間際のように半分ほど瞼の降りたセルセラの瞳は瞳孔が開いていた。

 ◆◆◆◆◆

「セルセラ!」
 叫んだファラーシャに、すぐさまタルテが強く呼びかけた。
「ファラーシャ、約束を!」
 その言葉に反応したファラーシャは、二人の隙を伺って仕掛けてきたドロミットの剣を神器の弓で受け止め、特殊民族の剛腕で振り払う。
「ちっ……!」
 ドロミットもセルセラの暴挙には驚いたが、敵である彼女にとってこれは好機。動揺する勇者たちの隙を衝くはずの一撃は、あっさりと防がれてしまった。
 タルテはその間にドロミットの背後に回り、ファラーシャと二人で魔王を追い詰める。
「もうあなたの好きにはさせませんよ」

 ◆◆◆◆◆

 セルセラの亡骸を抱きながら、レイルはただただ心を凍り付かせていた。先程は魔王にいいように動かされていた体が、今は少しも動かせない。
 また。
 また、救えなかった。傷つけるだけ傷つけて。何もできず終わった。
 悲しみも謝罪も零れない。零せない。
 全ては自分のせいなのだ。一体何を言えるというのだろう。
 かつて、主を喪った日のことを思い出す。
 あの時はレイルが自らの手にかけた訳ではない。
 けれど聖騎士であったはずのレイルは、主君を――聖女と呼ばれていた少女を、守ることができなかった。
 魔王の呪いで体が作り変えられる激痛に彼が耐えているうちに、主は聖女として、国を救うために己の命を捧げてしまった。
 レイルは守れなかったのだ。
 かつても、そして今も。
「セルセラ……」
 少女の名を呆然と呼ぶしかできない。
 たった一日程度しか顔を合わせていない相手なのに、喪失感が強く響く。
 と、その時。
 セルセラの胸元、服の内側に提げていたらしい首飾りが、きらりと強い輝きを放った。
 光に目を焼かれまいと反射的に目を瞑ったレイルの耳に、恨みがましい声が届く。
「……あー、くそ。いてて、思いっきり刺しやがってこのバカが……」
「セルセラ!?」
 ぎょっとするレイルの腕の中で、一瞬前まで死体だったはずの少女は平然と動き出した。
 血の気の引いた肌は色づき始め、唇は皮肉な笑みを浮かべ、よろめきながらも自らの脚で立ち上がる。
 よろめいた原因は、胸に刺さっていたレイルの剣だ。
 魔導で傷を治しながらその刃を引き抜けば、斬られて血に染まった衣装以外は、全てすっかり元通り。
「――」
 当然のように復活したセルセラの姿に、レイルは今度こそ驚き過ぎて声も出せず、先程とは別の意味で固まっている。
「無事なのか! セルセラ!」
「どうせそうなると思っていたんですよ、“天上の巫女姫”」
 ファラーシャとタルテは油断なくドロミットの相手をしながらも、セルセラの復活を目にしてようやく安堵する。

「訳がわからねえって顔してるな、レイル。お前だって、“生贄術師”って言葉ぐらい知ってるだろ?」

「生贄術師……つまり“聖女”……!!」

 レイルのかつての主と同じ存在。

 生贄術とは、文字通り生贄として血肉、あるいは髪や爪などでもいい、自らの肉体の一部を供物として捧げて神に奇跡を乞う魔導だ。
 生贄術師は、特に神によって選ばれた素質ある者しかなれない。
 魔導の一種ではあるが独特の才能が物を言うため、生贄術を用いる存在は魔導士というより巫女として扱われる。
 命を削って人々を救う生贄術師の姿に、いつしか人々はその存在を“聖女”と呼んで敬うようになった。

「地上で生まれ天界で育った“天上の巫女姫”こと“茨の魔女セルセラ”は、世界で一番の魔導士・紅焔の弟子にして世界で二番目に強い魔導士。そして――世界最強の生贄術師、すなわち“聖女”」

 タルテが自分の知っているセルセラの素性を改めて口にする。このことを知っていたから、タルテはセルセラがレイルの剣にその身を晒した時にもあまり心配はしていなかった。
「なんか凄い人なんだな、セルセラって」
 もともとその話を知らなかったファラーシャは、ふむふむと感心した素振りだが恐らく今もよくわかっていない。
 そして。
「自分で自分を生き返らせる……って、反則じゃないの? それ」
「反則技の一つや二つ使って何が悪い? 紳士的で公平で平等な戦いは嫌いなんだろ?」
 端麗な面差しだが口をへのじに曲げて複雑な顔をするドロミットに、セルセラは先程のタルテとのやりとりを投げ返す。
 そしていまだに固まっていたレイルの腕に自分の血に染まった剣を押し付け返すと、三人にさっさと動けと言わんばかりに威勢良い号令をかけた。

「最高の魔導士は他人はもちろん、自分の生死すらも操れるのさ! さぁ、反撃の時間だ! とっとと魔王を倒して終わらせるぞ!」

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