たろうたち
概要
一般名詞としての太郎太刀、次郎太刀
「太郎太刀」とはもともと「所蔵刀のうち、最大または最良の太刀」のことを指すらしい。
(『日本刀大百科事典』で「太郎太刀」を調べる場合はこの説明しか出てこないので、「真柄父子の太刀」という項目を調べることになる)
固有名詞ではなく一般名詞からの通称である以上、「刀剣乱舞」の「太郎太刀」「次郎太刀」やその大元の真柄直隆、真柄隆基所有の刀を調べる際は、そのように元所有者や現在の所蔵元などの名を関して話を始める必要がある。
真柄父子の太刀に関する記述(『信長記』)
北国一の豪傑、朝倉義景の臣・真柄直隆(真柄十郎左衛門)所持の大太刀が「太郎太刀」。
その子・真柄隆基(真柄十郎三郎)所持の大太刀が「次郎太刀」と呼ばれる。
父子とも元亀元年(1570)6月28日、姉川の戦いにおいて、徳川方に討たれた。
真柄直隆(真柄十郎左衛門)の太刀は五尺三寸(約160.6センチ)、
真柄隆基(真柄十郎三郎)の太刀は四尺七寸(約142.4センチ)ともいう。
『日本歴史文庫 〔4〕』
(『信長記』収録)
著者:黒川真道 編 発行年:1911、1912年(明治44、45) 出版社:集文館
目次:巻第三
ページ数:229~233 コマ数:123~125
熱田神宮の真柄直隆(十郎左衛門)、真柄隆基(十郎三郎)佩刀
『熱田叢書 第1』(データ送信)
著者:加藤新造 編 発行年:1913年(大正2) 出版者:尚友堂書店
ページ数:57 コマ数:31
『武将と名刀』(データ送信)
著者:佐藤寒山 発行年:1964年(昭和39) 出版者:人物往来社
目次:青木一重と青木兼元の刀
ページ数:97~101 コマ数:53~55
『尾張名所図会 上』(データ送信)
著者:岡田啓, 野口道直 共著, 小田切春江 画 発行年:1970年(昭和45)
出版者:愛知県郷土資料刊行会
目次:卷三
ページ数:345 コマ数:200
文書としてどのように語られていったか確認するために書籍名を一応挙げてみたが、熱田神宮の刀に関しては熱田神宮のサイトを直接確認してもらった方がよいと思われます。
白山比咩神社の真柄直隆(真柄十郎左衛門)佩刀
加賀の白山比咩神社にも、真柄直隆佩刀と伝えられる大太刀がある。
刃長六尺一寸五分(約186.35センチ)、総長八尺四寸八分(約257センチ)、棒樋をかく。
刃文は五の目乱れ(『日本刀大百科事典』)
加州の「行光」在銘。
(相州行光と混同されている場合があるが別の刀工。下記に紹介する『大日本刀剣史』などで解説されている。)
『英雄と佩刀』
著者:羽皐隠史 発行年:1912(大正1) 出版者:崇山房
目次:真柄の大太刀
ページ数:78~81 コマ数:51、52
『大日本刀剣史 中巻』(データ送信)
著者:原田道寛 発行年:1940年(昭和15) 出版者:春秋社
目次:北國の猛將眞柄の豪刀太郞太刀次郞太刀
ページ数:323~328 コマ数:171~174
前田利常が付けさせた金具には、
「寛永五戊辰暦十一月吉日 加州金沢住後藤才次郎吉定」
と銘がある。
(この金具の銘文、下記の資料と少しずつ内容が違うのでご確認ください)
『日本装剣金工史』
著者:桑原羊次郎 発行年:1941年(昭和16) 出版者:荻原星文館
目次:加賀派
ページ数:526 コマ数:280
『加能郷土辞彙』
著者:日置謙 編 発行年:1942年(昭和17) 出版者: 金沢文化協会
目次:ゴトウヨシサダ 後藤吉定
ページ数:312 コマ数:161
伝来?(『日本刀大百科事典』)
文亀(1501)のころ、越前に大力の士がいた。
備前長船に行って、祐定に長さ五尺三寸(約160.6センチ)、幅二寸三分(約7.0センチ)、重ね五分五厘(約1.7センチ)の大太刀を注文した。
祐定は祐清・祐包と協力して打ち上げた。
試し斬りしたところ、四つ胴を落とした。
それがのち真柄十郎左衛門の佩刀になった。
十郎左衛門討死後、刀身は行方不明になったが、鞘だけは九鬼家に伝来し、寛政(1789)ごろは同家にあった。
この話の出典を『日本刀大百科事典』では『刀剣会誌』としているが、同時に酔剣先生自身はこの話を信じがたいとしている。
真柄隆基(真柄十郎三郎)所有の槍とか(『日本刀大百科事典』)
『日本刀大百科事典』によれば真柄隆基(十郎三郎)所持の槍があったという。
三角穂で長さ一尺二寸(約36.4センチ)、幅一寸四分五厘(約4.4センチ)、
中心に「真柄十郎三郎直基造之 永禄七年八月日」とあり、
羽州庄内藩士の家に伝来していた。
これも出典は『刀剣会誌』となっているが、直接は確認しにくい。
そもそも真柄氏の物語とは
真柄氏は朝倉氏の家臣として、講談や軍記物に北国の豪傑としてしばしば登場するとされる。
姉川の戦いで真柄直隆、弟の真柄直澄、息子の真柄隆基ともども討ち死にしている。
姉川の戦いのエピソードが軍記物などで知られる一方、直隆と弟の直澄が同一人物とする説がある、真柄氏を討ち取ったとされる人物も青木一重、向坂式部ら兄弟など複数伝わっているなど、真柄氏そのものの調査に注意が必要。
太郎太刀、次郎太刀と呼ばれる「真柄父子の太刀」は、そのように通称される刀がいくつか伝来こそしているものの、どちらかと言えば「真柄父子の太刀」という物語に登場する刀を熱田神宮の二振りに比定しているようなものの見方ではないだろうか。
(伝来先が所有者の子孫ではないので、実際の真柄父子の事蹟そのものが不透明だったり軍記物の記述の信用性の問題はあるが、熱田神宮側では二振りの太刀は真柄氏所有の刀だったとして丁重に扱っている、という話)
真柄氏の刀たちは
上記のまとめも他の刀に比べてわりと情報が錯綜してしまった感がある。
もともと「太郎太刀」「次郎太刀」の呼称は一般名詞で、真柄父子の太刀そのものには号と言えるものが存在せず今でもこのような呼び方は通称・愛称扱いである。通称が号という考え方もあるにはあるが。
熱田神宮のサイトなどでも普通に使われている呼び方なので、ある程度通用はするのだが、どこでも通用するような固有名詞というわけでもないことを念頭に置いたほうがいいと思われる。
熱田神宮の刀の話をしたいときは熱田神宮の、軍記に登場する記述の話をしたいときはその軍記名のタイトルを関して話し始めたほうが話が通じやすいだろう。
さらに、現在熱田神宮で「太郎太刀」とされている刀は「青江派(無銘だが追銘に末之青江とある)」、「次郎太刀」とされている刀は「千代鶴国安」作となっているのだが、大正・昭和前期の刀剣書によると『新武者物語』『明智軍記』あたりでは「太郎太刀」が「千代鶴」作となっている話がどうやら有名なようである。
そしてその大正・昭和前期辺りの刀剣書では熱田神宮の刀はほとんど話題に出ず、「真柄父子の太刀」と言えば白山比咩神社の刀の方が有名だった節がある。
刀の研究史は一振り一振り別々に出したかったのだが、太郎太刀と次郎太刀の場合はこのような形で真柄父子の伝承を主体に考えた場合どちらがどちらとも切り離しがたかったので、太郎太刀と次郎太刀に関しては例外的に同じ記述を載せることにする。
調査所感
研究史の整理が難しい兄弟。
太郎と次郎に関しては記述を別々にすると情報の脱落の方が大きそうなんで、もういっそ同じ文面を載せています。
・そもそも太郎太刀・次郎太刀という呼称は一般名詞
他の刀も該当の記述自体では現在の号で呼ばれていないという例はよくありますが、太郎次郎はそれに加えてこの、そもそも固有名詞ではないという問題があるのでこの名でよばれていない軍記などがおそらくごろごろしていると思われます。
・刃長や刀工など真柄父子の太刀に関する記述は『信長記』『明智軍記』『三州志』『四戦紀聞』など資料(物語?)によってばらばら。
刃長は資料によってばらばら。総長で書かれているらしきものもある。
刀工に関しては太郎さんも千代鶴作になっているものがあります。
そもそも軍記系の細かい情報は信憑性が怪しかったり、討ち取った人も資料によって違ったり、現在真柄太刀として伝来している刀とサイズが合わなかったりします。
そのため非常に見解が統一しがたいです。
・一昔前は白山比咩神社の真柄太刀の方が有名?
『英雄と佩刀』とか『大日本刀剣史』にはそもそも熱田神宮の刀の話が出てこないので、その頃は今我々が太郎太刀・次郎太刀と認識している熱田神宮の刀はまだ斯界にも知られていなかったのかもしれません。
『日本刀大百科事典』の方でも熱田神宮にも真柄父子の刀と伝えられる太刀があるという一文しかないような扱いです。
どうも戦後を境に熱田神宮の刀が有名になったような評判の推移を感じます。
・最近の概説書の記述の信用性も微妙
真柄父子の太刀は概説書にも結構載っていますが、出典やその記述の検討なくこれこれこういう刀だと断言しているものやサイトがあるので信頼性は微妙なところです。
その内容から軍記物の記述を参照していると思われますが、本によってこれだけばらつきがあって研究者もどれが真実と断言できかねる程度の情報しかないのであまり一冊の記述を信用しすぎないほうがいいと思います。
(というか現代の概説書やサイトはなんでこんなに記述がばらばらなのか? そもそも真柄氏が直隆なのか直澄なのかその息子の名前は隆基か直元かそもそも同一人物かの根本的なチェックから大変です)
全体的に元主の情報含めて安定してこれが確定、と言える情報がほとんどなく、まさに実在の刀に真偽の曖昧な伝説が載っている例だと思われます。
『英雄と佩刀』や『大日本刀剣史』を参考にいくつかの資料の記述を簡単にまとめてみます。
(ざっくり流し読みで間違っている可能性もあるので詳しく知りたい方は直接出典をあたってください)
『信長記』
真柄直隆の刀 五尺三寸の大太刀
真柄隆基の刀 四尺七寸
真柄直隆を討ったのは匂坂式部・六郎五郎
真柄隆基を討ったのは青木一重
『浅井三代記』
真柄直隆の刀 五尺三寸の大太刀
真柄隆基の刀 四尺七寸
真柄直隆を討ったのは匂坂式部・六郎五郎
真柄隆基を討ったのは青木一重
『四戦紀聞』
真柄直隆の刀 五尺三寸の利刀
真柄隆基の刀 四尺三寸
真柄直隆を討ったのは匂坂式部・六郎五郎
此時の大太刀を敦賀群気比の宮に納むといへりとある
真柄隆基を討ったのは青木一重
『新武者物語』(『大日本刀剣史』の孫引き)
太郎太刀 七尺八寸
次郎太刀 六尺五寸
刀工は両方とも越前の千代鶴
『三州志』
白山比咩神社のものを基準に話している
太郎太刀 九尺
刀工 相州行光
(『大日本刀剣史』でこれはありえないとして否定され、作者も加州の藤島行光だろうと訂正されている)
『三州志』が引いている『拾纂雑録』の記述
真柄直隆の刀 五尺五寸の大刀
参考サイト
「剣の宝庫 草薙館」の開館に向けて 福井款彦
第四回 真柄の大太刀
熱田神宮が「剣の宝庫 草薙館」のWEBサイトに社報の一部を掲載している。
参考文献
『三州志 〔第3〕 〔ケンコウ〕余考 巻之1−9』
著者:富田景周 編 発行年:1884年(明治17) 出版社:益智館
目次:巻之七
コマ数:156
『真柄十郎左衛門』
著者:桃川燕林 講演, 今村次郎 速記 発行年:1896年(明治29) 出版社:大川屋
目次:第五十四席
コマ数:70
『日本歴史文庫 〔2〕』
(『四戦紀聞』収録)
著者:黒川真道 編 発行年:1911、1912年(明治44、45) 出版社:集文館
目次:江州姉川戦記
ページ数:17、18 コマ数:15、16
『日本歴史文庫 〔4〕』
(『信長記』収録)
著者:黒川真道 編 発行年:1911、1912年(明治44、45) 出版社:集文館
目次:巻第三
ページ数:229~233 コマ数:123~125
『英雄と佩刀』
著者:羽皐隠史 発行年:1912(大正1) 出版者:崇山房
目次:真柄の大太刀
ページ数:78~81 コマ数:51、52
『熱田叢書 第1』(データ送信)
著者:加藤新造 編 発行年:1913年(大正2) 出版者:尚友堂書店
ページ数:57 コマ数:31
『史籍集覧 第6冊 第6冊 通記類(3版 大正8) 第27 浅井三代記,第28 朝倉始末記,第29 太閤記(小瀬道喜) 改定』
著者:近藤瓶城 編 発行年:1919年(大正8) 出版社:近藤出版部
目次:通記第二十七 淺井三代記
ページ数:233~235 コマ数:122、123
『大日本刀剣史 中巻』(データ送信)
著者:原田道寛 発行年:1940年(昭和15) 出版者:春秋社
目次:北國の猛將眞柄の豪刀太郞太刀次郞太刀
ページ数:323~328 コマ数:171~174
(『大日本刀剣史』はデジコレに2冊あるのでご注意)
『日本装剣金工史』
著者:桑原羊次郎 発行年:1941年(昭和16) 出版者:荻原星文館
目次:加賀派
ページ数:526 コマ数:280
『加能郷土辞彙』
著者:日置謙 編 発行年:1942年(昭和17) 出版者: 金沢文化協会
目次:ゴトウヨシサダ 後藤吉定
ページ数:312 コマ数:161
『近世物語文学 第3巻 (真書太閤記 上)』(データ送信)
発行年:1960年(昭和35) 出版者:雄山閣出版
目次:第七編 姉川の戰
ページ数:162、163 コマ数:89
『武将と名刀』(データ送信)
著者:佐藤寒山 発行年:1964年(昭和39) 出版者:人物往来社
目次:青木一重と青木兼元の刀
ページ数:97~101 コマ数:53~55
『熱田神宮とその周辺』(データ送信)
著者:田中善一 発行年:1968年(昭和43) 出版者:名古屋郷土文化会
目次:熱田神宮の宝物
ページ数:165、166 コマ数:96、97
『加賀志徴 上編』(データ送信)
著者:森田平次 著 発行年:1969年(昭和44) 出版者:石川県図書館協会
目次:卷五 能美郡
ページ数:250 コマ数:145
『日曜随筆集 第8巻』(データ送信)
著者:福嶋悠峰 発行年:1970年(昭和45) 出版者:下野新聞社
目次:真柄の太郎太刀
ページ数:302~308 コマ数:159~162
『尾張名所図会 上』(データ送信)
著者:岡田啓, 野口道直 共著, 小田切春江 画 発行年:1970年(昭和45)
出版者:愛知県郷土資料刊行会
目次:卷三
ページ数:345 コマ数:200
『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:まがらふしのたち【真柄父子の太刀】 ページ数:5巻P69
概説書
『剣技・剣術三 名刀伝』(紙本)
著者:牧秀彦 発行年:2002年(平成14) 出版者:新紀元社
目次:第三章 戦国武将 太郎太刀・次郎太刀 真柄父子
ページ数:156~159
『名刀伝説』(紙本)
著者:牧秀彦 発行年:2004年(平成16) 出版者:新紀元社
目次:第二章 中世・戦国 太郎太刀・次郎太刀――真柄十郎座衛門・十蔵父子――
ページ数:94~97
『図解日本刀 英姿颯爽日本刀の来歴』(紙本)
著者:東由士 編 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:古今東西天下の名刀 真柄太刀
ページ数:74
『刀剣目録』(紙本)
著者:小和田康経 発行年:2015年(平成27) 出版者:新紀元社
目次:≪第三章 南北朝・室町時代≫ 備中国青江 太郎太刀
ページ数:301
『物語で読む日本の刀剣150』(紙本)
著者:かゆみ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第4章 大太刀 太郎太刀 ページ数:98、99
『刀剣物語』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:名刀の逸話 太郎太刀 ページ数:226、227
『刀剣説話』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2020年(令和2) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
(『刀剣物語』発行年:2015年を加筆修正して新たに発行しなおしたもの)
目次:神仏・霊力にまつわる名刀 太郎太刀 ページ数:94、95
『刀剣聖地めぐり』(紙本)
発行年:2016年(平成28) 出版者:一迅社
目次:太郎太刀 ページ数:43