毒薬試飲会 005

4.アセトシアンヒドリン

008

 よぉ。久しぶりだなァ。ん?
「あんた、帰ってこなくてもよかったのに。あんたくると面倒なのよねー」
 うっわ、ヒデえの。別にオレはお前の邪魔なんてしてねェよ?
 そぉだろ? オレに邪魔された事なんてあったかぁ? オレの本職は案内人。お前はそうじゃねぇの?
「あたしの本職は情報屋。あんただって知ってるでしょ?」
 嘘だぁ~。チャイナストリートを仕切ってる女のくせによぉ。お前ってもともとチャイナ行ったことあったっけかぁ? オレ、ねえけど。
「違うけど。でもチャイナ好きなのよねー。あの混沌としたカンジが。まぁ、いいわ。……それにしてもー、変わったわね。今度はどんな趣味なの? ソレ」
 え? アイボリーヘアっていいと思ったんだけどなぁ? 似合ってないか?
「いや、アンタにしては、地味ね。前にココにいたときは真っ赤な髪してたわよね。目の色がぁー、何だったけ? そうそうドきついピンク! 赤系統の色で驚いたわァ」
 あー、アレな。すぐに飽きたんだよなァ。ハデな組み合わせはパッとしておもしれぇんだけど、飽きんのがなぁ……。適当に作ったほうが長持ちすんだよ、自分の気がさぁー。
「へぇ。そんなもん? あたし髪の色とか変えようと思ったことないからわかんないわ」
 最初からそんなドきつい印象だったら、誰だってかえねーよ。
「こんな髪うじゃうじゃいるじゃない。ただの緑よ」
 名前を連想させんだよ、その髪の色。あとテメーの人間じゃないって思わせる肌の色な。
「失礼よ、あんた。ぶっ殺すわよ」
 へー、殺せんの? オレのこと。あんたがぁ?
「殺せるわよ? でもアンタいるといろいろ面白いからねぇ。さぁて、ココでお茶するからには、持ってきてんでしょうね? 私の大好物」
 ああ、モチロン。そのために早めにこっちに来たんだからな。
「じゃ、いつものように、商売といきましょうか、チェシャ猫」
 ああ、イモムシ。

 「毒薬試飲会」

 4.アセトシアンヒドリン

 外部から来た人間はだいたいゲートを通って階層間を移動する。それが一番簡単だと思っているからだ。
 しかし、住人はそんなことしない。住人が階層間を移動することはない。金を取られるし、移動することは住処を変える事だからだ。
 慣れというのは人間を安楽に導くもの。欲に駆られ、楽をしたい人間が集まるこの街で刺激を求める人間は別に、階層を移動はしない。
 階層の移動は常に危険が伴う。階層と階層の間には移動民狩りと呼ばれるものが存在する。移動するものを名前の通り狩ってしまう。運がよければ命だけは助かるが、まぁ、だいたいは階層間をうまく移動できなくて落下して死ぬ。
 そう、ゲートを通らない階層移動は安全なことなんてあると思うほうが間違いだ。階層の外壁を登る。もしくは階層を挟んで立つ建物の内部を通るのが一般的だ。
 建物は所有者以外は使えないので、だいたいは外壁越えをするものだが、移動最中に狙われる、ということでめったに階層移動しないのが普通だ。
 危険を冒してまで楽じゃない生活を誰が望むだろうか? そういう意味で階層を安全に抜けられる案内人は貴重な存在でもある。公的、いや、観光客をカモにするための一般エレベーターを使う場合も合えれば、様々なコネをもって内部エレベーターを使ったり、安全な外壁越えを行う案内人は少ない。
「あの、フェイさん。本当に案内人、いらないんスか?」
「必要ない。逆にいると足手まとい。……それともお前、チャシャ猫に頼むか? もう許したのか?」
「いや、そういうワケじゃないんすけど……俺、階層越え初めてなんで」
「そうか、初めてか。階層降りるのは簡単なんだが登るのはキツイかもな」
「えぇ??」
 だってこの特別な環境を支えている階層の基本となる外壁だ。厚く、高い。大きさも世界一と聞いている。ソレを昇るなんて階層越えとは本当にそんなことをするのかと驚いた。フェイは当たり前のようだった。
「大丈夫。俺がサポートする。それに少し前にシェロウのヤツも行ってんだ。心配することは何もない。俺達は不本意ながらも第四階層のゲームをクリアした実力は持っているわけだし、な」
 フェイはそう言った。しかし、キツイのは本当らしく肌身離さず持てるもの以外は持ってくるな、と言われていた。アランはソレを聞いて、エーシャナのブレスレットだけを持っていくことにした。
「じゃ、もう準備はいいな。一回登ったら、もうすごい後じゃないと降りる気にはならないぞ」
 フェイはそう言って笑った。アランは大丈夫、と頷いた。
「なら、行くぞ」
 いきなり、フェイはそう言った。
「え? ここ町の中心ですよ? 外壁登りするんでしょう?」
「馬鹿。わざわざ全部外壁上る必要がどこにあるんだよ。外壁を本当に山登りみたいに登ると思ってたのか? 何のために変なビルが立ち並んでると思ってるんだよ。これを利用していくんだよ。ついて来い」
 フェイはそう言って、スッと飛び上がった。そしてもうビル三階くらいの窓の手すりに足をかけ、さらに上へ上へと駆け上っていく。
 アランは跳躍が苦手なのでフェイより低く段を取り、それでもフェイの真似をしてビルを駆け上るという生まれて初めての経験をした。必死でついていったが、フェイはそのばか高いビルの屋上でアランを待っていた。
「遅いぞ。今日の昼までに着かないじゃないか」
「すいません」
「次はあの建物だ。これみたいに窓枠ないから、要領よくやんないと落ちて死ぬぞ。お前、初めてって言ってたからあの階と階の間のつなぎ目利用して登れ」
 顎でしゃくって当然できるよな? みたいに言われた。頷く間もなくフェイはひょいひょい登っていく。本当に拳一個ほどの大きさの飾りに足場を定めて要領よく跳んでいく。
 アランは覚悟を決めて飛び上がった。下は考えないようにした。ゲームで小さな足場を目標に敵に斬りかかる状況を何度も行うと考えるようにした。フェイから何分遅れたのか、フェイはすっかり待ちぼうけのようだった。
「下、見てみろ」
「……何も見えませんけど?」
「だろう。そこまで登ってきた。でもここはまだ半分くらいだな。お前が楽しみにしている外壁登りはあと半分の距離上に行かないとだめだな」
「あの、俺、楽しみにはしてないんスけど……」
 フェイはアランの言葉を聞かず、銃を構えて突然発砲した。危機を感じて足を振り回すといつものような衝撃が訪れた。
「案外早かったな。もうちょと上で待ち構えていると思っていたんだけどなぁ」
 感心するようにフェイは呟いた。これが噂に聞く狩りか。
「お前ら狩りだろ? 死なないうちに逃げ出せ」
 フェイは言って、アランに殺していいぞと言った。
「え? いきなり殺すってぇ!?」
「いつも通りににしてたら勝手に死ぬか逃げるかするから」
 フェイはそう言った。手を出す気がないらしいので飛び掛ってきたヤツの鳩尾に拳を叩き込む。避けられると思っていたらそれがクリーンヒット! 相手は悲鳴を伸ばしながら超高層ビルの屋上から落下する。
「へ?」
「てめ!」
 二番目のヤツも回し蹴りを放つとそれがやばいくらいに決まってまたもや落下する。ソレをみて残りの奴らは散っていく。わけがわからない。
「言っただろう? 俺達はランク4をクリアしたんだって。ランク4をクリアってことは第三階層に行けるって事なんだよ。第四階層に敵はいないな」
「……それって俺が強くなったってことっすか?」
「そうだろうね」
 フェイはそこで初めて笑った。その後も高層ビルをまるで階段のように使いどんどん高度を上げていく。すると上を灰色が埋めつくすようになった。上をしゃくり、フェイが言う。
「見えたな。あれが第三階層だ。出るぞ。さすがに地盤は外壁を越えないと」
 フェイは今度はビルの屋上を横に跳ぶように移動する。そうしてとあるビルの上に立つと上を眺めた。そこは巨大な黒く、先が見えない穴が開いているように見えた。
「本当に本当の外壁には出れない。砂がすごくて目が開けられないからな。これはある会社がもうけのためにエレベーターを作ろうとして、失敗した名残だといわれている。こういう穴は各階層結構ある。それでも崩れないからほんとうにココの技術はすごいんだろうな」
 その通りだ。面積は少ない。では上に上に建てていけばいい。そうして出来上がったあまりに巨大で不恰好な快楽の土地。外から見ると巨体な灰色の柱と円しか見えないらしい。この中を普通の土地のような感覚で階層が5つ存在し、それぞれに何故落ちないのか、崩れないのか不思議なほどの量のビルが建ち、人が暮らしている。
「ここは俺が知っている中では狩場としてはあまり使われないところだ。でもいないわけじゃない。そしてここは本当に階層を跨ぐ場所。第三階層のやつらもいる。油断はするな。殺すつもりでいく。俺の後を今度は遅れずについてこれるな?」
「は、はい」
「じゃ、行くぞ」
 フェイはそう言うと、跳んだ。アランも続く。すぐに視界が真っ暗になる。足をどこに置けばいいのかわからなくなる。
「ぼけっとするな。落ちて死にたいのか?」
「目が、慣れなくて……」
「あほか。ちゃんと慣らせ。見えなくちゃ、何も見えないぞ。当たり前だけどな」
 フェイが見かねて声を掛けてくれた。ようやく目が慣れてきて慌てて落下しかけている体を引き止めるために地盤階層のコンクリ片を蹴り上げた。
「お! 客だぁ」
 男の声がした方をフェイが迷わず、隙を与えず撃つ! ぎゃっと短い悲鳴が響いた。
「一気に通り抜ける」
 フェイが短く警告して、スピードを上げる。そんなにヤバイのだろうか? アランはフェイについていくので精一杯だった。ダン、ダンとフェイの銃が火を吹く。
「調子に乗りやがって、下にしか住めねぇやつがぁ!!」
 フェイはその言葉に反応してもやらない。その男に向けられるのは冷たい銃口のみだ。しばらくしてその声も聞こえなくなった。フェイはスピードをやっと落としてくれる。
「もう、平気なんすか?」
「ああ。ああいった連中はワナを張るのがうまい。相手をすると、絶対に掴まる。相手をせずに逃げ切るのが一番だ。それと、ここは地盤だ。登るには足場があっていいが、落ちるときは足場はない。抵抗に使える場所がないんだ」
 周りは同じようなコンクリのみ。大丈夫そうに見えるが……?
「全て同じに造られているから、足場に使うには不向きだ。落ちたときは自分の自由にはならない、だから下手に使うと怪我をする。それこそ足一本潰れるような悲惨なヤツをな」
 位置エネルギーは使いにくいエネルギーではあるがかなりのエネルギーを持っている。すでに階層を越えるということはかなりの高度を登ってきたのだ。ココで落ちたら遺体は原型を留めてはいない。というか遺体があるかどうかも怪しい。
「ま、よくついてこれたな。第三階層だ」
 突然眩しくなる。目が眩んだ。しかし、次の瞬間には足に確かな感触があった。目を開いてみると、そこは地面があった。大きな穴から出てきたようだ。こんなところに唐突に穴があって落ちる人はいないのだろうか。
「Welcome to the third social stratum……(ようこそ、第三階層へ)」
 穴の傍にいた男が感動も無さそうに言った。
「失せろ」
 フェイが男に怒鳴る。
「ちぇ、なんだい。経験者連れかい」
 男はそう言ってフェイのことを見なくなった。
「ここを離れるぞ。カモられるからな」

 第三階層と第四階層の違いを述べろって言われたら全然違うってことはない。似てる。でも少しずつ違って、雰囲気が違う。なんか第四階層よりマトモだけどその中に危険が迫っているカンジ。緊張感があるんじゃなくて、いつ死んでもおかしくないような……。
 第四階層は銃撃戦なんて日常茶飯事だったし、いつ死んでもおかしくはない。同じおかしさでも質が違うっていうのかね? 殺しのレベルが上っているっていうのかな。そんな感じ。
「まず、手続済ませよう。ここではな、同じ場所に同じものがあるって確証が明日にはないんだ」
 そう言われてもピンとこない。ここではそんなこと当たり前じゃないのか?
「第三階層でマトモな場所はチャイナストリートだけだ。それ以外に安全な場所なんてない。第二階層に行くともっと落ち着くんだけど、さすが、真ん中の階層だけはあるよ。ここが一番混沌だな」
 フェイが笑った。フェイは第二階層までいったことがあるのか。道理で階層登りも手馴れているはずだ。
 待てよ、フェイは元スレイヴァントということは、このゲームのランク2に上り詰めた事があるって事なのか! 単純にすごい。どおりで強いわけだ。
「あ、見えたな。アレが第三階層中央ゲーム場、コロッセウムだ」
 イタリアの古代ローマに未だ建つという人類一番初めのの残虐な娯楽場だ。それに似せて作ってあるわけではない。その名前を勝手にもらったらしく、そう呼ばれているだけだ。
 コロッセウムの窓口に行き、登録ナンバーを告げる。電子音声が確認を告げ、手続を行う。
「では他に変更点はございませんか?」
「ある。ペアを変更する」
「変更人員はお決まりですか?」
「まだだ」
「では変更期限は本日より20日後でございます。それ以降までにペア変更手続をなさらないと無効になります。また、変更手続を延長したい場合は特定口座に指定された金額を振り込みしていただくか、現在のペアとゲームを行っていただく場合、二通りがございますのでお選びください」
「わかった」
「では、これで案内は終了になります。他に何かございますか?」
「ない」
「では、生きた女神の口づけを」
 電子音声はそう言ってプツンと切れた。フェイはそれを聞いてアランを促した。
「お前も戦う前にランク3を見たほうがいい。ランク3の強さは下から上まで幅広い。学ぶ事はある」
 受付と別の扉に入っていく。鼓膜を麻痺させるかのような騒音。息がつまりそうなほどの観客の数。入った時にはすでに誰かのゲームが行われていた。アランは右手を差し出して青い画面を見やる。
 自分がゲームに参加する前の興奮が思い出される。フェイと出会う前までは何度もこうして足を運んで、ただ見るだけだった。
 ドーミネーターが禁術を使ったのだろう。そちらのドーミネーターの体が巨大化する。こんな禁術もランク3では使えるらしい。そしてその後、そちらのペアに賭ける金額の棒グラフがぐんぐん伸びていく。
 相手のドーミネーターはライフルを召喚。一瞬の後に巨人のスレイヴァントが撃たれる。大きなブーイングが起こる。しかし、この程度で終るランク3のゲームではない。ランク4に比べて圧倒的にゲーム時間が長い。致命傷、一発で終わるという事がないのだ。だからこそドーミネーターの禁術の攻撃が勝負の鍵を握っている。
 ……こんなゲーム、俺、フェイさんなしで勝っていけるのか?
 当然の疑問が浮かぶ。やはりフェイさんと別れたくはない。改めて思う。フェイは表情を変えずにゲームを見ている。その横顔を見つめていたらいつの間にかゲームは終っていた。
「どうだった?」
「なんかレベル違うっていうの、わかる気がします」
「ははっ。お前もあん中で戦うんだぞ? さ、お前の次のペア探すか」
「え? もう、ですか? ……あてがあるんすか??」
 アランは心の準備が出来ていなくて焦った。できれば見つからなければいい。20日経てば、フェイさんとゲームができるかもしれないのだ。
「言っただろ? ここではあるものがなくなるんだ。やることは早めにな」
「……はい」
 うなだれてアランがフェイについていく。その様子に気付きながら気付いていない振りでフェイは第三階層を歩く。この前、ここを歩いた時のことをできるだけ思い出さないようにしながら。

「わー! すごい賑わいっすね」
 驚いた。赤や金といった激しい色合いが多いが巨大な門が道の始まりに立っていたり、屋根が重々しかったり、ドラゴンがいたるところにいる。
 コレ、あれだ。みた事ある。……チャイナだ!
「第三階層中心街、チャイナストリートだ」
「なんでチャイナなんですか?」
「さーなー? でも第二階層はジャッポーネアヴェニューがあった。ここの奴らはアジアが好きなんじゃないか? ホラ、第四階層にはインディーストリートあったろ?」
「あー、はい。ありました」
「第三階層には他にも他の国を象った街がある。第三階層で有名で繁盛してるのがチャイナなだけだね」
 女はチャイナの有名衣装、チャイナドレスを激しくしたような服を着ている。呼子の声も何もかも無視してフェイはチャイナストリートの一本外れた通りを早足で通り抜ける。目的の店が決まっているのだろう。きょろきょろしていたらカモのタネだ。
 アランも歩いたことがあるような気をまとって注意深く歩く。ここでは気付かないスリもありふれているからだ。けっこう歩いたところでフェイが足を止めた。さすが大きな街だけあってかなり歩いた。水を飲みたいくらいだ。
「ここだ」
「何の店ですか?」
「情報屋だ」
 フェイはそう言って店に入って行った。アランもそれに続く。
 店は薄暗い。薄いベールが壁や天井から垂れ下がっている。でもそのベールも高級なもののようで触れるととても気持ちいい。光によって色が変わる。かなりの金持ちのようだ。奥に進むに連れなにかの香りがする。フェイが警戒していないところを見ると麻薬の類ではないみたいだ。
「入るぞ」
 フェイは言った。ベールの色が違い、部屋が先ほどまで通った道よりは明るい。中を覗くと真っ赤な絨毯が敷き詰められた部屋に東アジア系(アランはそう思ったが中国の家具である)が在り、奥には天蓋つきのベッドがあった。そのベッドから真っ白な足が伸びている。
「あらー、なつかしい顔ねぇ」
 フェイがベールを勝手に上げて部屋に入る。靴音が立たないほどの高級な絨毯。
「今は」
「わかってるわよぉ。フェイだっけ?」
「……そうだ」
 ベッドから足が二本延び、赤い裾が見えた。フェイの前に姿を現したのは長身の女。異常なほどに白い肌。白すぎてその肌は人間のものと思えず、気味が悪い。淡い緑色の髪は結い上げられている。オレンジの瞳は長いまつげによって影が落ちて、その顔には細長いレンズのモノクルが美しい細工の鎖と繋がっていた。真っ赤な唇は笑みの形を取り、その口から紫煙が吐き出される。
 彼女はどこから続いているのか、キセルの先にコードが繋がったものを嗜んでいた。後から聞いてわかったが水キセルという種類の煙草らしい。
「う」
 アランは赤面した。それよりなにより、そのチャイナドレスだ。首から大胆に胸を露出するデザイン。その露出された胸は乳首の部分だけ細やかな金属装飾で隠されている。胸もろ出しの格好に男なら反応してしまうヤツが多いだろう。しかもその胸、サイズが大きい上、形が綺麗だ。どういうつくりなのか胸だけでなく臍も見えている。極めつけはすばらしい長さとバランスの脚がスリットからすらっと伸びている事だ。本当に情報屋なのか!?
「あら、その坊やはだぁれ?」
「こいつに新しいドーミネーターを探してほしい」
「ふーん。スレイヴァント。どぉして? あんた組んであげないのォ?」
「……俺がここでゲームしたら……きっと」
「そぉねぇ。あたしもチェシャ猫から口止めされてんのよぉ、おかげでいい金逃したわぁ」
「言わなかったのか、有難う」
「まぁねぇ、あんたからもいちおー、頼まれたしね」
 女はそう言って椅子に腰掛けるとその美脚を組んだ。
「坊や、名前は?」
「アラン」
「ふーん。坊やに合うドーミネーター、ねぇ? 難しいわよぉ」
 女は煙を吐いた。
「ま、探しとくわ。で、あんたその後どぉすんの?」
「また、階層を下がるつもりだ」
「その後、また坊やみたいな子作るわけ? あんた、アイツの商売継ぐ気?」
「そんなつもりはない」
 くすくす笑う女に軽くアランは嫉妬を覚える。この女はフェイさんの過去を知っているのだ。
「あー、坊やはこの階層初めてね? 自己紹介しましょ。あたしはイモムシ。このチャイナストリートで一番の情報持ってるって思うわ。用があったらいらっしゃい。あんたに見合う情報、あげましょう」
 イモムシという名前を聞いて、アランは彼女の緑色の髪と白い肌を見てこの色にてるのかなと思った。
「そーそ、チェシャ猫もこっちに上ってきてるわよ。あと、あんたが仲良くしてる最近きたシンガーがこのチャイナストリートの香港地区三番街、タオファにいるわよ」
「そうか。無事に階層を越えたか」
「んー、そうみたい。才能あるみたいね。あのタクト? あいつの兄はこのチャイナストリートのヒュンジャのお抱えらしいしねぇ」
「ああ」
 フェイとイモムシはアランには口を挟めない会話を行い、しばらく話し込んで出て行った。