毒薬試飲会 008

5.鈴蘭 下

017

 君を飾れたら、よかったのに。
 君を、永遠に閉じ込めて、一生私だけのものに、なればよかったのに。
 ――もう、叶わない。

 「毒薬試飲会」

 5.鈴蘭 下

「傷は、もう治ったね」
 ノワールがじっくり入矢の身体を眺めてそう言った。全裸に近い状態だけれど、向こうも治療目的ってわかっていたから恥ずかしいとか、そういう気持ちはなかった。
「じゃ、またゲーム再開か?」
 入矢はなんとなく、そう訊いた。するとノワールが驚いて信じられない目をした。そういうところを見ると本当に自分のことが好きなんだなと思えて入矢はちょっと満足だった。
「まだ、逃げるのかい?」
「なんだ、また監禁するのか?」
「君が、そう……望むなら、ね」
 入矢はそこで目を見開いた。ぞっとした。ノワールの纏う気配が一瞬で変わり、目が、入矢を見る視線が変わっていた。穏やかなノワールからあのときのちょっと普通じゃないノワールに。
 ノワールは入矢の腕を取ってベッドから立ち上がらせると部屋を出て行く。
「ど、どこに……?」
 その声に恐怖が混じっていなかったと言ったら嘘になる。入矢は怖かった。監禁されたのが終わって穏やかなノワールとの生活を体験しただけに、ノワールの良さがわかってしまって。
「逃げるんだろう? また。なら……」
「また、俺を監禁するのか!?」
 ノワールはそこで足を止めて、入矢に尋ねた。
「嫌かい?」
「当たり前だ」
「じゃ、逃げない?」
「……それ、は……」
 入矢はそこで答えられない。そこで、頷けば、あるいは愛を囁けばいいのだ。でも、できない。
「ま、洸にも怒られた事だしね。君も本調子じゃないだろう……私の部屋で構わないね?」
 入矢は黙って頷いた。あの、最後の監禁のされ方だけは嫌だった。あれは怖い。
「そういえば、髪も散発しろって怒られたんだっけ?」
「髪くらい、自分で整えられる」
「そうか」
 ノワールは頷いた。ノワールの雰囲気が穏やかなものに変わって入矢はようやく安心した。
「入矢。でも、治ったんだから首輪くらいはいいよね?」
 穏やかに笑いながらノワールが問うので入矢は嫌な顔をしつつ、問うた。
「お前、そういう趣味あるだろ?」
「ないと思っていたけれど、意外にあったのかもしれないね」
 爽やかに笑われただけに、本心のように思えて入矢は呆れた。なんでこんなヤツに好かれてしまったのか、と。
 ――結局、入矢は部屋に戻って簡単な首輪をつけられた。

 ノワールの屋敷に翹揺亭の者が訪れたのは入矢がらみのこととすぐわかった。入矢の一件からノワールは翹揺亭と接触していない。一応、御狐さまと今後の関係は今までと変わらないと約束はしたものの、はっきり言って関係は絶たれたと考えて間違いなかった。
 翹揺亭、ノワール双方どちらも連絡を取ろうと思わなかったのだ。御狐さまは懐の狭い人間ではないがさすがにノワールから取引を持ちかける気にはなれなかった。だから余計に入矢のことと思った。
「突然の来訪、お許し下さいね」
 ノワールは部下を下がらせ、一人で応対に当たった。ノワールのことを幼少から知り、仕事のいろはもわかってる部下がノワールにはいたため、同室することを望んでくれたが、これはノワールの私事だ。だから、けじめと思ったのだった。
 そう言えば聞いたことはなかったが育ててくれた恩義をあだで返す真似をしたノワールをブルートがいた時代から働いていた部下はどう思っているのだろうか。
 ブルートはノワールから見ても上に立つ人間に思えた。そんなに苦労もかけなかったと思うのだが。なら、自分が部下に暗殺されてもおかしくないな、と表情には出さずノワールは笑った。
「いえ」
 答えは当然短く、固いものとなる。今更入矢を返さないとは言えない状況を作り出した。せめてもの救いは入矢が自殺未遂を図った痕は入矢が言わない限り、ばれないことだけだ。
 入矢は未だにノワールを好きになっていない。入矢を手放すことになってしまうのだろうか。ノワールは諦め切れなかった。
「本日、こちらに伺ったのは我らが主の御狐さまより、今月末に開催される詩の会に入矢とノワール様にご参加いただきたく思いましてそれのご招待に参りました」
 瓜二つの双子。そんなイメージがあるのは御狐さま側近といわれる弥白と弥黒だ。その二人がノワールの前にいる。ノワールに対して右側に座っているのが白い髪をした弥白、左側が黒髪の弥黒というわけだ。
「それは、どういう意味でしょう?」
「ノワール様が思うようなことではありませんよ。この計画は翹揺亭の男娼、娼婦を身請けされた方全員にお誘いしているんです。ですから、ノワール様にもぜひ、と思いまして」
 弥白が穏やかな微笑を浮かべたままそう言った。
「日付けは今月末の土曜日、18時より開催いたします。ご参加くださいますね?」
「予定が合えば」
 ノワールは妥当な答えを述べると弥黒が初めて口を開いた。
「貴方には、契約違反の嫌疑がかかっています。入矢に対しての扱いがひどいと洸や咲哉が申し立てました。よって、こちらはそれが本当かどうか確認しなければなりません。今回の詩の会にご参加くだされば嫌疑も晴れるのではないか、と思いますが。
 もちろん、ご予定が合いませんようでしたら本日我らだけでも入矢と会わせて下されば僭越ながら御狐さまに嫌疑を否定する弁を申し上げさせていただきますが、どうなさいますか?」
 弥黒は用意してきたかのようにすらすらと要求を言ってきた。ノワールが入矢にひどい扱いをしていたのは本当だ。でも、今は違う。それでも会わせられない。会ったら最後、入矢は助けを求めて翹揺亭に帰ってしまう。
「できません。本日はお引取り願えますか?」
「はい。わかりました。では詩の会は参加なされる、ということでよろしいでしょうか?」
「……ええ」
 弥白は構わないと表情で述べ、席を立った。弥黒も同じく席を立つ。
「では、入矢に会えるのを楽しみにしております」
 ノワールは使用人たちに二人を翹揺亭まで送らせ、一人悩んだ。自分に残された時間はあと二週間もない。二週間のうちに入矢に好意を持ってもらえるか? 答えは否。
 この一年以上の時間で入矢がノワールに好意を寄せた時は一度としてない。結果は見えすぎている。絶望的だ。まぁ、すべては自分のせいなのだから仕方ない。
「あと二週間でお別れか……」
 口に出すとその現実を受け止めたくない想いと、自分がしてきた行為に対する当然の報いと囁く声がノワールを苦しめる。
 入矢が来てから自分は変われた。そう、思うからこそ今居なくなられてはノワールの想いはどうすればいのか。
「最後なら……」
 ノワールの目にはある種の決意が滲んでいた。その決意を本当に実行していいのか、悩んでいるからこそ、その黒い瞳は揺れる。
 ノワールは想いを秘めてまた入矢の元に戻った。

 あれからもう、二週間経とうとしている。そろそろ逃げるか、否か自分の中で決めなければいけない。
 もし、逃げないなら一度翹揺亭に戻って洸や御狐さまに自分の気持ちを伝えなくてはいけない。逃げるなら、今しかない。ノワールが気を抜いている今なら容易く逃げることができる。しっかりしなくてはいけない。それによってノワールにも、翹揺亭にも迷惑をかけることになる。
 入矢は自分の気持ちの整理をずっとしてきた。自分の気持ちの変化にも気付いた。
「なぁ、ノワール」
「ん?」
 ノワールがわざわざ今行っている仕事から目を離して入矢の方を向いて話を聞こうとしてくれる。
「あのな、俺を翹揺亭に一回連れて行ってくれないか?」
 ノワールの目が見開かれる。入矢は慌てて言った。
「誤解するな! 俺が言いたいのは……」
 その入矢の言葉を遮ってノワールは入矢を押し倒した。ノワールの目の色が変わっている。入矢はそれを見て、完全に誤解されているとわかった。
「違う! ノワール!! 俺は」
「聞きたくない!」
 入矢はなんとかノワールに聞いてもらおうと暴れる。それを抵抗していると思ったノワールは簡易禁術を発動させる。それによって入矢の両手は頭の上に固定された。入矢の目が恐怖の色を映し、ノワールに叫んだ。
「聞けよ! ノワール」
「もう、終わりなんだ! もう!!」
「何が終わりなんだよ!」
 ノワールの目に映っているのが深い悲しみと知って入矢はひるむ。その間にノワールが入矢の唇に噛み付いた。
「ん!」
 入矢は驚きに目を見開いた。緑色の入矢の瞳がノワールの漆黒に支配される。入矢は腕も自由に動かすことができないので抵抗の意思を示せない。
 ノワールは入矢の頬を両手でしっかり固定して入矢の口を蹂躙し続ける。入矢は最初目を開けて抵抗しようと試みていたが次第に酸素が足りなくなり、目を開けていられなくなる。ノワールが口を離した一瞬の隙に空気を吸い込むが、まるで酸素にも嫉妬したかのようにすぐさまノワールの舌が入矢を責める。
「んん、っふ!う」
 まるで口の中から喰らってやるとでも言わんばかりだ。入矢はノワールの動きに応えることができず、だたノワールのするままに任せる。入矢の舌を咬み切ってやると言うかのようにノワールが入矢の舌を吸い込み、入矢の息がつまる。
 なんとか息継ぎはできたのは一重に翹揺亭の教育の賜物だった。ノワールのキスはキスというよりかは本当に食らいつく感じでノワールの歯が時折入矢の歯とぶつかる。その時だけノワールは思い出したように入矢の舌を開放するが、次の瞬間にはノワールの舌が入矢の口腔内を自由に這い回る。歯列をなぞられ、入矢の舌をこれでもかと言うほど刺激するのだった。
「うむっ! うう!!」
 入矢はこのキスみたいな貪られる行為はいつまで続くんだ、と叫びたかった。いい加減にしてくれないと酸欠で気絶する! 口の中にも性感帯がないわけじゃないのだ。入矢はなんとか堪えるのに必死だ。翹揺亭の寝間作法で性感帯開発をされているので口のかにもいくつか性感帯を持っている入矢は本当に苦労した。
 一応、感じても感じる感覚をコントロールするのが翹揺亭の寝間作法教育。でもネチネチいじられたらキスだけで下半身が反応する。それだけは避けなければ! と入矢が考えているのを知っているかのように、ノワールが下半身の服を脱がし始める。入矢はぎょっとして足を動かし、何とか抵抗を試みた。
「おまっ!」
 文句を言おうとした瞬間にまたキスが再開される。見えもしないのに足だけで抵抗するのは難儀なもので、しばらくした後に下半身に寒気を感じた。下着さえも一緒に脱がされたことを知って入矢は愕然とした!
「げほっ!」
 ノワールの口がやっと離れたので入矢は呼吸を荒く、整えつつ、怒鳴った。
「俺を抱くのか!!?」
「そうだよ? だって君は私のものなんだから、当然だろう?」
「だって、お前、俺が認めた時じゃないとって言ってたじゃないか!!」
「だっていつまで経っても君は了承してはくれないだろう? それにどうせ翹揺亭に帰ってしまうんだ。……私に形式上でも身請けすることを受け入れたんだ。初物くらい捧げてくれてもいいんじゃないか?」
 そう言って冷たい目をしたままのノワールは入矢自身を握りこむ。
「あ! やめ!!」
 入矢が歯を食いしばる。直接攻撃は反則だ。感覚を抑えるのに一苦労する。そんな様子に気付いたノワールが手を離した。
「やっぱり、強姦じゃ感じない?」
「お前、何で!」
「あ、翹揺亭は客に主導権を握られないように感覚のコントロールができるんだっけ?じゃあ、このまま君を触っていても君は不愉快にしか感じないわけだ。……薬物の類にも耐性があるんだっけ?」
「な!」
 ノワールがそう言ってクスっと笑うと入矢の足を抱え上げた。入矢は貞操の危機を感じて恐怖が全身を支配する。
「やめろ! ノワール!!」
 足を動かそうとすると体重を乗せられ、自由に入矢の足は動かない。その前にこの体勢が苦しい。膝と脇がくっつきそうなほど足を抱え上げられ、大事な部分は丸見えと言う恥辱を入矢は強いられていた。
「ひっ!」
 入矢は冷たい感触を自分自身に感じて目を剥き、恐る恐る視線をそちらの方に向ける。
「何、してんだ! お前」
 ノワールの手に握られていたものは結構な量が入っているローションのボトルだった。人工着色料で色付けされた不自然なピンク色がどろっとした液体となって入矢の陰茎に垂らされている。ノワールはその後自分の手のひらから溢れるほどローションを出した。手のひらから余ったローションが入矢の腹の上に零れ落ちる。その度に入矢は冷たさに身体をびくつかせた。
「うあァ!」
 入矢が仰け反る。ノワールが十分すぎる位に濡らした手で入矢自身をしごき始めたからだ。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と濡れた音を立てて焦らすほどゆっくりとノワールは入矢の陰茎を上下にしごいた。入矢はその感触を遮断するかのように目を閉じ、歯を食いしばった。ノワールはそんな入矢を見て、また開いた手でローションのボトルを取り、自分の手で入矢の陰茎を垂直に立てるとその鈴口に流し込むかのようにローションをかけ始めた。
 入矢の体が小刻みに痙攣する。どうやら、感じていないわけではないらしい。ローションは当然余りに余って入矢の腹の上や股の下まで流れていく。ノワールは手を止めて股の間を流れていくピンク色のローションを目で追った。
 入矢が男であるという完全な証拠ともいえる男性性器。それの上を重力にしたがってローションが自在に流れていく。結構な量を流し続けて、熱を奪われた入矢自身はちょっと感触が冷たい。ローションが辿った筋をツーっとなぞっていく。陰茎の根元には入矢の髪の毛の赤を濃くしたレッドブラウンの陰毛が生えている。そういえばここらへんの手入れとかどうしてたんだろうなと不思議に思ったりもした。その茂みをぐっと押すと入矢の呼吸が一瞬止まる。なるほど。性感帯の一つらしい。ここを永遠にいじってもいいけれど……。
 ノワールは気付かないふりをしてローションの軌跡をたどる。焦らすようにわざと睾丸に触れずに足の付け根を触って股を下へ下へ。入矢の様子を見ると、快感をぐっと堪えているらしい。唇を噛み締めて、それでも荒い呼吸を速いテンポで繰り返している。ノワールが知ってるわけないが入矢は稚児でノワールに身請けされたのだから性感帯開発は受けていても快感を受け流す訓練はあまり受けていなかった。
 そもそも、お客様を取る前の稚児の身体に快感を与える者がどこにいるだろうか? 入矢はもう、声を殺すことしかできなかったのだ。その様子にノワールが気付いているか入矢は心配だったが、すでに気にしていられない程の快感が襲っている。
「うあぁあっ!!」
 入矢が悲鳴を上げる。ノワールが入矢の中に指を突き立てたからだ。充分知っていたはずだった。男に抱かれるってことは、どこに相手のモノが入るかってことくらい!
「やめて、ノワー……ああ!!」
「本当に初めてなんだね」
 入矢の反応を見てノワールは少し驚いたようだ。指を必死に押し返そうとする動きがノワールを拒絶する。無理矢理指を進めると、入矢がまた悲鳴を上げた。初物を捧げていない入矢にとってはその場所に物を入れるのは初めてのこと。当惑するし、恐怖する。快感は生まれない。入矢はいつの間にか泣いていた。
「痛い、いたいぃ……抜いてェ」
 ノワールは少し困ってしまった。指を入れたはいいけれど、このままじゃ動かせない。ほぐすって行為がはじめての入矢にはまず無理な気がした。指はそのままもう片方の手で指の周りにローションを大量に垂らす。入矢は声を上げて嫌がった。でもローションおかげでノワールの指はまた奥に進む。
「あ、あぅう……」
 もう片方の手で入矢自身を軽く握りこむと入矢が甲高い悲鳴を上げた。
「やぁああっ!!」
 後に意識が行き過ぎてて前の刺激に声を抑えることを失念していたようだ。入矢は快感をコントロールすることができなくなったようだ。ノワールが前をいじると当然のように反応して勃ち上り始めている。
 入矢の顔が赤くなりつつあった。入矢が前に感じ始めたのはいい事だ。ノワールはここぞとばかりに後で指を動かした。
「いっ……あ、あぁ……や」
 入れるって行為にやっと慣れてきたな、とノワールは判断してもう一本指を侵入させる。
「ヤダ、ノワール……もう、入れないで」
 そんなこと言われても……ノワールは内心でそう思った。やめてもいいけど、そしたら痛いの君だよ? と目で入矢に伝える。
 さすが初めて。二本目も入れているこっちが苦しい。このままじゃ指がしびれてきそうだ。ゆっくり入矢の中を探る。性感帯開発もされていない場所ではノワールが探すしかない。
「も、やぁあ! ……ぬい、てぇ……」
 慣らしも含めて性感帯を探すが、初めての入矢にとっては痛みと恐怖でしかないらしく、締め付けが緩むことがない。入矢自身をイジってやってもなかなか完勃ちしないのは後をいじり続けているせいだ。なら、と入矢の中からノワールは指を抜き去った。
 ほっと安心した入矢の顔は完全に可愛らしい顔になっていた。これもまたノワールははじめて見る表情だ。
「入矢は何色がすき?」
「え……?」
 ノワールはベッドサイドにおいてある小瓶を示した。中には飴玉ほどの球体が入っている。それはどれもおしゃれで半透明の球体の中に淡い綺麗な色が中心にあって色づけされているものだった。日本出身者のお客さんが持ってきてくれたビー球っておもちゃに似ているなと入矢は思った。
「きい、ろ」
「そうか。私はピンクにしようかな」
 蓋を開けてベッドの上にその球体をばら撒くとノワールは微笑んだ。
「青も、きれいだね」
 光を反射するその小さな球体はどれも綺麗だった。
「それ、なに?」
 入矢が肩で息を整えつつ言うとノワールがにっこり笑った。
「媚薬入りの飴玉だよ」
「残念、だった、な。俺達に、媚薬、は……」
「効かないんだよね?」
 わかっているくせに何をしようと? 食べさせるのか? まぁ、中に入られた感覚は到底気持ちいいものじゃなかったし、媚薬でも飲んだ方が楽ってことかな? と入矢は思った。
「上からの口なら効かないのは知ってる。だから、下からの口から食べてもらおうと思って」
「へ?」
 ノワールは入矢の足を持ち上げて、膝が肩にくっつくくらい持ち上げるとローションのボトルを入矢の肛門に注いだ。
「いっ! ヤメ、やめて、それ!! やだぁあ!!」
 入矢が泣き叫ぶとノワールはすぐにやめてくれた。
「あー、卑猥」
 ローションが溜まって入矢が呼吸するたびに、痙攣するたびに流れていく。ノワールはくすっと笑ってシーツの上に散らばった黄色の飴玉を一つとってローションが一番溜まっている場所、すなわち菊字に押し当てた。
「まさか、お前!」
 入矢が目を見開く。ノワールは最高の笑顔を浮かべていた。
「その、まさか!」
「あああああ!!」
 ずぶずぶと埋まっていく飴玉。あまりの衝撃に入矢はどうしていいかわからない。混乱は頂点に達し、入矢はただ泣き叫ぶ。激しい痛みに入矢は目を見開いた。
「じゃ、今度は私の好きな色だね」
「やめ! ひゃあああ。あ、ああうぅ!」
 ピンク色の飴玉がまた入矢の中に無理矢理入ってくる。その異物感に入矢は泣いた。
「いや、気持ち悪い! ノワール、とて……とってぇえ!!」
 ノワールは笑顔のまま飴玉を指が届く範囲まで押し込むと指をそのままにして入矢の耳元で囁いた。
「入矢、気持ち悪いからって出しちゃ駄目だよ?」
「ひど!」
「まぁ、出すところは絶対エロいから見てみたい気はあるけれど、入矢のためだからね。出したらだめだよ」
「ムリぃ。だ、て……」
 入矢は初めてなのだ。異物が入ったら出したくなる。気持ち悪い。
「飴はいずれ溶けるから大丈夫。それに身体に悪いものは使っていないから安心して」
そういう問題じゃない。
「じゃ、ゆび、せめてゆびぃ……」
「これ? 一応栓のつもりなんだけれどなぁ? じゃ、抜いてあげる代わりにもう一個いってみようか?」
「やぁ、ひィ、ああああ!!」
 青い飴玉が入る。青い飴玉に押されてもともと入っていた二つの飴玉が奥に進んだ。その感触に入矢が悲鳴を上げて、身体をしならせる。ノワールは笑って入矢の腕の拘束を解いた。今解かれても、後に異物が入っている状況では逃げることも抵抗も出来るはずがない。ノワールは入矢の右手を取ると入矢の口に突っ込んだ。
「舐めて。よく濡らして」
「ん、ふぅん、ンむ」
 入矢が舐めたとわかったら口から指を出して軽く握らせると入矢の指を肛門に持っていく。
「何を!?」
「私の指だから気持ち悪いんだろう? 自分の指なら栓ができると思ってね」
 問答無用でノワールは入矢の中指を入矢の中に挿入する。
「ひああああ!!」
 抜こうとする指を押さえて、ノワールが囁いた。
「これでもし、飴玉出てきても奥に入れられるね?」
「できない、よぉ」
「余裕があったら中をほぐしてもいいよ」
「いやだ」
「もし、飴を出すようなことをしたら……大人のおもちゃ、使ってあげるから覚悟してね」
 ノワールは笑う。入矢は愕然とした。知識で知っているのだ。大人のおもちゃがどんなものか。ねえさんの中にはあれがないとなかなかイけないって言っていた人も居たがあのグロテスクさに入矢は遠慮したかった。それが、初めてなのに使うだって? 冗談じゃない! でも、ノワールはきっとやる。入矢は覚悟を決めて自分の中指を奥に押し込んだ。
「ああ!」
 ぐちゅっと濡れた音がして入矢は自分自身でやった行為をノワールが見ていることへの羞恥で顔を真っ赤に染めた。
「偉いよ? 入矢」
 変に下腹部に力が入る。中で飴玉の感触をリアルに感じた。指を入れている中がとても熱い。自分はこんなに体温が高い人間だっただろうか。入矢は顔がぽっぽしてくる気がした。それどころか全身が熱い。
「ひゃ!」
「どうしたの?」
「あ、あめが……割れて……中から、何か出て、きた!」
「それ、媚薬だね。入矢、君は媚薬が効き難い体質を作ったんだったね。でも、直腸吸収だとどうなるのかな?」
「え?」
 ノワールがそう訊いた瞬間に二つ目の飴も割れた。一個目の飴の感触はもうない。きっとかけらになってしまい、すべて溶けるもの時間の問題だ。二つ目の飴の液体がじわりとひろがっていく。
「直腸吸収は本当はやっちゃいけないって言われててね、吸収がすごい早いんだ。なんて言ったって直接腸に吸収させてるんだから。だから後を慣らすのに酒は厳禁って言われてるんだよ。急性アルコール中毒で死んじゃうから。酔いが速くなるってことだね。さて、媚薬を直腸吸収させたらどうなるでしょうか?」
 三つ目の飴玉が割れ、入矢の中指の指先に媚薬の液体を感じた時、入矢は全身が熱いことに気付いた。
「正解は……」
 ノワールが入矢の首筋を軽くなで上げる。
「あぁン」
「自分で試してみようか」
 ノワールが触れる場所全てが熱を持ってるかのように熱い。入矢はもう、声も我慢できずにいた。
「ほら、見て入矢。すっごいエロい」
 抱え上げられた足の間から勃ち上る入矢自身。そしてその奥。
「入矢の中からさっきの飴の媚薬が漏れ出てるよ」
 光を反射してぬらぬら光るその場所はひくひく動いている。入矢に見せ付けるようにノワールはその場所に指をいきなり二本挿入した。でも先ほどのように痛みは感じない。招いたかのようにノワールの指が容易く入っていく。
「は、ああ! んン」
 もう片方の手でノワールは器用に入矢のシャツの釦を全部外すとローションで濡れた手で入矢の胸を撫でた。
「んあぁ!」
「何もしていないのに尖ってる。媚薬を通常の3倍にした甲斐はあるね」
「そんな! あ、あん」
 そのままノワールが悪戯に入矢の突起を弄ぶ。ノワールの行動にいちいち声を上げる入矢にノワールは満足した。そしてノワールが自身を入矢の後口にあてがう。その感触を知って入矢が慌てた。
「待て、ノワール!!」
「待てない」
「だめだって! ノワー……ああああああ!!!」
 熱い塊が一気に入矢の中に入って来る。その熱さと質量といったら、入矢がうめいた。
「痛い、いたい、いたい!!」
 入矢が泣き叫ぶ。ノワールはキツさに呻いた。
「入矢、力抜け」
「はう、ああ……む、りぃ……」
 入矢の目から涙が零れ落ちる。ゆっくり、ゆっくりノワールはそのキツさに呻きつつ、自身を押し進めた。ギチギチ音がして、ノワール自身が全部入ったとき、入矢の後口は出血していた。
「あれだけ慣らしたのに……」
「いたい、よぉ。ノワール」
「悪かったね。でもおかげで全部入った」
 入矢の涙を舐めてノワールが結合部分を入矢の手を導いて触らせる。その感触に驚いて、入矢がびくついた。その瞬間、今の現状を理解して入矢が恥らう。その様子を愛しく思いながら、ノワールは入矢に口づけた。
 もう、自分のプライドとかを忘れ去ったのか、ノワールの口づけに直に応える入矢。翹揺亭で学んだだけあって入矢の舌使いは絶妙だった。
「入矢、動くよ?」
「ダメだって……、俺まだ。んアぁ!!」
 ノワールが最後まで入矢の言葉を聞かず、入矢を握りこんだので入矢は甲高い嬌声を上げた。ノワールはそのままゆっくり自身を多少引き抜いて、またゆっくりズズズと自身を差し込む。
「うわぁあ、の、ワール!」
 ノワールが動くのと同時に入矢の身体がガクガクと揺れた。ノワールの肩に必死にしがみついて入矢が跳ねる。ノワールは入矢の初々しい反応に笑顔を零しつつ、入矢の胸に口づけた。舐めて、舌で突付いて、突起をもっと尖らせる。
 媚薬の効果もあって入矢の身体の反応はとてもいい。すぐにツンと立ち上がったのを舌で確認するとノワールはやわらかく、遊ぶように入矢の乳首を咬んだ。
「あ、アァ! ……ひァ」
 上前歯と下前歯の間で柔らかく噛まれる入矢の突起。ノワールが口を離すとノワールの唾液でいやらしく光っていた。反対側の突起はローションを触った手で触っていたので薄ピンク色に光って立ち上がっている。
 入矢はすっかり胸への刺激で下半身への注意が向かなくなっている。力が抜けてきた。入矢の顔からすでに理性が抜けている。快感に堕ち、弛緩した口からは赤い舌が覗いている。緑色の目はぼんやりどこを映しているのやら。
「エロい顔」
 ノワールは笑って入矢の首筋に噛み付いた。軽く歯形が残る程度に咬むと痛みも快感に感じるのか、入矢が泣いて悦ぶ。
「マゾなんじゃないか? 入矢」
 そう言って先ほど発見した入矢独自の性感帯、陰茎が起立している茂みを強く押してやった。
「あぁあああ――!!!」
 勢い良く入矢から白濁色の液体が飛び散る。その瞬間にものすごい締め付けがきてノワールは危うく自分もイくところだった。入矢の締め付けでノワール自身に与えられる快感に目がチカチカする。
「あ、はぁ、はぁ、はぁ」
 入矢は自身の放った液体で下腹部を派手に汚し、イった直後特有の気だるげな、しかしとてつもなくエロい顔をしていた。
「入矢」
 呼びかけるとわずかに視線をこちらに向ける。意識はまだあるようだ。
「入矢、動くぞ」
 ノワールはイったばかりの入矢自身を握る。
「まっ! まだ、ダメ!!」
 入矢はそう言ったがそれで止めるノワールではない。先端に爪を立て、ノワールは入矢自身に軽く刺激を与えると、自分自身をギリギリまで引き抜いて一気にまた押し入った。その衝撃に入矢が悲鳴を上げる。口の端からは涎が垂れていた。
「あ、ああ!!」
 入矢の目から再び涙が流れ、血が溢れてくる。出血しやすい体質なのか、粘膜が弱いのかとノワールは冷静に思う。
「イタ……あ、ああ!」
 入矢が泣いている顔を見て、ノワールは思い出す。これが最後だ。
「このまま、ずっとこのままなら、よかったのに……」
「ノワール?」
 入矢の位置からノワールの表情は伺えない。
「ねぇ? ずっと、このまま……」
 ノワールがそう言って入矢の頬に優しく触れる。優しく口づけて、舌を絡ませあう。入矢は自分の中にノワールの存在をしっかり感じられた。熱くて、重い。これが他人を受け入れるということ。
「このまま時間が止まってしまえば、いいのにな」
 そう言ってノワールは入矢の首に手を掛けた。
「ノワール!!」
 入矢は叫ぶことしかできなかった。腕に力が込められていく。
「っ!! っつ、っ!!」
 肺が酸素を求めて喉がひゅーひゅー音を立てる。苦しい入矢に罰を与えるかのようにノワールが入矢を攻め立てる。頭に血がいかない。目がチカチカして熱い。でも、ノワールと繋がっている部分だけははっきりわかって。そこだけが鮮明にわかって。入矢は苦しくて、苦しくて、でも気持ちも良くて、声も上げあれずに、ただ耐える。ノワールの腕を叩いて止めさせる行為すら億劫だった。今の苦しみと快感は覚えていよう。お別れなんだ。
 入矢はわかっていた。ノワールが先に折れた。ノワールが自分を手放そうとしている。だから、ノワールは入矢の生命を最後に奪いたいのかもしれない。
 ――構わないぜ、ノワール。
「抵抗、しないの?」
 息をきらしつつ、ノワールが問うた。入矢は苦しげに笑った。
 ――だって、お前……
「死んじゃうよ? いいの?」
 そう聞かれたとき、ある一点をノワールが強く突いた。仰け反る入矢。仰け反る力が残っていたことが入矢にとって驚きだ。首絞められてんのに。俺、もうすぐ死んじゃうかもしれないのに。呆れるよ。
「……感じたんだ?」
 入矢の前立腺を捕らえたノワールはそこを集中的に攻める。その度に入矢が口を開ける。もう、吐く息さえ残っていない、酸欠の入矢。意識はないだろう。記憶に残らなければいい。つらい記憶は消えてもいいよ。
「っっつ!!!!」
 入矢が耐え切れなくなってイく。その締め付けと入矢の苦しげな顔にノワールもすぐ遅れて入矢の中に精を放った。ノワールは入矢にかけていた手を離した。入矢は呼吸困難による酸欠最中の行為によって簡単に意識を手放していた。イったのに呼吸を乱すこともなく、死んだかのようだ。
 ノワールは入矢に顔を近づける。呼吸する余力も残っていないらしい。呼吸は止まっていた。呼吸困難のまま最後までやったから、呼吸する行為を忘れているのだ。ノワールは息を吸い込んで入矢に口づけ、息を吹き込む。入矢の胸は膨らみ、ちょうどいい程度で息を止める。ゆっくりと少量ずつ息が吐き出される。それを見計らってまた息を吹き込む。
 それを何回かくりかえして入矢は呼吸を取り戻した。
「さよなら、入矢」
 入矢は夢の中でノワールの声を聞いた。
「君に好かれる理由なんか、ないんだ。最初からぼくは……」
 ――ノワール、それ、俺に言えよ。直接言えよ。
 入矢が言っても声にならない。入矢は目が重い。ノワールに声をかけられない。
「結局、ぼくは愛されたがりなんだ。愛して欲しかったんだ。君の都合なんかお構いなしで」
 ノワールはそう言って入矢の中から己を引き抜いた。
「でも、今まで付き合ってくれてありがとう。本当に、君を愛していたよ」
 ノワールは入矢の髪を優しく撫でて、立ち上がる。
「ぼくの事は忘れられるといいね。さよなら、入矢」
 ――待てよ、ノワール。待ってくれよ、俺にも言わせて、ノワール。
 ノワールの足音が離れていく。目が開かない。腕も動かない。口も開かない。ノワールを呼び止めることができない。
 ――忘れる事なんかできないよ。
「君がぼくを嫌っていても、ぼくは大好きだよ、入矢……ばいばい」
 そう言ってノワールの部屋の扉が閉じた。
 ――嫌えない。お前を嫌えないんだ。だって、お前……

 泣いてただろ?