毒薬試飲会

毒薬試飲会

毒薬試飲会 018

11.DES 上 039  私を、どうか  殺してください。  「毒薬試飲会」  11.DES・上 「アッ、アン、イヤァ」  裏路地で誰かが密かに喘ぐ声が響く。後ろから突き上げている男の息も上がっている。 「イヤ、じゃねぇだろぉ? ディー。ホラァ、こっちむけって」 「アァ! ちょ、挿れたままで動かないで」 「顔見ないと不安って泣くのは、お前だろぉ?」  犯していた男は犯されている者を無理やり正面に向かせる。犯されているのは、男だった。 「ダム! もー」  同性同士のセックスなんてここでは珍しくもなんともない。いたって普通の行為であり、逆に男女よりは男と男の方が多かったりするのがここ、快楽の土地だ。 「あー、サイッコー。やっぱり真っ赤に染まるお前、超きれいだって」  しかしこの二人は少々他とは違う。彼らの隣にはまだ血を噴き上げる死体が隣にあった。その死体の血を浴びて二人とも全身を真っ赤に染め上げている。  血がべっとりと張り付いた男の首筋をこれまた血で真っ赤に染まった顔をした男の舌が舐め上げる。 「ひゃぁ。だめってばぁ、アアァ」  一際甲高い叫びと共に両者から白い液体が派手に飛び散る。二...
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毒薬試飲会 017

10.ダイオキシン 下 037  大嫌い、大嫌い、大嫌い、大嫌い、大嫌い、  大嫌い!  何度口に乗せてみたって、所詮  たった一回の、好きには敵わない。  「毒薬試飲会」  10.ダイオキシン・下  ぴちゃん、ぽちゃん。  続く音はゆっくりでも確実なその音にアランは覚醒を促される。  水の音? ゆっくりと目を開いて、その場所がコンクリートに囲まれた四角い部屋の中と知る。どこにも水源がないのに、なぜ水の音が響いているんだろう。  上体を起こすと、知らない場所だった。両手を後ろ手に固定されている以外は特に不自由はなかった。ゆっくり、ゆっくりと覚醒してきて、状況を思い出す。  確かノワールと戦ったような……それにしても、ここはどこなんだ?  アランは一緒にいたはずのハーンの姿がないことを不思議に思いながら、立ち上がり、あたりを歩き回る。こんな部屋、アランはいままで来たこともなかった。ただ一面のコンクリートだけなんて、何のための部屋なんだろうか。  とりあえず、気になった水の音がするほうへ足を向ける。水の音はこの部屋の明かりが届かない、別の部屋から漏れているようだ。細い隙間でつながれた二つの...
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毒薬試飲会 016

10.ダイオキシン 上 034  ああ、かの人の目線がいとおしい。  かの人の示す指先をいつも追ってしまう。  だからこそ、こんどこそ。  かの人の視界に入りたいと望み、  いつしか。  かの人自身を蹂躙したくなったのだ。  「毒薬試飲会」  10.ダイオキシン・上  いつもは奥の座敷には決まったものしか出入りできない、翹揺亭最奥の住まい、そここそが御狐さまの生活空間だ。  しかし、今宵にいたって、その部屋に見知らぬ男が通されている。  青い髪を見事なオールバックにして撫で付け、きちっとストライプのスタイリッシュなスーツを着こなす男。 「貴様っ……!」  その男は周りを翹揺亭の者に囲まれ、ありえない殺気を向けられているにもかかわらず、平然と御狐さまの対面に座し、茶をすすっている。 「何と申されました?」  御狐さまではなく、その横に付き従う弥白が厳しく問うた。男はしれっと答える。 「だからぁ、言ってんだろぉ? 入矢のことに手ぇ出すなってさ。あいつはおめーらの手からは離れてんだろぉ? じゃ、こっちの事情に首突っ込まないでほしいわけ」 「入矢は翹揺亭出身! 家族同様です! 家族を心配して何...
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毒薬試飲会 015

9.アンフェタミン 下 032  だから、嫌なんだよぉー。  あいつの言うこと聞くと、ロクな目にあわねぇんだんよ。  たっく、マジでカンベンだぜ。  「毒薬試飲会」  9.アンフェタミン・下  ひどい頭痛がした。ぐらぐら視界が揺れる。まったく、二日酔いでもあるまいし、その前に酒飲んでないし、この痛みはいったいどういうことなんだ? ぼぉっとして、視界もかすんで見える気がしてしまう。吐き気もあるか。 「目が覚めたか?」  隣から、ハーンの声がして、アランはかすむ視界から状況を把握しようと、しきりに瞬きを繰り返した。  やっと視界が戻ってきて、身を起こそうとして、無理なことに軽く驚きを覚える。 「え?」  目の前には無機質なコンクリートの床。そこに広がる鎖。そして自分が無理な体勢を取らされていることが理解でき、同時になぜと思う。  首や上体を可能な限り動かし、ハーンの姿を探す。ハーンも同じように鎖で体を固定され、自由が利かない状態のようだった。 「ハーン、これ、一体?」 「俺が知るかっての」  ハーンは後ろ手を縛られ、足首には錘つきの鎖、それに全身を簀巻きとでも言うかのごとく、鎖でがんじがら...
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毒薬試飲会 014

9.アンフェタミン 中 030  願わくば、もう一度。  貴方と恋人未満、友人以上、かけがえのない、その時間を  過ごしたいと思っていいですか。  「毒薬試飲会」  9.アンフェタミン・中  ワインレッドのシックな赤色を着こなす入矢に丁寧に丁寧にマニキュアを塗っていく。  最初は脚から。一本一本、ベースコートを塗って乾かし、最高級の真っ赤なマニキュアを塗って丁寧に乾燥させる。  独特のシンナー臭。光を反射する光沢を持った赤い爪。それにトップコートを重ねて、完璧な輝きを持つ真っ赤な足の爪の出来上がり。  本当は赤い靴も用意した。でも白い肌に真赤な爪が生える、裸足の方が何倍も素敵だ。  それに古代の童話みたいに赤い靴を履いた少女は不幸な目にしか合っていない。死ぬまで踊り続けて足を切り落とすとか、誘拐されたとか。まぁ、この足の持ち主は少年だが。  そして鼻歌を歌いながら指の爪にも丁寧に赤色を塗っていく。白い手に毒々しい赤色は、最高に映える。化粧もしようかと思ったが、これからすることを思い、落ちたらしょうがないなと思い直して口紅だけにとどめる。  色は勿論赤。口紅の赤はいろいろあって、ただの赤...
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毒薬試飲会 013

9.アンフェタミン 上 028  危険?  そんなのは関係ねーなァ。俺はさ、  ああ。わかってる。わかってるさァ。  「毒薬試飲会」  9.アンフェタミン・上 「ノワールが攫われたって信じられません」  ハーンがさすがに絶句する。一つ上の階層、自分が求める人物はそんな目に合っていた。  アランは驚愕すると共に、時間を掛けていてはダメだと思い直した。相手が逃げ切る形しか思い描いていなかったが、全く知らない第三者にフェイがどうにかされてしまう場合だってあるという概念がすっかり抜け落ちていた。  フェイは強いから、勝手にランク2のゲームを上がることでしかアランと遭わないという状況を勝手に作りこんでしまった。  そしてそれと同時に恐怖でもある。すなわち、アランには手も足も出せないような入矢とノワールですら最悪な状況に陥れる強者が第二階層に存在しているということに他ならない。  アランは自分の視野の狭さにやっと気づいた。ハーンが前から言いたかったことはこいうことだったのかと今更ながら思う。  ――いつだってアランはフェイしか見えていなったんだと。 「入矢は、無事なんですか?」  ちらり、とアラン...
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毒薬試飲会 012

8.ニコチン 026  苦しみぬいて、血反吐吐いてここまでおいで。  そうしたら、よりいっそう愛でることができるから。  「毒薬試飲会」  8.ニコチン 「さぁ。第三階層中央ゲーム場、コロッセウムで今宵行われます対戦カードはァ!」  塞がれた視界の外の喧騒が手に取るようにわかる。ハーンは相変わらずやる気無さそうにしているんだろうな。アランは頭上にいるはずの新たなペアを思う。  以前、フェイと組んでいたときはただ、興奮して、フェイの力になる事だけを、フェイに教えられた事だけを忠実に、フェイの思うままに動く事を最優先に考えていた。だけどハーンとは違う。  どうやって自分がゲームを組み立てていくか、事前の調査もシュミレーションも自分でやって、ハーンに相談する。ハーンはフェイと違ってゲームに消極的でもないのにやる気が全く無い。 「好きにしたらいい。お前のゲームだ」  としか言わない。武器形成だって、必要なスペルを教え込み、それが日常でも出せるようになると簡単な防御の禁術だけ教えて特にゲーム中何もしてくれない。ただぼぉっと眺めているだけ。  フェイもそうだった。でもフェイは試験のようにアランに教...
毒薬試飲会

毒薬試飲会 011

7.アニリン 黒 024  ねぇ、はじめよっか。  くすくすくす。  あいつらがー、大きい顔してられんのも、いまのうちー。  「毒薬試飲会」  7.アニリン【BLACK-side】 「はぁ、はぁ」  濡れた吐息が暗い室内で色付いている。艶があるその息を吐き出すのは、濡れた唇。赤く、赫く、紅く染まる口元。舌で舐めて、しゃぶりついて、喉もなにもかも使って喉が焼けるような感覚に耐えて、欲しているモノがある。 「おいしい? 入矢」  犯された右目がズクズクと疼く。痛みか、それともその果ての快感か。 「本当に吸血鬼みたいだ」  くすくす笑う声はなんか楽しげ。ちょっとそれが気に食わない。歯を立てて仕返ししてやると天地がひっくり返る。  圧し掛かっていたはずなのに見下ろされて入矢は腕から抜け出せない。ちょっとした檻だ。先程まで血を与えていた首筋から血が垂れる。その血は頬にかかり、首筋を赤く染めていく。 「やーらし」 「う、るさ……」  文句を封じ込めるように唇が重なり、すぐに舌が這い回る。 「んんっ!」  舌に口腔を蹂躙されて、身体は熱い楔で繋がれて、両腕で責められて……。 「ンうぅっ!! ム……ん...
毒薬試飲会

毒薬試飲会 010

7.アニリン 白 022 「~絶望と悪夢の欠片」 「何の歌だよ? なになに、新曲作るの? 次の作詞担当はおれでしょ?」 「砕け散る、希望の欠片」  ゾクゾクする感覚が通り抜ける。托人が何気なく口ずさむ音楽には何かが宿っている。 「……アラン、フェイと別れたんだってさ」 「だから、アランのための作詞か?」 「違うよ。これは……オレの根源さ」 「托人……」 「ある日突然、幸せが絶望に変わって、希望が打ち砕かれて恐怖に喘ぐ日々が続くってことを……オレだけが知ってる。このメンバーの中で」  タクトはそう言って詩を音に乗せていく。 「でも、オレは幸せになれた。……アランもそうなればいい」 「托人」  ほっと安堵した息が漏れる。だからメンバーに聞こえないようにそっと呟いた。 「……すべてを蹂躙されることは、つらく見えてとても楽だから、ものすごく」  「毒薬試飲会」  7.アニリン【WHITE-side】 「あのさ、俺を鍛えるって……なんでここ?」  ハーンに怒鳴る。怒鳴らないと互いの声が聞こえないのだ。周囲がうるさすぎて。 「いやー、お前ついてるよ!」  広めの会場にすし詰め状態に押し込まれた人間...
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毒薬試飲会 009

6.ベラドンナ 020  お前のために私は舐めよう。  お前のために私は脚を開こう。  お前のために私は喜んで受け入れよう。  ――だから、どうか、呪わせてくれ。  「毒薬試飲会」  6.ベラドンナ 「ねーえ、本当にこのまま見続けるの?」  混濁する意識。まるで夢の狭間にいるかのような感覚。ここはどこだ。強烈な印象が頭に残っている。まさかフェイさんが自分からあんな最低な男の手を取ったなんて思いたくもない。信じたくない。 「イモムシか」  薄く目を開けると豊満な胸が目の前にあった。このまま起き上がれば胸の谷間にダイヴすることになるのでそのまま寝転んでおいた。  辺りは紫がかっている。イモムシが吐き出した紫煙が天蓋付きのベッドから出て行かないからだ。おそらくイモムシの紫煙には幻覚作用があるに違いない。一種の麻薬だ。それを吸わせて過去を脳に直接情報として叩き込む。  だから自分がそばで見てきたかのように強烈で印象深いビジョンなのだろう。 「もう十分でしょ? 入矢とノワールの関係はわかったでしょ?」 「わかった。にわかに信じがたいけれど。……でもじゃなんでフェイさんは逃げた。俺を選んでくれたん...