毒薬試飲会

毒薬試飲会

毒薬試飲会 008

5.鈴蘭 下 017  君を飾れたら、よかったのに。  君を、永遠に閉じ込めて、一生私だけのものに、なればよかったのに。  ――もう、叶わない。  「毒薬試飲会」  5.鈴蘭 下 「傷は、もう治ったね」  ノワールがじっくり入矢の身体を眺めてそう言った。全裸に近い状態だけれど、向こうも治療目的ってわかっていたから恥ずかしいとか、そういう気持ちはなかった。 「じゃ、またゲーム再開か?」  入矢はなんとなく、そう訊いた。するとノワールが驚いて信じられない目をした。そういうところを見ると本当に自分のことが好きなんだなと思えて入矢はちょっと満足だった。 「まだ、逃げるのかい?」 「なんだ、また監禁するのか?」 「君が、そう……望むなら、ね」  入矢はそこで目を見開いた。ぞっとした。ノワールの纏う気配が一瞬で変わり、目が、入矢を見る視線が変わっていた。穏やかなノワールからあのときのちょっと普通じゃないノワールに。  ノワールは入矢の腕を取ってベッドから立ち上がらせると部屋を出て行く。 「ど、どこに……?」  その声に恐怖が混じっていなかったと言ったら嘘になる。入矢は怖かった。監禁されたのが終わっ...
毒薬試飲会

毒薬試飲会 007

5.鈴蘭 中 014  迎えに来たノワールが入矢の美しさを見て絶句した時、心底コイツが憎いと入矢は感じた。  「毒薬試飲会」  5.鈴蘭 中  入矢は迎えに来たノワールに向かって一言も口を利かなかった。ノワールはそれでも満足したようで、着飾った入矢を抱きかかえて車に運ぶと満足そうな笑顔を御狐さまに向けた。  辺りには前代未聞の稚児の身請けを見ようと見物人が生じている。中にはめったにお目にかかれない御狐さまを見ようという魂胆の野次馬も居ただろう。  しかし、祝うべく雰囲気のはずが、身請けされる入矢も、それを見送る翹揺亭の者も殺意に近いオーラを隠そうともしない。今までにありえない身請けの見送りに野次馬も一人、また一人と去っていった。  車に乗り込み、今、出発しようかという時、咲哉と雪乃が駆け寄った。車の窓から入矢を見つめ、ノワールに聞こえないように、口の動きだけで入矢に伝える。 「絶対、帰ってこいよ」 「ああ」  二人が車から離れた瞬間に、車が発進する。後部座席から翹揺亭を見続け、入矢は身請けされる立場の人間とは全く違う行動をしていた。屋敷に着いた時、ノワールに手を差し伸べられるがそれを叩...
毒薬試飲会

毒薬試飲会 006

5.鈴蘭 上 011 「料金プランはどうしましょうか?」  イモムシが妖艶に微笑んで俺を誘うかのように尋ねてくる。 「最上級だ」  俺の代わりか、先にチェシャ猫が応える。 「あらァ、アンタにしては太っ腹ねェ」 「約束したからな。ゲームに勝ったらフェイの過去を教えてやるってなァ」  「毒薬試飲会」  5.鈴蘭 上  アランは突然の事態を夢だと思った。しかしこれは現実。イモムシの店の奥、プライベートルームのベッドで寝ていることが一番の現実。  それはフェイさんがいないということ。フェイさんがあの男に連れて行かれたということ。  それは突然だった。別れは覚悟していた。だから再び逢う事を望んだ。フェイさんは頷いてくれた。また逢える、だからしばしの別れだと。  ……しかし、こんな別れ方は想像していなかった。あまりにも唐突で、あまりにも残酷だ。 「よォ」 「……チェシャ猫……」 「お前は第四階層でのラストゲームちゃんと勝ったしな、約束だ。フェイ、いやイリヤの過去を教えてやる。だからお前をここに連れてきた」  俺が何を望んでいるかわかったらしい。俺はあの男への怒りとフェイさんを喪失して困惑していた。...
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毒薬試飲会 005

4.アセトシアンヒドリン 008  よぉ。久しぶりだなァ。ん? 「あんた、帰ってこなくてもよかったのに。あんたくると面倒なのよねー」  うっわ、ヒデえの。別にオレはお前の邪魔なんてしてねェよ?  そぉだろ? オレに邪魔された事なんてあったかぁ? オレの本職は案内人。お前はそうじゃねぇの? 「あたしの本職は情報屋。あんただって知ってるでしょ?」  嘘だぁ~。チャイナストリートを仕切ってる女のくせによぉ。お前ってもともとチャイナ行ったことあったっけかぁ? オレ、ねえけど。 「違うけど。でもチャイナ好きなのよねー。あの混沌としたカンジが。まぁ、いいわ。……それにしてもー、変わったわね。今度はどんな趣味なの? ソレ」  え? アイボリーヘアっていいと思ったんだけどなぁ? 似合ってないか? 「いや、アンタにしては、地味ね。前にココにいたときは真っ赤な髪してたわよね。目の色がぁー、何だったけ? そうそうドきついピンク! 赤系統の色で驚いたわァ」  あー、アレな。すぐに飽きたんだよなァ。ハデな組み合わせはパッとしておもしれぇんだけど、飽きんのがなぁ……。適当に作ったほうが長持ちすんだよ、自分の気がさ...
毒薬試飲会

毒薬試飲会 004

3.弗化水素 下 007  這いつくばってでも、行かなくてはと思った。  フェイさんが、待っているから。  『毒薬試飲会』  3.弗化水素・下 「あらぁ~? どうかなさったんですかぁ? ソレ」  係員の女の子が笑って俺の腹をケラケラ笑った。痛ぇんだぞ、こんちくしょー。 「早くゲーム終らせないと本気で現実で死んじゃいますよぉ?」 「分かってる……アンタ、治療術式は?」 「いちおー、使えますよぉ? コレでも係員ですからぁ」 「止血だけしてくれないか?」 「いいですよぉ? 幾ら払ってくれますぅ?」 「幾らだ?」 「うぅ~んとぉ、ぢゃあ、今回のゲームに勝ったら、利益の0.5割くださぃ」 「暴利だな。いいよ。言い値で」 「はぁい。ありがとぉございますぅ!! ちゃんとしますよぉ、安心して、ゲーム楽しんでくださぁい」  係員はにこやかに笑って、俺を所定の椅子に座らせると、肩にこのゲームシステムといえる機械を身体を接続する。  肩に接続するのは身体を大きく動かすスレイヴァントだけだ。ドーミネーターは頭脳を使うので頭にもっと小型の機械を接続する。接続された瞬間に現実の感覚は消えうせる。  まるで実際会場...
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毒薬試飲会 003

3.弗化水素 上 005  ビルのすき間。そこから見える空はない。建物が上に見えるだけ。これがこの場所での常識的な光景。 「俺を訪ねても、無駄だぜ?」  ビルの壁に背を預ける少年は足音がした方を向いて言った。 「君を探すのに苦労したよ。階層を降りただけで、目も髪も格好も変っているとは思わなかったからね、チェシャ猫」  少年はいつものように人を小ばかにしたような笑みを向けた。 「俺はチェシャ猫だからな」 「そうだった」  青年も笑みを返した。 「わかっているんだろう?」 「何をォ?」 「私が君に会いに来た理由を」  空を仰ぎ、青年の方を見ずに言い放った。 「無駄だァ」 「何が?」  チェシャ猫は青年に笑って言った。 「教えない」 「理由を問うても?」 「アイツの方が先に俺に頼んだからさァ」 「私に情報を渡さないように、と?」 「まァ、そんなモン」  にっとチェシャ猫は笑う。 「なるほど、道理で情報が届かぬわけだ。チェシャ猫に掴まれたらオワリ、というわけだ」  チェシャ猫は何も言わずにニヤニヤ笑った。思わずイラっとくる笑い方にも青年は動じない。 「伝言は伝えてくれるか? 定期的に私の情報を...
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毒薬試飲会 002

2.ルイサイト 003  ひーはははっ!!  まだこんな文書を見ていてくれるって訳かい?  うれしいねぇ。  じゃ、まだ、話しちゃうぜ? クソみてぇな  話をよっ!! 「毒薬試飲会」  2.死の霧~ルイサイト~  こんにちは、マドマゼル。え? マドマゼルなんて呼ぶな。そりゃ、失礼しましたね。  まぁ、それにしても俺を探し出すなんてアンタ、一体何が望みで? 「お前は案内人(ナビゲーター)であると共に情報屋だな?」  まぁねぇ。だけど、それがどうしたよ? 俺は情報売るけど高いよ? 何がお望み? めんどくせぇなぁ。あんたみたいなまじめっ子さんは、やなんだよなぁ。ぎりぎりでさぁジョークにもなりゃしねぇんだもんよ。の割には逆恨みとかしてくんだよなぁ?  な、お前もそういうタチじゃねぇのぉ? え? 客だって? 自分は客だって? 客かどうかは俺が決めるんだよ。しゃしゃり出んな。  んー、ま。今日は暇だから話だけなら聞いてやりましょ。それでいい、だと?  うわ、めっちゃムカツク。生意気な言い方ですこと。何さまだよ? くっくっく!  で? 何を調べてほしい訳なんですかー? あ、完全に馬鹿にしてるってわか...
毒薬試飲会

毒薬試飲会 001

1.アルカロイド 001  きゃーははは  この文書にタイトルなんかないぜ  なんでかって?  こんなクソみてぇな話、誰が語り継いでいくんだよぉ!?  あ?  タイトルなんかない話なんてねぇってか?  しゃーねぇなぁ  じゃ、今からする話のタイトルは…… 「毒薬試飲会」  1.アルカロイド  よぉ、旅の人、ここに来るのははじめてかい?  ……そりゃぁよかったってもんだ。どうだい、あんた、俺をあんたの旅のガイドとして雇う気はないかい? ……結構だ? そりゃいいね! ここに立派で無知な冒険者の登場だぁ!!  あんた、ここの『快楽の土地』に来るのは初めてだろう? なんでかってぇ? 見りゃわかるさぁ。その態度からしてこの地には不似合いだからさぁ。  あんた、本当に俺を断っちゃって後悔しないかい? ……あらら、強気になっちゃってぇ。知らないよ? あんたみたいな、この地の外の空気をまとって歩いてる人間なんか、この町にかかりゃ、すぐにカモられて、ジ・エンドがいいとこだな。死ななきゃ儲けもん? ひゃっひゃっひゃ、俺はそれを楽しみに見てるとするぜ?   ……そうそう、最初からそうしときゃいいんだよ。強情...
毒薬試飲会

毒薬試飲会 世界設定

毒薬試飲会 世界設定 現在より何百年も先の未来を想定した地球。地球の生命活動による環境変化により、現在は青い空が見える場所が地球上で限られている。また、自然が残る場所も限られているが技術は高度に発展した。国家は存在しているが、舞台となる場所は広大な砂漠且つ劣悪な環境の土地に社会の不適合者が集まり、暮らし始めたのが元とされる。その中には優秀な科学者やエンジニアが多く降り、砂漠の土地でも何不自由ない都市を建設した。その都市は『快楽の都市』と呼ばれるようになり、様々な人間が暮らし始めた。 快楽の都市 呼ぶ人間によって名前が異なるが快楽の都市、楽園などが一般的な呼び名である。何ものにも縛られる事を嫌う都市であり、法律やルール、宗教などは存在しない。よって殺人でさえも日常の光景である。自分の身は自分で守れ、騙される、殺される奴が馬鹿。そんな危険と隣り合わせではあるが、法律が存在せず、管理者や支配者が存在しないことから、アブノーマルな娯楽から商売まで盛んであり最も金を持った都市でもある。金と危険が人を呼び、廻って、常に進化と繁栄を続ける街。 街自体は1~5までの階層と地上と隣接している場所の6つの...
毒薬試飲会

毒薬試飲会 登場人物紹介

毒薬試飲会 登場人物紹介 アラン・パラケルスス  黒髪・黒目・18歳・男 第四階層に妹と共に暮らしていた元死体バイヤー。フェイ(入矢)と出会って禁じられた遊びに参加、第三階層に登ったと同時に入矢の裏切りによって心に闇を落すようになる。現在は入矢を追って第二階層をハーンと共に目指している。 入矢(フェイ)  赤髪・緑目・21歳・男 第二階層の高級遊郭・翹揺亭の男娼として育ったが、ノワールの執念によってノワールと血約を結ぶまでに親しい間柄となり、禁じられた遊びに参加。第二階層まで制覇するも、何者かの襲撃を予知してノワールを裏切り、第四階層に逃げ、アランと出会い、彼にノワールの影を見て禁じられた遊びでアランを育てるも、ノワールに連れ戻される。第二階層のトップ10入りを果たしており、『真紅の死神』との二つ名を持っている。 エーシャナ 黒髪・黒目・15歳(享年)・女 アランの妹であり、恋人。アランと心から愛し合い、子供をなしたが、アランの友人に裏切られて命を落とした。 ノワール・ステンファニエル  黒髪・黒目・27歳・男 第二階層の禁じられた遊び・奴隷育成売買を生業にしている青年。入矢を手に入れ...