モグトワールの遺跡

モグトワールの遺跡

モグトワールの遺跡 012

第2章 土の大陸 0.―プロローグ― 046  これは昔々のお話です。まだ私たちの住んでいた土の大陸が一つの国にまとまっていない時のお話。  この頃、土の大陸には大小様々な数多くの国が在りました。いいえ、国と云うのは少し不自然かもしれません。多くの集団があったと言った方が正しいでしょう。その集団は時には衝突し、時には手を取り合って暮らしていました。  在る日、この土の大陸を守護している魔神さまが、人々に向かってこう言ったのです。  ――他の大陸に倣い、我もこの土地に我の守護を約束する国を定めたい。  人々はそれを聞いて目を輝かせました。魔神の守護を得られれば、少なくとも災厄に怯えることは在りません。  ――ただし、我が守れるのは一国のみ。証明せよ。我が護るに値する国を。その証に我が永久の守護を約束するものとしよう。  つまり、魔神が認める国を決めろ、ということだったのです。そして、大小様々な集団は魔神に我こそが守護されるにふさわしいと、活動を始めました。  とある集団は、富を。  とある集団は、権力を。  とある集団は、武力を。  とある集団は、民を。  とある集団は、知識を。  富、...
モグトワールの遺跡 小ネタ

モグトワールの遺跡 第1章あとがき

新しく始まりました「モグトワールの遺跡」。第一章・水の大陸編完結でございます。 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。いや、本当に長すぎだよね!THE☆オーナーの輝血さんにはかなり文句を言われました。長ぇよ!こっちのことも考えろよ!みたいな…本当にありがとうございました。いや、そんなことはないです。優しい大家さんです。 まず、今回のシリーズコンセプトは『主人公を空気にしない☆』でしたが…無理でした。orz セダ、頑張って!というのも、水の大陸はどこかでもいろいろ書いていますが、神国兄弟王が存在感とかいろいろすごいスペックすぎて、主人公が空気に。そして楓がいろいろかわいそうでヒロインは誰だ?みたいになっているような…。ヒロインは作者も誰かわからなくなってきている現状です。いや、楓は違いますが。 他にも私の大好きな流血・絶叫を90%カットでお送りしています。健全ファンタジーを目標にしてモグトワールの遺跡は青少年に優しい成分で制作されております。なので、殺す時はサクッと(おい)あっさり。あと、未成年の戦いも色々な児童書などを研究して、過激にならないよう、お子様キャラに配慮しておりま...
モグトワールの遺跡

モグトワールの遺跡 011

第1章 水の大陸 4.水の魔神(2) 041  その後、モグトワールの遺跡に行く事を別れの挨拶と療養のために城で世話になった礼を言いがてら、一行はキアを訪ねた。キアは執務をしつつ、器用に一行と面会を果たした。 「モグトワールの遺跡だったね?」 「はい」  キアは少し筆を止め、思案する。隣にいる眼鏡姿の青年に語りかけた。 「確かモグトワールの遺跡は公共地にあるが、管理はシャイデの神殿が任されていたはずだが?」 「左様です、陛下。それくらいのことは覚えておられましたか」  ぴくり、とキアの眉が動いた気がしたが、この主従関係にまで口をはさむ事はないと一行は黙っていた。 「今はどうなっている?」 「さて、前王の時代は神殿にも暗部がございましたので、よくは存じませんが。確か管理などをしていたようには見えませんでしたね。気軽に管理を他国に任せていてもおかしくはないのでは?」 「何?」  キアは青年を睨むような目つきで問い返した。 「ラダ様の時ですからね。彼女は神殿をゆぅるりと改革したお方ですから」 「っ、褒めてどうする! ……ニオブとハーキをここに」 「かしこまりました」  眼鏡姿の青年が一礼して...
モグトワールの遺跡

モグトワールの遺跡 010

第1章 水の大陸 4.水の魔神(1) 037  この世を、この世界に流れた時間はいくつかの時で区切る事が出来、それを人は時代と呼ぶ。  創世記――それは神がこの世を創った時代。この世を形創り、神が見守り、そして人によって世界が一度滅ぶまでの期間を、人はそう呼んだ。  次が神代――。しんだい、ともかみよ、とも呼ばれる。神に代わって魔神が再びエレメントをもたらし、それによって世界が息を吹き返し、魔神に見守られた時代。人が二度の罪を犯し、世界が半壊したまでの期間。  ――時は神代。  各魔神が宝人を世界に送り出して、双方の人々が手を取り合って暮らすことを魔神は宝人を通して見ていた。世界の在り様に、大変安堵し、また嬉しく思ったという。そこで、魔神は直に神の創った世界というのを体感したくなったという。  そこで、魔神は己の創った人、宝人の身に宿ることで、仮の肉体を得、己の治める大地に降り立ったと言われている。  時に魔神は人々と同じように暮らし、時に宝人としてエレメントの恩恵を与えたとも言われている。その最中で盟約の国を創ったとも言われているし、魔神として、人に崇められるようになった奇跡を多数起...
モグトワールの遺跡

モグトワールの遺跡 009

第1章 水の大陸 3.火神覚醒(5) 033  シャイデ上空の空は何処から見ても朱に染まっていた。その真下を空に届くかというほどの炎の固まりが、否、炎の巨人が空に向かって吠えている。 「なんだよ、あれは!!」  セダは腕を止めて上空を見上げてしまった。周囲にいたラトリア兵も同様に紅い炎の巨人を見上げている。周囲の宝人達は我を失くした様子のまま、ただ、炎の固まりをまるで崇拝するように見上げている。  吠え終わった炎の巨人は軽い動作で一歩踏み出す。すると直後に足元がぐらりと大きく揺れ、セダだけではなく周囲のだれもが地面に叩きつけられた。 「地震だ!」  ラトリアの誰かが叫ぶ。巨人が歩いたその動作で地震が起きたという割には、細かな揺れがずっと続いている。ぐらぐらと足元がおぼつかない。  セダはとりあえず身を起こす。ラトリア兵は完全に戦意を喪失したようなので刃を収めた。そして直感が告げる。――あれは、楓だと。  そう考えていた時、地震の次に空気が振動する。それは音だった。何か分からないが、歓声に似た音が響き渡る。何かを喜んでいるような、誰かの歓声がどこからともなく響き渡る。何かが起こっているの...
モグトワールの遺跡

モグトワールの遺跡 008

第1章 水の大陸 3.火神覚醒(4) 029  ハーキは円卓会議を勝手に開催し、十分後にきっちり女性用の鎧を身につけ、腰に二振りの剣を下げて登場した。その水の乙女と呼ばれるたおやかで優しげ、儚い印象の乙女像はがらがらと崩れ去る。というか別人のようだった。その隣には下級の巫女がつきしたがっている。 「偵察したんでしょ。報告」  会議は全員が席に着くのを待つこともなく始まった。それどころか開催者であるハーキも席についていないので、誰も席に着くことが出来ない有様だった。 「は! 確かに禁踏区域は何者かの攻撃を受けており、宝人たちが逃げ惑っております」 「敵は?」 「……紫地に白の紋章。……ラトリアと思われます」  ハーキは頷いて誰も用意していないと最初から気づいていたらしく、ハーキの背後の壁に地図を張り出した。 「で?」 「と、申しますと……?」  報告した隊長は不思議そうに問い返す。 「だから、攻撃されているのを見たわけでしょ? どうしたのよ」  ハーキは地図上に印を書き込もうと筆を構えている。 「二部隊が阻止に回りましたが……」 「それはどこから? 敵の数は? 方角はどっちから? 風向き...
モグトワールの遺跡

モグトワールの遺跡 007

第1章 水の大陸 3.火神覚醒(3) 025  フィスはすぐにシャイデに向かう必要があるというセダたちに護衛をつけて国境まで送り届けたばかりだった。丁度入れ違いでシャイデの使いが届き準備に明け暮れている間に、シャイデの国交を結び直すための団体が到着した。  本来なら城に招待するところだが半壊のままなので、王家が所有する屋敷の方に案内する。フィスは到着の知らせを聞いて、案内した屋敷に足を向ける。 「陛下、今回の中心人物であります、エギリ大臣です。シャイデでは主に我が国との国交に際し、様々な便宜を前から取り計らって下さっている方です」  フィスはその大臣に向けて歩み寄り、落ち着いて挨拶をすませる。さて、ジルの話ではキア王が来ているという話だったが、紹介されないということは来ていないか、まだ隠れているのか。 「本日は長旅でお疲れでしょう。夜にはささやかな宴を催しますので、それまでごゆるりとなさってください」  フィスが言うと、大臣も頷いてそこでお開きとなる。僕の数のも多いし、それ以外の重鎮も何人かいるなかで、キア王らしき人物かは見繕えなかった。  しかし、ジル曰く、フィスに会いたいのだからい...
モグトワールの遺跡

モグトワールの遺跡 006

第1章 水の大陸 3.火神覚醒(2) 021  駆け込んだ城の中はすでに煙と熱で正直言えばとても居られる状況ではなかった。しかしセダは素早く目的の場所へ行こうとした瞬間、かすかな声を聞いた。 「セダ!」  振り返って絶句する。そこには煤にまみれて、汚れた光の姿があったのだ。セダは自分も同じように煤で汚れているのだろうとは感じたが、そんなことは正直どうでもいい。 「お前! なんでここに!!」 「楓は私が助けるのよ! 私のわがままなの。セダだけには任せちゃだめなんだよ」 「だからって、お前なぁ!」  セダが本気で怒って言う。自分がこの炎の中を突っ切ったことすら正気でないと思っているのに、小さな光が後を追ってくるとは。考えなしというか無鉄砲というか。 「セダは私や楓のためにそこまでする必要ないの。私が、私の……ごほっ」  光の言葉は熱気と煙による咳で途切れた。セダははっとして舌打ちを一つ。ポケットをあさっていつも身につけている止血帯を取り出すと、短く切り取り光に渡した。ないよりはましというものだ。 「それで口と鼻を覆え。煙を吸っちゃダメだ」 「わかった」  セダは自分も同じように止血帯で口を...
モグトワールの遺跡

モグトワールの遺跡 005

第1章 水の大陸 3.火神覚醒(1) 016  人と宝人と動物が全て等しく、全て仲良く暮らしていた時代。人の住む町には宝人と人が半々住み、互いに種族の差など気にせず暮らしていた。  人はエレメントをありがたがり、宝人を敬い、魔神に感謝の祈りを捧げる聖なる場所を作った。その場所は魔神がその大陸に初めて宝人を遣わし、人に恩恵を与えるようにした場所でもあった。その場所は魔神と唯一繋がれる場所と人に信じられ、その場所には神殿が建ち、魔神の信仰の礎となった。  やがてその場所に国が生まれ、その国は神殿と共に魔神の祝福を受けた約束された国となった。  人々はその国を魔人との盟約の国として永久の平和を望んだ。  地上に遣わされた多くの宝人もそれを願い、魔神はそれを叶えたという。  一つの大陸にたった一つの盟約の国。その国は神殿と共に人だけではなく宝人の為、その世界のために常に平和を祈り、平等で、幸せな国づくりを目指すと約束した。  魔神はその想いをサポートする為に、その国を導く王に祝福を授けた。  すなわち、この世界で唯一人と宝人との架け橋となれるよう、双方の力を持つ『半人』という存在を。  各エレ...
モグトワールの遺跡

モグトワールの遺跡 004

第1章 水の大陸 2.大国鳴動(3) 013  ジルタリアという国に行った事がないのはこの面子の中では光だけだった。  なんだかんだいっても、優秀な成績を残しているセダ達は任務で水の大陸内にはほとんど足を伸ばしている。グッカスなど頻繁に訪れていると思われた。  リュミィは宝人だが、成人しているらしく一人旅をよくしているとのことだった。  光は初めて見る人間の大きな国を見て、きょろきょろと視線を移している。一行は密入国のような形に近い入国をしたのだが、いつもなら首都に行き着くまではない検問がすでに河口に設けてあって、町ごとに検問があって大変焦った。  なにせ自分達人間は身分の証明ができるが、光については考えていなかったのだ。  しかし、そこはグッカスが役人をどうにか言いくるめた。本当に特殊科の授業は何やってんだ、と今ほど突っ込みたかったことはないと後にセダは語る。 「今の時期はシャイデとのやり取りが盛んで、もっと町には人がいた気がするんだけど」  テラが寂しげなメインストリートを歩きながら呟く。  ここは城下町。首都に一番近い河口から町を一つ抜けるだけで入ることができ、町の端から城を見る...