
天狗 01
天狗第一話 夜鳩「は。わかりました」 そして、あの、霊山とさえ呼ばれている深い山へと、私は足を踏み入れる。 ここは京から少し離れた昔の京、奈良。その奈良の山に私は用があってきた。今、京を悪しき霊が彷徨っていてどこぞの貴族を苦しめているんだとか。 安部晴明亡き今、頼るのは外法師しかいないのか、またまた陰陽寮の陰陽師どもは貴族の相手が忙しいのか。だったらお前らが相手をせいと言いたいが私は名の知られていない外法師、言える立場ではない。なのにどうしてお呼びがかかったのか。 怪しいがその依頼、断るには自身の肉親を殺すと同義。ならば、仕方ない。たとえこの命尽きようとも、応えてやらねば何のための親孝行か。 空気が澄んでいる。きっと人が踏み入れぬから清浄な空気に満ちているに違いない。こんなところに本当に悪霊の原因なぞ、居るものか。おらぬだろう。というか、こんな清浄なる地に霊などおれるはずもない。わかっている。 しかし、あの無能な陰陽師共のせいか、はたまた、貴族の因縁か。どちらにせよ、何かしらの証拠がなければ、納得しようはずもない。仕方あるまい。適当に探すとするか。 どれ位この山に入ったろうか。自分で山...