毒薬試飲会 008

018

「詩の会は昨晩だった。なぜ、来ない?」
 ノワールは屋敷の屋根の上で二人の男と向かい合っていた。
「行けると思うか?」
「思わないな」
「じゃあ、こちらの要求はわかっているだろうな?」
「ああ」
 ノワールと立ち向かっているのは翹揺亭の男娼たちだ。一人は見たことがある。漆黒の髪、白い肌。白い肌に良く映える黒い着物。着物は着崩していて白い胸元が色香を振りまいている。男娼、佐久。
 もう一人はモスグリーンの髪の毛をした男だ。ノワールは見た事がなかったが噂でその者を知っていた。薄い桃色の瞳。彼の瞳の色は天然のものだ。先天性白皮症。髪は人工ものだ。白い髪は老人のようで許せなかったらしい。彼の症状は軽いものなので、この快楽の土地の技術と合わされば自由に行動できる。普通この病気の者は太陽の下を歩けないのだ。皮膚も目も全ての色素がないために常に生命の危機が付きまとう病気だった。
 でも本人はそんなことは全く気にしないで人生を謳歌している。そんな性格は三枚目、でも顔は一流な二枚目の男娼の名は柏木という。ちなみに彼の髪の色は彼の名前からきている。
「大体、なんで俺が借り出されんのよ、入矢のために」
「あんたが無駄に強くて、暇だったから」
 佐久が冷たく言った。柏木の男娼としての人気は22番。裏の実力は8番目。佐久に比べれば劣るが中々の実力だ。
「入矢キライなんだよ。俺より人気高くなりそうだったから」
「考え方があんた、子供。だからいつまで経っても黒鶴に相手にされないんだよ」
「そうさ! なんで黒鶴は俺より後輩のくせしてにいさんはつけないし、寝間作法も付き合わないってどういうこと!!? これが終わったら御狐さまに言ってぜってーつき合わせる。あいつイかしたいんだ、俺」
「あんたがそんなんだから、相手にされないんだよ」
「そういや、お前も俺より後輩!! 柏木にいさんと呼べよ!」
「呼ぶ気が起きない」
「なぜに!!?」
「それはとっとと入矢を救出に行かないから」
「そうか。仕方ねー。行ってやるよ。晩夏は?」
 柏木の妙にずれている会話に佐久は突っ込まない、突っ込んでいると疲れるのだ。
「とっくに探してる」
「負けらんねーぜ!!」
 柏木はそう叫んで、闇の中に消えて言った。
「いや、競争じゃないんだけれど……」
 佐久はそう呟いて、ノワールに向き直った。攻撃を仕掛けてくるのかと身構えたが佐久は動く様子がない。快楽の土地の人工月を見上げている。月明かりが似合う男だった。
「入矢はお前を愛したか?」
「いや」
「入矢はさ、あの歳まで恋愛感情を持った事がない寂しいやつでな。翹揺亭の誰もが初物を捧げるまでに恋をするんだよ。自分の運命を知っているから、一人前になったらそれは本気の愛か疑わなきゃいけないし、自分も一歩引かなきゃいけない。だからみんな14までに恋位するんだよ。たとえ実らなくても、身体を重ねる事ができなくても」
 佐久はそう言って笑った。佐久自信も経験があるんだろう。
「同い年の咲哉は裏方の女の子、雪乃は猫射(ねこい)にいさんっていう男娼に恋をした。洸は入矢に恋してた。
 でも、入矢は恋心を誰にも抱かなかったんだ。自分の運命を誇りに思うこと以外見えていなかったんだよ。
 翹揺亭の男娼ってもさ、三十路を過ぎたら惨めなもんだ。年齢ごまかしても、いずれ飽きられる。飽きられたらオワリのこの世界でこの仕事に熱意燃やして、人生振り返った時、虚しくなるんだ」
 佐久はまだ20才前半に見えるがいったいいくつなんだろう。若いのか、若作りなのかわからないのが色を売る者の努力と才能だ。翹揺亭には80人色を売る人間がいるけれど、その全員が20代に見える。
「そんなときにさ、恋してたらそうも思えないだろ? 自由な恋愛はいい経験になるんだ。入矢はさ、人を愛するって行為を理解してないんだよ。オレ達の教育が悪かったのかもしれない。身体を売って睦言を囁くんだ。そんな駆け引きを教えてきて、今更人を愛することの意味なんかわからなくなっちまったんだよ。入矢は」
 入矢はどこが好きなんだ、と訊いた。それが響かないから伝わらないとも言った。ノワールに言った言葉と思っていたけれど、あれは入矢自身にも言っていた言葉だったんだろうか。
「多少強引でも、入矢を幸せにしてくれるなら、オレはお前でもよかった」
「え?」
 ノワールは佐久を見つめる。
「だから、残念でならない。お前が入矢を大事にできなかったことが」
 佐久が呟いたとき、背後に音もなく二人の人影が着地した。当然、腕には入矢が抱えられている。

 柏木が晩夏に追いついた時、晩夏は柏木を招いた。電子錠が簡単にかかっているだけだった。おかしい。入矢にあんなに固執していたのに、この招かれたような感覚が消えないのは何でだろう? 晩夏はそう思った。
「ノワールは?」
「佐久が相手してる」
 柏木の言葉に頷いて晩夏は鍵を開け、部屋に入り込んだ。部屋は真っ暗だった。
「わー、すげー趣味だな。全部黒だ」
「……ここはノワールの自室ね」
 部屋は入るとすぐに広いリビングだった。家具も全て黒い部屋のソファに黒いシーツが辛うじてかかっている。ソファの周りの机にはいろいろな書類やら電子器具が散乱していた。
「寝室はこっちか」
 柏木がそう言って奥の扉を示した。晩夏は頷いて扉を開ける。禁術の気配は全くない。入矢から聞いて禁術がいきなり発動することを危惧していたが全くそんなことはなかった。
 扉を開けるとこれまた黒い部屋の奥、ベッド上に求めた姿があった。
「入矢!!」
 晩夏と共に部屋に入った柏木は独特の臭いを感じて、入矢の状態を見る。
「こりゃ、ひでーわ」
 黒いシーツに沈んだ入矢は気を失っているようだ。ベッドの上の状況を見れば今まで何をされていたかわかる。上にシャツを一枚羽織っただけの入矢の格好は全裸と等しい。柏木は入矢の下半身を観察して呟いた。
「出血。……初物は奪われたか」
「後始末くらいしなさいよ」
 晩夏が怒って入矢の身体を清めるために居間に戻っていく。この精液とおそらくローションに塗れた身体じゃ、運ぶ気が起きない。晩夏が居ないのをいいことに柏木は入矢の姿勢を変えて、入矢の後口に指を突っ込んだ。意識がないせいでたいした抵抗もない。ぐちゅっと濡れた音がしてすぐに白い液体が出てきた。晩夏が居ない間に全て掻き出してやる。
 入矢の顔を見てもこりゃ合意の上のことじゃないな、と冷静に判断する。そしてとんでもない痕を見つける。
「ありゃ……首絞められてら」
 首輪してないからちょっとは罪が軽いかと思えば、救いようがない痕残してくれている。晩夏が居ない間に消してやることもできるけれど、ノワールはこうなる事を知っていたはずだ。あえて残したのなら、消すこともない。
「取り返されるのは覚悟の上か。……気に入らないなぁ、漆黒の」
 柏木が呟いた時、扉が開いて晩夏が容器に水を張って現れた。布を柏木に渡す。
「あんたも綺麗にしてあげてよ」
「オーライ」
 柏木は黙って入矢の身体を拭き始めた。頭の方で晩夏が騒ぎ始めた。痕を見つけたのだろう。柏木は何も言わず、入矢がどう思っているのかが気になった。
 これで満足だったのだろうか? 入矢は。そしてノワールは。

「あんた、覚えてないさいよ! 入矢にこんなことをして!!」
 入矢と同じ赤い髪の女、娼婦、晩夏が怒鳴った。入矢は翹揺亭の皆に愛されていたんだな。柏木の着物に包まれた入矢はいまだ目を覚ましていないようだ。疲労が表情から伺える。
「止めろ、晩夏。仕事はここまでだ」
 佐久がそう言って後を向く。攻撃しようと思えば、できた。でも、できなかった。
「さよなら、入矢」
 ノワールの言葉は風に乗っても、誰にも聞こえない。柏木の腕に抱えられた入矢が見えなくなるまでノワールは立ち尽くしていた。
 もう、会うことがない愛しい人を。

 入矢が再び目を開けたとき、そこは黒い部屋ではなかった。明るくて綺麗な部屋。
「入矢!」
 耳元で呼ばれた声が違う。だからわかった。
「洸」
「おかえり、入矢」
 体は重くて何も動かせない。気付けば入矢の周りには咲哉も雪乃も、すべて翹揺亭の顔があった。
「ただいま」
 入矢はそう言って涙を流した。それを再会の喜びと洸は受け取ってくれたようだけれど、違う。ノワールから一方的に別れを示されたことに戸惑いを感じているのに、妙に納得してしまっている自分がいた。
 ――さよなら、ノワール。お前は自分勝手だよ。勝手に俺を攫って、勝手にお別れか。最後だから、もう二度と会わないから、俺を抱いたのかよ、ノワール。
 御狐さまも入矢が帰ってきたことで顔を見せてくれた。仕事はしなくていい、ゆっくり休めといってくれた。ノワールがつけた痕は時間が経てば消えた。体に残した痕なんて皆消える。ノワールが俺を抱いた事実なんて、その感触も記憶も薄れていく。
 ノワールは翹揺亭に姿を見せない。それどころか翹揺亭との契約は打ち切られたと訊いた。ノワールは入矢を身請けするために使った金を翹揺亭に要求しなかった。入矢は翹揺亭に出戻ったのに、そのお詫びのお金も受け取らなかったそうだ。
 それどころか二度と翹揺亭の前に姿を現さないと誓ったという。そうしてただ無為に入矢は一ヶ月間平和に過ごした。
「そろそろ、仕事をしてもらおうかと思うんだが」
 弥黒さまにそう言われて、今更自分が男娼になりたかったのだと思い出した。今となってはどうでもいい事のように思える。
「ノワールに初物は奪われたと柏木に聞いたが」
「はい」
「取り合えず、お前は3ヶ月で同期の洸たちがしてきた最低のことを覚えてもらおうと思う。だからこれからは寝間作法を中心にするつもりだ。とりあえず今日は佐久のところに行ってくれるか?柏木と黒鶴も相手をしてくれる」
「はい。わかりました」
 浮かない顔を隠す事もできず、入矢は弥黒の前を辞して、そのまま佐久の部屋に向かう。寝間作法なんてその言葉自体がなつかしい。ノワールのところに居た時は性生活と無縁の生活をしていた。
 そういえば俺は身請けされたのに最後の一回、たった一回しかノワールの相手をしなかったんだな。しかもその最後の一回は媚薬は使われるは首は絞められるわ、ロクな初体験じゃなかった。
 入矢は男だから男娼として育てるには寝間作法の相手も男じゃなきゃいけない。抱かれるのも抱く経験もしなくてはならない。たぶん、入矢の体つきなら最初は女性客の方が少ないと見込んでいるのだろう。
 人気者の男娼をいっきに3人も入矢につけるなんて俺は期待されているんだなと思った。その期待が以前なら嬉しかったはずなのに、今は重く感じる。
「佐久にいさん、入矢参りました」
「入れー」
 返事は佐久の声ではなかった。柏木の声だ。佐久の部屋は和室なので襖を横に開く。すると入矢はいきなり固まる光景を目にした。そしてこんな感じだった、となつかしく思った。
「ん、ふっ、んん!!」
 入矢が入ったときに先輩である三人の男娼はすっかりお楽しみの最中だった。佐久を相手にコトがすでに始まっている。
「ううン!!」
 入矢が入ってきたときにちょうど、佐久の顔に柏木が放った精液が飛び散る。口元を白くして佐久が顔をようやく上げる。
「アンタ、予告してよ!」
 手の甲で柏木の精液を拭って佐久が文句を言った。佐久は今日は紺色の着物を着ていたがそれはすでに着物としての機能を果たしていない。白い帯が解けて入矢の足元まで伸びている。先ほどまで佐久は柏木に口でご奉仕していた。しかも後に黒鶴自身を受け入れたままだ。見事な3Pだ! と入矢は見ていて恥ずかしくなった。
「良く来たな、入矢。今日はお前を鍛えると同時に黒鶴と佐久を鍛えなきゃいけねーんだ。いきなりごめんなー」
 柏木が佐久の文句を受け流して笑顔で言う。確かにこの中で一番の先輩は柏木だ。
「お前、性感帯開発だろ? いきなり濃いのやってもつらいだろうと思って、この二人の訓練にも付き合ってくれよ」
「は、はい」
 いきなり圧倒された入矢はただ頷いた。入矢の今日の訓練は性感帯開発で、佐久の訓練は身体をいじられる中で入矢の性感帯開発をちゃんと行う事。これは複数のお客様を相手にしなきゃいけないときに自分がただ抱かれるだけじゃいけないのでお客様にサービスできるようにする訓練らしい。
 感覚コントロールの一環と考えればいい。だから早速佐久は男二人に抱かれている。さすが4番人気の男娼だけあってまだまだ余裕そうな顔をしている。つまり入矢の性感帯開発を行うと同時に佐久は抱かれているというハードな訓練だ。
 最後に黒鶴の訓練はひたすらイかない訓練らしい。この訓練は娼婦相手に行うものだが黒鶴は残念な事に女性より男性客を抱くほうが多い男娼なので相手も男の佐久になっている、という寸法だ。
「よ、入矢。俺とお前がつらいけど、よろしくな」
 佐久はそう言って笑うと入矢を傍に招いた。そのまま近くに寄ると佐久が入矢の顎をつかんで口付ける。舌使いが上手い佐久は入矢をすぐに喘がす。舌を絡めていると唐突に佐久の口が離れていく。入矢が驚くと黒鶴が佐久の上体を持ち上げて脇から両方の乳首をいじり出していた。
「あン! ちょ、こく……アア!!」
 佐久の痴態を見て入矢は下半身が反応し始めた。ヤバいと思う表情を柏木に見られていて、釘を打たれる。
「ほらァ、入矢自分から佐久んとこいかないと。俺と黒鶴は佐久を攻め続けるからさー」
 黒鶴と柏木は入矢に手を出す気はないらしい。佐久に任せるようだ。背中を向けて座った形で佐久は黒鶴に揺さぶられる。佐久が苦しげな悲鳴を上げた。その佐久に向かって柏木が無理矢理足を開かせて佐久自身を咥える。
「う、あァ……い、りや!!」
 佐久は目は入矢の方を向いて快感に耐えつつ、入矢の下半身に手を伸ばした。素早く入矢自身に指を絡ませる。佐久は上半身をねじって横に倒れると入矢の上に覆いかぶさった。その行動力には入矢もただ驚くばかりだ。だって柏木には佐久自身を、後は黒鶴と繋がっててしかも胸も攻められているのに、入矢に手を出す余裕があるのだ。
「余裕だな、佐久」
 耳に息を吹き込まれ、黒鶴が佐久の耳に舌を差し込む。佐久が嬌声を上げて、それでも入矢を頂点に登らせていく。佐久の身体は小刻みに痙攣し、息も上っている。佐久の訓練は黒鶴の妨害によって進まない。今も佐久は無理矢理首を最大限にねじって黒鶴のキスに応えている。入矢は自分をどうにかして欲しいな、と思ったが言わなかった。
「あ、柏木ィ! ダメ、出る!」
 佐久が叫んだ時、入矢の鈴口に佐久の爪がくいこんだ。今度は入矢が声を上げた。
「あぁああ!!」
「色っぽく、イクぅって鳴いてみ?」
 佐久のものを舐め上げて柏木が再び佐久のものをくわえ込む。たぶん、舌でいろいろ刺激されているんだろう。
「あ、も……イクぅうっ!!」
 佐久の表情はヤバかった。入矢はつられるようにして佐久の手の中に射精した。
「なんだ、入矢。佐久見てイったのか?」
 黒鶴がからかうように低い声で呟いた。カっと羞恥に染まる入矢。柏木が意地悪く言った。
「佐久、お前が構ってやんねぇから入矢がお前の顔をオカズにしたぞ?」
「うるさ……。見てろよ」
 赤い目元をした佐久が入矢を誘惑するように自分の指を舐め始めた。指がしっかり濡れると、佐久が入矢の後を撫でる。その次の瞬間には入矢の中に佐久の指が侵入していた。
「イヤ! ああ!!」
 入矢はノワールの指を思い出していた。そしてノワール自身を。あの時の記憶が蘇る。
「入矢?」
 佐久が入矢の顔に浮かんだ恐怖を悟って指を抜く。その顔は黒鶴も柏木も見ていたらしい。
「あ、すいません」
 入矢は我に返って謝った。すると佐久が入矢の頭を撫でてくれた。
「今日はもういい。入矢、お前今日は変更して、佐久の痴態見てもイかないように努力しろ。感覚コントロールの訓練に変えよう。反応しないように務めろよ。そこで見てていいから。佐久、お前は続行。代わって俺にご奉仕な。黒鶴は言葉攻めもプラスで。さ、再開、再開」
 柏木がそう言って、入矢に笑いかけた。すいません、と恐縮して入矢は三人が見え邪魔にならない位置に下がった。どうしてだろう。男娼になるには欠かせない訓練なのに。
 自分の中に佐久の指が入ったとき、怖かったんじゃなかった。ノワール以外のモノが入ってくるのがイヤだったんだ。
 きっと兄さん方は誤解している。たぶん、ノワールに強姦されたから後ろに入れられることに恐怖を抱いていると。
 でもそんなの男娼としては致命的だ。一人の男以外受け入れたくないなんて、もっとも男娼としてだめなことだ。
 あの時、ノワールに何て言えばよかったんだろう? ノワールは俺と別れてしまうことを知っていた。恐らく、自分を抱くか抱かないか迷っていたはずだ。その夜翹揺亭からの迎えに応えなくてはいけないことをノワールは知っていた。だからたいした抵抗もしなかったと聞いている。
「勝手だ」
 小さく呟いた入矢の独り言は佐久の喘ぎ声に紛れて聞こえなかったようだ。佐久の痴態を見ても入矢が反応しないのは心ここにあらずだからだ。それを柏木も責めない。考えるうちにだんだん腹が立ってきた。ノワールは勝手だ。自分をあんなに望んで父親殺して、洸を人質にとって無理矢理連れ去って、その上、従わないって監禁生活を一年半もして、挙句に強姦して、それでお終い? 終わりになるとでも思ってんのか!! お前はよくても、俺がふっきりつかないっつの!!
「今まで勝手にしてたんだ。俺が今度は勝手にさせてもらってもいいよなぁ?」
 その言葉を佐久が、柏木が黒鶴が聞いて微笑んだ。その三人の様子に入矢は全く気付いていない。
「入矢、見てるか?」
「あ、はい!!」
 入矢はノワールのことを頭の外から追い出して、佐久を見つめる。
「けっこう、クるけど、ちゃんと見て我慢すんだ! じゃねぇと訓練になんねーぞ!」
 柏木に怒られて入矢はハイ、と返事をした。