毒薬試飲会 022

049

「ここは、第二階層だな。もともと俺の意識がはっきりしているのが、ノワールの屋敷にお前と一緒に行ったところまでだから、戻った階層としては、正しいのか」
 ハーンは頷きながら言う。アランはどちらかというと、記憶があいまいで、第三階層にいたはず。そこで入矢を見て、なぜかノワールの屋敷にいたという寸法だ。
「俺たち、第二階層に上ったのか? どうやって」
 ハーンはそんなアランを見て、ため息をひとつ。
「そうか、お前覚えてないのか。……話すべきか? 一応」
「え?」
 ハーンはそこで入矢のことを思い出した。アランが執着した入矢はどうなったのだろう。
「お前、入矢とは会ったのか?」
「ああ。仲直りしたぞ」
 さらっと言われて、ハーンは驚いた。
「ちょ、待て。アラン。じゃ、なんでお前は俺と一緒にいる?」
 アランの目的は入矢の復讐だったはずだ。そのために彼に追いつくために自分が必要だったはずだ。入矢を復讐する目的が失せたのなら、ハーンは必要ないはず。
「そんなの、お前といたいからに決まってんじゃねーか」
 何言ってるんだ? という顔で心底不思議そうにアランはハーンを見る。
 ハーンは大いに焦った。待て待て待て待て!! じゃ、なにか。いつの間にか俺はアランに惚れられたのか? だからこそのあの行為なのか? それこそ、んな馬鹿な。
「あのな、アラン。俺にもわかるように説明してくれ」
「ああ。そうだよね、俺のパートナーになるんだから、そこらへんわかってもらわないとな」
 アランはそう言って順に話した。ハーンと別れた後に、入矢と話す機会があったこと。なぜ自分の生活を壊し、そして自分を捨てたのかを聞いた。すれ違いと誤解があって、入矢と和解できたこと。
「じゃ、お前俺といる必要ないじゃないか」
「なんでだよ? 俺の夢、知らないのか?」
「……知らない」
 そうだ、復讐のために組んだ手だ。お互いの事など話した事はなかった。
「第一階層に行く事さ! もともとエーシャナとの約束を入矢でつないでいたようなものだ。だから、おれには禁じられた遊びのパートナーが必要なんだ」
「なんで? なんでこだわるんだよ」
 ハーンにとって第一階層はそんなに魅力のある世界ではなかった。ただソニークの身体を完全に治す方法があると噂に聞いて始めた禁じられた遊びが乗りに乗ってしまっただけだった。
「青い空が見たいからさ!」
「……そんな、理由」
 ハーンが呟く。アランが振り返って笑った。
「ああ!」
 まぶしそうに目を細めて、ハーンも微笑んだ。
「ほんと、ばか」
「んだとー!」
 ハーンは想う。確かにソニークを愛していた。今も愛していると言っていい。だけど、ソニークを理由にして生きる事を放棄していた。そのことだけ見ていれば幸せでいられたから。
 アランはそんな自分の心の殻ごと壊すどころじゃない。めちゃくちゃに破壊していってくれた。そして光を差す。てか、影を作るものさえ破壊しつくされた。
「ほんと、単純バカ」
 でも、その馬鹿さ加減が今は救われる。
 ――なぁ、ソニーク。俺はこの馬鹿に付き合うさ。最初に馬鹿みたいに笑うお前に惹かれたように。
「せっかくだ、第二階層位の実力はついただろうし、金を使って簡単にレベルアップしますか」
 ハーンがそう言う。アランは頷いた。アランも今回のことで成長したように見える。というか入矢と仲直りしてふっきれたのか、表情が明るい。入矢さまさまだ。
「……見つけた!」
 そんな二人の背後から声が響いた。先にハーンが振り返って固まる。
「あ! お前!!」
 アランが相手をにらみあげた。その、黒がよく似合う男、ノワール・ステンファニエルを。
「何しに来た?」
 アランが叫ぶように言う。ノワールはそんな様子のアランに構わず、ハーンに目配せした。
「私たちが気付いた時には屋敷にいなかったから、安否を心配していたんだ」
「なぜ? お前がそんなことを……? というか、何しに?」
 ハーンもいぶかしげに問う。ノワールはそこで二人に向かって頭を下げた。
「え?!」
 アランが驚きに身を固める。
「私は君たちに謝罪をしに来た」
 ノワールはそう言った。真剣な顔したノワールは言葉を重ねる。
「まずは、貴方に。ハーン・ラドクニフ『黄色い虐殺者』」
 ハーンも驚いた。
「貴方の奴隷ソニーク・デュバリサンク『万緑の魔女』を殺めてしまったことを私も、入矢もずっと謝りたかった。だが、できなくて……申し訳ない。大切な存在をこの手で消してしまった過去は変えることなど、できようはずがない。出来る事ならなんでもして償いたい気持ちはあるのだが……それで許しを請うつもりなど、ない」
「お前は……事故だったと。仕方なかったと、そう言わなかったか?」
 アランはハーンがソニークを殺した相手を思い出してしまったと、口を押さえる。
「そうだな、その通りだ。あれは私のようなもの。私の思考と記憶、そして身体、何一つ違わない私のドールが言った事だ。そう、貴方の言う通り、そう考えていた私がいることも事実だ」
 そう、ハーンにそう言ってのけたのはノワールのドールであるブランだ。
「だが、お前は謝罪に来た」
「入矢と決めていてね。再び出会う事があれば、二人で謝るべきだと。貴方が階層を降りて、行方知れずになった時に、謝るべき時間を失ったと、知ったその時に」
「……その入矢は……」
「入矢も誘ったんだ、アランに会いたいだろうと思ってね。だけど、アランと約束したから、ときいてくれなくてね。せめて私だけでも行かねばなるまいと……考えた結果だ」
 アランはその瞬間に心が温かくなった。入矢は約束を守ってくれるのだ、今度こそ。
「そして、アラン・パラケルスス。貴方にも謝罪を。入矢が世話になったにも関わらず、一連の事に巻き込んでしまって申し訳なかった。もとはと言えば私と入矢の思い違いが招いたことだ」
「いいさ。お前じゃなかったんだろ?」
「だが、私のドールである以上、私にも責任はある」
 さすが、入矢が好きになった男だ。責任感が強い。そこら辺は認めてやってもいい。
「じゃ、二度と入矢を泣かせるなよ! それで俺は許す」
「……あ、ああ。もちろんだ」
 ノワールが頷く。ハーンはやれやれ、と頭を掻いた。
「それと、貴方にずっと伝えきれなかった事があって……」
 ハーンにノワールは言った。
「ソニーク・デュバリサンクの遺体を預かっている」
 ハーンの目が見開かれた。
「そ、そんな馬鹿な……死んだ……あの時の……」
「貴方がダメージから目が覚めないとわかった時に、規約を思い出して。せめてと考えて私が買い取った。もし、時間があるなら、その、今から……」
 ノワールの肩を掴んでハーンがこらえきれないような顔をする。少し困惑しているのだ。アランはハーンの肩をたたいた。
「行こうぜ、ハーン」
「ああ」
 ノワールの示す車に乗り込んで、二人は再びノワールの屋敷へ赴いた。不思議の国の住人が暴れただけあって、屋敷は半壊しており、修理というよりは建て替え、といった感じだった。
「あのさ、死体腐ってたりしないのか?」
「特殊処理と禁術を施している。そのままの状態だ。遺体の安置場所まで戦いの火がいかなくて私も入矢も一安心していたところだ」
 アランが閉じ込められていた地下ではなく、普通に建物の中の一室に、白いガラスケースの棺があった。ノワールが棺の蓋を外し、指を鳴らす。すると氷のようなもので覆われていた身体が自然な状態で棺の中に姿を現した。まるで死んだのが今のように、彼女の安らかな寝顔があった。
「この人が……ソニーク」
 アランが呟く。深い緑色は本当に植物の葉のような生き生きとした色であり、華奢な身体にはアランがみた記憶とは違うドレスアップがなされていた。
「ソニーク!」
 ハーンはゆっくりと優しく彼女の身体を抱き起した。しかし彼女は目覚めない。彼女の冷たい身体を抱きしめてハーンが泣く。声もなく、ただ肩を震わせて彼女を想ってハーンが泣く。
 ノワールはアランの肩を抱いて、部屋から出るよう促した。アランもそれに従う。静かに閉められた扉の前でノワールが止まった。そしてアランを見る。
「……入矢に会うか?」
「いや、いーんだ。約束したから」
「ふふ、同じ事を言う。ではどうする? 屋敷を案内しようにも、この壊れ具合では……」
 ノワールは困ったように言った。
「なぁ、教えてくれ。あんたが、俺の兄ちゃんってどういうことだ? 俺にはエーシャナしか家族はいなかったはずなんだけど」
 ノワールは一瞬呆けた顔をして、そして向き合った。確かに自分の過去の姿そのものだ。彼が成長を重ねれば今の自分の姿になるのだろう。入矢が戸惑ったように。
「……君は人形師という職業を知っているかい?」
「ああ。ハーンを陥れたのも、そいつだ」
「私は人形師の中でも最高峰と言われた、『黒白の両面』という者にデザインされた、君のドールだ」
 アランは目を見開く。彼が何を言ったか全く分からない。
「ドール化は、普通なら他人に一方的な刷り込みを与える事でそのものになり済まさせ、事をなすための禁術だった。レベルは高いが使いにくい上に手間がかかる。そんなことをするくらいなら殺し屋を雇うなり、簡単で便利な方法も禁術も溢れている。しかし、このドール化の技術を高めれば、それは人間の完全なるコピーを作ることすらできる技術でもある」
 アランは当惑したまま、言った。
「じゃ、俺は……あんたってことなのか?」
「そうだ。だが、私はイレギュラーな存在でね、私をデザインした人形師の手から離れ、勝手に自分が人形とも知らないまま生きてきた存在なんだ。そうだね、君の身体をベースに作られはしたが、命令と人格は与えられてない。そう、君のクローンのような存在といえばいいかな」
 ノワールはそう言う。彼は、アランは自分であるのに、黒白の両面との接点がない。なぜ彼なのか? 入矢は彼が彼女にとって愛している存在であることは間違いないと言ったが。
「ドール化のやっかいな面は一つの禁術でもその使い方によって様々な例があることだ。例えば私のように、君そのものの同じ人間を二人作るようなドールもある。しかし黄色い虐殺者が受けたような一方的支配に近い、命令のみ刷り込む方法もあれば、……入矢と君が過去に会ったという他人に違う人格を植え付け、身体的特徴を似せてもう一人同じ人間の配役を演じるようなドールもある」
 おそらく最後に説明したのが、エーシャナが死んだあとにエーシャナに化けていたドール化だろう。
「じゃ、あんたは兄ちゃんではなく……」
「そう。君そのものだ。だけど私はご覧の通りノワールとして生きている。命令を与えられる前だから自分で人格が形成された」
 同じ体の別の人。そんなところだ。
「あんた、今何歳?」
「私は27歳だ」
「どうして、俺なのに……俺より年上なんだ?」
ノワールはあごに手をやって、ふと悩む。
「私は少なくとも3歳から記憶がある。もし、禁術によって人工的に成長を早められたとしても、3年だ。考えられるのは……君は知らない間に、成長を止めているんじゃないかい?」
 それこそ、アランは驚かずにはいられない。え? 年をとっていないだって。
「ふむ……確かに君には常時禁力の気配があるね。……それ、どうしたんだい?」
ノワールはそう言って、アランの左目を指差した。思わずそこに手をやる。
「え?」
「十字架が刻まれているよ。私は君なんだ。君も禁術の気配位読めるのでは?」
 アランの意識が左目に集中する。確かに、なにか違和感がある。そう言えば禁世から抜け出た時から、アランは禁力への気配が鋭くなった気がする。
「ハートの女王?」
「みたいだね。でもこれは抑制の禁術だ。下手に取らない方がいいと思うよ」
 ノワールはそう言う。できれば彼女にもう一回会った方がいい、とも言った。確かに前に会ったノワールとは違う。ブランと言ったノワールのドールはその印を取ろうとアランに持ちかけた。
「なんか、意外。あんたって優しいのな」
「そんなことはない。私は懐の狭い人間だ。優しいとすれば、きっとそれは君の本質なのだろうね」
 二人で話していると、扉がゆっくり開いてハーンが現れた。
「ハーン、お前……!」
 ハーンの後ろ髪がきれいになくなっていた。髪を切ったらしい。
「埋葬を頼む。この土地じゃ無理かもしれないが、ちゃんとしたところにお願いしたい」
「わかった」
 ノワールが頷く。ハーンは髪を触って笑った。
「俺の髪を代わりに、な。これで絶ち切ったつもりだ。お前といるよ、これからは」
 ハーンが言う。アランは無言で笑った。
「そもそも、なんで今なんだ? 入矢を取り戻す時に俺の存在をきいていただろうに」
 ハーンが言う。いつでも可能ではあったのだ。まぁ、思わぬ出会いではあったのだろう。 ノワールにとっても、ハーンにとっても。
「今じゃないと、もうしばらくは会えないと考えたからだ。私と入矢は次のゲームで第一階層に上るつもりだからな」
「え」
「まさか、お前……」
 ハーンは元十指として、ノワールの考えがわかったようだ。
「貴方とソニークを倒したことで、私たちはランク2の十指に目を付けられた。先導したのは黒白の両面ということはわかっているが、これ以上構われるのも迷惑だからね。逃げるわけではないが、力の差を思い知らせてやろうと考えたんだ」
 二人の離別には複数の敵が潜んでいた。それがわずらわしい。二度と離れることなどないように。
「それに今回のことで様々な方面に貸しを作った。借りは倍に、復讐は基本13倍返しが私の基本だ」
「13倍って……」
 入矢がノワールはSだと言っていた意味がわかる気がする。
「だから、貴方には、どう詫びればいいのか……」
 ハーンにそう言う。ハーンは微笑んで首を振った。
「あいにく、俺も人形化にソニークの死んだ記憶を利用されててね、ソニークを誰が殺したか覚えていないんだ。だから、あんたと入矢には貸しなんて作った覚えもないし、償いも必要ない」
「……ハーン」
 気持ちの整理がついたのだろう。アランの頭をなでて、ハーンは言った。
「……そうか。貴方がそれで納得するなら、入矢にもそう伝えよう」
 ノワールがやっと笑う。その笑みがアランに似ているとハーンは感じた。
「じゃ、ここで」
 ノワールに住宅の手配まで世話になり、ランク2の登録を済ませた二人はノワールに軽く手を振った。
「そうだ、貴方にだけは教えておこう」
 ノワールが別れ際にハーンの耳に唇を寄せる。
「アランをドール化し、私を作った人形師、黒白の両面の名前はリーン・ヴェエリアという。チェシャ猫に教えてもらった情報だ。役に立つかもしれない」
 そして一瞬アランを見る。
「彼は……なにか危険だ。注意した方がいい」
「やはりか」
 ハーンは思う。最初にアランと会った時に感じた違和感。アランは何かおかしい。でもそれが何か分からない。禁術でなんでもわかるこの時代にありえないが、そう、感じるのだ。
「では、次に会う時は青空の下で」
「?」
 ハーンが不思議そうな顔をする。するといたずらした少年のような顔でノワールが笑った。
「入矢とアランの約束だそうだ」
「そうか。俺たちも同じ約束を?」
「貴方はともかく私は入矢と生涯一緒だからな。約束せざるを得ない」
「何言ってんだ! 俺とハーンも一緒だ!」
 アランがムキになってハーンの腕をとる。ハーンはやんわりとそれを解いて苦笑する。
「なら、私たちがよぼよぼになる前に会えるよう祈っておこう」
「何様だ、お前!」
 くすくすと笑い、ノワールは車に乗り込んだ。その姿が見えなくなるまで二人で空を見上げていた。

『復活は鮮やかにぃい~~、今、入矢の剣が喉笛を突き刺したぁ!』
 騒がしい喧騒の中で中心の入矢が敵の支配者を殺す。
「ほんとうに鮮やかなもんだなぁ。お前も早くあれくらいのレベル行けよ」
 ハーンがそう言う。
『デーチィ、応答できません、今宵、生きた女神が入矢とノワールに口づけましたぁあ!!』
 歓声と共に、掛けた客のブーイングと喜びの声が交差する。その騒がしい中で、その音ははっきり響いた。そう、三枚のコインが床に落ち、跳ね上がる独特の音だ。
『もう、飽いた』
 そして突如聞こえるノワールの声。その声と音に急速にざわめきが引いていく。
『スリーコインゲームを宣言する』
 ノワールが告げる。落とされたのは3枚の金貨。脚を組み、頬杖をついて傲然と椅子から会場を見下すノワールとそのそばに控えるかのように立つ入矢。
『い、今、信じられない発言がなされましたぁああ!!』
 アナウンスの女が叫ぶ。そして一瞬遅れて観客も騒ぎ出した。
『ノワール・入矢ペアがぁ、スリーコインゲームを宣言しましたぁああ!!』
「スリーコイン?」
「あー、やっぱりな」
 ハーンは頷く。そしてアランに言った。
「第二階層はな、次が第一階層だろ? ってことは、現段階で普通の一般人が見れるゲームってランク2までだからな、先がないわけ。だからこそ十指とか認められてんだけど。普通はさ、勝ち抜き戦みたいな感じで勝たないと先に進めないだろ? ランク2だけは先がないから特別でな、金と実力があればランク1への挑戦が認められる。それがスリーコインゲームだ」
 禁じられた遊びは第五階層のランク5のゲームから始まり、勝って勝って勝って、勝ち続ける事でどんどん上に行くゲームだ。その果てにすべてのランクをクリアして第一階層、すなわちランク1へ行く事が出来る。
 しかし、このゲームは同時に金さえあれば、金を積んで飛び級できる仕組みだ。しかしランク2はそれがない。跳ぶべき上のレベルが最高レベルしかなく、そのランク1は認められた者が密かに招待される仕組みだからだ。すなわちランク2に到達した時点で、何者かに招かれるまで勝ち続ける必要がある。そうしてレベル高い者の称号が十指なのだ。
「スリーコインゲームはな、一定以上の金額を積み、休憩なしの過酷な条件下プラス三連続で十指に勝ち続けるゲーム方式。クリアすれば、ランク1の挑戦、すなわちランク2の制覇が認められる。ただし、対戦相手はランダムな上に補給もできないし、相手は強いから成功した例は聞かないな」
「へー、すっげー」
 アランは純粋に感心してしまう。だから第一階層に行くと豪語したわけだ。
「きっと壮観だろう。よし、俺たちも会場に行ってみるか」
「え? いいのか?」
 するとハーンは不思議そうな顔をして言う。
「何言ってんだ。俺らもすぐに体験する事になるさ、だってスリーコインゲームでもしなきゃ、第一階層行けないからな」
「どうしてだ?」
「そもそもなぜ十指なんか、いると思う? 勝ち続けても、次に行けないからだろ。そう、招待されない限りな」
 そうだ。普通なら禁じられた遊びは上に行けばいくほど、次のランクに行き、その順位がはっきり示されるものだ。しかし第二階層、ランク2は上がない。だからこそランク1に行けない強者が溢れる。そしてできた仕組みが十指、というわけだ。
 そして、画面上では、ノワールと入矢の上空に十指と呼ばれる10組のペアの姿が映し出される。
『次回のゲーム予定が決定いたしました』
 女が体内通信による日程変更を告げる。
『ノワール・入矢のツインによる、スリーコインゲーム適用ゲームは本日より三日後の20時より行います。対戦カードは完全なるアトランダムによる選出を行い、ランク2のトップより10組のツインと連続で3勝すれば、ノワール・入矢のツインにはランク1挑戦の資格が与えられます!!』
 アナウンスの終了と同時に歓声が上がる。
『それでは皆様、3日後の晩にて、最高の戦いを!!』