モグトワールの遺跡 001

004

「あたしたちの隠れ里は水の大陸の中で一番大きな里なの。里から人間と契約した宝人は結構いっぱいいてね、他の里よりはひらけた里だったと思う」
 光は話し始めた。
「でも外に出て、契約者を見つけた宝人は里には戻ってこれない」
「どうして?」
「隠れ里はぜったいに人に見つかってはだめなの。だから人間と行動を共にする宝人は帰れない。そうやって里は隠されて生きてきた。でもね、突然だった。突然、人間がいっぱいわーと来て……」
 その時光は楓と共にいなかった。里の外側に近い場所で遊んでいた土のエレメントを持つ宝人の幼子が人間に囚われた。その子を人質に人間の軍隊は里の制圧に乗り出した。
「みんなすぐにわかった。楓が狙われたのだと」
 光が呟く。重く呟かれたが人間のセダたちにはよくわからない。
「どうして……楓さんが狙われるの?」
「……楓は……炎だから」
 その瞬間にグッカスの瞳が見開かれる。しかし他の三人はきょとんとしていた。炎だからどうだというのだろうか。宝人なのだから炎の守護する宝人もいるだろうに。
「楓は皆を逃がすために一人で立ち向かって、私を逃がしてくれた。だからその後里がどうなったかはわからないし、楓がどうしたかはわからない。でも、だからってそのままはやだ! 助けたいの! 楓を」
 光の言う事はすこし要領を得ていないが、人間に隠されているはずの里が暴かれて、襲われた。その際に狙われた楓という炎の宝人を助けたい、ということだ。
「……お前、今言った事は本当か?」
 グッカスが真剣に聞いた。
「え」
「本当に、その楓という人は、炎なのか?」
「…………うん」
 光の肩を掴んで、真剣にグッカスは確認する。その様子から他の三人は何か特別な宝人なのだろうか、と考え始めていた。
「本当なんだな?」
「そうだよ」
 逆に光は恐怖を覚えて、グッカスをおそるおそる見た。
「生きて、おられたか……!」
 いっきに力がぬけたかのようにグッカスは光の肩を離し、ため息をつく。
「へ? へ? なになに? どういうこと?」
 セダとテラが顔を見合わせる。ヌグファもわからないという顔だ。
「何でもない。とりあえず、お前の目的はわかった。まぁ、納得したやってもいい。でもな、世の中はそう甘くはない。ギブアンドテイクといこう」
「は? お前、お前こそ、俺たちにもわかるように説明しろよ」
 セダはグッカスにいう。
「いいか。宝人の言う事を人間がきく必要はない。なぜならそれならこの世界は宝人による絶対世界であることになるからだ。しかし神はそう神話で言ったか? 宝人はそう言っているか? 義務と責任は違うんだぞ。わかるな、おせっかい女」
 グッカスはそう言ってテラとヌグファを見る。
「お前たちが子供である無力さを無視してまで助ける義理はないんだ。そもそもこの事件は宝人と人間の境を壊した人間に一方的に罪がある。本来ならば公共軍が出向きその団体を壊滅させるべきだろう。だが、その件がここまで伝わっていないということは隠し通せるほどに大きな国が背後についているってことだろう?」
「水の大陸で強大な国……?」
 ヌグファがはっとした。もともと水の大陸は他の大陸に比べ人口が多い大陸だが、大きな国となれば三つしかない。
「シャイデとラトリア、それにジルタリア位?」
「そうだ。この宝人の生まれ里の位置さえわかれば絞る事も出来るがな。そんな大国を相手にしようってんだ。こちらもお前にそれ相応のリスクか利益が欲しい」
「そんな! だって光はまだ子供だし……」
 グッカスはハッと鼻で笑う。
「こいつの生まれ里に大人が一人もいないと思うか? こいつの暴挙を止める事が出来ないふがいない大人はいただろうがな。子供でも自分の意志できたなら、それ相応の対価を支払うべきだと、俺は言っている」
 みんなしん……と黙り込んでしまった。確かに的を得ているような気がする。グッカスは冷たい発言をするが、それは真実である事が多い。確かに光の願いはかなえたいがリスクが多すぎると言っているのだろう。
「……あたしに、何をさせたいの?」
「俺たちが任務に出る事は知っているな」
「はい」
「その目的は知らないだろう? モグトワールの遺跡調査だ。お前、それに協力しろ」
「「は?」」
 グッカスの言葉にセダテラ組みははてなマークを並べている。
「もぐと、わーる……ってなに?」
「エレメントを封印していると人間が勝手に予想している謎なのか不要なのか微妙な遺跡のことだ。宝人のお前がいればエレメント関係はわかるだろうと思ってな」
「なるほど……さすがグッカスですね! 宝人に危険な目はあわせないと信じていましたが」
 ヌグファは笑った。テラも頷いている。
「え? どーゆー系?」
 セダだけが話についていってない。というか張本人の宝人光もだ。
「馬鹿ね。グッカスなりの学長とかに内緒にすることの義理立てよ」
 グッカスはけっこう厳しい事を言っていたが、それは建前で何かあった時の理由づけを言っただけだったのだ。
「それくらいなら……」
「交渉成立。さて、バカなセダにドジなヌグファじゃ、この子どうするかとか考えてなかったんだろう?」
「う」
 図星を突かれ、三人でしょんぼりする。光はそれをみて微笑んだ。
「俺は学長に何とか言って、お前らより先にこの子を連れて隣町に行ってる。鳥の姿で夜学園の敷地外に出そう」
「さっすが、頼りになるぅ!!」
「俺をお前らと同レベルにするな……」
 グッカスのためいきだけが響いた。