027
「おい、それ本当の話かい?」
夜もまだ宵の口、これからがにぎわう酒場の一角でひっそりと葡萄酒を飲み干しながら話し合いが行われていた。一人は人目を忍ぶようにフードを目深にかぶった男性。その様相はかなり疲労しているようで、薄汚れている上に眼もとには隈ができており、顔全体に陰影が目立つ。
対する男はジルタリアの軍服を着た軍人で胸の勲章から地位が高くもなく、低くもないとわかる。
「もちろんだ。この話のおかげで五度死にかけた。かの国の暗殺者はしつこい」
声が意外と若い事が印象深いがそんなことはどうでもいい。今聞かされた話の内容に男の酒を持つ手が震えた。と思った瞬間、男たちの隣で激しい食器を落とす音が響いた。
「な! お前!!」
食器を全て床に散乱させ、お盆を持ったまま震える給仕の娘に騒いでいた酒場の空気が一瞬止まる。しんと静まり返った酒場に響き渡る高い声。
「ラトリアが……国王様を殺したって……! そんな!!」
「な!」
「え?!!」
すぐにざわざわと広がっていく声。嘘だろ、とかそういうざわめきを聞いてフードをかぶった男が慌てふためく。
「旦那! おらぁもう行く!」
「え? ちょ! 待て!!」
逃げるように店の外に逃げ出す男をあっけにとられて他の客が見逃したあと、客の一人が軍人に詰め寄る。
「おい、国王様が、カラ陛下が亡くなった原因がラトリアの暗殺ってことなのかよ!!?」
叫んだ男に対して軍人が顔を青ざめる。
「今聞いたことに確証は、な、ない! た、他言無用だ!」
男は人だかりを押しのけてカウンターに小銭を置くと、まだ宵の口だと言うのに逃げるように店の外へ出ていった。ざわざわとする店内。お盆を落とした給仕の娘に男が問いかける。
「お譲ちゃん、今、何をきいたんだい?」
「確かにあたい聞きました。国王様、カラ陛下を暗殺するよう命令したのはラトリアの王様だって。ビス様が行方不明なのも事前に察知したビス様を排除するためだったって。経験の浅いフィス様なら手玉に取ることも容易いだろうって。あの、汚れた人……ラトリアでそれを知って報告しようとしたけど、殺されかかって間に合わなかったって。言う通りにならなければ次にはフィス様が狙われる。だから、国境にはあんなに大勢のラトリア軍がいるんだって。今なら……シャイデの要人もジルタリアのせいにして暗殺が容易と思われてるって言ってた」
「嘘だ! だってラトリアは我が国の友好国で……」
「いや、同盟国のシャイデも戦争をしけかた。そんなこと信用できない」
「お譲ちゃん、そんなに聞けたのかい?」
一人があの一瞬で最初から聞いていたように言うから不審がって問う。
「薄汚れた人って、失礼だけど食い逃げが多いから、注意してるんだ。そしたら相手が軍人さんだから珍しいなって、注意して聞いてて……」
「じゃ、国王様はラトリアの暗殺で亡くなった!!」
「ラトリアが国王様を殺した!!」
「待て、じゃ次はフィス様が殺される」
「ジルタリアがラトリアに滅ぼされるぞ!!」
「シャイデも狙うってことは、シャイデも危ないぞ」
それは波のように不安と恐怖と怒りが空気を伝っていく。
「こりゃ一大事だ! 誰か、これを城に伝えに行け!!」
ざわざわとした酒場が騒乱に飲まれていく。店主が慌てているが騒ぎ出した人間はもう誰も止められない。数日と経たぬうちにジルタリアでは前王の暗殺容疑でラトリアとの開戦ムードが広がっている。前王のカラ王はそれだけ国民に愛された賢帝であったということだ。
――一日と経たないうちに、その噂はジルタリア中を駆け巡り、城の跡地にはうわさの真偽を問い詰める人だかりができるようになっていた。
「どけ! どかぬか!!」
軍人が人々を何とか押しのける。
「今からシャイデの王がいらっしゃるのだぞ! 道を空けぬか!!」
ざわり、と空気がどよめいて、人々が道を徐々にあける。しばらくしてシンプルな馬車が道の先に見えた。
「シャイデの王様が、ジルタリアに……」
「ちょっと、ラトリアの暗殺が本当になっちゃうわよ」
「ジルタリアとシャイデが一辺に!」
「どうなってんだよ! フィス様はどう対応されているんだ??」
「シャイデの王を招いて大丈夫なのか? 未だに国境にはラトリア軍がいるってのに!」
キアは馬車の中でそれらの噂を聞ける範囲で聞きつつ、口元を緩めた。中々、フィスは策士だ。反戦感情が高まる国民を誘導するために、わざと噂を流すとは……。隠れていた身分をわざとばらしてエギリ大臣に苦虫を噛み潰したような顔をさせたかいがあった。
「陛下、ジルタリア城にお着きです」
そう声をかけられ、馬車の扉があけ放たれる。キアが降り立つと、半壊した城の正面入り口にジルタリアの国民と担当の高官の他フィスの姿がある。目線が約束は守ったと言っていた。キアは周囲に分からないように頷く。後方の馬車からシャイデの高官も続いた。
シャイデの旗色であり、水のエレメントの従属色でもある紺色のマントが翻る。
「ようこそ、ジルタリアへ。シャイデ王」
「こちらこそ、突然の来訪をお許し頂き、ありがとうございます。ジルタリア王」
互いに手を握り合うと拍手が囁かに起こった。フィスはそのまま、城の中へとキアを案内した。
――数日後、フィスとキアの連名によるラトリアへの抗議文がラトリア王へ届けられた。
容疑は前王の暗殺、並びに自国の貴重な人材であると共に人間の朋友・宝人の拉致及び人権侵害。宝人の方に関してはどちらも証拠と言えるものを提示しての回答を待つ構えを取った。
そうして嵐の前の静けさのような三日間が穏当に過ぎ、ラトリア王の両国への回答は行動でもって示されることとなる。ジルタリアの国境に控えていたラトリア軍によるジルタリアへの侵入及び、軍事行為。そして――シャイデへの強襲――。両国同時攻撃だった。
シャイデへと正式な手続きを経て入国したセダたち一行は、まっすぐにシャイデ城の一角、広大な敷地の一部である王の許可なくば、開かれることのない禁踏区域へと向かった。
シャイデの警備兵に事情を説明し、内側で避難している宝人達の同意を得て、その場所に足を踏み入れた。城の影に隠れてこんなに広大な場所があるとはだれも思っていないだろうという位、禁踏区域は広かった。それこそ、逃げ込んだ宝人を全員匿えるのだから、里と同程度、もしくはそれ以上の広さがあるのだろう。
しかもそこは光達がいた里とよく似た場所で、宝人達の為の様な住居や、手入れの行われている田畑などまである。禁踏区域としているのはいざという時の為の宝人達の避難場所ということなのだろう。おそらく宝人と人間に神の国と呼ばれる所以の一つとして、古の時代に交わされた約束なのだ。だからこそ、宝人も人間の国と知りつつ避難してきたに違いない。
禁踏区域には中央に集会場まであり、楓と楓の契約者であるテラはすぐにそこに一行と離され連れて行かれてしまった。光は不安そうに楓を見上げたが、楓は微笑んでテラを促した。リュミィの計らいで他の皆は同じ場所にとりあえずの生活場所を得られたが、今後楓が皆と一緒にいれる保証はない。
「楓」
光は宝人に囲まれているというのに楓と離れた瞬間に不安そうな様子になる。禁踏区域に着いてからもう何時間も経つが、楓とテラがセダ達の元に姿を見せることはなく、日が暮れようとしていた。
「邪魔するぜー」
外から幼い声が響く。光がぴくっと反応した。
「鴉! 紫紺も」
鴉は鍋を、紫紺は少し大きめの袋を持って立っていた。二人は部屋に入ってまず鍋を置くと鴉が言った。
「これ、夕飯。ちゃんとしたご飯はまだねーの。悪いけど人数分入ってるからこれで我慢してな。本当は食堂で一緒に取れるといいんだけどさ、みんな人間怖がるから、さ」
鴉はわりーな、と言ってセダと光に笑いかける。紫紺が袋からパンを手渡す。鴉はスープを鍋からよそって同じように渡した。わずかな時間だったが楓の救出劇を見ているだけあって鴉と紫紺は人間であるセダたちを怖がってはいない。
「楓は?」
光が受け取りつつ不安げに尋ねる。
「さぁな。俺たちはいつも話し合いには入れないからな。ただ、話し合いは一日二日では終わらねーよ、たぶん。だって楓は契約したんだろ? 今までのように閉じ込めておくことはできねーだろ。人間と一緒にいなきゃいけないわけだし。あのねーちゃん、楓と一緒に引きこもってくれそうな人じゃなさそうだし」
「それってどういうことだ?」
セダが問う。鴉は視線を彷徨わせつつ、仕方なさそうに口を開いた。
「楓は気にしてねーけど、楓の今までの生活って俺らが監視して閉じ込めていたようなもんだからさ。でも人間と契約した宝人は契約者と長い間離れてられない。だから、もし楓を今までと同じように閉じ込めておくつもりなら、あの契約者のねーちゃんも一緒に閉じ込められるって寸法。でも、そんなことできねーだろ? だから里のじいさんばあさんはもめにもめてるって事」
それを聞いてセダは愕然とした。ヌグファも驚いた表情を隠せない。
「そんなのってねーだろ!」
憤慨するセダに鴉は肩をすくめる。
「だけどさ、炎が怖い俺らとしては楓がなにしているかわかるようじゃねーと不安なんだよ。宝人ってさ、たぶん怖がりで警戒ばっかなの。おれだって今回の事がなきゃ人間にはずっと会いたくなかったし、楓は怖いから近づかなかったと思う。怖いもの不安なものは閉じ込めて、見張って動けないようにしないと気が済まないのさ」
グッカスは不満そうに鼻を鳴らした。
「ふん。だからこそどこまでも視野が狭まっているんだろうけどな」
「言えてる。確かに怖いことは真実を知らなきゃ怖いままだ。炎は怖いけど、楓は怖くない。な? 紫紺」
幼い子供は頷いた。紫紺は今回楓に何度も助けてもらっている。
「だからさ、みんな怖がらずにセダたちに会ってみればいいのにな。そしたら人間の一面は少なくともわかる」
鴉はそう言った。禁踏区域の端の方の建物に案内されてから用がない限りはこの中にいてくれと言われてしまった手前、セダたちは自由に出歩けない。
「みんなってどこにいるんだ? ここらにはあまり建物はないように見えるけど」
セダが尋ねると鴉は唯一ある窓を示して言う。
「禁踏区域には俺も初めて来たんだけど、中央の集会場を中心に建ってんだ。そこに里で一緒に暮らしているやつら同士で集まっている感じかな? 食事とかは集会場で一気に作ってるから集まって食べてるけど。光も後で顔出せよ。心配してたぞ、美羽さん」
「あ……そっか」
光が忘れていた、と言いたげに頷いた。
「宝人の皆さんは一緒に暮らしているってことは……共同体で生活をされるんですか?」
ヌグファが問う。それにはリュミィが答えた。
「宝人には家族というものがおりませんから、年長者がペアを作り、そこに子供を預かって十人程度の集団を作って生活をしますの。その十人は共に暮らし、里を出たりしない限りは人間でいう家族のような繋がりを持ちますわね」
「家族がいない??」
テラがいたら目を丸くしそうなことを平気で口にする。
「え? お父さんやお母さんもいないの?」
「だって宝人は卵から生まれるんだよ。親なんかいないよ。強いていえば魔神が親なの」
光はそう言った。
「卵?!」
「宝人と人間の違いはそこですわね」
「馬鹿か。楓の話の時にそう言ってただろ」
グッカスが呆れてそう言う。確かに卵を壊したとか言っていたような……。
「ではそこから説明しますわね。宝人は各エレメントを守護する宝人が、次代を担う自分の守護するエレメントの宝人の生誕を願うことから始まりますの。例えばわたくしの場合、光の宝人ですから、次の光の宝人を光の魔神に願いますの。魔神はその願いが一定以上集まったら、各大陸にある『卵核』と呼ばれる宝人の卵に光の宝人の卵を授けますの。つまり願い次第でその年の宝人の数が決まるという仕組みですのね。『卵核』に宿った卵はある一定の時間まで育った後に、各大陸の里の『卵殻』に移転しますの」
「らんかくとらんかく?」
「転移ってさっき楓が言っていた瞬間移動?」
セダとヌグファが同時に質問した。リュミィは二人の問いに頷いて解説を行う。
「そうですわね……『卵殻』は言葉通り、卵の殻と書きますの。つまり宝人が宿る卵そのものを指しますわ。
イメージといたしましては、樹になる実を思い浮かべてくださいな。卵核つまり魔神が宿した宝人の卵はその命を灯す母体のようなものがありまして、そこに次代の宝人の命を宿しますわ。その母体のようなものは宝人でさえ場所を知らない秘匿された場所にありまして、一年に一度、数十個ほどの命を宿すと言い伝えられておりますの。
卵核に宿った命は卵核でこの世界で宝人として生きる為の姿、すなわち卵を形成できたら各里にある卵殻、つまり卵の宿る樹のようなものに移動しますわ。ここで言う移動は瞬間移動のようなものではなく、落ち着いて安全な孵化ができる卵殻への魂の移動を指しますわ。まぁいつ移動しているかとかわかりませんから瞬間移動と言っても差し支えないのでしょうが。
宝人は里の卵殻にたどり着いたらそこで三年卵殻の中で成長しますの。三年経った頃、孵化してようやく宝人が生まれるというのが流れですわ」
「本当は木の実みたいな生り方じゃねーぜ。岩肌に卵が埋まっているのが近いって言われてる」
鴉の言葉に宝人たちは頷いた。
「へぇ……。じゃ宝人が新しい命を祈ってそれが魔神に届くと、地上に命を宿して、それが里に配達されて生まれるってことかぁ。じゃ親はいないよな」
セダはふむふむと頷いた。卵から孵った宝人たちは均等に里内の共同体で共に成長するということなのだろう。
「生まれて共同体はどこにするとかは里長が決めるのか?」
グッカスが尋ねると頷く。
「だいたいはね。でも生まれる前に卵殻の前に共同体のリーダーみたいな人が訪れると自然とどの共同体が引き取るのがいいのかわかるんだよ。卵の方も、共同体の方も。不思議な絆でしょ?」
光はそう言って現在のリーダーである女性を思い浮かべた。
「人間と似ているのにやっぱり違う存在なんですね」
ヌグファがしみじみとそう言ったとき、グッカスが何かに反応したかのようにびくっと身体を動かし、外の方をうかがうように硬直する。
「グッカス?」
セダが尋ねると、グッカスはまるで耳を済ませるかのように目を細め、静かにというサインをした。
「あぅ!!」
その次の瞬間、宝人の誰もが身を折って、頭を抱える。
「え?! どうしたんだよ! 光! リュミィ!!」
慌てて身を屈めて苦しげな表情をしだした宝人たちを支えるが、何もわからない。
「何か聞こえないか? なにか、悲鳴のような……争うような……」
グッカスがそう言う。獣人である彼は人間より感覚が発達している。セダたちに聞こえないことが聞こえたのかもしれない。いち早く立ち直ったのはリュミィだった。
「『鳴き声』ですわ……今この場所が……人間の襲撃を、受けているようですの!!」
「何だって!!?」
セダたちはそれを聞いて扉を開け放ち、外に飛び出た。すると宝人たちが頭を抱えうずくまりながらも禁踏区域の中心へ向かって逃げようと走っている。目をこらせば逃げてくる方角からは物騒な音と宝人の悲鳴が聞こえてきて、土煙の間から鎧姿の槍などを持った人間の姿がうかがえる。
「なんだよ! 誰だよ!!」
「……あの旗印と紫色の旗……ラトリアじゃないか?」
グッカスがそういう。信じられないといった様子で目を見開いている。
「なんでラトリアがシャイデのしかも宝人を狙ったように禁踏区域を襲うんだよ!」
「……楓を狙ってきた可能性がありますわね」
リュミィが蹲っていた光や鴉を立ち上がらせると、里の中心に行くように指示をする。
「鴉、貴方は紫紺を安全な場所へ避難させて。光は楓を探して隠すのですわ。とにかくこの前と同じ徹は踏ませませんわ! わたくしは皆が避難できる時間を稼ぎます!」
リュミィはそう言って体全体を光らせてかなたへと転移した。セダは光を見て、そして背中の武器を手に取った。
「あれ、止めるぞ」
「馬鹿か! 規則を忘れてないだろうな! 俺たち公共地のセヴンスクールは他国の事情には踏み入ることは禁じられているんだぞ! これはシャイデとラトリアの戦争だろう?!」
グッカスが言うとセダがグッカスに向かって怒鳴った。
「じゃ、このままここで見てろって言うのかよ! そんで宝人のみんなが人間に襲われるのを見ないふりするのか! 規則だから! ……できるわけないだろ!!」
「だからお前は馬鹿だって言うんだ! よく考えてみろ! 俺たちにはどっちの国が悪いかとかわからないんだぞ! 一方的にラトリアを攻撃して、ラトリアが善だったらどうする?! お前はせっかく武闘科の長刀武器専攻で主席なのに、それをふいにして退学になるつもりか!」
よく考えろ、とグッカスはセダの肩を掴みながら怒鳴り返す。その手を払いのけてセダが言い切った。
「それがなんだよ! 退学がなんだってんだ!」
セダが逆にグッカスの肩を食い込むほど強く掴んで、そして強いまなざしのまま言い返す。
「ラトリアとかシャイデとか、戦争とか、セヴンスクールとか、主席とか! そんなの関係ねーだろ。今! ここで!! 宝人も、人間も関係ない! 襲われて、逃げている人がいるんだぞ! 助けるのに理由なんかいらねー。逆に言えば、助けない、助けられない理由はその人たちの命とか、恐怖とかより尊いものだとは俺は思えない。そんなものが俺を止めることができると思うなよ。俺はそれなら馬鹿でいい、退学になっても構わない!」
そしてグッカスを押しのけるとセダは騒乱の方向へと駆け出していった。グッカスは呆然とそれを見送り、しばらくして、顔を歪める。握った拳がぶるぶると怒りで震えていた。
「……俺だって! 俺だって、できるならそうしている!!」
「……グッカス?」
ヌグファが心配そうにグッカスを見る。その顔は怒りで歪んでいるが、セダに向けた怒りではなさそうだった。
「ヌグファはどうする?」
「光たちが心配です。伏兵がいないとも限らないですし、光たちを安全な場所まで護衛しようと思います」
それはラトリアの兵と出くわしたら戦うことを厭わないという優等生らしからぬ発言だった。
「逆にグッカスはどうします?」
「俺は……出来ない。特殊科の俺は、学校の規則を破ることはできないんだ。悪いが、お前の支援をすることくらいしか、力にはなれない」
セダのようにまっすぐ行動したい。セダのように個人も大きな組織も何もかも殴り捨てて助けに行くことができたなら……。
「いいと思います。グッカス、自分を責めるのは止してください」
ヌグファはそう言ってグッカスの手をそっと握った。
「セダだって言ってるじゃないですか。やるやらないを迷うくらいならやる。できるできないの範囲でって」
「……ああ」
グッカスはそう言って下を向いた。ヌグファは光に手を差し出し、もう片方の手を紫紺に向けた。紫紺は恐る恐るちらりとヌグファを見て、その優しげな瞳に引かれ、その手を握り返した。
「光、どこが安全かわかります?」
「ううん。私はみんなとずっと一緒にいたから」
「俺ならわかるよ。楓が今どこにいるかもわかる」
鴉の言葉にヌグファは頷いた。
「案内して下さいな」
「わかった」
グッカスはそのやり取りを見て、顔を引き締めなおす。そうして四人の後に続いた。