第1章 水の大陸
4.水の魔神(1)
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この世を、この世界に流れた時間はいくつかの時で区切る事が出来、それを人は時代と呼ぶ。
創世記――それは神がこの世を創った時代。この世を形創り、神が見守り、そして人によって世界が一度滅ぶまでの期間を、人はそう呼んだ。
次が神代――。しんだい、ともかみよ、とも呼ばれる。神に代わって魔神が再びエレメントをもたらし、それによって世界が息を吹き返し、魔神に見守られた時代。人が二度の罪を犯し、世界が半壊したまでの期間。
――時は神代。
各魔神が宝人を世界に送り出して、双方の人々が手を取り合って暮らすことを魔神は宝人を通して見ていた。世界の在り様に、大変安堵し、また嬉しく思ったという。そこで、魔神は直に神の創った世界というのを体感したくなったという。
そこで、魔神は己の創った人、宝人の身に宿ることで、仮の肉体を得、己の治める大地に降り立ったと言われている。
時に魔神は人々と同じように暮らし、時に宝人としてエレメントの恩恵を与えたとも言われている。その最中で盟約の国を創ったとも言われているし、魔神として、人に崇められるようになった奇跡を多数起こしたとも言われる。
確実に言えるのは、魔神が昔は人にも宝人にも身近な存在であり、祈ればその願いが魔神に届くほどに大切な存在であったということだ。
しかし、人間はいつしか驕り、世界は半壊するほどに失われかけた。
――それ以降、魔神は人の地に降り立たなくなったという。
魔神が人の地で過ごした名残、人の地に降り立って生活した証。それは各大陸のどこかに必ずあって、その中には魔神が宝人を介すことなく、直接話すことが出来る場所だと言う。宝人すらその場所を知らず、宝人すらその場所の意味と意義を知らない。魔神は神と同じように人々や暮らす生き物達にとって等しく遠い存在となってしまった。
しかし、思い出して欲しい。魔神は本来人と暮らしたことがあるように、好奇心が強く己の神が創った世界を知りたがった。そうしなければエレメントを与えることなどできないと思っていたかのように。
今は姿を見せぬ魔神は、暮らす生き物たちを見限って、神と同じように触れ合わぬようになったのか、それとももう、世界を知り、己が神から分かたれたときに決めたようにただエレメントを管理する存在だけになってしまったのか。誰も知ることはない。
そうして、世界から世界を創った神の名と、宝人をつくり、そのエレメントを生み出す魔神という存在は、さもそこにあることが当たり前のようになり、神としての威厳と尊厳が失われつつあるのだという。
それを魔神はどう思っているのか。それともそれを思うことすらなく、遠き存在になってしまったのか――誰も知らない。