モグトワールの遺跡 010

040

 一行はテラの感覚による道案内で均等区域から少し離れた森の奥に脚を進めていた。炎が飛び火することがなく、森に被害がなかったのは風向きのせいだろう。
「水の音……川が近くにあるのかしら?」
 テラの言葉にグッカスが視線を遠くへ向ける。
「そのようだな。川を伝っていくか?」
「うん。そんな感じがする」
 テラはそう言って指差した。そこまで川幅も広くなく、大幅で飛べば越えられそうな川を伝うと、開けた場所に出た。森の中にある泉が水源のようだ。その泉に、森の風景に溶け込まない、目立つ赤色。
「楓!」
 光がまず叫んだ。楓はびくっと肩を揺らして、一行を振り返る。楓はそれを見て、一歩、一歩と後退していく。
「逃げるな!」
 テラが疲れを吹っ飛ばしたような大声で怒鳴った。楓はそれを聞いて、脚を止める。
 テラはセダに促し、背から降りるとつかつかと大またで楓に近づいていった。一切、身体的な疲労は見せない。その様子が余計楓を苦しめると知っているからだ。そして、濡れることも気にせず泉の中に入っていく。
「テ、テラ……」
 楓が思わず言うが、気にしない。そして楓に触れるまでそばにいくと、パンと乾いた音が響いた。
「まじではたいたよ」
 セダが小さい声で呟いた。頬を張られた楓は驚いてテラを見つめる。
「なんで逃げたのよ」
 詰問口調でテラが言う。
「だって、火を制御できなかったから、みんなを怪我させると、思って」
「じゃ、今は? 制御できるの? 見たところ目は黒に戻ったみたいね」
「……うん。髪の色は戻らないけど、もう大丈夫」
「いつから? いつから制御できるようになったの? あの転移は制御できなかったから?」
 矢継ぎ早の質問に圧倒されるように楓が答える。あのお怒りモードのテラは下手に口答えすると大変なことになることを知っているセダたちは黙って二人を眺めていた。
「違う。ここに来て、ちょっとしたら制御はできるようになってた。一時的だったみたい」
「じゃ、なんですぐ私達の元に戻らなかったの?」
「……え?」
 楓が何を言ってるかわからない、と言いたげにテラを見る。
「私達が心配してるとは思わなかったの? 勝手に消えて」
「そ、それは……」
 楓が目線をずらす。光は黙って二人のやり取りを見ていた。
「どうして迎えに来たとき、私達から逃げようとしたの?」
「……怖かったから。みんなをまた傷つけたらって、思って」
 テラはふーっと息を吐き出して、そして楓の目を真っ向から覗き込んで言った。
「セダが、私が楓と一緒にいるのは、炎を利用したいからじゃないってことはわかってたと思っていたのよ」
 テラが言うが、楓は急いで言う。
「違うよ、そんな人たちだと思ってないよ!」
「じゃ、どうして逃げたの? 楓、貴方がやったことは私達を信頼してないってことなのよ。確かに炎のエレメントを制御できなくて、一時的に私達から距離を取ったのは、安全策としては正解だったかもしれない。でもね、私達は貴方が消えたから心配したわ。炎の魔神が現れた後ですもの、余計だわ。だけど、あなたはそう思わなかったのよね? 炎の魔神が現れて、一面焼け野原になって、その一端を担った。だから私達があなたを恐れると? あなたを嫌うと? 貴方に怪我させられるかもしれないから近づかないでと言うとでも思ったの?」
「そんなこと!!」
「思ってる。思ってるからそうやって逃げるのよ。ねぇ、わかってる?」
 テラは楓の胸に手を当てて言った。
「楓、あなたが一番炎が怖くて、貴方が一番自分を信じられない。だから人と対等に付き合えないと思うのよ」
 楓は里でも一人きり。自分の待遇を仕方ないと感じて諦めている。それに怒りさえ覚えない。それは、自分が災厄を起こした炎を操れるから。結局楓自身が一番炎を恐れている。
 だから周囲の反応を当然と思い、自分は他人と一緒には過ごせないのだと諦めている。
 ――泣けないんじゃない。泣くことができる生き物だと自分を認識していない。
「それって、私達にとってはとっても寂しいこと。私達には哀しいこと」
 炎は怖くて、それを操る自分が怖くて当然で、周囲が怖がるのも当たり前で。
「ねぇ、それって私達を信じていないってことでしょう?」
 楓が目を見開いた。
「そして、それは自分を一番大切に守っているってことなのよ。結局この心の中には、楓しかいないの。楓しかいることが出来ないってことなの。今までそうやらないと生きてこれなかったんだと思う。だけどこれからは私達が一緒じゃない。じゃ、ここに私もセダも、グッカスもヌグファも入れてくれなくっちゃ」
 別の見方をすれば誰も理解できないと線を引いて。それは己を守っているだけだ。寂しさから、不安から。
「一緒にいるって、信じあうって、そうやって初めてできるの」
 一歩、踏み出す勇気を。他人と関わりあって、自分をさらけ出して、相手を理解する。
「炎を持つ貴方のこと、誰もわからない。だから怖がられても自分を、炎を理解してもらうには、それを表さなきゃ誰も理解できないの。時には衝突する。時には嫌な思いもする。だけどそれを乗り越えないと信頼って得られない。だから、逃げないで『自分は悪くない。自分は巻き込まれただけだ』って主張してもいいの。それが違うと思えば皆言うわ。貴方の主張を炎だからって理由だけで私たちは否定しない」
 テラはそう言って微笑んだ。自分が炎だから、他人に恐れられて当然だから楓は魔神のことを否定しなかった。
「少なくとも炎の中から私だけは見ていたから知ってるのよ。何のために契約したの? 炎を得るためだけじゃないんだから、もっと心を開いてくれてもいいんじゃない?」
 あれは一種の気に当てられたようなものだ。宝人全体の怒りに触れて、それに触発された怒った状態にされた楓の身に降りた魔神。楓は自分で魔神を呼んだわけではない。楓が炎を出したわけではないのだ。
 その証拠にその場にいた怒りに支配された他の宝人は魔神が降りた事も、楓を中心に炎が暴れたことも覚えていない。
「そうだぜ。俺、炎を恐れないって言ったの、嘘じゃねーもん」
 セダもそう言って泉の中に入り、楓に近づく。
「あとな、自分から逃げちゃだめだ」
 楓はセダの方を見る。
「炎が怖い。自分の力を過信しない。それはいい。だけど、自分の力と向き合わなくちゃ前に進めないんだぞ」
 セダも楓の胸に手を当てる。
「お前がお前と向き合わなければ、お前は他人とも向き合えないんだ」
 楓が自分の力と正面から向き合わなければ、自分の力を把握しなければ他人に向けることさえできない。
「だから、お前はお前と闘え。そしたら一緒にいる不安なんて吹き飛ぶぞ!」
 そしてテラとセダ、二人して胸においていた手を楓に向かって差し出す。
「俺たちはお前と一緒にいたいんだ。炎とじゃない。炎も含めて『楓』、お前と」
「そして私たちと一緒にいたいと思って欲しいの」
 楓は呆然とテラとセダを見て、いつの間にかグッカスやヌグファ、光も周囲にいることに気づいた。差し出された手をおずおずと触れ、感触を確かめるようにして、その後握る。
「……気づいたら、溶け合っていたんだ」
 楓がぽつり、と漏らす。
「僕は夢の中のような気分で、炎が、巨人が何をしているかとか、皆がどうなってるかとか、まったくわからなくて……ただ炎に囲まれて幸せな気分が続いているような感じだったんだ」
 楓は下を向いた。でも、セダとテラの手を握っている。
「目が覚めたら今まで何をしてたのかすぐにわかって。燃えた大地が見えて……それで、怖くて。僕がしたのかと思うと僕自身が怖くて……。どうしたらいいのか……わかんなんくて」
「うん」
「それで、皆が僕をまた責めるのかって。怖がるんだって思ったらどうしようもなくて。セダもテラもみんな僕をきっと怖がると思って」
 楓の肩が震えている。支えるようにセダとテラがその肩を支えた。
「僕は……炎の宝人であることをいやだと思ったことは一度もないけど……自分が怖くてたまらないんだ」
 安易に傷つけてしまうかもしれない自分が。だから自分を出さないように、感情に支配されないように気をつけて生きてきた。
「だから、だから! 一緒にいたら……いけないんだと思ってきたんだ」
 光がそれを聞いた瞬間に駆け出して、楓に抱きついた。楓を覗き込む。楓は唇を震わせた。笑おうとして、上手く笑えない。光だけがその様子を見つめている。
「……いいの?」
 皆を見た楓の目から一筋の涙が流れ落ちる。
「楓……」
「一緒に、いても……いいんだね? 本当に僕と一緒で、いいんだよね?」
「当たり前だろ!」
 セダが力強く言った。テラも頷く。それを聞いて楓は一瞬目をぎゅっと瞑ったあと、まるで堰を切ったように、涙を流し始めた。
 泣けない炎が、初めて、泣いた。楓はまるで子供に戻ったように声を上げてしばらく泣いていた。
 セダがテラが、光がそんな楓を抱きしめる。ヌグファとグッカスがその様子を見て、安心したように微笑む。リュミィはわずかに涙をぬぐっていた。

 楓が泣き止んだ後、一行は森を抜けながら、日の高さを確認する。テラは楓が泣き止んだ後に疲れがたたったのか、再び倒れてしまった。
 楓は申し訳なさそうな顔をしたが、避けることはもうしなかった。森を抜けながら、時間が押しているのを否応がなしに自覚する。日が沈もうとしているのを見て、焦る。
 楓は魔神をその身に宿らせてから力が安定していないそうだ。赤い髪が戻らないのもその影響らしい。そんな楓に頼むのは少し不安が残るが、ジルの身は一刻を争うのも事実だ。
「楓、ジルを助けてほしいんだ」
「……ジルがどうかしたの?」
 グッカスが楓にキアから伝えられたことをそのまま伝える。楓は目を見開いた。そして頷いた。
「もう時間がないね」
 楓はそう言うと森を抜けたとたんに立ち止まった。どうした? と目線でセダが聞く。
「テラには休息が必要だ。たぶん、ジルタリアまでなら離れていても大丈夫だと思う。テラについていてあげてくれる? 僕はこれからこの場所に紋を作って、ジルタリアへ転移する」
 楓はそう言って片手に炎を燃やす。あまりにも自然な動作だった。炎を出すことをためらっていた楓とは思えない。楓の中でふっきれたのだと光は思った。きっとセダたちの前なら炎を恐れずに済むのだろう。
 楓は炎を宿したまま一回転し、脚で独特のリズムを踏む。自然と楓の目の前に赤い石が形成される。そのまま、楓は火晶石を土へと落とした。
 すると地面が一瞬、楓の契約紋をそのまま写したようなマークで燃えた。
「これが『紋』?」
 セダが言う。炎が、紋様が消えた事を確認して、楓は頷いた。
「これですぐにシャイデに戻ってこれるから」
 光が楓の服を掴んだ。楓はなに? と優しく尋ねる。
「一緒に行きたい。一緒に転移できる?」
 炎の転移は光にも初めてだ。その宝人以外の転移はそれだけ己の力を使うが、楓は構わないといった。
「じゃ、光行こうか。だれかキア王にも伝えてくれるかな?」
「わたくしが」
 リュミィが答える。光はセダの服も引っ張った。
「楓。セダと契約したの。だからセダも一緒にお願い」
 楓は一瞬驚いた顔をしたが、頷いた。グッカスがセダからテラを受け取り、背に背負う。
「じゃ、テラのことお願い」
 楓はそう言うと、右手に光、左手にセダの手を取って、特に何の動作もせずに転移した。 グッカスらは突然炎が一瞬燃えたと思った時には三人の姿が包まれ、炎が消えると同時に三人の姿も消えていた。
 セダたちは目の前が炎に包まれた、と思った次の瞬間には景色がまったく違っていた。そう、ここは楓がジルタリアを離れる前に楓が紋を作った場所だった。
「離れないで。このままジルタリア城の炎まで転移する」
 楓がそう言ったその次の瞬間には三人はジルタリア城の応接間の暖炉の中にいた。楓の手を握っている間は燃え盛る炎の中でも特に異常はなかった。楓は手を引きながら暖炉から出る。炎の外に出て初めて手を離してくれた。
 一方、ジルタリア城の暖炉の前にいた人らはいきなり炎の中から人が現れてものすごく驚いていた。仕方のないことだとセダも思う。リュミィの光の転移はそのまま距離を縮めるような印象があり、ああ、移動したと思うのだが、炎の転移はまさしく瞬間移動だった。
したセダや光はちょっとついていけずに目を回している。
 そう、炎の転移とは炎が点火して消えるその一瞬で移動する間接転移。間接転移で炎こそ一番の速さと驚くべき移動距離を実現する。
「ジルの元に案内してください」
 楓がそう言った。驚いていた火番の係りもフィスに言われていたのか、慌てて頷いた。
「こちらです」
案内された部屋にはヘリーだけではなく、フィスまでいて一つのベッドを囲んでいた。
「ジル!」
 思わずセダが叫んだ。そして楓の赤い髪を見て、一瞬誰もが沈黙した。が、その沈黙を破るように、ひどく疲労した様子のヘリーが駆け寄る。
「お願い、ジルを助けて!!」
 楓は頷いてジルの元に寄った。うつぶせに寝かされているジルの背中には止血帯と包帯が幾重にも巻かれ、苦しげな呼吸が続いていた。頭に氷嚢を当てられてはいるが、怪我のせいで相当の高熱を出しているようだ。確かにこの状況で腕を切り落としでもしたら、死んでしまう。
 そして、その当の呪われた腕は異様なほどに青い模様で埋め尽くされていた。青い模様はすでに肩まで届いている。
「ひどい……」
同じ宝人として呪いの仕組みがわかる光は思わず口を押さえた。
「光、ジルには炎に親しい色があるって言ってたよね?」
 光に楓が問う。
「うん。ジルは半人の魂の形に、闇と火のエレメントの加護を受けているよ」
 瞬時に魂見をし、楓に教える。魂に青い茨が絡まっている。あれが呪いだ。
「魂を呪ったなんて……」
「うん。ひどいね」
 楓はそう言って呪われた右腕を両手で頂くように握った。そしてセダに言う。
「呪いを破壊するから、呪いが暴れる。たぶん、苦しいと思うんだ。暴れないように押さえていて」
 セダが頷いてジルの両肩を押さえる。フィスが無言で脚を抑え、そばに立っている者が残りの部位を抑える。
「炎を出します。でも呪い以外は燃やしません。決して怖がらず、驚かないで」
 楓はセダと光以外に言い聞かせるようにそれぞれの目を見て言った。フィスを筆頭に皆が頷いた。
「では、いきます!」
 楓はそう言って右手でジルの右手と握手するように握りこみ、左手でそれを抑えるように握った。楓はそのまま顔を腕に近づけ、ふっと息を吹きかけた。その途端、青い模様全てに火が燃え移る。ジルの肌の上を正確に青い模様の上だけを、否、青い模様を燃やしている。
「ううっ!!」
 ジルが呻いた。そしてビクっと動く。楓は逃げようとする腕を逃がさないように握り締め続ける。
「ああ! いっ!!」
 ジルが叫ぶ。体が抵抗するように動くが、皆がそれを押さえた。もしは激しく動いて傷が開いたら大変だ。ジルの右腕が燃え盛る。その様子は異様だが、誰もが真剣に楓を見ていた。楓は燃える刺青を見続け、その後、右腕を離し、ベッドの上に乗り上げた。膝でジルの右手を踏みつけ、そのまま刺青が伸びた先、肩を両手で押さえる。部位を両手で押さえ、顔を近づける。
「もっと強く押さえつけて!」
 楓がそう言った。そして楓は両手の間、肩の辺りになんと炎を吐きかけたのだ。人の姿である楓の口から炎が吐き出される光景にも目を奪われるが、その炎が触れた瞬間に、ジルが目を見開いた。意識は無い様だが、あまりの苦痛に呻きというよりは叫びに変わっている。暴れる力が桁違いに違う。
 炙るように楓が炎を吐きかける。その行為は肩から始まり、そして徐々に腕を伝って下がっていく。
「すごい……」
 魂見できる光は魂に絡みつく青い茨が棘を落としていく様が見えていた。落とすと言うよりかは燃えているのだが。そうして再び右手を握り、手の甲呪いを受けた場所に楓が炎を吐きかける。
 それと同時に左手で背中の一点、ちょうど心臓の真上に触れ、その場所を燃やす。
 炎に炙られて呪いの茨が粉々になり、燃え始める。燃やし尽くし、消すまで楓は炎を強くジルの魂に注ぎ込む。その様子を光は見ていた。
「うぁあああ!!」
 ジルの絶叫が響き渡る。しかし、その叫びが収まると同時に疲れきったジルが目を再び閉じ、楓が手を離したと同時に炎が消える。
「もう、大丈夫なはず」
 安堵のため息が全員から漏れ、その証拠にジルの腕に青い模様は一切なかった。
「ありがとう! ありがとう!!」
 ヘリーは楓に抱きついて泣きじゃくった。フィスも安心した様子で微笑む。
「彼に炎の耐性があってよかった。怪我がひどいみたいだからちょっと耐えられるか不安だったんだ」
 楓が一仕事を終えて、それでもこの場の誰もが炎を怖がらなかったことに安心して笑う。
 ジルの安静の為、医師以外が部屋の退出を命じられ、途中で安心したヘリーが気を失った。
 フィスはセダたちを別の部屋に案内した頃にはすっかり夜になっていた。それでもジルの命は失われていない。楓は呪いを破壊したのだった。
「セダたちも泊まるだろう? 部屋を用意させるが……」
「いや、シャイデに帰るよ」
 セダの言葉に楓も光も頷いた。
「え? でもう夜だし……」
 フィスが驚いて引きとめようとする。
「だってキア王がきっと心配してる。はやくもう大丈夫だって伝えてあげたいんだ」
「それもそうだけど……」
「大丈夫です。シャイデには炎の転移で戻ります」
 楓はそう言った。フィスは三人の意思が固いとわかるや、頷いてくれた。
「ヘリーによろしく。ゆっくりやすませてやってくれ」
「キア王によろしく。ジルとヘリーは傷がいえるまでこっちの医師の下で完治させますって伝えてくれ」
 セダとフィスはそう挨拶を交わすと、来たとき同様に一瞬で姿を消した。

 その後、ジルタリアでジルは無事に目を覚まし、怪我を治すためにヘリーと共にジルタリア城で腕のいい医師と共に休息を取った。キアとハーキは急いで帰ってきたセダたちに呪いが無事に解けた事とフィスの伝言を聞いて緊張の糸が切れたのだろう、その晩は倒れるように眠った。
 テラは無理に動いたことがたたったのか、しばらくはベッドから抜け出させなかった。しかし楓を心配させないよう、しっかりやすんで、しっかり食べ、予定より早く復帰できた。
 グッカスはテラが休んでいる間、セダと共同の部屋に誰も入れるな、と釘を刺して鳥の姿を取った。何をするのかと思えば、火傷を癒す為に短時間の休眠に入ると宣言してそれ以来動かなくなった。
 鳥の姿で受けた傷は鳥の方が傷が癒えるのが早いらしい。しかしその間警戒もできなくなるので、同室のセダ以外入れるなと事前に言ったようだった。
 獣人にも宝人と同じだけ神秘があるようにセダには思えた。楓は周りを刺激しないよう、テラのそばに行く以外は自室でおとなしくしていた。髪の色が戻るのを待っていたようでもある。
 楓は自分の姿が元に戻り、エレメントの扱いも平常に戻った際、一行と共に楓は宝人の老人達にあの炎の巨人は自分とはまったく関係ないと言い通した。
 宝人達はその主張を疑っているようだったが、リュミィと水の魔神を呼んだと思われているキアが傍で見ていた者の代表として、楓を弁護したおかげで事なきを得た。
 楓はその際にテラと一緒に世界を見たいと申し出た。炎がなぜこうなる運命を歩んだか、自分で見たいのだと。しぶっていた老人達だったが炎の脅威に恐れをなしたせいか、それとも若い意思に折れたのか、結局定期的に連絡をいれ、リュミィが成人まで監視役になることで合意した。
 そして光もセダと契約し、セダとともにありたいと申し出た。予想外すぎる光の行動に老人達はため息しか出なかったようだが、楓と行動を共にすると知って、またしてもリュミィに保護観察の役目が与えられて事なきを得た。
 というか事態が事態でてんやわんや、疲労している宝人の老人達を半ば勢いと混乱に乗じて言いくるめた形になったが、結果オーライである。

 こうして一行はようやく、本来の任務であるモグトワールの遺跡調査という任務に向けて改めて出発したのであった。