モグトワールの遺跡 011

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 さて――セダ達が旅だった後、大国同士の諍いや、炎の魔神によって散り散りになってしまった宝人達はどうしたのか、というと……。
 まず、水の大陸の襲撃された宝人たちはそれぞれ他の里に散っていった。一時的にシャイデの城で過ごした後、共同生活をしていたまとまりごとに、話し合いの末に他の里へひっそりと引っ越していた。
 中にはキア達水の王の行動に胸を打たれ、人間と共に行動することを選んだ者もいたが、まだまだ宝人達にとって人間は脅威の対象であるようだ。
 それもそのはずで、均等区域はシャイデによって時間を掛けて復旧されたが、『卵核』の破壊の記憶が残る場所に宝人は寄り付くことはなかった。最初に襲撃された光たちの隠れ里も暴かれたとあって、同じ場所には戻らなかった。
 但し、逆沼のどこか別の場所にひっそりと隠れ里が作られたとも言われている。しかし、そこは宝人が黙しているので詳細は何もわからない。

 また、戦争を終えたというか、回避した三大大国は、落ち着いてから会談が持たれた。
 シャイデではキアとバスキ大臣、ジルタリアではフィスとビスが、ラトリアからは女性の高官が一人で出席した。その女性高官はヘリーがジルの為にシャイデに行くことを許してくれた女性の高官だった。
 女性によると、ラトリア王の乱心は即位の頃からだったという。ラトリア王には優秀な従姉妹がいた。王位継承権は、亡くなったラトリア王の方が高かったため、彼が王座についたが、内心はいつも彼女と比較していたようである。それを気に病んだ従姉妹は王位継承権を破棄した。それを己の勝利と勘違いし、その頃から驕るようになった王は乱心への道を歩んでいたそうだ。
 従姉妹がいなくなったことで、王を誰も止めることができなくなった。道さえ違わなければ優秀な王だったようで、その才能をシャイデの癒着やジルタリアの方まで伸ばすようになったとのことだ。諌める者は遠ざけられ、ラトリア王の周囲には暴走を止める者がいなくなったそうだ。そこを何者かに利用されたのだろうと推移された。
 おそらく女性の高官がその優秀な従姉妹だろうとキアは当たりをつけたが、内心に留めておいた。ラトリアの次の王を選ぼうにもラトリア王は己以外の王族を全て追放しているらしく、次の王がいない。そこで議会による民主制の国家を作りたいと女性が言った。
 ジルタリアとシャイデはそれを支持し、支援することを約束した。再び三国間の同盟が締結され、国政を担うリーダーが全て一新された形となった。この女性こそ、初代ラトリア首相となるフェビリー=リバイティその人であった。
 フェビリーは戦争や前ラトリア王の負債や腐った行政を立て直したすばらしい国のリーダーとして後世に名を残した。

 そして、ジルタリアではフィスによる新王朝が無事に事を運んだ。前カラ王と同じように父であるビスの本当の身分を明かすことなく、己の騎士として扱い、恒久の和平を誓ったように、大きな混乱や戦なく、国を治めた良き王となった。
 以前のジルタリアよりは宝人の数も増え、三国間の貿易などが発展したおかげでより豊かな国として発展したという。

 最後に、シャイデではオリビン四兄弟が王座を最後まで維持した。今回のことで王らは若手や多くの民に認められ、真に国を統べるリーダーとなった。
 軍はジルが率い、たるんだ軍上層部は叩き直された。
 神殿ではキアとハーキ両名によってラダが大巫女の座を奪われ、ブランが返り咲いた。
 ラダより年老いていたが、神殿のあり方を幼いヘリーに厳しくも優しく教え、ヘリーは以前より神殿を抜け出すことは少なくなった。そしてヘリーは宝人の最愛の友と言われるまで巫女に成長する。
 ハーキは若手に絶大な信頼を受け、司法を受け持つ公正な審判者としてシャイデの司法の基礎を作ったと言われる。
 最後にキアは信頼できる部下を着実に増やし、適材適所に若手を配置し、その手腕を発揮した。民の前に姿を現すことはあまりなかったが、王宮で彼以上に仕事をしている者がいないというほど国のために日々を過ごしたという。
 オリビンの兄弟王は傾きかけた国を見事に立て直した王として後世にまで名を残した。特にキアの名はシャイデを興した初代王と並ぶくらいに偉大な王として民の記憶にずっと残ったという。
 シャイデで新王がたつと、神殿は占いに長けた巫女に新しい王に似合う王としての名を授けると言う。キアは『建国王』、ハーキは『守護王』、ジルは『英雄王』、ヘリーは『巫女王』と呼ばれた。それぞれの王としての名がこれだけ相応しかった王も珍しい。
 キアは国を建てた王に相応しく、後のシャイデにおける政治、行政のあり方の改革を起こした王となった。
 後に多くの王らがキアの行動理念と、その行動、身を持って示した在り方に共感し、見本にしたという。財政の在り方、人事の決め方など貴族や一般市民の垣根を取り払った王としても有名になり、後の人における階級ではなく、能力で雇用する制度を設立した王となった。
 ハーキは国を守る王として司法の方法を確立させ、国の腐敗を一掃したという。また、この法律という概念が民の隅々まで行き渡ったのは、ひとえにハーキの国民に愛されたその実直さと言われている。また、ハーキは弱きものにも手を差し伸べたことで有名だ。
 ハーキの手に寄ってシャイデの福祉事業は格段に進歩し、福利厚生や医療における仕組みを民にとって使いやすく、安心できるものにするよう心を砕いた。多くの福祉施設を創り、そのモデルを一生かけて時にはキアとも反発しながら、それでも民の為に多くの病院や介護施設などを設立した。
 ハーキの代では叶わなかったが、その精神は後の王に受け継がれ、シャイデにおける人の平均寿命が十年は延びたといわれている。
 ジルは国の危機にはその身をもって国民の盾となり、剣となった英雄となった。彼は世界傭兵を密かに兼任し、水の大陸中を渡り歩き、その場で難事を解決した。彼の行動が都市部からは見えない地方の監視の目となり、後の地方自治における腐敗を生まない仕組みを創ったとされる。
 また、彼の行動範囲の広さから彼だけはシャイデだけではなく、水の大陸中でその名を知らしめ、人気を博した英雄となった。そのおかげで彼がいる間、また彼が築いた人脈が深く根付き、水の大陸における外交問題は一気に解決し、戦争などといった災厄を遠ざける一端を担った。
 その流れで、各地の人々の思想や行動を深く理解し、相手に歩み寄る事を教え、彼は多くの優秀な外交官を育てた父とも言われている。
 ヘリーは神殿を甦らせた巫女となった。水を知り、魔神を愛し、宝人の友として宝人をよく知り、後に水の大陸の宝人達は人間は信じずともヘリーは信じるとさえ言うほどに、ヘリーを友として認めた。
 ヘリーだけは宝人の隠れ里を全て知っているとさえ噂され、宝人の危機にはどんな手を使ってもその救出を最優先にしたと言われる。彼女は宝人と人間のかけ橋を体現した偉人と言われている。
 ――こうして水の大陸には徐々に宝人の民が増え始め、より豊かにより平和になったといわれている。

 第1章 水の大陸 了.