モグトワールの遺跡 016

064

「俺に王紋が出たのは十四の時、今から二年前なんだけど」
 セーンはそう言って話し始めた。セーンがエイローズの土地の中でも山間地方の田舎に住んでいて、王家とは全く関わり合いの無い暮らしをしてずっとその暮らしを続けていくと信じて疑わなかった事を聞いた。
 王紋が出て、セーンの両親は王紋を誰にも見せてはいけないときつく言い聞かせたという。
「どうしてだ? 両親とも王家の人ならそのしきたりみたいなの知ってるんだろ?」
 セダが問う。セーンは頷いて言う。
「俺の両親は王家の暮らしが嫌で王位を返上し、田舎暮らしを始めたような人なんだ。たぶん、王になるということをわかってたんだろう。王になって俺がどうなってしまうかも。だから少しでも俺のために、隠す事によって俺が正しい事を選べるまで成長させようとしてたんだと思う」
 それはそうかもしれない。今まで王家のしきたりに沿って生きる分家とは違い、セーンは全く違う環境で生きている。それは慣れない王宮の生活に身を晒す事で在り、弁舌豊かな大人の周りで生きれば、言葉巧みに言いくるめられ、何が正しいか、たった十四の子供には選ぶことは難しいだろう。
「けれど、ある日めずらしく道に迷ったとかいうエイローズの一行が俺の村に来たんだ」
 エイローズとはいえ直系ではなく分家の一つと思われる一行は家族連れも中には交っていた。それを警戒した両親はセーンに一行が居る間は村の中心に出ることも禁じ、羊の世話と万が一一行が訪ねてきても大丈夫なように、離れの馬小屋での生活を言い渡した。
 理由を説明されたセーンは、両親の心配がいたいほど伝わってきて言いつけどおりに暮らした。滞在期間はわずか三日程度。その程度なら夏でもあったし、別段気にならない。
「家族連れの中に、すごい好奇心旺盛な子供がいて……」
 動物に興味があったか、好きだったのだろう。山間で羊を放したり、ヤギなどを飼ったりしていたものだから、一行は自然とセーンの家の方まで近寄ってきた。セーンの家ではなく、隣の家で一行をもてなしたそうだが、セーンはその辺りは詳しく知らない。
「その子が脚の早いサドゥバっていう種類のヤギを追って崖か落ちたんだ」
 まだ小さいその子はヤギが崖を登り降りすることを知らなかったのか、それともなにもわかっていなかったのか、普通なら脚を踏み入れない様な崖の多い斜面で夢中になり崖から落ちたのだ。そこまで高さのある崖ではなかったものの、大人たちはその子が山を登っているとは知らなかったようだ。
「羊の世話をしてた俺だけがその子のかすかな悲鳴を聞いて……」
 セーンが気付いた時、その子は崖下でかなりの出血をしていた。慌てて降りた子供はもう血だらけで、骨折もしていたし、ひどい大けがだとわかった。とりあえず応急手当として出血を止める為に袖を破き、様々な箇所を縛った。折れていそうなところも裾を破って固定をした。
「運悪く前日雨が降っていたから、その子が落ちた先は水たまりというには大きい水がたまる場所でね、全身が濡れていたんだ。村人なら雨が降ってしばらくは危険だから寄りつかない場所だった。その水の中に怪我をして落ちたんだ。そのせいで震えていたし、身体が氷みたいに冷たかった」
 一刻を争う状態だということは、セーンが母から医術を習っていなくても分かる状態だった。
「血も止まっていなかったし……」
 温めてあげようにもなにもない。だが、斜面を慎重にこの子を抱きながら降りたら時間がかかる。それまでに身体を冷やしすぎたら、この子の命に関わる。なにか一枚でもこの子を外気から覆ってあげられたら。
「少しでも身体を冷やさないようにって、そう思って。俺、自分の上着を脱いで、その子にかぶせてあげたんだ」
 絶対王紋を見られないように、上着を家の外では何があっても脱がないようにと言われていた。
「たった三十分程度、いや急いだからもっと短いかもしれない。それだけの時間だけど、ずぶぬれで、血も止まっていない小さな子が腕の中で震えていてさ。で、上半身裸のまま山を降りたよ」
 その子を探していた人々に大けがの子を渡して、すぐに治療が始められた。そこは安心した。
「だけど、それで俺は村人だけじゃなくてその一行にも自分の胸に王紋があるって知られてしまった」
 セーンはそう言って胸を抑える。
「王紋のやっかいなとこはさ、見られると誰もが王と認識するようになるところ」
 一行はセーンを王として王宮に連れて行こうとしたんだそうだ。両親が必死に説き伏せ、セーンも逃げるように山に帰ったおかげでその場はしのげた。その晩は両親が山に入って、これからどうするか話し合ったという。
「子供は助かったの?」
「うん。一命は取り留めったって。その後は知らないけど」
 セーンはそう言う。
「で、その後、すぐにエイローズ家から迎えの使節がきた」
 両親は俺が砂岩加工の旅に出たと言って追い返したみたいだった。両親はいくら王家が嫌いとは言え、王紋が現れ魔神に選ばれた息子を王にしたがらない理由があるみたいだった。どうしても王になってはいけない。少なくともセーンが成人になるまでとそう言い張っていた。どうしてそこまで頑ななのか、出来るか分からないがセーンは王になるべきかもとすら思っていた位なのに。
「それから使節団は二、三回きた。俺はいつも村の人に協力してもらって身を隠した。だけどそうそう逃げられなくて」
 ついにエイローズの直系、すなわち、アーリアがサルンの村にやってきた。
「俺はいつものように村人でもめったに来ない様な山の中に隠れたよ。父さんも母さんも皆が嘘をついて俺を隠してくれた。村人も協力してくれたみたいなんだ」
 王紋に見えたかもしれません、でもあれは怪我した子供の返り血がそのように見えたのでは? 助けられた子供が意識を彷徨わせるうちにみた幻では? アーリアや使節の問いかけにそうやって村中ではぐらかしてくれたらしい。セーンはそれを見て嬉しく思ったし、同時に村人に自分のためだけに嘘をつかせているとわかって心苦しかった。
「アーリア様は納得していないみたいで、俺が帰るまで待つとまで言っていた」
 村人だけなら嘘をつきとおせるが、村に立ち寄ったエイローズの分家一行にセーンは王紋を見られている。村中で嘘をついたからと言って到底言い逃れられるものではない。
「アーリア様がサルンに滞在したその晩、村で、いいや、俺の家とアーリア様が滞在した村長の家で火が放たれた」
 楓がそれを聞いて絶句する。火は水の大陸では付きにくいものとして貴重で大事に扱われていた。火は必要最低限しか使われないのが常だ。それは土の大陸でも生活様式を見れば同じだと感じたが、どうやらそうでもないらしい。
「火は貴重だ。火事なんか起こるはずないんだ。それは、つまり火を放たれたってことだ」
 セーンの瞳は暗い。その時を思い出しているようだ。
「幸い、アーリア様は部下を連れてきていたから、無事だったし、村長さん一家も無事だった」
 しかし火の手はセーンの家でも上がっていた。明らかにそれは王紋が現れたセーンを狙ってのことだ。
「その時、火に紛れて同時にキョセルが放たれていた。父さんと母さんは殺されかけた。正確に言うとそのキョセルに連れ去られようとしていたんだ。父さんは怪我もしていたみたいだ」
 セーンは一人野宿をしていたようなものだったから、所在がキョセルにもわからなかったのだろう。セーンは火の手が上がったことすらしばらく知らなかったのだ。騒ぎを聞きつけた頃には、山の裾で自分の家が在るであろう場所が、夜闇の中、明るく燃え盛っている。あの光景は忘れられない。
「結果的にアーリア様が俺たちの家の方の騒ぎににも気付いて、自分のキョセルを放ってくれた。おかげで両親は命からがら逃げる事ができた」
 楓がそれを聞いてほっとする。
「だけど、キョセルにやられたのか、おじいさんは助からなかった」
「そんな……!!」
 セーンの拳がかたく握りしめられる。楓も悔しそうな顔をする。
「俺は驚いて、隠れ家から出て山裾で燃える自分の家を呆然と眺めていた」
「……それで?」
 おそるおそるミィが訊く。
「その時、俺は誰かに突き飛ばされたんだ。肩に熱い痛みも覚えた。俺もキョセルに襲われたんだ」
 暗闇で襲い来る暗殺者の魔の手。
「俺は怖くて逃げようとした。そうしたら、キョセルが、たぶん複数いたんだろうけど俺を突き飛ばして、で、暗いからよくわからなかったけど、俺の身体を拘束したんだ。で、服をこう、切り裂かれて……」
 セーンはそう言って自分の服を縦に引き裂くように腕を動かした。その動きからセダたちでさえわかってしまう。その襲撃者は本当にセーンの胸に王紋があるか確認しようとしたのだと。
「見られたんだ。王紋を。この王紋ってすごいんだぜ? 暗闇でもうっすら光っているんだ。俺、呆然としちゃったよ」
 苦笑しながらセーンはそう言った。
「で、『本物だ』、『始末しなければ』、そう言われた」
 キョセルの振りかざした刃さえ、暗闇で見えなかった。だけど、殺されるってその瞬間感じた。
「たぶん、胸に振りかざされるはずの刃は、狙いがそれて俺の脇腹に刺さった。急所は逸れたんだ」
「どうして?」
 テラが言う。セーンは頷く。
「テルルが助けてくれたんだ」
「テルル?」
「うん。数年前から俺の家に住み着いていた居候なんだけど。暗闇の中でも複数のキョセルを相手にテルルは俺のために立ちふさがってくれて、それで俺の命を狙ったキョセルから俺を救ってくれた」
 ミィがその瞬間、手を叩いて叫ぶ。
「もしかして、『千変』? 世界傭兵・『千変』のテルル=ドゥペー?」
「そう。俺は知らなかったんだけど、テルルは世界傭兵のテルルで合っているよ」
 セダたちにはなじみのない名前だが、土の大陸で有名な世界傭兵らしい。千変との名前の通り、隠密に長けた世界傭兵で、千の姿を持ち、本当の姿は誰にも知らないという世界傭兵らしい。
「テルルは俺を連れてすぐに村を抜けた。山まで移動して、それから俺の治療をしてくれた。テルルは俺の怪我が治るまで山間に隠れて、時々村の様子を見に行ってくれた」
 それは後にわかったことだが、両親は身の安全を理由にエイローズ家に連れて行かれた。おじいさんの葬儀は村で粛々と執り行われた。自分の家は燃えて、もうない。自分達の家畜は同じ畜産を営む村人に引き取られた。
「そんな……」
 テラが呆然と呟き、話題を変えるようにミィが尋ねる。
「どうして、テルル=ドゥペーと知り合いなの?」
 それほどテルルは土の大陸では人気の世界傭兵らしい。とある舞台では彼を題目に演じられるものもあるのだとか。
「テルルはもともとひどい怪我をして俺の村に逃げてきたところを俺が見つけて世話していたんだ。前々から両親はテルルの正体に薄々気づいていたみたいで、何かあったら俺の事を頼むって言ってたんだって。だから、助けるのが間に合ったらしい」
 そこからセーンの逃亡生活が始まった。テルルは千変と二つ名が付く位で変装の名人だ。そのテルルにやりやすく、正体がばれにくい女装を教わって、女の砂岩加工師として暮らす事になった。最初はそれは抵抗した。女のふりをする事に。だけど、そうは言っていられなくなった。セーンは逃げて一月も経たないうちにエイローズ家に捜索願という形で追われた。
「なんで襲った相手を王宮と?」
 ミィが尋ねる。セーンは頷いた。
「テルルは怪我して俺の家のやっかいになることになったんだけど、そのテルルに怪我を負わせた相手が王宮のキョセルらしいんだ。で、俺を襲ったキョセルと王宮のキョセルは同じだったみたい。キョセルって同じように見えるけど、よくよく見ると家によって若干特徴があるんだよ」
「そんな……嘘」
 ミィからすれば親しい叔父が新しい王であるセーンの命を狙ったことになるからだ。
「とりあえず、俺は王宮には命を狙われた。おじいさんも殺された。王宮は今でも逃げる必要のある敵だ。なんで王宮が俺を狙ったは知らない。でも、俺に王紋があることがわかったとたんに襲撃にあった。ということは」
 その先をグッカスが続ける。
「お前に王になられては困るということか」
 セーンが頷く。これは考え方が複数ある。セーンがエイローズ出身ゆえに、次の大地大君、内政をエイローズに執られては困るという考え。セーンが王家寄りの家出身ではないゆえに、権力を無知な者に任せては困ると言う考え。いろいろ考えられる。だが、セーンに正解はわからない。
 とりあえず、王宮にとってセーンに次の王になられては困るということ。それによって王になろうものなら確実に殺されるということだ。
「でも、お待ちになって。それならあなたはエイローズ家に助けを求めればよろしいのでは?」
 リュミィが尋ねる。
「確か、お前の両親を助けてくれたんだろ?」
 セダもそう続けた。セーンは首を横に振る。
「それを理由に両親はエイローズ家で軟禁されている。俺が王になると表明したら今度は両親がどうなるかわからない。俺は王宮とエイローズ家から逃げ続けなければならないんだ」
 セダが慌てて言う。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! なんで、それで両親が殺されることになるんだ?」
「そうですわね、保護してくれているとも考えられますわ」
「ミィさんは知っているだろうけど、エイローズの今の当主はそういう人かどうかわからないんだ。『魔女』って呼ばれている位だ。自分の敵には同族でも容赦ないって話だ」
「え? じゃあお前が王になられると困る理由がエイローズにもあるのか?」
 あの美しく微笑む女性はそこまでセーンの事を敵視しているようには思えなかったが。
「でもわかるかも。アーリア様はエイローズの始祖に匹敵するとさえいわれるほど才女と名高い方なの。彼女が次の王に選ばれるとエイローズの誰もが疑わなかったわ。でも、彼女は選ばれなかった。相当悔しかったはずだし、誰もが落胆したでしょう」
「もう、アーリアって人が王になる可能性はないの?」
 光が尋ねる。
「今までの歴史上ではないと思うわ。ちゃんと記録を洗えば違うかもしれないけれど。一般的には十九になったら王には選ばれないと言われているから。確かアーリア様は今年二十歳のはず」
「じゃ、それって逆恨みじゃないか」
 セダが言うとミィが首を振った。
「ううん。アーリア様はそういうことわかっていらっしゃるとは思う。ただ、アーリア様を王に、って熱望する人は本当に多かったの。アーリア様の周囲には未だにそれを望まれている貴族も多くいるわ。それにアーリア様がこの人ならって思うような方がエイローズの中にはいないことも事実だし」
 アーリアが優秀すぎた故に、アーリアを筆頭に引っ張っているがゆえに、アーリアとどうしても比べてしまう。そして誰もがアーリアより見劣りするゆえに、アーリアの上に立つべきではないと勝手に周囲が考えれば。
「じゃ、暴走した誰かによってエイローズも安全じゃないってこと?」
 テラが尋ねる。ミィとセーンが同時に頷いた。
「王家って言っても一枚岩じゃない。それはどの家も同じよ。アーリア様の命令には従うでしょうけれど、その主君のために動いて、少しでも己の地位を上げようとする者も多いわ。アーリア様が命令したところでそれは止まらない」
「それでいずれ、アーリアさんは王に選ばれるの?」
 テラが宝人に向かって問うた。
「どうでしょう? 慣例としてないのなら選ばれることはないのでは? それこそ、彼女が最後のエイローズにでもならない限り」
 リュミィがそう言う。
「選ばれないよ。だって現実的にあなたが王に選ばれているんだから」
 楓が静かにセーンに向けて言う。
「だから、暗殺のターゲットになってしまっている、と」
 グッカスが続ける。セーンが生き続ける限り、アーリアが王に選ばれる可能性は皆無だ。
「今は保護という名目で両親は無事だ。でも、もしなにかの琴線に触れてしまったら、どうなるかわからない。関係のないおじいさんをあんなに簡単に殺してしまえるような相手なんだ。俺は怖いよ。俺が王だと言って王になったら、俺の周りには誰もいなくて、そしていずれ俺も消えてしまうのかと思うと」
 アーリアが止めていてもアーリアが始終見張っているわけではない。何かのきっかけで暴走した誰かが両親を殺してしまえば、次はセーンだ。
「だから王になれない……?」
 セーンは頷いた。
「本当にあなたには申し訳ない。だけど、俺も命を懸けているんだ。俺だって死にたくない!」
 ミィが呆然とする。強制できるものではない。セーンはセーンで苦しんでいる。
「だから王位の返上を?」
 セーンが頷く。
「知らなかったけれど、どうやら王位継承権を持っているとそうなのか、それとも俺が王に選ばれたからなのか、テルルと国境を越えようとした時、俺だけできなかった。俺は国内を転々と逃げ続けるしかない。だから、俺はあと二年、十八になったらこの王位継承権を返上して、王から退くつもりだ」
 王位継承権を放棄すれば魔神に選ばれる権利が失せることになる。それで何もかもというわけにはいかないが命を狙われ続けることはなくなるだろう。もし、そうだとしてもきっと国を出て暮らすことができるはず。
「そんなこと、できるの?」
 光が不安そうに尋ねる。セーンが顔を曇らせた。そんなことセーンにだってわからない。だが、そう思っていなければ一体いつまで逃げればいいのだ。自分は権力も何もないただの一般市民と変わらないのに、王家を相手にどこまで逃げ続ければいいのだろうか。それとも諦めろとでもいうのだろうか。
「できるさ。たぶん」
 セーンがそう言う。それは自分に言い聞かせるように。
「だから、あんなに用意周到に準備を……」
 グッカスがそう言ってセーンを見た。よく見れば彼は同年代の少年と比べて小柄だし、かなり痩せている。日々誰かに狙われているかもしれないという不安に加え、裕福な暮らしも満足にできない。そうとう辛い暮らしを続けてきたのだ。そんな相手にミィの事情で死んでくれと言うようなもの。
「そう。そうなのね……」
 ミィも俯いた。すがりつきたい。セーンにすがって、王になってもらいたい。
 でも、そんなことできない。
 こんなに苦労して、こんなにつらい思いをして。そして今もそれを強いられているこの少年に、そんなことは願えない。現に彼はかけがえのない家族を一人失っている――。
「……わかったわ」
 ミィはそう言ってむりやり笑顔を作る。
「ごめんなさい、こっちの事情に巻き込んで。とりあえず、そんな理由を聞かせてもらったわけだし、絶対にあなたの身を晒したりしないわ。もし、それでも、もし危険を察知したらいつでも逃げてくれてかまわない。少し休息が必要ならなんでも言って。用意するから」
 ミィはそう言って立ち上がる。
「ごめん、ちょっと」
 ミィはそのまま外に出る。ここが人避けの魔法を懸けてあることは知っているはずだから、外に出ても遠くは離れないだろう。きっと彼女は一人になりたかったのだ。
 セーンが腰を浮かせかけ、そして自分には何もできないと知って再び座りこむ。
「なんで俺なんだろうな」
 自嘲ぎみにセーンは呟いた。
「本当に」
 セーンはそう言って空を仰ぐようにして一行の視線から逃れた。