TINCTORA 002

005

 二人は旅行者を装って人に中央広場の行き方を尋ね急いで行った。そこはとくに何もなく、ただ子供たちがボールを持ってきゃっきゃ、とはしゃいで走り回っているほかは老人がほのぼのとして広場の隅に腰掛けているだけだった。
 目的の触書は大きく、広場の中央に目立って立てられていた。

『 警告

 先日10月23日 クルセス地方ファキ村は皇帝・サルザヴェクⅣ世の忠誠を裏切った罪によりその罰を村ごと滅ぼすことで罪を贖ったとした。
 がファキの村民はこれを回避、大勢が生き残った。これは許せることではない。ファキの残党は見つかり次第、捕縛する。
 エルス国民はファキ残党を見つけた際は軍に連絡する義務を負ったと思え。
 ファキの生き残りを見逃したり、保護した場合は同罪と見なし、磔、または人間としての尊厳と一切に権利を失う事となる。

 **78年10月25日   エルス第一陸軍 』

 二人はこれを読んでしばらく呆然としていた。何をするべきかわからず、ただ思考が停止していたのだ。
「どうしたの?」
 小さな女の子が掲示を見て呆然とする二人に声をかけた。
「え? あ、ああ……」
「おねえちゃんは旅の人?」
 クルセスやルステリカに比べて帝都は暖かい。二人の格好を見れば子供でさえサクトの人間ではないとわかるだろう。
「ええ、そうよ。それがどうかした?」
 キラがまだ呆けたまま女の子に問う。何が女の子の注意を引いたのか、なぜ話しかけられているのか、わからないのだ。
「あの、あのね……」
 女の子はにっこりと得意そうに満面の笑みを浮かべた。
「あたしのお家は宿屋さんなの。もう、泊まるところは決まってる?」
「いいえ。決まってないわ。今日ここに着いたばかりなの」
 女の子のおかげで多少ものが考えられるようになった二人はようやく掲示から目をそらした。
「じゃ、じゃあ、あたしのお家に泊まって?」
 ナックにキラは合図する。ナックもキラも宿屋を考える余裕などない。ありがたい申し出だった。
「うん。じゃあ、そうしようかな。案内してくれる?」
 女の子はものすごくうれしそうに笑った。
「やった。ママ、褒めてくれるよね? ライー」
「うん。もちろんだよ!」
 女の子の連れは女の子の頭をなでてやる。どうやら女の子の兄のようだ。
「知ってるか? アンは『客引き』に成功したんだ。これでアンもママの手伝いを許してもらえるぜ」
 二人の子供たちはキャッキャ言いながらナックとキラを先導する。対するキラとナックは失意の底に沈んでいて表情も暗い。子供たちが案内してくれた宿屋に着くまで二人の間に会話はなかった。

「……アレ?」
「そのようです」
 とある建物の屋上の上にひっそりと気配なく立つ影が二つ。一人は男、もう一人は女。二人とも黒いスーツに身を包んでいる。服で判断するならば、彼らは貴族の使用人か従者であろう。
「あぁ、めんどくさいなぁ」
 男が盛大なため息をついて空を仰ぐ。男の髪は見事なシルバーブロンドのショートヘア。珍しいほどの白髪である。そしてここらの人種特有の白い肌を持つが、異常さを思わせ思わず鳥肌が立ちそうな赤い眸を持っていた。
 年齢でいうなら二十代半ばだろうが動作は子供っぽい。相棒である女がきっちっとスーツを着こなしボタンをひとつ残らず留めているのに対し、この男は上着のボタンはひとつも留まっておらずシャツだってボタンの半分しか留めていない。ネクタイは飾り程度に巻いてあるだけだ。
 黒いスーツの下のポケットに両手を突っ込んだまま顔だけ小首をかしげて見下している。
「……」
 女は何も返さない。これがこの二人の日常的な風景だった。
 女は膝丈までのスカートスーツを着こなし、姿勢正しく下を眺めている。彼女のメトロブルーの暗い眸は無機質でただ見える光景を眺めているのだった。大きく弛むウェーブが広がるこげ茶の髪が風で時折揺れている。
「ねぇ、ケセド」
 男が女に問いかける。
「何でしょう」
「オレらってさっきまで何してたっけ?」
 男が不満げに関係のないことを言った。
「今は命令を完遂するべきです。……何が不満なのですか?」
「あんなどうでもよさそうな男と女、何がケテルの関心を引いたのかと、納得いかない」
 ケセドと呼ばれた女は無表情のまま言った。
「現在は関係ないことです。ゲヴラー、嫌なら直接ケテルに問うのを薦めますが?」
「うぅ~ん。そうなんだけどさー、ここで文句の一つでも言って楽しいことからはぶられるのもヤなんだよ。わかるだろ?」
「わかりかねます。私はただ命令を完遂するのみですから」
 女は冷たい口調で言い放つ。だが男はそれをくすくすと嗤っていた。
「何が可笑しいのですか、ゲヴラー」
「いいや、別に。オレがケセドを最も理解でき、またわからないように、ケセドも俺を理解し、わからない」
「言動が矛盾していますよ」
「いや、あっているね。これでいいのさ。ケセド、オレに今、してほしいことは何?」
 男は本当に幼子のように純粋な笑みを浮かべる。
「……命令を完遂していただきたく思いますが、いかがかと」
「よろしい。ではオレがケセドの望みを叶えてあげよう。いつもとは逆だね」
 女はちらりと男を一瞥し、
「そうですね」
 と女が答えた時には男の姿はすでに消えてなくなっていた。
「……最初からやるならやって頂きたいですね。全く困った存在です」
 女は初めて感情をあらわにしてため息をついた。

 ナックとキラは沈んだ様子を宿屋の主人に悟られないように警戒しつつ行動することに努めた。
「ナック、覚悟はいいよね?」
「ああ、もちろんだ」
 二人は今長旅で疲れているにもかかわらず、宿屋に客の暇つぶしとして置かれていた、約一ヶ月分の新聞を広げていた。
 これからどうしてファキが処刑されるのか、誰がファキを攻撃したのか、知ろう、というのである。
「キラ、ファキが滅んだのは何日?」
「……10月23日」
「……あった。この日だ」

『ファキ村滅ぶ!!
 本日午後2時にクルセス地方の南に位置するファキ村が王命に背いていたことが発覚した。ファキ村は現在帝都の安全と平和を脅かすレジスタンスに武器を売ったことが昨夜、チェチル中佐の報告によって明らかになった。
 チェチル中佐が目撃したのは帝都の南を本拠地とする反抗分子『ラフタルの撃墜』にファキの村長である、キュユヒト・バーク含む5人が交渉を行い、我がエルス第一陸軍に渡すべき銃器100丁、砲撃台1門、弾丸5000発、爆弾30発をそのままラフタルの撃墜に売却したところで、その場で中佐は陸軍本部に報告され、ファキの者は取り逃がすも、反抗分子ラフタルの撃墜をその場で殲滅した。
 ラフタルの撃墜の主要人物含む30人を捕獲、今回のことについて、反抗分子に武器を売却したのがファキ村と判明した。ファキ村は技術力から王命として第一軍の武器製作を命じられていた。それに加え、先日10月20日にレジスタンスへの加担における罪状を発表されたばかりであった。
 これらのことを考え、これは釈明の余地なしとし、ファキ村の殲滅が命じられた。ファキ村の殲滅を命じられたのはケゼルチェック公爵配下であり、エルス陸軍の南将軍であるヴァトリア将軍である。ヴァトリア将軍は命令を拝命しすぐさま軍を整え、クルセスに向けて出発した。
 そして同日14時に作戦は開始され約30分で作戦を終了、帝都へ帰還した。これによる攻撃でファキはほぼ壊滅と見ており、これによって……』

「……俺の村を滅ぼしたのは……ヴァトリア将軍……」
「ファキの武器を買ったのは……反抗分子・ラフタルの撃墜」
 二人は何も言わずにその次の新聞を取った。

『ヴァトリア将軍失敗か!?
 昨日、14時にヴァトリア将軍によって滅んだファキ村には半分以上の生き残りがいると判明した。
 これはヴァトリア将軍が直接王宮に帰還し陛下に報告したことで判明したもので、砲撃手には通路を狙うよう言い、村民に被害が掛からないようにしたとのことである。これについてヴァトリア将軍は以下のように答えたという。
 作戦に移る前にファキ村の様子を見ており、反抗分子に関わったというのに全く警戒している様子がなく、また普段の生活をしている様子だった。
 ここから反抗分子に組していたのは村の中心人物だけではないかと判断し、部下の一人に調べさせたところ、ファキの村民は武器が帝國軍に買ってもらえたと思っているようだったので自分の判断が正しく、また、何も知らない女子供にまで罪はあるのかと考え、形式のみの攻撃を加え、村民をほぼ全員無事に逃がした。
 罪のない者に処罰は与えられない。よって自分はこれを報告し陛下に考えてもらいたい。ファキの村民ほとんどは無実である、と進言したという。また、自分の命令違反に関しての処分については、陛下の命に逆らったことになるならば自分の上司であるケゼルチェック公爵からの通達を待ちたい、と言ったという。
 これについての審議はまだ続行中であり、またヴァトリア将軍の今後の処遇についても審議中である。これについて、民間の団体からは様々な意見が……』

「……みんな生きてるんだわ!!」
 キラが喜んで言った。ナックもキラの手を取る。ファキで生き残ったのは自分たちだけだと思っていた。それがこの、ヴァトリア将軍の発言が真実ならばナックの友達もキラの両親も生きている、ということになる。これは吉報だった。
「……じゃあ、何故みんな軍に追われているの? この将軍の発言でファキは無実にならなかったのかしら?」
「……そうだな……翌日の新聞を見てみようか」

『結論出ず
 10月23日に王命を裏切ったファキ村はヴァトリア将軍の持ち帰った情報により、その罪が真のものか、否かについての議論がいまだ行われており結論は出ていない。
 現在、陛下と十公爵による臨時会議が開かれており結論は明日未明には出される見通しだ。自らの直下地であるファキの行く末についてクルセス公爵は会議を欠席しており発言を控えている。
 会議は王命を裏切ったとしてファキの断固殲滅を唱えるバイザー公爵と罪のない女子供は許すべきだとするケゼルチェック公爵の二派に別れ結論はこの二つに絞られる見通しである。』

『結論は罪人
 昨日の深夜まで行われていた臨時会議で最終的にファキは王命を裏切ったのは最大の罪とするバイザー公爵の意見が通り、これによってファキの生き残りは罪人となった。
 これに関しての触書が今日の昼までには掲示される見通しでファキの生き残りは罪人として奴隷の烙印を受けるか死刑となる。
 今回の事件の首謀者はエルス宮殿前広場で公開火刑される予定。なお、今回の事件でファキの生き残りを匿ったり、逃がした者は同罪と見なされ、処刑されるのでファキの生き残りを見つけた者は……』

「……これで、ファキは罪人になっちゃったんだわ!」
「それで、あの触書か……! くそ!!」
 いったい何人が無事なのか、このことを知っているのか二人にはわからない。
 いまでは復讐の前に生き残ったみんなをどうやって救うのかを決めるほうが先決だった。だが二人にしてみればどうやってみんなの情報を知るかも救うかも何もわからない状況だった。
「キラ、今日は何日だ?」
「え……? ……11月の7日……じゃない?」
「……まずいぞ、キラ」
 ナックは青くなってキラを見た。
「俺たちは3日かけてゼスに行き、5日かけてルステリカにはいり、1日ラキさんの家で休んで今日帝都に入った。入ったとき触書の話をしてくれた人たちの話では、ファキのみんながここまで来てないって言った。そうだよな?」
「……う、うん。それがどうかした?」
「確かに俺たちはみんなに乗り物を貰えたからここまでこんなに早く来れた。だけど、他のみんながそうだったとは限らない。ゼス村長さんは俺たちにクルセスの民はファキのみんなを逃がさない、と言った。……他のみんながもし、クルセスで何も知らずに捕まったとしたら……?」
 キラが目を見開いて呟く。
「……10日以上経ってるわ。ファキから馬車なら……帝都に入れる……。……帝都に来たら……」
「……処刑、される……!」
 二人は愕然とした。せっかくみんなが生きていると希望が持てたのにこれでは、また逆戻りだった。
「誰を頼ればいいんだ! みんなを救うにはどうすれば……!?」
 そこでキラが昨日の日付の新聞の一面を示した。
「ナック……これ……」
「そんな!!」

『ファキの生き残り明日、死刑!
 クルセス地方で他の村へと逃げ込んできたファキの生き残りが捕らえられ、帝都で明日処刑される。
 今回護送されてくる中に首謀者はいないと見られ、女子供は奴隷の烙印を押され隣のクサンク帝国に輸出される。
 男に関しては磔の上に銃殺と決定され、明日は生き残っているファキの者が一番逃げ込むと予想されるサクトの中央広場で午後三時に処刑される予定。
 今回処刑されるファキの男は全部で五人で……』

「今、何時!?」
 キラが叫んだ。
「正午だ!! どうする!?」
「と、とりあえず行くしかないよ! 中央広場に!!」
 二人は新聞を返すこともなく、急いで駆け出した。捕まったのは誰だったのか、助けることはできるのか、何もわからないがじっとしていられなかった。

 先程行ったときには穏やかな感じのする広場には軍人が何人も午後の処刑に向けて木の十字架を組み立てているところだった。数は5。
 新聞と同じだ。まだ処刑される人は来ていない。
「お前らそんなに処刑に興味あるのか? まだ始まる三時間前だぞ?」
 ぼうっと見ている二人に気づいた軍人の一人が話しかけてきた。
「い、いえ……。あの……」
 キラがしどろもどろになっている。ナックは引きつった笑みが不自然じゃないかと自分で疑問だった。
「……ま、まぁ。いつ罪人たちはここに連れてこられるんですか?」
「おぉ、そうだな。確か処刑される一時間前には顔を晒し者にするんだったよなぁ?」
 軍人が同僚に問う。聞かれた軍人からは是の答えが帰ってきた。
「……だとよ。まぁ、あとそれだって二時間あるんだ。どっかで暇でもつぶしてな。作業の邪魔だ」
「……はい、すみませんでした」
 二人は軍人のそばにそのままい続けるわけにもいかず、かといってあてもなく中央広場を抜けていった。
「どうしよう……あと二時間で、みんなが……」
 キラが呆然となって視線が空を漂う。ナックは何もいえなかった。
「……このまま処刑を待つしかないのか!? ……俺はどうすればいい! クソッ!!」
 ナックとキラは何もいい案を思いつけないまま町を歩いた。そこで前に人だかりができているのが目に入る。
 何かと思って除いてみれば、何かの窓口に怒鳴っている町の人々だった。その建物を見るとどうやら警察署のようだった。
「いいじゃないか、見せておくれよ」
 そう怒鳴っているのはおばさんのようだ。
「だめだ。お前たち二時間の辛抱だろう!」
 窓口の中から軍人が叫ぶ。
「……どうしたのかな?」
「おや、知らないのかい? ここに今日処刑される罪人がいるんだよ。みんな一目見たくて必死ってわけさ。通常ここは知り合いとか家族とかが最後の会話を交わすために作られたんだけどね、今回はファキの全員が罪人だからみんなが興味本位で見に来てるのさ。ま、ここからじゃ何も見えないがね」
 おばさんの説明にナックとキラは顔を見合わせた。みんなここにいるのなら、頑張れば助けられるのかもしれない。
「あ、あの、知り合いなら最後に会話をしていいんですよね?」
「へぇっ? 知り合い、なのかい……?」
 おばさんは信じられない様子でキラを見下ろした。そこにすかさずナックがフォローする。
「ご覧のとおり俺たちは旅をしてるんです。何年か前にファキにお世話になったことがあって、こんなことになってとても残念ですが、あのときのお礼が言えたらなぁ、と思いまして……」
 おばさんはいまだに着替えていない二人の厚着を見て納得したようだった。
「だが今回は村全員が罪に問われる特殊な例だからね、会わせてもらえるかはわからないが……」
 と言いつつおばさんはキラの手をとって窓口に怒鳴り込んでいた。
「軍人さん! この子らはファキの知り合いなんだと! 会わせてやれるかい!?」
「はあぁ!? そんな輩がいるか?」
「旅の途中で助けられたんだと。お礼が言いたいそうだ! どうだね?」
 軍人はまじまじとナックとキラを眺めた。そして胡散臭そうに二人に問う。
「おたくら、その格好、どこから来たの?」
 そこでは作り話が得意なキラが進み出て答えた。
「ダンチェート帝国からです」
「ダンチェート? 何しにエルスへ?」
「新しい交易の下見を命じられてきました」
「そんなに若いのにかい?」
「はい。私たちの村では成人は十二歳ですし、彼は次期村長ですから」
 軍人はナックをしげしげと見つめた。職務上仕方ないのだろうが感じのいいものではなかった。
「……で、いつファキに来たの? 誰に世話になったの?」
「ファキの方にお世話になったのは前回の交易の下見のときです。昨年の八月だったと思います。お世話になったのは薬屋のトムゾンさんという男性でした」
 トムゾン、かれは村一番の親切な男だった。ナックもキラもお世話になった大好きな大人の一人だ。
「……ふぅん。何か証拠に残るようなものはある?」
「……ありません」
 軍人は同僚に囁いた。同僚が戻ってくるまで待て、と言われ、二人は辛抱強く待った。
しばらくして同僚の軍人が戻ってきて耳打ちする。
「残念だが、面会は許可できない」
「なんでです!?」
 キラが叫んだ。ナックもキラの作り話がばれたとは思えない。
「今回処刑される中にトムゾンたる男はいないからだ。まだ捕まっていないか違うところに送られているだろうさ」
「……! ほ、他には誰がいるんですか? トムゾンさんだけじゃないんです! ファキの皆さんにお世話になったんです! た、たぶん知っている人がいると思います! お願いします!!」
 キラは窓口に向かって叫んだ。ナックも頭を下げる。
「……困るな……。じゃ、あんたら旅券は?」
「……旅券?」
 軍人は頷いた。
「旅人なら旅券が発行される決まりだろ? それを証拠にしてやる」
 キラは悩んだ。自分たちは旅行者ではない。ファキの生き残りで逃げている。旅券なんて持っていようはずがない。
「宿に忘れました。今は持ってません」
 ナックが言うと軍人は手を払う仕種をした。
「じゃあ、だめだな。許可できない。どうしても会いたければ宿に旅券を取りに帰りもう一回来い。さぁ、帰った、帰った!」
 ナックとキラは人ごみの外に追い出されまた途方もなく町を歩いた。
「あそこに、あそこにみんながいるのに!」
 ナックが悔しさに拳を握った。
「な、キラ。二時にあそこから広場に連れ出されるときにみんなを軍人から奪えないかな?」
「……無理、だよ」
 ナックは自分も思い描いた結果を反芻する。
「……」
「……」
 二人に出来る事は、なかった。