TINCTORA 003

3.憎悪渦巻く帝都

007

 広い書斎の中には立派な大きい机が一つ。その机と部屋のいたるところに紙が積み上げられ所狭しと、本が乱雑に置いてある。机に腰掛けてその書斎の主はくすくすと笑っていた。
 そこに音もなく現れるのは長身の男。たなびく紫煙がその存在を気づかせた。
「どうかした?」
「君がこんなに愉しそうなのは珍しいと思ってね。いつもは紙に忙殺されているだろう?」
「そうだね、何てったってケゼルチェック公爵さまだからね。忙しいね」
「……ふむ」
 男は長い金髪を背の中ほどまで垂らしている。愛用するのは黒いスーツであり、これは彼に従う者の一般的な服装といえた。
「君は何とゲームを行うのかね?」
 男が問うがこの書斎にはゲームなどの娯楽は見当たらない。しかし部屋の主は答えた。
「時と世界、かな? さて、知識者・コクマー、僕に何か用?」
「願わくば私も君のゲームの駒にしてくれたまえ。おもしろそうだからね」
「……みんな最近参加したがるなぁ。いいよ。コクマーは好き勝手やりたいんだろう? 僕の思惑とは別に」
「よくわかっているじゃないか。感心だね」
「駒の性質と能力を把握するのもプレイヤーの基本だからさ」
「成程」
 そこでこの部屋の主、ホドは右手を窓に向かって差し出した。コクマーも釣られてそれを見る。
「次手」
 ホドは言った。ここに新たな参加者を祝うべく、嗤う。
「裏切り者が狂い笑う、愚者の絶叫するトコロ……。縁(えにし)途切れ絡まり結ばれる帝都の中央・クミンシード」
「そこが次なる舞台かね」
「……そうだよ。みんな楽しんで踊っておいで」
 ホドは紙を破り捨てる。
「僕の手の上で、ね……」
「……期待に沿おう」
 そしてコクマーは音もなく突如、現れた時と同じように消えた。
 ――くすくすくすくすくすくすくすくすくす。嗤い声がこだましていた。
「笑いすぎじゃないかな? そんなに楽しいの?」
 ホドは書斎の机から降りて仕事をするべく立ち上がった。背後に今入ってきたコクマーとは別の気配がある。
「まぁね、人が僕の思うように動くのは本当に滑稽なものだよ?」
 ホドはそう言ってケテルに笑いかけた。
「そうなんだ……僕にはよくわからないなぁ? 全部ホドに任せているからさぁ」
「やってみたいの? 僕の計画通りに進めてくれるなら別に少しくらいやってもかまわないよ」
 ケテルはそこで眉を寄せた。
「ホドの思い通りにやって何が楽しいのさ?」
 ケテルは笑って言った。
「それもそうだね。だけど、よくもまぁ、ケテルは僕に楽しい娯楽を次から次へと提供してくれるね。感心するよ。」
「まぁ、ホドのやってる仕事の三分の一はもともと僕の仕事だからさ。感謝の気持ちをこめて君への娯楽探しは結構、僕、必死でやっているんだよ」
 ホドは呆れて苦笑した。
「その前に僕の仕事を手伝ってくれるほうがありがたいって、気づいてくれないんだ?」
「あ、あはは……」
 乾いた笑いが書斎をこだまする。しばしの沈黙の後に降参したようにケテルが言った。
「わかった! 手伝うよ!! ……手始めに、その書類は何?」
「ああ、コレ? これはね、追跡者からの報告だよ」
 書類から視線を上げてホドはケテルに教えた。
「追跡者っていうと、ゲヴラーとケセド?」
「ああ。でも、そろそろ……ケセドは引き上げさせようと思っているんだ」
 ケテルは意外そうに目を丸くする。
「えぇ!? でもさー、ゲヴラー一人じゃ、結構心配なんだけどなぁ……」
「そうでもないさ。ゲヴラーは興味を持てばちゃんとやるよ。それに新しい駒も手に入ったことだしね……」
「……もう、このことについて知っているのが他にいるの? 僕らしか知らないんじゃないの?」
 ケテルはホドに問うた。
「彼が知らないことはないさ。……知識者・コクマーだよ」
「なんだ、コクマーか。じゃ、いいや」
「誰ならだめなんだい?」
 意外そうに今度はホドが言った。
「大きさが足りない器に与えてやる水はない、ってことだよ。もったいないからね」
「おやおや、君を心酔している部下はのけ者か……ケテルは厳しいねぇ? くっくっく」
 笑ってホドがからかうと負けじとケテルも言い返した。
「君ほどじゃないよ。失礼な」
「……そうかな? ま、いいか。さて、手伝うんだったっけ? 見る?」
 ホドはそう言って書類をケテルに渡そうとするがケテルは首を振って断った。
「いや、いいよ。筋書きがわかったらつまらないでしょ?」
「意外だね。でも話を予想するのがおもしろいとする考えもあるよ?」
 ケテルは笑った。
「これは推理する話ではないからね、わからなくていいのさ」
「それは、失礼」
 ホドは書類を蜀台の蝋燭に差し入れ、燃やした。

 キラとナックがサフランの元でレジスタンスとして働き始めてはや、一週間が経つ。
 不気味なほどにあれからファキの話題は上らなくなった。それはみんなが捕まっていないことを指すのか、それともそうではないのか、ナックたちにはわからなかった。
 ただ、この少しでも平和なときを無駄にしないように、ナックはサフランから直々に銃器の扱い方を習った。もともと試し打ちをファキでやっていたこともあって、ナックの銃の腕はたいしたものだった。
 が、剣は別である。剣の製造はファキの仕事ではなかったから、サフランに素人の烙印を押され、まずは剣の重さからなれることになった。
 銃器は主流になった今、剣なんて使わないことのほうが多いが、実際、銃器は軍のものであり、一般の人はいまだに護身方法としては剣に頼る。
 それに貴族社会では剣がうまく使えればそれだけ昇進もはかどるのだ。つまり、それだけ、銃器が新しくて、貴重で、王命を裏切ったと、みんなが処刑されようとしている理由はここにあった。
 ナックが剣の修行をしているころ、キラはまるでファキのころを思い出すように酒場の手伝いをしていた。
 そして、ナックたちと同時に仲間になったカナードは諜報員としてしごかれている。
 諜報員は幼いころから修行しないと技能が身に付けられない、専門職だから、格好の期待のエースである。本人もかなりのやる気ですばらしい発達速度だそうだ。
「ナック! キラ! カナード! 来い!!」
 サフランが突然三人を呼んだ。何かと思ってサフランの部屋に行くとすでに主要メンバーがそろっていた。
「いいか、よく聞け。……次の処刑が決まった」
 三人が同時に息を飲む。
「次の処刑地はクミンシードの北側だ。テルイという町の中央広場で7人処刑される」
「なな……に……ん……」
 ナックは愕然とするキラを支えた。
「そ、れは、確かな事……なんだ、な?」
 ナックはくらくらしつつサフランに言った。
「そうだ、そこでお前たちを俺はリーダーの所に送ることにした。近くに行かなければ自分たちの手で助けられないだろうからな」
「……リーダーって?」
 カナードが尋ねる。
「俺たち『名も亡き反抗分子』は今あるレジスタンスの中で最大だ。帝都で活動をしているのが俺たちのリーダー、オレガノ・ルートだ。俺はオレガノからここの北の活動するグループのリーダーを任されている」
「オレガノ・ルート」
「そうだ、話し合って決めたんだが、お前たちがここに入ったのはファキのみんなを助けたいからだったな。ではこんなところで腐っていてはだめだ、違うか?」
「腐るって……でも、サフラン!」
 キラが言った。
「大丈夫、活動する場所が変わるだけだって。俺たちはいつまでも仲間だ。お前たちのことは十分オレガノに言ってある。心配するな」
 ナックはキラとカナードにそれぞれ頷いて、サフランに頷いた。
「早く荷物をまとめて支度をしろ! 翌朝にはクミンシードに送ってやる」
「わかった!」

 本当のことはわけもわからずじまいだったが、ナックとキラにはファキのみんなを助けたいという望みとファキをここまで追い込んだ者たちへと復讐することが生きている理由だった。
 ただ、わかっているのは次にファキの誰かはわからないが、殺されるのはここ、サクトではなく、違う場所だからこそ救うために移動する、ということを頭に叩き込んだ。
 ナックは本当にサフランに感謝しているし、まだまだ学びたいこともたくさんある。それにあまり村の外に出ないファキの民の一人としては唯一知り合えた帝都での仲間と離れたくなかった。
 だが、自分だけがそんな甘いことを言っていられないのもわかっていた。キラは酒場の女亭主や町の娘とかなり仲良くなっていたし、酒場の仕事というキラが本来あるべき将来の姿は、キラにとっても安心できる生活だったに違いない。
 しかし、キラはサフランからこの話を聞いて、すぐさま移動の準備をはじめた。キラは自分からこのつかの間とも言える、安息の生活を断ち切ったのだ。
 まだナックから見ればほんの子供であるカナードはキラほど社交的でないにしてもまだまだ遊び盛りの幼い男の子だ。
 なのに、なまじ、ナックやキラより決断は早く、その思いは強い。
 そう、これが目的を持つ、ということなのだ。目的のこと意外はあえて切り捨てることが必要なのだ。
 特に、ナックとキラの目的には。ぐずぐずしていたら、また、みんなを無駄死にしてしまうことは明白なのだ。
 なのに、どうしてナックは自分が迷っているのかわからなかった。
 どうしてキラやカナードのように決断できないのか自分が不甲斐なかった。それでも刻々と時間は過ぎていく。
 のろのろと準備をしていたらいつの間にか、ナックの心とは反対に荷物は小奇麗に、すっきりまとまった。誰もナックがクミンシードに行くことを迷っているとは思わないだろう。だって、ナックはそのためにここにいたんだから。
「ナック、今、平気か?」
「サフラン!? い、いいけど、何だ?」
 ナックは部屋の入り口にサフランが静かにたたずんでいたことを始めて知った。それほど、深く考えていた証拠だった。
「ここにいても、いいんだぞ?」
「!」
 ナックは自分の心の中で誰かに言ってほしかったことをすんなりと言われて、かなり動揺した。
「お前が悩んでんのは知ってる。お前、顔に書いてあるよ」
 ナックはそれを聞いて思わず顔に手を当てた。サフランがその動作を見てかすかに笑う。
「本当はキラと話し合って決めるのがいいんだけどな、キラはそんな余裕はないみたいだ。本当は気づいてもよさそうなんだがな」
「キラは……悪くないさ。俺が男の癖に、悩んでるほうがおかしいよ。本当は、わかってるんだ。早く行かないと、みんな死んじまうって。……知ってんだ」
「俺な、本当はここじゃなくてクミンシードでオレガノと一緒にいたんだ。楽しかった。仲間が死んだり、上手くいかなかったり、後悔してばっかのときもあった。だけど、オレガノと一緒なら大丈夫、って信じてたんだな」
 サフランが懐かしそうに呟いて、語りだした。
「俺たちに仲間が増えて、グループにわけてこの国全体を監視しよう、ってことになった時、オレガノは俺に言ったよ」
「……何て言われたんだ?」
「サフラン、お前、北に行ってくれないかって、な。俺は愕然としたよ。裏切られたとも思ったな」
「どうして……?」
 サフランはナックを見て弱々しく笑った。
「オレガノとずっと一緒にいられると信じてたからさ。俺にとっては目的より、オレガノといるほうが大切になってたんだよ。今のお前と一緒だな、まぁ、あのときの俺はお前より醜かったけどな。『俺は行かねぇぞ!! 絶対になぁ!!』とか叫んだりしてさー」
 ナックはそんなサフランを見ていった。
「じゃ、どうしてここにいるんだ?」
「……離れていても、オレガノと一緒だと、わかったからさ」
「……一緒?」
「そうだ、ナック。俺はお前に行け、なんて言わないぜ? 俺が仲間に入れた、大切な俺の仲間だからな。俺はお前がどうしようとずっと仲間のままだからよ、それが……言いたかったんだ。……それだけは覚えておいてくれ、悪い、邪魔したな」
 サフランの背中がゆっくりと去っていく。ナックは決意を固めた。
 ――翌日、ナック、キラ、カナードはクミンシードに向けて旅立った。

 サフランに連れられて三人は帝都クミンシードへと到着した。
 ここは広い帝都の中の帝都とも言える場所で王宮や政府の重要機関などが建つエルス帝国の中心である。サフランは馬から下りて駆け寄ってきた人物に手をふった。
「サフラン! 大丈夫だったか?」
 サフランに向かって寄ってきたのは可憐な少女だった。長く淡い金髪がいっそう少女の儚さをかもしだしている。三人もサフランに倣って馬から下りた。
「君たちが……。ま、ここじゃなんだ、中に入ろう」
 少女は三人を悲しげな瞳で見ると、サフランに頷いて、その身を翻した。
「……サフラン、あの子は……?」
 キラが女の子というだけで近親間を抱き、尋ねる。
「あれが、俺たちのリーダー、オレガノだ」
「……えぇぇ!!?」
「驚く前に早く入れ!」
 サフランがキラを建物の中に押し込む。建物から数人の人が出てきてサフランに親しげに話しかけると、ナックたちが乗ってきた馬の手綱を引いていった。
 それを見てカナードは建物の中に消えていく。ナックはキラの手をとって後に続いた。
 中は寂れた教会だった。もう、使われてもいないのだろう、表の十字架にさえ気づかなかった。
「奥の階段を下りろ」
 サフランが厳かに言ったので三人はおとなしくそれに続いた。土壁で出来た狭く、急な階段は舗装されることもなく使われ続けているみたいだった。おそらく、教会が捨てられてからサフランたちが作ったのだろう。
「地下なんて軍が来たら一発じゃない」
 キラが呟いた。そういえば、まだ、サフランが指示している酒場をアジトにしたほうがばれなさそうだった。ここでは普通に寂れた教会に何しに来ているのかと不振がられそうだった。
「そうでもない。ここは誰が所有しているか知ってるか?」
 誰も知らないのでみんなが首を振る。
「学校さ。研究員がこの教会の下で遺跡発掘をしている、という建前だから、俺たちは未だに見つかってないんだよ」
 サフランはそう言った。
「すっごーい。それじゃ、誰も怪しまないね。誰が思いついたの?」
「オレガノだよ。もともとここはこういう理由で場所を移された教会なんだ。真実の元に成り立ってるのさ」
「……へぇ」
「そら、着いたぜ!」
 サフランが示すと急に階段に明かりが差している。中からざわめきが聞こえた。
 入るとそこは階段と同じく全く石などで舗装されていない土の部屋だった。直接土に蜀台が刺さっている。部屋には発掘道具と机のみ。誰がどう見ても研究者と学生にしか見えなかった。
「いらっしゃい」
 先ほどの少女すなわち、オレガノ・ルートが三人に声をかける。
「自己紹介がまだだったね。オレガノ・ルートだ。名も亡き反抗分子の全リーダーを勤めている。これから、よろしく。」
「俺はファキの民、ナック・ヴァイゼン。こちらこそよろしく」
 ナックはオレガノと握手した。続いてキラとカナードがあいさつする。
「そう、三人ともようこそ、帝都へ。ここは憎悪が渦巻く恐ろしい街だ。気をつけるといい」
「……よく、わからないのだけど……」
 キラが言った。するとオレガノはサフランを非難の目で見た。
「サフランそんなことも説明せずにこの子達をここへ? それは無責任じゃないか」
「この子達は敵(かたき)を討ちたいんだ。目的を果たせずして、何のためだ?」
 オレガノはため息をついていった。
「わからなくもないけど、ここはそもそも果たし場でもなければ、願いをかなえてあげる場所でもないんだよ。わかっているよね、サフラン」
 その瞬間かっと怒りがキラの身を焼く。
「ちょっと、黙っていればなんなのよ、あんた!!」
 オレガノはキラを無視してサフランに言った。
「ちゃんと育ててくれたんだろうね?」
「……ナックについては銃器は使える。カナードはシェラに任せた。キラは後方支援をやって貰った」
 オレガノはまたため息を吐く。
「……はっきり言ってほしいな。誰も育ててないんだろ?」
 サフランはしばらく黙っていたが唇をかんで軽くうなずいた。
「正直でよろしい。でも言い訳しないところがサフランの良いところだね。知ってるよ、その子達、あの公開処刑から入ってきたんだろ? 育てられなくて当然だってば。ただ、ちょっと久しぶりだからさ……。わかるだろ?」
 サフランは苦笑していた。これがこの二人の挨拶代わりのようだった。
「……さっき喚いてた君」
 オレガノがキラに言った。
「何が得意なの?」
「えっ……!?」
「即答できないなら、何もないって事だ。困ったな……」
「あ、あんた!」
 キラはオレガノに図星を指されて睨む。
「この際だからはっきり、言っておこうか。俺はね、サフランほどやさしくはないんだよ。やさしさだけじゃ渡っていけないのを知ってるから」
 オレガノがそこでぐっと金髪をつかんだ。
「この帝都という場所では気を抜けば生きていけない。覚悟が足りてないんじゃないか?」
 金髪が頭から塊となって落ちるとサフランと同じ茶髪の短髪が現れる。
「文句言う暇があったら自分を鍛えろよ、このアホ女。なめてかかってんじゃねぇぞ、馬鹿が!!」
 カナードとナックは絶句した。儚い美少女は口の悪い男だったのだ。
「だって!!」
 キラは目に涙をためて歯軋りした。
「だってもクソもねぇんだよ、タコ! 泣きゃあなんでも済むと思ってんじゃねぇだろうなぁ、あぁ? これだから女は嫌いなんだ。すぐぴーぴー泣きやがって。……もしかしてサフランこいつの泣き顔にやられたんじゃないだろうな! そんなんだったらもう一回、テメーも鍛えなおしてやっぞ!!」
 巻き込まれたサフランは慌てて首を横に振っている。
「そこまで言うことないじゃない! 私たちは!!」
「テメーの言い分なんざ、聞いてやらねぇよ。使えるようになってからまともに口聞きやがれ!」
 オレガノの最初のイメージは音を立てて崩れた。
「いいか、よぉく聞け! 俺は使えるヤツしかいらねぇんだ! よくそのお飾りみたいな耳に叩き込んどけ! このボケどもがっ!!」
 オレガノは興奮した自分にやっと気づいたのか、足元に落ちたカツラを拾い、土埃を払って装着しなおす。外見だけもとの少女に元通り。
 もう騙されないぞ、とナックとカナードは固く心に誓った。
「……じゃ、じゃあ……」
「あぁ!?」
 まだ何か言いたいのか、と言いたげにオレガノが凶悪な少女を作る。
「ここではみんな、あんたの言いなりなのね……」
 キラの言葉にオレガノが目を剥く。サフランが言いかけるがそれを制し、オレガノはサフランを連れて背を向けた。
「……使えねぇヤツは一人残らず…………死んでいくのさ」
 オレガノはそう呟いて去っていった。キラは愕然として何も言い返せず、座り込んだ。
 ナックもキラの方に優しく手を添えながらオレガノとサフランが消えていった先をただぼんやりと眺めていた。痛いほど現実を知ったときだった。
「……俺、空気重くてやってらんないや。しばらく外出てるな」
 カナードがキラを心配して去っていく。その気遣いがありがたかった。
「キラ……」
 ナックは優しく声をかけた。