TINCTORA 003

008

「しばらく姿を見せずに何をしていたのかと思えば……呆れますね」
「いいだろ? ケセドは物事をもっと楽しく捉えるべきだって」
 ゲヴラーはくつくつと笑った。
「わたしにはそんなことは不可能です」
 切り捨てるようなケセドの返事にゲヴラーは爛々と輝く赤い瞳で嗤った。
「そうだよなぁ。お前には過去しかないよなぁ? お前は過去の蜜を舐めるしかできないんだった。蜜は今も相変わらず甘いのかい? それじゃ、現実に興味が持てないのも、一理あるか。あっはっはっはっは!!!」
「!!」
 ケセドがその何も映さない暗い瞳に初めて赫(あか)の一点を灯す。
「何を!! わたしは!」
「隠さなくていいってぇ。俺、知ってるもん。言っただろう? 俺はケセドを唯一理解できる存在だと」
 ケセドは強く目を閉じた。まるでゲヴラーに掻き乱された自分の内面を必死に繕っているようだった。そうでもしないと自分を保てないのだろうか。
「これ、ホドからの情報です。好きに使ってください。わたしはもうすぐこの任を解かれますから」
「よかったね、俺と離れられて。お前の醜い淫乱な内部をさらけ出せるのは俺しかいないからな。じくじくに膿んだその場所を俺が切って、開けて、解剖して、みんなの前に掲げてやろうか?お前なら興奮するんじゃないか?」
 羞恥にかっとケセドがゲヴラーを睨む。
「結構です、天空の外科医殿。コレ、確かにお渡ししましたよ」
「はい、受け取りました。ありがとう」
 にっこり笑うその笑顔は無垢な子供のようで、何も知らない純粋さを持っていて、ゾッとするものだった。
 この男には恐怖、殺意、怒り、興味、おぞましさ、そして欲しい、と思ってしまうそのアツイ感情がすべて混在する。この男はキケンだ。だが最も甘美な華でもある。
 たとえ、その奥に自分が捕らえられるとしても。
 ――わたしはいつまでこの男の誘惑に抗えるだろうか――
 とりあえず今はその甘い、疼きにも似た彼の毒牙から逃げておこう。わたしにはすでに深いアイの楔が打ちつけられているから……。
「おもしろいな。ケテルとかはケセドの恥部を知っているかな? ……知ってそうだな」
 一人、ケセドの消えた空をぼんやりと眺めながらゲヴラーは笑った。
「で、ホドは何だって?」
 紙をしばらく覗き込んでいたゲヴラーはガバっと立ち上がった。
「まじかよ! やっべぇ! まずいじゃないか」
 くしゃりとその紙を握りつぶすと拳を硬く、力をこめた。拳を開いたときには紙は灰のように細かく塵になって飛んでいく。
「でも、愉しいよ、ケテル」
 赫い眸は遠くにいる主君を想うのだろうか。
 ――誰も、しらない。

 新しく来た地に新たな仲間。ナックたちがクミンシードに来て翌日にサフランはサクトへ帰っていった。
 それを見送ったのはナックとオレガノだけで、キラは部屋で泣いていた。キラは情緒不安定に最近なりがちだ。
 カナードはクミンシードでの諜報部員に稽古を受けているから来られなかった。
 サフランはオレガノにくれぐれもよろしく頼むと言って去って行った。サフランにはサクトでする事が、俺たちには俺たちにしか出来ない事がクミンシードで待っている。
 ナックにはもう、迷いはない。
「教会の裏手に出て、剣を取れ。お前がどれくらいのものか、見極めてやる」
 オレガノは寂しそうにサフランを見送っていた目をきりりと元のリーダーの目に変えてナックに言い放った。
「はい」
 翻る金髪の鬘(かつら)は今や、儚い少女などには見えない。オレガノは傲慢だ、キラは泣いたけどナックは現実を痛いほど知って、ああなるを得なくなったと考える。
 見た目ほど傲慢でも厳しくも無いのだ、きっと……。
「ナック!」
 頭上から幼い声が響いた。ナックが上を向くまでも無くその小さな影は落ちてきた。
「やっぱり。サフランの見送り間に合わなかったか?」
 息を切らした様子でカナードが言った。
 教会の屋根にはクミンシードでの新たなカナードに先生である、レジスタンス最高の諜報部員がカナードを静かに見下ろしている。弟子の帰りを待っているのだ。
「ああ、さっきさ。残念だったな」
「う~。お礼言いたかったのに……。ま、いいや。今生の別れでもないしねっ!」
 カナードは明るく言った。
「ナックはこれからどうするんだ? 俺は先生が師匠に頼んでくれたから引継ぎとかいろいろ無くてすぐに修行に入らせてもらったけど……」
 確かに、いつまでも客人ではいられない。少しでもオレガノの言う『使えるやつ』になりたいが……。
「さぁ、わかんね。でも、リーダー直々で剣を見てもらえるんだ。それで俺の剣の先生とか決まるんじゃねぇかな」
「お、やったじゃん。オレガノは凄腕の剣士って言うからさ。よかったね。……でさ。……キラは……?」
 俺は言いにくそうに尋ねるカナードに苦笑いした。
「部屋で寝てる。……疲れてるんじゃないかと思うからさ……。今は、そのまま、にしとこうと思って、さ」
 カナードは頬を掻いて視線を逸らせると言った。
「そっか、でも……。ううん、なんでもない! ナックはオレガノに呼ばれてるなら早く行ったほうがいいぜ。起こると怖いしさー」
 その言葉には納得する。
「俺も、師匠待たせてるから、また、夕飯のときに」
「おう!」
 カナードはそのまま一気に教会の屋根の上、即ち師匠の下へと跳んだ。
 凄まじい跳躍力を見せ付けられてナックのやる気が出てくる。俺も、高く跳んでみせるよ、サフラン。

「集まれ」
 オレガノの大きな声が響く。宵時になってメンバーの全員が集まる。
「静まれ」
 オレガノが再び言った。夕食の後は必ず会議が設けられる。そこでこれからの活動はどうするかなどの大まかなことが決定される。
 ここでは誰もが平等の発言する権利を持ち、情報は隠さないのが最低のルールだった。
 ナックとカナードは新参者なので一番後ろからその様子を見ていた。
「カタユ、この前の武器の売買は見事だった。武器の振り分けはまだ未決定だが全員に行き渡ることは間違いないだろう。ただし、だ! 武器に自信が無いやつは今まで通り剣で戦え! 余分な弾は無いからな。そうだろ、レルカ?」
 どっと笑いが沸く。レルカたる人物は射的が苦手のようだった。
「ナック! カナード! キラ! いたらここまで来い!」
 突然呼ばれて驚きつつも人ごみを避けて回ってオレガノの隣に立つ。
「……キラは?」
 オレガノが当然そうに聞く。二人は口ごもったが、ナックが切り出した。
「気分が悪いみたいなんだ。まだ、部屋から出てきてない……」
 オレガノが不快そうに眉を顰めたが何も言わなかった。
「新しい仲間だぜ! なんと、サフランお墨付きでからな。じゃんじゃんこき使ってやれ。じゃ、いっちょ、自己紹介しろ」
 ナックが一歩目前に出ると果敢に歓声がとんだ。みんな受け入れようとしてくれているのだ。それが嬉しかった。
「ナック・ヴァイゼンです! 俺はファキの民です。入団の理由はこれでわかってもれえたと思います。なれない間は迷惑かけますがよろしく!!」
 みんなファキの名前が出た瞬間にそれぞれが哀悼の意を示してくれた。
「は~い! 質問!!」
「言ってみろ、ランガ」
「ナックはファキの民ってことは銃器の整備とか出来ちゃったりする~?」
「ああ、簡単なのならもちろん出来るぜ」
 ナックが答えると口笛と歓声が一気に沸いた。
「オレガノやったじゃん!? これで死んだと思ってた銃器の半分は復活するかもしれないぜ?」
 オレガノは意外そうな目を向けた。
「本当か? ナック」
 ナックが肯くとオレガノが嬉しそうに笑った。
「でかした!! ランガ、お前、もしかしたらマジ天才かもしれない!! コイツにはそんな使い方があったんだな! サフランはいい拾い物をしたな!」
「オレガノー、それは俺を褒めてんの? それともサフラン、ナック?」
 情けない声に思わずナックも笑ってしまう。
「さ、次だ」
 オレガノがカナードを押しやる。
「あ、あのっ!!」
 緊張しちゃってる~かわいい~との黄色い声援がお姉さん方から飛んでくる。……そういやこいつ。ショタ受けしそうな顔してるよな。
「カナードです! よろしくお願いします!!」
 そう言ったら、真っ赤になってもう何も言えなくなってしまったようだった。その様子にまた歓声が沸く。
「おら~。静まれ~」
 オレガノが笑いつつも言う。
「本当はあともう一人、仲間がいるぜ! 喜べ野郎共!! なんと女の子だ! しかもかなりの美人だぞ!!」
 ひゅ~と歓声が上がる。
「名前はキラだ。黒髪に青い目の女の子でナックと同じファキの民だ。みんなよろしくしてやってくれ」
「オレガノ、なんでキラちゃんのお顔、拝めないんすかぁ~?」
「疲れが出たんだろ? そっとしといてやれ。さて、これからは俺たちの紹介だな。お前たち組に分かれろ! 迅速に、静かになっ!!」
 オレガノの言葉に何かわからない奇声を上げて答えるみんな。みるみるうちに大勢いた仲間たちは六つのグループに分かれた。
「女が多いのは理解できるな? 後方支援のみんなだ。こんなかのリーダーはセルフィさんだ。たぶん、打診してないからわからないがサフランの話ならキラはここに入るだろう」
 右端に位置した幼女から老婆まで、まぁ、さまざまな女の人が手を振って答えてくれる。
「手前にいるのは作戦立案のみんなだ。俺はここに属するな。こいつらにわからないことは聞け。その奥が実動部隊Aのみんなだ。主に射撃を得意としてる。ナックはサフランに聞いたら銃器の扱いが上手いそうだからここかな?」
 よろしく~と歓声が響く。
「オレガノ、銃器の扱いならキラも上手いよ」
「そうか、もしかしたら、実動部隊初の女の子ゲットかもな」
 ナックの時より大きな歓声が響いた。
「その後ろは実動部隊Bだ。Aとともに動いたり独自に動いたりする。こっちは剣は主流だな。サグメ!」
 はい、とまだ若い青年が応える。
「ナックの剣の指導を命じる。三ヶ月で育てろ。ナックお前は明日からサグメの言葉に従え、わかったな?」
 ナックはサグメに目礼してオレガノに肯いた。
「その隣は整備のみんなだ。ドーチー爺さんとその仲間たちってのが正式名称だったか?」
「違うわい!!」
 しわがれた爺さんの声と共に男女混じった笑い声がした。
「ナックは時々ここで銃器について求められれば教えてやれ。最後の一個は特殊部隊・諜報に当たってくれてるみんなだ。カナードはマナドにもう就いているな?」
 オレガノの声にカナードは頷いた。
「ってぇ、ことだ。これからわかんない事は何でも聞け! すぐに聞け! 恥ずかしがるなよ、俺たちはもう仲間だからな。いいか、みんなも求められればすぐに教えてやれ!我等『名も亡き反抗分子』に秘密は無用!」
「「名も亡き反抗分子に秘密は無用!!」」
 全員がオレガノの後に復唱する。
「団員の間の亀裂は仲間の死を呼ぶ! 衝突を恐れるな! お互いを貪り合え!! 己の心に線を引くな!」
「「己の心に線を引くな!!」」
「状況判断を絶えず行え! 直感を信じろ! 我等が大儀を忘れるな!!」
「「大義を忘れるな」」
「我等の大儀!すなわち、思考を怠るな、怠惰になるな! 流されるな! この世総ての有り様は己の闘争の中にある!!」
「「この世は総て我にあり!!」」
 オレガノと団員が一斉に歓声を上げる。ナックとカナードはただ、圧倒されていた。
「よしっ!! 会議を続けるぞ!!」
「「おー!!」」
 ナックとカナードはオレガノの視線に促され、そのままもといた場所へと戻った。
「次の仕事はファキの公開処刑の阻止だ!!」
 そう言われたらすぐに反応してしまった。オレガノは正面の壁に大きな地図を貼り付けた。すでに沢山の色でマークしてあるからこれはよく使われているものなのだろう。
「今回はA班に動いてもらう。A班の中から十人選べ。そのなかから救出作戦を決行する。人員選びはランガ、お前に任せる。いいな」
「おう」
「公開処刑の前日を狙って身柄を軍から奪い返す。マナド、ガリア、受け入れるファキの民の逃げ場はどこだ?」
 ガリアという男は頷いて答えた。
「第一候補は隣国だね。カナユー男爵が力添えしてくれるそうだよ」
「貴族には関わるな。あいつらは自分以外を人間とも思わない。次の案は?」
「第二候補は南方ケゼルチェック地方の村に潜り込ませる。戸籍を得るのが大変だけど、一番成功すれば安全だ。ケゼルチェックは治安が安定していて飢えがない」
 オレガノはしばらく悩んだ。
「安全だが……難しいな。他は?」
「リダー諸島に潜らせる。あそこはもともと移民が多いから疑われないだろう。いざとなれば船で他国に渡れる。ただし北の住んでいたファキにとってあそこの暑さは病を招くだろう」
 リダーとはエルス帝国の最南端だ。クルセスとは平均気温が13℃違うという。暑いところはそれだけ病気が蔓延しやすい。たしかに北で安全に暮らしてきたファキの民には毒であった。
「後は自力で国境を越えたもらうやり方しかない」
 ガリアとオレガノの発言を聞いて複数の手が挙がる。
「私はリダーに逃げるのがお勧め。ケゼルチェックに逃げられればそれに越したことはないんだけどこれから二週間程度であそこの戸籍は得られないわ。七人でしょう? 何とか三人までよ」
「じゃ、リダーとケゼルチェック両方に分散させて逃がすのはどう?」
「処刑のあった後自立するにはメンタルの面でのケアが必要になる。せっかくの同じ村民をばらばらにしたらお互いに慰められずに遅かれ早かれ自殺しちゃうんじゃないか?」
「いや、こんな事の後だからこそもう、隠れて暮らさなくてはならないとわかっているはずだ。子供ならまだしも大人は文句を言えまい」
「待って。今回、子供の男の子だって処刑されるのよ。……確か、12歳以上だったかしら、ねぇ?」
「違う、10歳以上だ。女の子は隣国に売るから幼いほうがいいんだろうさ」
「なんて非道なの!!」
 オレガノはわいわい言うみんなを黙ってみている。みんなに好きなように言わせてその中からいい意見を見つけるのだろう。
「静まれ! みんなの言いたいことはだいたいわかった。ナック! お前ならどう考える。お前ならリダーの暑さに耐えられるか?」
「処刑されるのはみんな男だろう? なら暑さに関しては大丈夫だ。病魔に関しては知識がないから何とも言えない」
 オレガノではなく、男が問うた。
「何で大丈夫なんだ? ナックはリダーに行ったことがあるのか?」
「ないよ、だけどファキの男子は13を超えたら火野間(ほのま)に入ることを許される。本格的に入れるのは15からなんだけどね。ちなみに10過ぎたら火吹き(ほふき)を手伝えるから」
「ま、待て! 専門用語か? わかんねぇよ」
「そっか、えっと……どこから話せばいいんだろう。オレガノ時間をもらっていいかな?」
「いいぞ。夜は長いよな、みんな!」
 オレガノの許可が出たので話すことにする。本当は村民以外には極秘なんだが村が滅んだ今なっては怒る人はいないだろう。
「ファキの民は第一軍の武器製造に携わるものとして男子は必ず製造にいたる工程を学ぶ。女子は主に男子の手伝いかな。男子は10までで製造の全体像を大まかに捉えるように教えられる。そして村で徒党を組むんだ。徒党は将来、どの武器を造るかのそのままのグループになる。俺の場合は氷野組(ひのぐみ)という徒党に属していた。徒党が組めたら初めて火吹きを体験できる。ファキは三つの製鉄場を持っている。隣の村から鉄の元を買い本物の鉄、真鉄(まがね)を造るんだ。わかると思うけど、大砲と銃なら同じ鉄製でも高度が違うってわかるだろ? だから三つの製鉄所を持っているんだ。そして製鉄所の名前を『火野間』と呼ぶ」
 オレガノがここで口を挟んだ。
「三つの、火野間ってのを持つのはそれぞれが大砲用、銃用って決まってたって事か?」
「その通りだよ。それぞれ武器によって真鉄に違う金属を混ぜて高度を増したり錆びないようにしたりする。だから三つの火野間があった。火野間は冬以外は火を絶やしてはならない、温度も重要な硬度を決める鍵となるからね。火野間に薪をくべ、油を足し火の調節をする仕事を『火吹き』という」
「10歳になったらその作業を徒党で手伝えるのか?」
「うん、そう。そして武器を作る前に火を知ることが大事なんだ。火吹きは三つの火野間でそれぞれ体験する。それで13過ぎたら今度は火野間に入ることを許される。火野間に入るって事は真鉄を知ることだ。境版についている握り棒を持ち、自分が押しながら回ることによって、鉄の空気を抜き、温度を上げる。鉄を混ぜて、同じ濃度の鉄を作るんだ。これもずっとしてなんなきゃいけない」
 みんなはへぇっと言った様子で聞き入っていた。
「15を過ぎたら自分たちの徒党がどの武器を作るか決定する。今仕事をしている徒党から詳しいことを教えてもらって武器製造に入るんだ。つまり、話がだいぶ逸れちゃったけど、10過ぎたファキの男は暑さには強いんだ。生きている半分は火と隣り合わせの仕事だからさ」
 最後のほうは自分でも熱く語っちゃってナックは少し恥ずかしくも話を終わらせた。
「成程な。わかった、ありがとう。マナド、七人全員をリダーに入れようかと思うがどうだ?」
 マナドは少し唸った。
「危険だな。5-2でわけてケゼルチェックにも逃がした方が懸命だろう。足を捕まえられたらせっかくの救出作戦が無駄になる」
 オレガノはふむ、と頷いた。
「マナドの意見で行こうか。意見があるやつは? ……いないな。ガリア、この件は任せる。足を捕られないようちゃんとやれ。じゃ、次に具体的な救出作戦だが、ランガ言ってみろ」
 オレガノは人々をまとめるのがうまい。話は自然に違う話題に移っていった。
「おうっ! 今回はAとBから両方に腕利きが必要だな。オレガノ、A班だけじゃだめだと思うんさ」
「言ってみろ、どうしてか」
 オレガノは言う。
「ああ、今回は処刑の前日にテルイ司令部の拘置所に身柄は置かれてるんだったな?」
 レンガは諜報部員に目線で確認する。
「そこを襲撃する。気付かれた場合、乱闘となった際腕の立つ剣士が三人ほど必要だ。その間、囮になってもらうからな。全員の退去がわかったら仕掛けておいた爆弾を発動させて一気に逃げる。隠れ家は『もみの木の畑』。爆弾の仕掛けは諜報部の誰かに任せたい。マナド、いいか?」
 マナドが頷く。ランガは次にサグメに視線を向ける。
「今回の作戦にはサグメ、お前が必要だ。あと二人、お前以外に足が速くて身軽。だけど剣が達者な人を選べ。参加してもらう。いいか?」
「かまいません。オルカ、レルカ私とともに参加してください」
「了解」
「よし、よろしくな。俺の班からはジャック、ナツメ、ユメー、オレンジを出す。いいか? あと二人はナツメが選べ」
「待ってました!」
「OK!!」
 各テーブルから了解の返事が返ってくる。
「あと、オレガノとマナドは参加決定ね。作戦時刻は夜11時。三つの部隊に分けて一つはここの所で救出者の移送、残る二つが入る。この階段を上るルートと回りこむルートだ。二部隊が牢屋の前でかち合ったら先に上る方の部隊から救出者一人につき二人ついて運べ。外の連中に渡したらすぐ戻れ。外のやつらは救出者一人につき俺たちも一人な。三回往復すりゃいいだろ。全員救出したら撤退。11:30には爆弾を点火。それぞれ二手に分かれてもみの木の畑に行け。もみの木の畑では救出者ケアに後援部隊の中から三人ほど先に行って待ってってほしい」
「わかった」
「作戦は以上だ。質問は?」
 ランガにオレガノが尋ねる。
「もみの木の畑に行くルートは?」
「こう行って、直進するのと、西のほうから回りこむほうだ」
 地図を使ってランガが説明する。
「いいだろう。部隊は? どう分ける?」
 このようにして詳しいことが決まり、作戦会議終了と共に夕食の会議も終わった。
「オレガノ!」
 俺とカナードは作戦が終わってオレガノを呼んだ。
「何だ?」
「ファキの公開処刑阻止の作戦、俺たちも入れてくれないか?」
「……何?」
 オレガノは眉をひそめていった。
「無理言ってるのはわかってる。俺たちはまだぜんぜん使えないし、役にも立たない。だけど、みんなが救出できたら、少しでもいい! 話がしたいんだ」
 オレガノは首を横に振った。
「だめだ」
「お願いだよ!!」
「だめだ。今のお前たちでは足手まといでしかない。諦めろ」
 オレガノの後ろにランガが現れた。
「ナックの言いたいこともわかるけど、すぐにファキのみんなをリダーに送るわけじゃないし、会う機会はあるぜ? オレガノの言うことわかってくれよ、な?」
「……わかるんだ、けど……」
 オレガノは正面からナックとカナードを見て言った。
「お前たちを連れて行って俺やランガが死んだらお前らはどう償う? 足手まといはいらない。これは決定事項だ。以上」
 オレガノはそう言い切ると去っていってしまった。
「ごめんな。でも、もう仲間なんだし、少しは俺たちのこと、信用してくれてもいいんじゃね?」
 カナードが慌てて言った。
「ち、違う! 信頼してるよ。だけど、救ってくれたのがトムのおじさんなら、少しでも一緒にいたいっていうか……」
 最後には下を向いて声が自信なさそうに小さくなっていく。
「あはははは! そっか、カナードは甘えん坊なんだな?」
「ち、違うやい!!」
 カナードは真っ赤になって去っていった。
「ナック、お前は……そういう理由じゃないんだな?」
 ランガはナックに言った。ナックも頷く。
「でも、お前は連れて行かない。オレガノが言ったようにこれは決定事項だ。お前がどうして行きたがるのかわかるけど、な」
 ランガそう言っていなくなった。
 ――ランガは俺に連れて行けない、ではなく連れて行かない、と言った。
 自分がまだ戦力にもならないこと、簡単に見える後方支援としてさえ、任せられないと言うこと。自分の無理力さを痛感した。