TINCTORA 012

042

「再びお集まりいただき感謝する」
 今度はちゃんとした部屋のような場所に5人の男女が腰掛けている。どこかの屋敷の一室なのだろう。既に部屋には会食の用意もされていて着席した席の上座に明るい橙色に近い茶髪の成年が腰掛けていた。
 その隣に儚い容貌の美女、漆黒の髪の女、同じく漆黒の髪の美男とビナーがいた。
「おお、等しき天秤!」
 きりりとした目は片方が赤、片方が紫といった普通の人ではありえない双眸を持つ男が呼びかけた。彼の二つ名は石を望みし邪眼の魔王、という。
「そうとも、今回から彼女も参加してくださることになった。これで5人」
「でもあちらは相手は黒煙の影、等しき天秤と同じく古き賢者。信頼も多いのかもしれない。信頼に足る人物とは到底思えないが」
 こう言った彼女は東洋人の顔立ち。漆黒の髪と目をもち、女にしては珍しく髪を短く切り込んで男のような容貌をしている。静寂なる深海の雪、それが彼女の二つ名だ。
「彼の目的はなんなのでしょうか、私には彼が時々恐ろしいです」
 声は鈴を鳴らしたようで姿は愛らしい。金髪に緑の目を持つ美女は深淵を治めし妖精の長という。
「して、どうだ。探査は進んでいるか?」
「いや、この国の王付き魔法使いはたいしたことはないが白には古き魔法がかけられている」
「ああ、アンセントか。この前会ったよ」
「同門ですか?」
 妖精の長が尋ねると大帝の剣は首を振った。
「等しき天秤はこの国の魔法をご存知か?」
「いや、我より古いだろう。少し興味がある。任せてはもらえないだろうか。黒煙の影に引けはとらんつもりだ」
「心強い!」
 邪眼の魔王が喜んだと同時に皆が喜んだようだ。
「我がここに入れてもらったのは大帝の剣、そなたが行いしことに我はとても興味がある。賢者なら当たり前だ。それに加われるなら協力は惜しまない」
「それならば早速、赤いかの石がどこにあるかあなたはご存知ですね?」
 等しき天秤は少し黙る。誰もがその沈黙が破られるのを待っていた。
「知っている」
 軽く周りの賢者からどよめきが起こった。
「しかし教えることはできない」
「何故です! あなたは我々の仲間ではないのか?」
「かの石の在り処、それは賢者の中でも3人に委ねられる。監視を行うように。しかし3人以上が知ることはできない。そういう術がかかっているからこそ初めて位置が補足できる。この点が一つ」
「では、もし我々が知ったらどうなります?」
「石は知った人間すべてを消す。その上でその位置の補足は二度と不可能だ」
「……そんな」
 妖精の長が絶望的な声を上げた。
「そしてこのような術があるからこそ、人に位置を伝える時には位置を補足できるもの3人がそろわないと言葉に載せることはおろか、伝えることはできない」
「待って。どうして3人以上知れないのに誰かに教えることはできるの?」
 深海の雪が厳しく問うた。
「我々は不死ではない。よって次なるものの手に管理を委ねなくてはならない。その際にのみ伝えることができる」
「……では我々がかの石を使うことは不可能なのですね」
「そうともいえる。しかし不可能ではない。我らの中で誰か2人が黒煙の影、楽園の檻を殺し、その権利を得ればよい。さすればどこにあるかはわかる」
 再び、沈黙が落ちた。
「黒煙の影、楽園の檻共に我と同じく古きを生きる賢者。難しいだろう。それに石に頼ることは勧めない。あれは我々がどうこうできるものではない」
「あれがあれば、城の方も楽勝なのに、残念」
「気を落とすな。そのために我が来た。任せてもらおう。なんなら黒煙の影の手を借りてもよい」
「ええ!?」
 邪眼の魔王が驚く。
「我がそなたたちの仲間になったことは賢者のうちで知るものはいない。仲間になっていない振りをすればいいだけのこと。簡単だ」
 さらっとビナーが言うとこの集まりのリーダーである大帝の剣は悩んでいるようだった。
「まぁ、あなたならできましょうね」
 妖精の長が微笑んだ。
「では、今後あなたとの接触はできるだけ避けましょう。群青の君にも言われましたし。等しき天秤、あなたは黒煙の影側にまわって彼が何をしようとしているのか探ることはできますか?」
「不可能ではない」
「ではお願いしても?」
「構わない」
「さすが、古きを生きる賢者は信頼が違うわね。私ももう賢者になって100年経つのに」
 深海の雪が残念そうに言った。
「それでは、我はもう行ってよいかな? 最近ケゼルチェック卿は病がひどくてな」
「そうですか、お大事に」
「ではな」
 音もなくビナーが空間から消え去っていく。ほかの4人はそれを見送った。

 ナック達がケゼルチェック入りしてはじめに行ったのはナックとダリアによる公式訪問だった。これによってホドクラー公爵を見極めようという点が一つ、もう一つはケテルさまに会うことだ。
 しかしいざ会うとなるとなかなかうまくいかなかった。忙しい身の上のホドクラー公爵にアポイントメントが取れなかったのだ。
 しれっと秘書にアポイントメントが三ヵ月後などといわれれば絶句するしかなかった。
 ここで異端審問の名を使えば平気なのだが、するともし敵だった場合、自分たちの目的がばれてしまう恐れがあってそれもできず、いきなり八方塞だった。
「ナック!」
「ダリア、どうしました?」
「いい手があるの」
「いい手?」
 ダリアの話によればここから少し離れたところにケゼルチェック卿の別宅の一つがあってそこにルステリカ卿が来ているらしい。
 ルステリカ卿は数日滞在するだろうから、ルステリカ卿にお願いして時間をとってもらったらどうか、とのことだった。
「おお! さすがダリア、いいね」
 ナックが頷くとダリアは笑顔になってそうでしょ? といい、すでにルステリカ卿に頼んだと言ったのだからナックはダリアの仕事の速さに感謝すると共に驚いた。シスターナンバー2の座の実力を早くも見せられた気分だった。
「ルステリカ卿はこのエルス帝国でも中々信心深いお方。きっと私たちの協力してくれるわ」
「じゃ、ルステリカ卿に会うのは俺と……ダリアだけでいいかな? 他の皆はメンツが割れても困るし」
 ヴァンがそこで口を挟んだ。
「もし戦闘になった場合は?」
「ないんじゃないかしら。相手はここで私たちを攻撃したら正体を明かすようなものじゃない?」
「それもそうだけど」
 ヴァンはいっきに異端審問の戦力を削いだ魔法使いと不思議な双子に警戒を覚えているのだ。
「赤い目の男とか、出てきたらお前たちだけじゃ……あのゲブラーが」
「それは言わない約束よ」
 ヴァンの言葉をダリアが遮った。ゲブラーは死んだのではないか、とされた。痕跡さえも残っていない。捜索は打ち切られたのだ。
「まぁ、行くだけいってみます」
「じゃ、これを」
 小さな石のようなものをネグロが渡した。
「これで何かあったときは僕に伝わります。そうしたらみんなで助けに行きましょう」
 それを見てヴァンも頷いた。
「じゃ、行きましょうか」
「ああ」

 ルステリカ卿は公爵の中ではまだ若い方と言えた。しかし現在のエルス帝国では最年少の公爵はケゼルチェック卿なのでついつい彼と比べてしまうので若く見えない。
 ゆるやかにカーブした髪は優しい茶色で、目はエルス人特有の緑色だった。こんな近くで公爵を見ることになろうとは普通の生活をしていたら絶対ありえなかっただろうな、とナックは思った。
 思えば、ファキが滅ぼされて様々な事があった。大事な人を失い、キラと離れてしまった。そして今は神父になっている。
「失礼ですが神父様はエルス出身では?」
「え? ええ。何故ですか?」
 ルステリカ卿に言われて少し驚きつつもナックは答えた。
「話し方がクルセス訛りなんですよ。ルステリカはクルセスの隣ですから訛りが一緒なんです」
 にこっと笑って言われでナックは本当に驚いた。今まで誰にもそんなこと言われたことは無かった。
「私は幼い頃からクルセス卿に良くして頂いてクルセスには良く遊びに行きました。最近になって気付いたんです。エルスは広い。ここらの南方と北方では話し方が少しだけ違うんです」
「へー、初めて気付きましたよ」
「そうでしょう? 訛り、といっても些細なものですから。発音が少しだけ遅いだけですからね。よく聞いていないとわかりませんよ」
 くすくすと笑うと本当に気のいい貴族の若さまだ。でもこの人も国を動かす公爵の一人。
「そんなことに気付くなんてすごいですね」
「いえいえ、本当は私が気付いたんではないんですよ? 私の配下の者が気付きましてね」
「配下の方とおっしゃいますと?」
 ダリアが尋ねる。
「ええ、クルセスとの境を持つルステリカ最北の土地を任せていまして、歳の割には頭の切れるやつですから近々こちらに呼び寄せようかと。伯爵ですから身分上問題もないですし」
 ナックはふっとそこで思い出した。
「そのお方、もしかしたらフェレージ伯のことでは?」
 最初女の格好をしていたから気付かなかったが彼こそが伯爵……そういえば彼はルステリカ卿に伝言をナックに任せた。それを唐突に思い出した。
「ラキをご存知ですか?」
「ええ、昔お世話になったことがありまして……」
「そんなことが? ラキは神父様にご迷惑をお掛けしなかったですか?」
「いえ、全然。こちらが迷惑をかけたくらいで……」
「そうですか? ならよいのですが」
「あ、あの彼に貴方への伝言が……」
 ダリアがいる手前、言ってもいいものか迷ったが今しか言うときはないような気がしたし、それに暗号とも言っていたから大丈夫だろう。
「まったく、神父様に伝言を頼むとはなんと失礼な。申し訳ありません、後で言っておきますから」
「いえ、気にしないで下さい」
「で? やつは何と?」
 ナックは記憶を手繰りよせなんとか一字一句間違えないように言った。
「えっと、確か……我、空の欲望に囚われん。冬は長きの眠りに、餓えに、囚わるる。暁闇に金色の矢を放て、だったと思います」
 それを聞いた瞬間にかすかにルステリカ卿が微笑んだのをナックは見た。
「どういう意味ですの?」
 ダリアの問いに微笑みながらルステリカ卿は言った。
「これは秘密ですよ。伝言の意味がなくなってしまいますからね。他の質問ならお答えしましょう」
「では……ルステリカ卿は何をしにケゼルチェックへ?」
 ダリアがさり気なく聞いた。クァイツの言い分ではこの国の公爵はケゼルチェック派とラトロンガ派の2派分かれて政権争いをしているのだという。確かルステリカはラトロンガ派。ケゼルチェック卿と何を話し合うのだろうか。
「これも困りましたね。まぁ簡単に言うと説得です」
「説得?」
「ええ。クルセスの武器を今度の戦争に使うように。クルセス卿にも名誉挽回のチャンスを与えていただかないとクルセスの民が滅んでしまいますから」
「滅ぶ? どうしてです?」
 ダリアが訊いた。確かにファキの一件でクルセス卿は政権争いから退いた。
「知らないのも無理ありません。クルセスは帝國軍の第一軍の武器を製造していました。王命で、です。ファキ、という村がありましてね、彼らは王命を裏切ってレジスタンスに武器を売った。それにお怒りなった陛下はファキ殲滅を命じました。ファキは滅ぼされましたがファキが行った行為によってクルセス全体の信頼を失う結果だけが残りました。クルセスのほかの村は武器を帝國軍に買ってもらえません。かといって他に売ることなどできるはずもない。クルセスは冬が最も厳しい最北の土地。民はこのままでは暮らしていけません」
 ナックは知っている。どんなにクルセスの冬が厳しいか。
「民を救うクルセス卿も同じく陛下の信頼を得られていません。彼らを救うには此度の戦争しかないのです。しかし戦場はクルセスではない。リダーの海域。戦うのはリダーとケゼルチェック。彼らは海軍。武器製造はクルセスの仕事ではなくリダーの仕事です。だからお願いするのですよ」
 知っている。第一軍通称陸軍の武器製造はクルセスが、第二軍通称海軍の武器製造はリダーが王命を受けていた事だ。でもクルセスが今そんなことになっていたんんて!
「ファキは最もやってはいけないことをした、愚かな事です」
「……そうでしょうか?」
 低く呟いたナックにダリアがひじでつついた。わかっている。俺は今は異端審問官。身分は隠さなければ。それでも! 親父様がそれじゃ救われない。
「ええ。彼らは分かっていなかった。彼らがどうして第一軍の武器製造を任されていたかご存知ですか? 神父様から見ればこの前のファキの処刑は非道に見えたでしょうね」
 ルステリカ卿は思い出すように言った。
「陛下、いえ歴代の皇帝はクルセスの冬が厳しい事をご存知でした。作物も育たないことを。彼らが南方に引けをとらないようにさせるには鉱物に目をつけるしかありません。しかしエルスは戦争を行い領土を拡大しました。鉱物が他に取れる場所が今ならいくつもあります。それではクルセスは永遠に貧しい。だから第一軍の武器を作るよう、命じたのですよ」
 第一軍はすなわち陸軍。人数も最も多く、一番武器が消費される場所。製造した武器をすべて必ず買ってくれるならばクルセスは安泰なのだ。
「それを裏切ったのです。王命とは王が信頼して命じる名誉あることなのです。それをあんな形で裏切るとは……。神父様、確かに陛下は厳しいかもしれません。でもファキは王を裏切ったのです。昔からの約束を、王の施しを忘れて。約束をたがえる事は罪ではないのでしょうか? 彼らのせいでファキ以外の村はこの冬を乗り切れない。ファキは本当に愚かな事をしたんですよ、神父様」
 ファキが悪かったのか? 親父様や村長さんが悪かったのか? 何で二人は王命を裏切るような事をしたんだろう。慎重だった二人の事だ。王命を裏切るに値する事をしたんじゃないのか?
 でも一方でファキは王が昔にクルセスにした約束を忘れていた。武器を買ってくれることを当たり前と考えていたことも確かだ。
「でも、皇帝はどうしてファキだけでなくほかの村も罰するのです?」
「ファキの生き残りを匿っていた村もあればファキの性で製造が止まってしまった村もあるからだそうですよ。武器製造はクルセス全体で行っていた事ですから」
 そうだ。ファキは最新の銃器を製造していた。ファキが滅びれば軍が使う武器の大半が製造されない。それでは困る、だから作り方だけでも知るためにファキの人を匿っていたに違いない。
 ナックはアザン村長の言葉を覚えている。それを勘違いされてしまったのか……。
「クルセス卿は何をなさっているのですか?」
「彼は……病にかかったと聞いています」
「そう、ですか」
 重々しい雰囲気が馬車の中に流れた。それを止めるかのように従者が声を掛けた。
「ご主人様、ケゼルチェックのお屋敷に着きました」
「ようこそ、はるばる遠路からお越し下さいました、ルステリカ卿」
 ケゼルチェックの使用人が出迎える。今までの会話を忘れたようにルステリカ卿は笑顔になる。
「……ダリア、俺達は間違っていたのか?」
「ナック、考えても今は仕方ないことよ」
 小声でダリアが慰めてくれる。それでもナックは認めたくなった。ファキが間違っていたとは。

 広い客間にルステリカ卿と彼の従者、それにナックとダリアは案内された。静かに出された紅茶を嗜む。ナックたちが来てからすぐに扉がノックされた。
「失礼します」
 扉をスーツ姿の少年が開け、この前見た若々しいホドクラー卿とスーツ姿の女が現れた。立ち上がってそれを迎えるルステリカ卿。
「遠路はるばるようこそお越し下さいました、ルステリカ卿」
「いえ、突然の訪問をお許しください、ホドクラー卿」
 二人はまるで親友のように抱き合った。しばしの抱擁のあと、ホドクラー卿がナックを見た。
「こちらは私の知り合いの神父様です」
「ナック・エズベルトです。初めまして」
「ダリア・フィアンマです。お会いできて光栄です」
 二人に笑顔で握手を求めるホドクラー卿はティンクトラの一員には思えなかった。
「カトルアール・メ・ホドクラーです。カトルとおよび下さい」
「先にこちらのお二人の話を聞いてください。私は待っていますから」
 ルステリカ卿がそう言って腰を下ろした。ナックは目でルステリカ卿にも聞かれていいかをダリアに問う。今更出て行ってくれともいえないので仕方なしにそのまま離すことにした。
「尋ねてこられた神父さまは貴方ですね、面会をお断りしてしまう形になって申しわけないです。しかし他にもお待たせしている方がいたものですから」
「いえ、お気になさらず」
 ナックは笑った。申し訳無さそうにホドクラー卿が言ったからだ。
「しかしお急ぎの用件のようだ。お聞きしましょう」
「……これは本当ならばケゼルチェック卿のお耳に入れたいことなので、できればケゼルチェック卿を呼んでいただけないでしょうか?」
 ナックはそう切り出す。
「申し訳ありません。わが主は体調が優れませんので、人とは会われません。しかし私が伝えますから、ご安心ください」
「わかりました。しかしいずれは直接会っていただかねばならないと思います。ですから体調がよろしい時をお教えください。我らはしばらくこちらに止まらせていただく予定ですから」
「わかりました。それはどのくらいの期間なのですか?」
「まだ決めていません。三ヶ月くらいを考えてはいますが」
「我が屋敷を手配いたしましょうか?」
「いえ、結構です」
 やんわりと申し出を断ってナックは本題を切り出した。
「実は我々は極悪の犯罪組織を追っているのです。やつらの潜伏先がこの国との情報を得ましたので、何かご存知のことなどありましたらお教えください」
 ホドクラー卿は少し考えるそぶりをした。
「犯罪組織、ですか」
「ええ」
「それはどのような組織なのですか?」
「まだよくは分かっていません」
「難しいですね。この国にはレジスタンスが多いですからそれを装われたらわかりません。しかしケゼルチェックにそのようなやからはいないと思いますが、いや、いないことを信じたいですね。なにか情報が入ればお教えしましょう」
 ホドクラー卿はそう言って微笑んだ。彼の様子を注意してみていたが特に変った様子は無かった。まぁ、もともと貴族であるわけだし、こちらも全てを教えていない。これから探っていけばいい。
「お話は終えられましたかな?」
 ルステリカ卿が笑って言う。
「ええ、お時間を割いていただきどうもありがとうございました」
「では、ヒルドイド、神父様方をお送りしてきてくれ」
「かしこまりました」
 従者は一礼して席を立つ。やはり公爵同士の話し合いにはさすがに混ぜてもらえないらしい。
「申し訳ありませんね、神父様。これは一応軍事秘密ですから」
「承知しています。本日は本当にどうもありがとうございました。主の祝福があなたに訪れますように……。それでは」
 ナックとダリアはルステリカ卿の従者とホドクラー卿の使用人に案内されて広い屋敷を去った。ルステリカ卿の馬車で送ってもらった後、ナックは言った。
「どうだった?」
「限りなく白ね。怪しいと困ったくなし。でも今日だけじゃわからないからね」
「ああ。滞在については何も言ってこなかったしな、ボチボチ行きますか」
「ええ」
 二人はもう一度はなれたここからでも見えるケゼルチェックの屋敷を眺めた。