第2章 永遠を探す忠誠の騎士
041.その心に一輪の薔薇
「さて……ルチル神父が地図を持って戻って来るまで、ちょっとした反省会と行きましょうか」
タルテの形相に、セルセラ、レイル、ファラーシャの三人は説教を予感する。
吟遊詩人のラルムも少し聖堂を見たいと言って出て行った。ここには身内しかいない。
閑静な教会の一室、内緒話をできるほどの環境ではないが、内輪話なら十分だ。
「僕は反省するべき点など何もないぞ。あの時点ではあれ以上の対応なんてできるか」
「ええ。あなたはまぁそうでしょうね」
先手を打って抗弁するセルセラにそうじゃないと手を振り、タルテの視線はレイルの方を向く。
「レイル」
名を呼ばれたレイルは、訳も分からぬままタルテの雰囲気だけでぎくりと肩を震わせる。
存在そのものが迫力という言葉でできているかのようなタルテの言葉には、歯向かうことを許さない謎の圧力がある。
「あなた、何故さっき剣を振るわなかったのです」
「何故って……」
街中に現れたつぎはぎの怪物。
盗むべき子どもの死体を見失った怪物は、その場にいた人々に危害を加えようと暴れた。
魔獣退治を生業とする星狩人は、このような荒事への対処も仕事のうちだ。
レイルも最初は街人を守るため剣を抜こうとしたが、子どもの遺体を盗まれた親に縋りつかれて動けなくなってしまった。
「背後から人に掴まれたので……」
「そのぐらい、簡単に振り払えるでしょう、あなた」
タルテの瞳はただただ冷たい。燃える炎の色をしているのに氷のようだ。
「魔王ハインリヒの時から考えていました。あなたには敵を斬る覚悟が足りない。そんなことで、この先さまざまな姿形を、事情を持っている魔獣や魔王たちと戦うことができるのですか?」
「それは……」
責められて、レイルは思わず言葉に詰まる。
しばらく考え込むように目を伏せていたが、やがて顔を上げ意を決した様子で本心を告げる。
「相手が邪悪な魔獣なら、当然、人々を守るために剣を振るう。だが」
僅かな躊躇いを押し流し、苦しい胸の裡を絞り出した
「俺は、か弱い者や罪のない者まで斬りたくない。……いや」
「“斬ることができない”んだ……」
人を。
女性を。子どもを。
老人を。怪我人を。
無実のものを。邪悪ではないものを。
「……薄っすらと察してはいたが、やっぱりな」
タルテの隣で聞いていたセルセラが溜息を吐く。
二の魔王ハインリヒへの攻撃を躊躇っていた時点で、セルセラ、ファラーシャ、タルテの三人は薄々気づいていた。
レイルは相手が“邪悪な敵”でなければ斬れない。
レイルの強さの欠片を見たのは、今思えば出会った日に竜骨遺跡に突如現れた黒竜を斬ったあの一瞬のみ。
その後は女性のドロミットとも暴走するハインリヒとも、常に全力を出して戦っていないようだった。
あからさまに手を抜いていた訳ではない。
ただ、相手を殺す気がまるで見えなかったのだ。
レイル以外の者であれば、即座に反撃され逆に殺されるような場面であっても。
ドロミットに洗脳されてセルセラを刺した時の方が剣筋に躊躇いがなかったほどだ。
「で、でも! それは、その、いいことなんじゃないか!? 罪のない相手を傷つける必要はないし!」
レイルの隣でファラーシャがたどたどしく擁護するが、難しい顔のセルセラが問題点を指摘する。
「女子どもや無実の人間を斬れないってことは、女や子どもの姿をした魔王を斬れないってことだろ? 女の姿をした魔獣はいくらでもいるし、子どもの罪人だっている。そういう奴らにどう対処するんだ?」
「……できれば、殺さずになんとかしたい」
「バカなことを言わないでください」
タルテが苛立ち紛れに吐き捨てる。
「人間の罪人ならまだ捕獲ですみます。しかし、星狩人が魔獣を見逃す道理はありません」
ハインリヒに関しては暴走前ならばタルテもそれほど強行に駆除を主張しなかったが、それこそ人を傷つけない魔王という例外中の例外だ。
一般的に人目に付く場所で活動している魔獣は、人に危害を加えるために行動しているのだから。
「今まではあなたに同行していたのが私たちだったから何とかなっただけに過ぎません。この先も必ず上手く行く保証なんてないのですよ」
防御や回復に優れ一部条件下で蘇生までできる“天上の巫女”セルセラを始め、タルテもファラーシャも新人星狩人とは思えぬ尋常ならざる実力の持ち主だ。
レイル一人では、あるいはセルセラたちより実力の劣る同行者ならば、被害を出さずには切り抜けられなかった場面がいくつもある。
「もしもこの先あなたのその拘りのせいで、本来防げたはずの被害が出たらどうするのです?」
「……出さないようにする。こう言った以上、それが俺の務めだ」
「では具体的に今回の敵、“つぎはぎの怪物”への対処は?」
「それは……」
「ほら、何も考えていないじゃないですか。一番確実で、手っ取り早く、そもそももはや死者である怪物を救う方法は、死を与えることしかないというのに」
言葉に詰まったレイルを、タルテは容赦なく責め立てる。
「大体ハインリヒの時だってそうでしょう。あなたは彼が死者を出すのを止めることができなかった。死者を出したあとは殺すことしかできなかった。――また同じ過ちを繰り返す気ですか?」
「……っ!」
同じ過ち、という言葉にレイルが少々過敏に反応する。
「まぁ、タルテの言い分は尤もだ。ハインリヒに殺されたエレオド軍人たちは僕が生き返らせたが、だからと言って死なせた事実がなくなるわけじゃない」
セルセラが言う。だからこそ彼女も、初めは暴走を止めるつもりだったハインリヒを、最後は殺す方向で同意した。
魔獣に判決を下してくれる裁判所もなければ罪を償う刑務所もない。人を殺した魔獣はもはや殺すしかないのだ。
「で、でも! 私はレイルの言い分にも一理あると思う! ……だってこの街の人たちは、子どもを病とか事故とかいろいろな理由で亡くした被害者だろう? その目の前で子どもの亡骸まで斬るのはあんまりだよ……」
自らの境遇と重ね合わせたのか、ファラーシャが少々涙ぐむ。
その程度のことでは全く絆されないタルテが冷たく問いかけた。
「だからといって、街人がその子どもの亡骸を継ぎ接ぎした怪物に殺されてもいいと言うのですか?」
「そうさせないよう守るのが私たち……星狩人の役目だろう! そもそも子どもの亡骸を取り戻しに来たのに斬ってどうするんだよ! 両方達成するのが私たちの仕事だろ!」
「理想論だけで世界は回りません。亡骸と生きている人間のどちらかならば、私はまだ生きている人間を守るために戦います」
「それは正しいけど、でも子どもたちの遺体だって簡単に斬り捨ててほしくない! だって……私だったら、目の前でそんなことが起きたら絶対に絶対に許せない!」
腕を斬り落とされた父親の遺体。
見つからなかった母と姉の遺体。
怪物の表皮に浮かんだ顔を見て自分の子どもだと、斬らないでくれと縋りついた男の気持ちがファラーシャにはわかる。
タルテにはわからない。親も兄弟もいない孤児の聖職者だから? いや、問題なのはそういうことではなく、相手がタルテだからだ。
「タルテは冷たいよ! そんな冷静な計算だけで世界が回るわけないだろ!」
「ええ、冷たくて結構。私の言に反論したいなら、あなたも頭を冷やしてせめて代案ぐらいは出したらどうです!?」
「あのなぁ!」
「ちょっと落ち着け二人とも!」
「セルセラ! でも!」
「いい加減にしないと実力行使に出るぞ」
セルセラの低い脅しに、ファラーシャもタルテも渋々と黙り込む。
いつの間にかレイルをそっちのけにどんどんヒートアップしていた二人を一度落ち着かせ、それまで黙ってやりとりを聞いていたセルセラが自分の意見を述べる。
「まず、タルテ」
「はい」
「お前の意見は尤もだ。だが、そもそもこの四人で行動している前提なら、わざわざ僕の戦力を抜いて常に最悪の展開だけ考える必要はないだろう」
セルセラは言い聞かせる。
「使えるものはなんだって使って最良の結果を追求すべきなら、僕がいる時は蘇生や怪我人の治療や周囲の防御に関して、僕の能力を加味して対策を考えて構わない」
今までそれでうまく回ってきたなら、その方法にも利はあったということだ。運も実力のうちである。
「そうですが、しかしそれだけでは……」
「あー、はい。ちょっと黙る。で、ファラーシャ。それを踏まえてな、僕と行動できなかった時のことを考えろ」
何か言いたげなタルテを制し、話を続ける。
「怪物を殺したくない。周囲の人間も守りたい。でも僕がいない時はどうするか? 今までは良くても、きっとこの先そんな場面がきっといくらでもある。その時はどうする?」
「えーと、その、その……」
「方法としては、僕が合流するまで時間稼ぎ用の作戦を練っておくとか、相手を殺さずに捕獲するための道具や罠をあらかじめ用意するとか色々ある。僕がいない時にも僕がいる時と同じぐらいの結果を出したいと言うなら、相応の下準備は必要だ」
「そうか! わかった!」
明確な指針と方法を提示されて、ファラーシャの表情がようやく晴れる。
「レイル、お前も同じだ」
そしてセルセラの視線は、元々話の中心であったレイルへと向かう。
「具体的な手段を持たずに唱える理想論には意味がない。お前に足りないのはお前の主張を絵空事で終わらせず現実的なものにするための方策だ」
「あ、ああ」
「あと、タルテに言い負けないだけの気迫」
「……気迫の問題なのか……?」
「ああ、そうだ」
魔女は断言する。
「タルテはさも自分が完全正義でございみたいな顔をして話をするが、必ずしもそうじゃない。ただ自分の主張を確たるものにするための論理を組み立てて、それを堂々と口にしているだけだ」
「心外な評価です。私の発言のどこが間違っていると?」
「お前の”正義”は正しいよ。だがそもそも人間は完全でもなければ、正義でもないんだ。相手が正しくなくても、愚かでも、不条理でも、人を救いたいという気持ちには関係ない」
人が誰でも正義や幸福のみを求めるというのは間違いだ。
不幸な結末を予感しつつも、突き進んでしまう人間もいる。
怪物を斬らせまいとレイルの邪魔をした男がいい例だ。
レイルにとってはそういう人物こそが救い、守るべき対象だが、タルテはそれを非難する。
「レイルとタルテの主張はこのままだといつまでも平行線になるぞ。どっちもただの理想論だからな」
「な、なるほどー」
ファラーシャが感心したようにポンと手を打つ。
タルテとレイルの言は現実と理想の戦いではなく、どっちも見方を変えた理想論なのだ。
「物事は常に上手く行くとは限らない。だが常に失敗した時のことばかり考えていても仕方ない。そんな無駄なことに悩むくらいなら、失敗しないための具体的な手立て、失敗した時の代案の両方をできるかぎり用意しろ」
それでも駄目だと言うのなら、その時は神妙に結果を受け入れるしかない。
精一杯やった結果なら心残りも少ないだろう。
強い後悔が湧き上がるのは、いつだって努力不足を自分で実感してしまった時だ。
「以上が僕の意見だが、何か反論は?」
「……その前に一つ質問があります。セルセラは、今回の一件、怪物を殺さずに解決できるのですか?」
タルテの真剣な問いに、セルセラも同じだけの真剣さで返す。
「この場合何を指して殺すというのか定義が難しいが、少なくとも魂の強制消滅はさせずに、ちゃんと天上へ連れて行くつもりだ」
「……わかりました。それならばいいです。今回はあなたに従いましょう。今後のことは、またこの一件の後で練り直します」
「……俺も、そうしよう」
「私も!」
「ならよし。方針は無事に決まったな。怪物は僕がなんとかしよう」
ちゃっかりと怪物の処遇に関して言質をもぎ取ったセルセラは、せっかくルチル神父が淹れてくれたのに冷めてしまったお茶を飲み干す。
「さぁて、そろそろ神父も戻ってくるだろう。まだ思うところがあるなら、その怒りはそもそもこんな事態を引き起こした元凶にぶつけろよ」
「そうですね。そいつが子どもたちの遺体を盗んで怪物になんて仕立て上げなければ、こんな事態にはならなかったのですからね」
「本当酷いよな! 絶対に許せない!」
八つ当たりとも正当な怒りともつかない感情が、星狩人一行の意識を一つにまとめ上げる。
「……」
ただ一人、レイルだけがまだわずかに浮かない顔をしていた。
「もし……」
「どうした?」
「いや……なんでもない」
レイルはつい浮かんだ疑問を、胸の裡に押し込める。
(もしも、元凶となる者が誰もいない事件だったら、俺たちはこの想いのやり場をどうすればいいのだろう……?)
◆◆◆◆◆
出来上がった地図を覗き込んだ天上の巫女一行は、確かめたいことがあると言って教会を出て行った。
フェニカ教会は土地によっては旅人たちの一夜の宿を兼ねている。
セルセラたちも今夜は教会に宿泊するということで荷物を一部預けて行った。
神父は、複雑な気持ちで旅人たちの後ろ姿を見送る。
「ルチル神父様」
「これは、葬儀屋さんではありませんか。こんばんわ」
そんな神父に声をかけたのは、顔なじみの葬儀会社の社長であった。
セルセラが昼間脅したのは、この葬儀社の社員である。
「お客様ですか?」
「ええ。旅の星狩人様たちで、つぎはぎの怪物の一件を解決してくださるそうです」
「……そうですか」
葬儀屋の顔が、何故かそれを聞いて曇る。
彼も先日息子を亡くしている。余計なことを思い出させてしまったかとルチル神父がかける言葉に迷った時、どこか思いつめた様子で彼は口を開いた。
「……神父様、今晩、懺悔したいことがあるのですがよろしいでしょうか」
「ええ。告解はいつでも構いませんが……」
今すぐではなく、今夜と言うのが気にかかる。
「神父様のお手を煩わせてしまうことになり、申し訳ありません。それでも……よろしくお願いいたします」
葬儀屋はまた夜に教会を訪ねることを約束して、一度踵を返す。その背中には疲労と後悔の影が強く残っていた。
◆◆◆◆◆
「わんわん!」
静かな墓地に元気な子犬の鳴き声が響く。
「ここです! ご主人様!」
吠えるだけでなく人の言葉で喋ったその犬は元魔王の一人、ハインリヒだ。
「確かなんだな?」
「はい。あの現場で嗅いだ異様な臭いと、子どもの匂い。どちらもここからしています」
「こっちも終わったわよぉ」
上空でくるりと旋回した白鳩が子犬の頭の上に見事な着地を決める。
「この街の病気の子どもという子どもの家の窓に片っ端から護符を張り付けてきたわよ。あー、疲れた疲れた。一度休みたいわぁ」
「ご苦労だったな、二人とも。お望み通り休んでろ」
「はーい」「わん!」
一羽と一匹の姿が光の粒子となってその場から消えてしまう。
場所が墓場だけにまるで幽霊……否、まるでではなく、すでに死した魔王の魂がセルセラの使い魔として転化した彼らの存在は幽霊そのものだ。
「墓場って怖いものだと思ってたけど、よく考えたらそうでもなかった!」
「そういえば俺たち、普段から幽霊と行動していたんだな……」
お洒落好きの白鳩ものんびりもふもふな子犬もすでに死者だ。セルセラと一緒にいると、どうにもこの境が曖昧になっていけない。
「そんなことより、今はこの隠し通路ですよ」
「ああ」
怪物が逃げ込んだマンホールは下水ではなく、この街特有の地下通路の入り口の一つだ。
ルチル神父からそれを聞いたセルセラは街の郷土資料を漁って更に詳しい情報を調べ、怪物が普段潜んでいるのはこの中だと見当をつけた。
そして見つけ出した、怪物が出入りする地下通路の入り口の一つが、教会近くのこの墓地だ。
「あの化け物もここから外に出たんだな」
「幽霊が墓場から出てくるのは当然という皆の常識を利用して墓場に隠し通路を作ったのですね」
「なんかバチあたり」
「まさか最初に埋葬された場所に隠し通路があるとは。灯台下暗しとはこのことか……」
天然の洞窟を利用した地下通路。古くは地下道であり、坑道であり、そして地下墓地だったと言う。
「だが、向こうからしてみれば合理的だろう。今は廃れた風習だがこの街の地下は元々墓地だったんだ。つまり、死体が山ほどある」
「死体を使った後ろ暗い実験をする輩が潜むにはちょうどいいという訳ですか。胸糞の悪い話ですね」
「だからぶっ潰しに行くんだよ」
「おう!」
「そうだな」
◆◆◆◆◆
アジェッサの街の地下通路。それはもう一つの都市。
「うわ……こんな時に不謹慎だけどちょっとわくわくするなぁ」
「星狩人ってのは半分冒険者みたいなもんだからな。その感想が踏破後も続けば最高なんだが」
「ここで何らかの犯罪が行われている可能性が高い以上、最高の結果はどうも望めなさそうですね」
薄暗い地下にセルセラの魔導で灯りを灯す。淡い黄緑色の球に小さな翼の生えた形を作ると、四人それぞれにつかせた。
「ここは天然ものではないんだな」
「アジェッサの地下迷宮は天然の洞窟を利用したものと、建築のために石灰岩を切り出した坑道、更には地下墓地なんかもある。街が戦争に巻き込まれた時はこの中に多くの住民が避難して生活していた。その名残も見られるんだと」
その言葉通り、石を組んで作られた通路を歩くと、たびたび当時の生活の名残のようなものを見ることができた。
隅に積まれた錆びた鍋や罅の入った甕。煤けた角灯。無造作に壁にかかった鋸。
炊事場に風呂場や洗濯場、寝床や病院らしき施設。
「なぁ、セルセラ、あれは?」
壁に刻まれた茶色い文字や人の顔を描いた彫像を見つけてファラーシャが質問する。
「戦争時代の名残だろうな」
「そっか……」
その一言で、彼女は詳細を聞くことを諦めた。
四人は通路を進む。セルセラの歩みに合わせて、酷くゆっくりと。
竜骨遺跡でも使った魔導の糸を伸ばしながら、セルセラは地上の地図と地下の機構をたびたび比較してこの街の地下通路を攻略していた。
「セルセラ」
通路の壁がしっかりと舗装されたものに変化した辺りで、タルテが声を上げた。
「新しい油の匂いと、人の気配がします!」
「私は何か色々なものが動く音が聞こえる。何かの絡繰り……機械があるみたいだ」
「なるほど。そろそろ近い訳か」
「……俺が先頭を行こう」
不老不死のレイルが率先して前に立った。
「もともとこの地下通路には密輸業者や犯罪者が隠れ住むこともあったそうだ」
「これだけ広ければ、色々と悪用できそうですものね」
「隠れるのも隠すのもうってつけって訳だな」
「そしてそれは今も……か」
明らかに最近になって人の手が入れられた後のある区画に出た。
ここから先はどこで誰、あるいは何と鉢合わせてもおかしくない。四人は気を引き締める。